第百五十八話 使徒たちのダンジョン探索
第百五十八話 使徒たちのダンジョン探索
サイド 剣崎 蒼太
「おー、久々に見たな。この菓子……んん゛!ナツカシイ……」
「俺も俺も。いや、戦前に転生して今の菓子を懐かしいってのも変な話しだが」
「はーん。そういうもんなの」
リアカーを囲んでわいわいと話す三人。そして微妙に会話に入れなくて無言を貫き、『自分、周囲の警戒してるんで』という体をしている俺。
……あれ、なんだろう。今すっげえ前世を思い出してる。
「それはそうと持って行くのは選ばなきゃだな」
「えっ」
「そうね。とりあえず片っ端から積んできたけど、嵩張るからね」
「えっ」
どうやらこの量を運ぶとなると重さはともかく邪魔くさいという話しになったので、ようやく会話に参加する。
あと絹旗さんキャラぶれっぶれだな。
「あ、それなら問題ないです。この鞄に入るので」
「え、マジ?」
「はい」
田中さんに頷いて見せ、早速鞄を降ろしてその中に積み荷を放り込んでいく。
「おー、未来から来た狸ロボットみてぇ」
「よかった……本当によかった……」
感心した様子の田中さんと、なんか毛皮の下で涙ぐんでいる絹旗さん。それに対しちょっとだけ優越感を覚える。いや、チートの産物なんだけど。
それはそうとなんで新城さんはドン引きした様子なのか。
「あんたそれ、どういう魔道具よ……」
「え、いや。色々運ぶのに便利かなと、空間を弄って」
「……まあそういう異能か。うん」
なにやら自力で納得したのか、切り替えて一緒に積み荷を鞄に入れていく新城さん。続いて他二人も入れていき、あっという間にリアカーは空になった。
「荷物はあたしが背負うわ。他三人は近接っぽいし。後衛にいるお姫様ポジのあたしが持った方が効率いいでしょ」
「お姫様……?」
「寝言か?」
「鏡ヲ見ロ」
「ケツにライフルぶち込まれてぇかガキども……」
「「「すんません」」」
見た目こそ彼女が背負うと通学途中の学生にも見える。だが、あの魔道具は重量までは変更できない。
だというのに軽々と背負う新城さん。使徒基準では非力とは言え、人基準ではやはりかなりの怪力か。
「んじゃ、荷物はこれでいいとして移動すっか。こういう時は一カ所に長居はよくねえ」
「といっても、どう移動する?あたしらこの中の事全然わかんないけど」
「そこなんだよなぁ……剣崎。俺らはお前の援軍として寄越されたんだし、お前が行き先を決めてくれ」
「ええ!?」
なんか突然方針をぶん投げられた。いや、都合はいいんだけども。
「その……皆さんの目的とは少しずれるんですが」
「うん?どうしたよ」
「ナニカ、アルノカ」
「実は、ここは俺が育った街なんです。家族がこの中に巻き込まれた可能性が高い。それを助けにここへ突入しました」
するりと、三人の気配が変わる。
敵意はない。だが、空気が少し張り詰めた。内心で警戒心を引き上げる。
「俺の第一目標は家族の救出。次に高杉の召喚阻止です。優先順位に皆さんと相違がある。ですので、最悪ここで別行動に」
「いいや、俺らはお前と行くぜ」
「え?」
あっさりと言い切った田中さんに疑問の声をあげるが、他二人は当然とばかりに頷いている。
「家族を助けたいんでしょ?なら手伝うわよ」
「同じく」
「つうか他にあてがねえつったろ。驚いている暇があったら行くぞ。長居はしたくねえんだって」
「は、はい!ありがとうございます!」
嘘を言っていない。第六感覚でそれがすぐにわかり、頭をさげる。
「いいって。どのみち、助けるにはどっかで高杉ともかち合うだろう。で、お前んちはどっちだ?」
「こっちです」
「うし。じゃあ全員そこそこ警戒して、そこそこ気楽に行こうぜぇ」
「ワカッタ」
「あいよー」
自分を先頭に、田中さん。新城さん。絹旗さんの順で歩き出す。どこから襲撃があるかわからないので、周囲に意識を張り巡らせる。
他三人もラフに歩いているように見せて武器を手にしているし、油断があるように思えない。
なんというか、荒事になれている空気だ。特に田中さん。
「そういやぁお互いの能力についてまだ話してねえな。歩きながら、大雑把に言っていくか?」
「いいの?ここ、一応敵地だから盗聴とかもありえるわよ」
「そんなん言い出したらなにもできねえよ。俺から言うから、各自言いたくなかったら適当でも構わねえ」
田中さんが槍を軽く掲げながら片目をつむる。
「俺はお察しの通り高速移動と電撃。クールに決めるナイスガイだ。小技の類も出来るっちゃできる。後一応シックスセンスっていやぁいいのか?索敵も少しならこなせるぜ」
シックスセンス。やはり彼も第六感覚を持っていたのか。
「じゃああたしも。一度触れた無機物なら魔力を消費してなんでも出せるわ。ただしある程度壊れたら消滅するし、魔力を多く含んだ物も無理。あと、少しなら時間も操れるわ」
「時間を?マジかよ最終巻読めてねえ漫画があるんだけど」
「無茶言うな。タイムマシンじゃないわよあたしは」
「ちぇー」
時間操作……アバドンが使っていた紫銀の懐中時計か。
「次ハ俺ダナ。俺ハ」
「聞き取りづらいから長文の時は普通に喋ってくれ」
「いい加減変なキャラづけはやめなさい」
「……俺は、味方全体を一時的に強化できる。下半身のコレが固有異能だ」
そう言って絹旗さんが下半身――正確には腰布を指さすと、田中さんと新城さんが引きつった顔をうかべた。
「ええ……この流れで下ネタ?」
「おっさん……流石に自重しろよ」
「違うぞ!?布!この赤と金の布!これ!こぉれ!」
「信じてたぜ絹旗のおっちゃん!」
「卑猥な方向に思考がいくなんて、スケベなんだから」
「お前らだよ」
……やっぱまともなの俺だけじゃないかなぁ。
「で、剣崎だな。どうよ」
「あ、はい。炎とか出せます。あと血が賢者の石みたいな効果で、魔法の道具とか時間と設備があれば作れます。ついでに、田中さんと同じで第六感覚って異能が」
「ほーん……いやできる事多いな」
「あ、ありがとうございます」
「もっと自信持てよ後輩!先輩たる俺が保証してやる!」
バンバンと鎧の背中を叩かれる。悪い気はしないが、ちょっとうるさい。
「つうかお前、賢者の石ってゲームでよく見るやつだろ?味方にも使えんの?」
「はい。治療用の魔道具はたくさん持ってきたので」
なんせ街一つ飲まれているのを想定して突入したのだ。治療用の指輪は作り置きを全て持ってきた。
「OKOK。なら疑似ヒーラーできるな。んじゃ、剣崎がアタッカー兼ヒーラー。絹旗のおっちゃんがタンク兼バッファー。そして超絶かっこいい俺は遊撃な。遊撃……響だけでもかっこいいぜ。実質リーダーでは?」
「はいはい」
「ソレデ、イイ」
「わかりました」
「流すなや!『ライトニング・ゼロかっこいいー!』とか『頼れるリーダーあんたが大統領!』とかあんだろ!?」
「うっさいわよライトニング田中」
「かっこいいぞライトニング田中」
「お・ど・れ・らぁ!」
「田中さん」
「ライトニング・ゼロだ!!!」
そっと荒ぶる田中さんの肩に手を置く。
「大統領は、わりとよく死ぬので縁起悪いです」
「……おう」
主に人斬りのせいで。
「……とりあえず進むぞ!ショートカットだショートカット!壁がなんぼのもんじゃい!店なり家ならお邪魔しますで突破じゃこらぁ!」
田中さんがガラリとその辺のドアを上げながら大声で『お邪魔します!』と叫び入っていく。
あ、なんか第六感覚に反応。
「のおおおおおお!?」
バリバリと電気の音を出しながら田中さんが跳び出して来たと思ったら、大量の眷属が這い出てきた。
「もってるわねぇ、ライトニング田中」
「ヤハリ、芸人カ……」
「やかましいわ!?」
「あの、とりあえず戦いましょうよ」
本当に大丈夫か、この人達……。
* * *
初手で田中さんが足を潰していたのですぐに終わった眷属との戦闘。だいぶ景色が変わっているが、それでも生徒会のボランティア活動で散々歩き回った街だ。ある程度の配置はわかる。
警戒しながらも壁となる店や住居に侵入し、土足で上がらせてもらって最短距離を行く。
「それにしても平和ね」
「平和ノ定義ガ狂ットル……!?」
「いや襲撃がないって意味よ」
確かに。田中さんの『お邪魔します!』から特に襲撃はない。
「つまり……俺のおかげだな?」
「「「はいはい」」」
「ねえ、段々俺の扱い雑になってきてない?」
悲しい現実に気づいてしまい、精神にダメージを受けた田中さん。ドンマイ。
「なにはともあれ撃ちたいわね。いやほんと……撃ちてぇ……撃ちてぇ……」
「ねえ誰かこの位置変わってくれね?背後から不穏な気配がすげえんだけど」
「ライトニング・ゼロにしか務まらないポジションですから……」
「ヤッテミセロ、ライトニング・ゼロ」
「調子いいなちきしょうめ!」
「鉄砲持ち歩けるのに撃っちゃだめとか拷問じゃない。ちょっと撃ちながら歩いていい?」
「なんでいけると思った?お前の前を歩いてるの俺だからね?」
「だめ?」
あ、可愛い。萌え袖を口の前によせて涙目で上目遣いする新城さん。なお、肩から対物ライフルが吊るされている。
「黙れロリババア。お前言動から加齢臭してんだからな?」
「おどれ歳の事言い出したら戦争じゃろがい!」
「オチツケ!待テ、コレ俺ガ止メルノカ、場所的ニ!?」
ふと見ればテーブルの上には、つい今しがたまで食事をしていたと思われる様子が見てとれる。
小さい子供がいる家だったのか。足が長い椅子の所にはキャラクターが印刷されたスプーンがあり、食べかけのオムライスがある。そして、それを挟むようにして並ぶ普通の椅子と、少しだけ大き目のオムライス。
ここに人がいたのだ。そして、彼らは……。
「剣崎」
「大丈夫です。わかっています」
田中さんに振り向かずに答える。声音は、できるだけ柔らかく。
理性では彼の言う通りだと判断しているし、そのように行動すると決めている。彼らを悼むのは全てが終わってからだ。
それでも、心のどこかが削られていく。ひび割れた容器が、端から少しずつ崩れるように。
「むっししてんじゃねぇぼぎゃ!なべぐぎゃぼけぇ!」
「ヘルプ!ヘールプ!こいつ本当に引き金をひきそうなんだが!?」
「は?引き金は引く物じゃないのよ。絞るものなのよ」
「え、あ、はい」
……なんか色々馬鹿らしくなってきた。
「うん?」
幾つかめの家を通り過ぎた所で、第六感覚に反応。そして魔力の流れが少し変な事に気づく。
魔力の流れは風や水の流れに似ている時がある。だが、その行先が唐突に止まっている気がした。
「どうした」
「行き止まり……?そんなはずは」
今いる家の裏口から出て向かいの家へと向かうが、玄関を開けた先は不自然に壁で覆われていた。
「こっちの家も玄関開けたら三歩で壁だ。つうか壁に家の中の絵が描かれていやがる。不気味だぜ」
隣の家から出てきた田中さんも同じだったらしい。どういう事だ……?
「ははん。わかったわ、全てが」
「なんと」
全員の視線がマガジンを外したライフルのトリガーを延々カチャカチャしている新城さんに集まる。
「やけに入り組んだ構造の内部。そしてここは邪神の腹の中。つまり、ダンジョンね」
「なにいってるんだ?」
「遂に壊れたか」
「なるほど……!」
「「えっ!?」」
そういう事なら納得がいく。この青空が書かれた天井もそういう事か。
「そもそも銃声の反響が微妙におかしかったのよ。恐らく、ここは『箱』の中ね。そしてあたしらはその端に来た」
「そしてその箱は積み上げられている、と」
「ええ、恐らく上方向。そっちにこのダンジョンは伸びているわ。ここが端って事は、上にのぼる階段があるかもね」
ぶっちゃけ魔法がらみの事例ってこうしたダンジョンみたいな状況多いんだよな。大抵壁や天井をぶち抜いて強行突破するが。
「じゃあ天井をぶち抜いてみるか?上の階ってのがあるんだろ?」
当然ながら同じ発想にいたったのだろう。田中さんが槍を構えて天井を見上げる。
俺も普段ならそうしている。だが、ここは曲がりなりにも『神格が作った依り代』だ。
「ダメね。こういうのは大抵『法則』が決まってる。主すらも抗えないものがね。そんで作ったのは神格だから、あたしらでもごり押しは危険よ。最悪押しつぶされるわ」
「ヤケニ詳シイナ……」
「転生した後引き取ってくれた家が魔術師でね。あたしも一応かじってるのよ」
「はあ、それで」
魔術師の家……新城……。
これは、後で聞いてみた方がいいのだろうか。
「つうかよくパッとダンジョンなんて単語出てきたな。魔術師?とやらでは常識なのか?」
「そうね。『惑わす場所』って概念があるぶん儀式がやりやすくなるわ。まあ、あたしの場合孫と一緒に遊んだゲームが先に浮かんだけど」
「……マジで何歳だよババア」
「うっさいわね前世の話しよ!今はピチピチのギャルだっつぅの!」
「お、おう」
ピチピチとかギャルって単語がすぐでてくる段階で……いやよそう。まだ死にたくない。
それにしても、もしかしたらここに上へと昇る階段があるとしたら。そこには、
『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――ッ!!』』』
ほんの少し先。そこから、複数の雄叫びが重なったような声が聞こえてくる。
それはここまで戦った眷属どもに酷似しており、聞く者に言いようのない不快感を与えるものだった。
「フロアボスってか。ますますゲームじみてきたもんだ」
「開発ニ文句ヲ言イタイガ、ナ」
「獲物ね?獲物なのね!?よし撃つ!殺す!ひゃっはー!」
兜の下で小さく息を整える。
――何故、自分の家の方角に歩いていたら次の階へと続く階段にたどり着いた?
そんな思考を振り払うように、剣を握る力を少しだけ強めた。
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