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最終章 プロローグ

最終章 プロローグ


サイド 海原 アイリ



「ここ、かな……?」


 未だ慣れないスマホの地図機能?とやらと睨めっこしながら、場所を確認する。


 大変だった。蒼太さんから電話があって、彼のご実家が大変な事になっていると知った時は今すぐ駆けつけようかと思ったほどだ。


 テレビのニュースで奇怪な建造物が見えるし、それに触れた人が怪異に変身してしまうし。どう考えてもただ事ではない。


 さて御屋形様の為に、自分はこの一件にどう関わるべきかと悩んでいた時の事。


『なんかぁ、東京でお祭りがあるので一緒に走りません?』


 そんな緊張感皆無の電話が明里さんからかかってきたのだ。


 この人とは地下鉄の一件で会って以来、何度も電話でやり取りをしている。ちょっとおかしな人だけど、こういう時に悪ふざけはしない人だ。


 何か意味があるのだろうと、こうしてはるばる東京までやってきた次第である。


 それにしても……東京ってもっと人通りが多いイメージだったのだが、今の所誰ともすれ違わない。


 それに微かにだが魔力の反応もある。やはり、ここで何かが起きようとしているのか。


 異様な雰囲気に警戒心を強めながら、指定された家の門についているインターホンを鳴らす。


『蒼黒の王は』


「見るハラ王」


 事前に決めた合言葉を言うと、ガチャリとドアが開いた。


「いやー、久々だねアイリちゃん。ごめんね突然呼び出して」


 ドアから現れた明里さんが、スキップでもしそうな足取りで門の方までやってきた。


 ……え、こわ。


 天上天下唯我独尊。私こそが全てのトップじゃぁ!という感じの明里さんが、妙に機嫌がいい。


 間違いない。何か厄介ごとが起きる。御屋形様がそう言っていた。


「ど、どうも。あの、その恰好は?」


「ああ、これ?」


 黒く長い髪をアップにまとめた彼女が、自分の体を見下ろす。まあ胸でほぼ見えないだろうが。


 簡単に言うとライダースーツと言う奴だ。自分も詳しくはないのだが、体にぴったりとしたタイプのやつ。彼女の歳不相応に発達した体のラインをくっきりと出していた。ただし所々にアーマーが付いており、ロボットアニメとかで見るパイロットスーツにも見える気がする。


 蒼太さんがいたら間違いなく鼻の下をのばしてガン見しているな。賭けてもいい。女の私から見てもエッチだ。


 ……胸のサイズには自信があったのだが、明里さんや宇佐美さんに会ってから少し不安だ。蒼太さんは胸の大きな女性が好みみたいだし。お尻は私の方が引き締まっていると思うのだが……。


 それはそうと、なんかめっちゃ知っている魔力を感じるのだが。そしてカラーリングが『蒼と黒』なのだが。


「これはねぇ、うちの相棒が『美国』の改造パーツと一緒にくれた物だよ。着て見せてくれってうるさくってねー」


 やはり御屋形様かぁ……。


 鼻息を荒くしながら必死に『いやらしい目的じゃなくってね?性能がね?』と言っている姿が見える見える。


「まあ今の美国を考えればおかしな恰好じゃないし、構いませんがね。デザインは私も口を出しましたし!ささ、入って入って」


「お邪魔しまーす……」


 なんだろう。無意味にこの人が見せびらかしてきたとも思えない。となると、あのやたら膨大な魔力と、詳しくはないがやたら精密な術式を組み込んだ服が必要な事態がこれから起きるのか。


 ……というかなんだこの家。敷地内に入って初めて気づいたが、とんでもなく強固な結界が幾重にもはられている。要塞か?匂いからして確実に蒼太さんが関わっているな。


「あ、こっちこっち」


「はい?」


 どういうわけか、玄関ではなく庭を通ってガレージの方へと手招きされる。


 それにしても大きな家だ。東京って土地の値段が高いって聞くけど、どうなんだろう。いや、今は安いんだっけ?アバドンの影響で。


「ふっふっふ。我が友アイリちゃんには特別に生まれ変わった美国の姿を見せてしんぜよう」


「はぁ、どうも?」


 ボタンを押してガラガラと上にあがるシャッターの先。そこには、一台のやたらでかいバイクが停まっていた。


 蒼と黒で彩られた車体。用途不明の突起や装飾。なにより三メートルは優に超えている全長に高さも私の背より上。幅もかなり広い。当然のようにナンバープレートもない。


 バイクの知識をもたない私でもわかる。どう考えても公道を走らせちゃいけない改造バイクがそこにあった。


「え……まさかこれが……」


「そう!私の使い魔『美国マークⅡ』ぅぅ!」


 薬やってんのかこの人。


 思わず失礼な言葉が浮かんでくるぐらいのハイテンションで叫ぶ明里さん。


 あ、けど匂いは凄くいい。バイクからも彼女のスーツからも御屋形様の匂いが強くする。あの『存在がセクハラ』としか思えないイヤらしい匂いが……!


「ちょ、ちょ、ちょ、近い。近いよアイリちゃん」


「あ、すみません」


「謝りながらも離れようとしない無駄にアグレッシブな所嫌いじゃないぜぇ……」


 柔らかいのにしっかりとくびれた明里さんの腰を掴み、下乳あたりに鼻をこすりつける。うん、この辺がベストポジション。顔にあたるスーツ越しでも重量感と柔らかさを伝えてくる乳房も心地いい。


「あ、やっぱり始まったかな?」


「はい?」


 なにがですか?私のお楽しみタイムが?


 と言おうとした瞬間、遠くから歪で、なにより不愉快な魔力が流れてきたのを感じ取る。


 すぐさまアマルガムを展開し戦闘態勢へ。明里さんを庇うような位置取りをしつつ、小太刀に手をかけながら重心を低くする。


「だぁいじょうぶ。ここには『今の所』害はないはずだから」


 あっけらかんと言い、明里さんがスマホを見せてくる。


 そこには、『アバドンを保管するドームに異変が!?』と叫ぶニュースキャスターが映っていた。映っているスタジオのパネルには、妙な血管が浮かび上がった紫色の半球体があった。


 なんとなく、『卵』という単語がうかぶ。怪異関連だと印象のよくない言葉だ。


「これって……」


「うん。たぶん『真世界教』って所がやらかしたかな?あそこの教祖とはちょっとだけ因縁があるし、残党が最近東京を出入りしていたからなんとなーく『そろそろ何かやるな』って思っていてね。蒼太さんの方で事件が起きたから、やらかすと踏んだんだよ」


 どこか楽し気にそう言って、明里さんがガレージに置いてあった机から何かをスーツの各所に取り付けたり『美国』?とやらの車体にも装着していく。


 なんかよくわからない銃っぽいの。ショットガン。ライフル。手榴弾……テロリストかな?


「さ、後ろに乗って。早速出発しよう」


「住民の避難にですか?」


 小太刀から手を放し問いかける。


 こういった事件はまず民間人を遠ざけなければと、海原家の文献に書いてあった。純粋に被害者を減らしたいのもあるが、操られたり怪異化されたら面倒だからだ。


「ああ、それならもうだいたい済んでいるよ?」


「え、そうなのですか?」


「うん。邪魔になるから蒼太さんから貰った材料で適当に作った魔法薬をドローンでばら撒いて疎開させた!」


 おいこの人なんつった?


 実はこの人こそ私が倒すべき存在なのではないだろうか……いや、御屋形様の相棒って人だし。悪い人では……たぶん、恐らく……ない、だろうし……?


 自信なくなってきた。だって言動が危険人物だし。


「ほら早く早く!日が暮れちゃうよ!」


 まるで遊園地を楽しみにする子供のように、美国に跨って笑いながら体を揺らす明里さん。うーん、絶対ヤバい人だ。


 だが、それでも今はアバドンの保管場所だ。アレを何とかするのが先決である。


 そう自分に言い聞かせて彼女の後ろに乗りこんだ。


「腰に手を回していいよぉ?かなりトばすから」


「いえ。両手があいていた方がいいので。それよりヘルメットは?」


「いらんいらん!このスーツ体表に魔力の壁がいくつもあるから!」


 一定以上の衝撃や攻撃と認識したものに反応する障壁か。前に御屋形様から聞いた気がする。


 それはそれとして絵面が怖い。十代半ばの少女がノーヘルでごつ過ぎる改造バイクに乗っている。


 ……普段なら絶対に後ろに乗りたくない。事故る未来しか見えん。


 けど御屋形様が『彼女は運転が上手い。というか大抵の事はできる』って言っていたし、任せても大丈夫か?


「さー、行くよアイリちゃん!この美国の記念すべき初運転!とくとお楽しみあれ!」


「はい!……はい?」


 はつうんてん?初、運転?


「ちょ、ま」


「ハッハー!駆けろぉ。美国ごーう!」


 獣の雄叫びみたいな音を出して、急発進する美国。狂ったように爆笑する明里さん。


 ――拝啓、御屋形様。恐れながら、この人は一度精神科に行くべきだと思います。


「おろしてぇぇぇぇぇぇ!!」


「ひゃああああ!我慢できねぇ!加速だ加速ぅ!」


「あああああああああああ!?」



読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最終章はたまにある悪役オールスターズみたいな感じで、地球に神格大集合!とかみたいになるんですか?
[良い点] 相棒さんアクセル壊れちゃったw? [一言] ついに最終章か 少しづつ寂しくなってくるな
[良い点] 前々から思ってたけど、 魔術関連スペック除くとこのヒロイン、母と義叔母が悪魔合体した様なスペックと性格してんなって(褒め言葉
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