第百三十一話 奇妙な出会い
第百三十一話 奇妙な出会い
サイド 剣崎 蒼太
「御屋形様……?」
「あっら~!まさかこんな所で『蒼黒の王』陛下に会うなんてよそうがーい!」
聞こえてきた声でようやく我に返る。
心配気な顔で覗きこむ海原さんに大丈夫と伝えたが、ちゃんと声が出たかわからない。喉が少しかすれる。
そうこうしている間に、あの二人組がやってくる。それにしても男性の方、自分の事を知っているのか。
「その蒼と黒の全身鎧、ネットでかなり有名だわ~」
「えっ」
あ、そう言えばネットでも偶に話題になるんだったか。基本的にオカルトサイトとか、アングラな所でだけど。
「おっぱいって叫びながらスクワットするのはどうかと思うわよ?」
「なんて?」
なにそれ知らない。さすがにそんな事して……して……してない、よね?
「ああ、名乗り遅れたわね。私は『ジェイムズ・スペンサー』。そしてこっちは腹違いの妹で『エマ・ウィリアムズ』よぉ」
「これはご丁寧に。俺は焔と申します」
「海原です」
海原さんと頭を下げながら、思考が『おっぱいスクワットの人』というイメージに引き寄せられる。本当にどういう事だ。
……どうでもいいけど、『おっぱいスクワット』って聞くと巨乳美少女がスクワットしているみたいだな。よし、ちょっといつも通りの思考に戻って来た。
「焔さん」
「うん?」
少女、エマちゃんがこちらを見上げながら首を傾げる。
「貴方が私のお父さんですか?」
「ふぇ!?」
「違うよ?」
童貞のまま父親とかどういう拷問かな?
「そうですか」
「そうだけど……お父さんを探しているのかい?」
「はい。日本にいると聞いて来ました」
エマちゃんはニッコリと、まるで太陽の様な笑みを浮かべている。
だというのに第六感覚はどこか薄ら寒いものを感じ取るのだが、その正体を掴めない。この笑顔はなんだ?
「そうなのよ~。全然足取りが掴めなくってねぇ、困っちゃったわぁ」
「そ、そうですか」
スペンサーさんにちょっと動揺している海原さん。ふっ、甘いな。性癖を押し付けてこないなら正直気にする必要はないのだ、こういう人は。
「それはそうと、スペンサーさんは何者なんですか?」
「うん?ああ、普段はフリーのカメラマンをやっているんだけど、この子の頼みで父親捜しにね」
「いえ、実際の所は何者なので?」
こちらの態度に色々と察したのだろう。困った顔をしながらスペンサーさんはエマちゃんを後ろにさげ、海原さんが手をチョーカーの後ろに回す。
「ああ、待ってください。敵対するつもりはありません」
今は、だが。どういう人かまだわからないし。
「あら、それはよかったわ。あの『蒼黒の王』陛下に勝てるとは思っていないもの」
「……そう、大した者ではありませんよ。焔と呼んでください」
陛下陛下と、ただの一般人に随分と分不相応な呼び名がついたものだ。
「私はフリーランスの魔術師ね。裏の傭兵みたいなもの。この子の伯父から頼まれてね、手を貸しているのよ」
……第六感覚が嘘と言っていない、か。けど一応新垣さんに後でこういう人がいたと伝えるべきか。
「お父さん、探してここまで来ました。私のお父さんについて何か知りませんか?」
「え?えっと、何か特徴とかあるかな?名前とか」
「はい。私のお父さんの名前は」
「待った。その前に聞きたい事があるの」
そう言って前に踏み出したエマちゃんを再び後ろにさげ、スペンサーさんがこちらと遮る様に立ちはだかる。
随分と不自然な。だが、踏み込むのはどうにも嫌な予感がする。
「なんでしょうか」
「貴方、もしかしてここに住むの?」
「いえ、その予定はありませんが……」
「そうなの……」
少し残念そうにため息をつき、スペンサーさんが周囲を見回す。
田んぼがある。少し遠くには八百屋があり、その隣には肉屋が。逆方向にはベンチのある休憩所らしき物もある。住人の姿さえ気にしなければ、本当に普通の村みたいだ。
「ここはいい所よ。まだわからない事はあるけど、実は私達とある悪い奴らに追われていてね。しばらくこの村に留まるつもりなのよ」
「悪い奴ら、ですか」
「だからよかったら一緒にこの村を回らない?貴方達も同じ理由で散歩をしていたのでしょう?」
答える気はないと。
「そうですね……それでしたら。ええ」
敵意は感じられない。だったらいいだろう。
だが、それ以上に……。
「ジェイムズお姉さん?」
「ちょっと待ってね、エマ。貴女のお父さん探しは手伝うから。今だけは、ね?」
あの少女に興味がある。この気配は、この匂いは……。
「御屋形様」
「うん?」
「もしや、そちらの趣味も……!?」
「待って?」
* * *
それから半日かけて四人で村を回った。
「ああ、あそこ養鶏場なのか。この村の中にあったんだな……」
「鳥の卵って貝殻とか甲殻類を食べさせないと固くならないんじゃないでしたっけ?」
「あら、あの人が世話をしているのかしら」
「「「………」」」
「エビさんですね」
「自分の甲殻食べさせてるのって、セーフ?」
「深く考えたら負けな気がする」
「大工、なのか?」
「四本の腕で器用ですね」
「あらぁ~。いい体つきしてるじゃない。私ああいうの好みよ」
「わー、凄くおっきいですね」
「………」
「御屋形様?」
「違うよ?本当にそっちの趣味はないからね?」
「あそこは布を作ってるんだろうか……アラクネさんか?」
「はえー、綺麗な布ですねぇ」
「思い出すわぁ……地元ではファッションリーダーだったのよ」
「あの奥にいるのは誰でしょう」
「「「………」」」
「おっきな芋虫さんでしょうか」
「そう、だね」
「あの人はデフォルメされてないんですね……」
しばらく回って思ったのだが、やはりこの姿は目立つか。まあ全身鎧の奴が歩いていたら誰だって気になる。
「その鎧、脱がないのかしら。暑くない?」
「いやぁ、ちょっと脱ぐタイミングを逸してしまいまして」
もう村人たちに『鎧の人=俺』となっている感じもするし。だが、流石に伊達メガネとマスクだけでもいいか。
鎧を解除し、伊達メガネとマスクの位置を触れて確認する。きちんと顔を隠せているか。
「あら、その姿でも顔を見せてくれないのね」
「生活があるので……」
絶対に素顔を知られたくない。正直魔法関係の業界って色々と陰惨な事が多いというか、日常生活に滅茶苦茶支障が出そう。
「貴方なら望めば思い通りの生活ができそうなのにねぇ」
「……この力を誇る気にはなれませんよ」
邪神産の力とか、調子にのったらどんなしっぺ返しがある事か。
それにしてもこの人、村を回って色々と見ているのは確かだが、一番気にしているのはこちらな気がする。どうにも探りを入れてきているような。
海原さん?この子村人にばかり警戒していてスペンサーさんとエマちゃんへの警戒が少し薄い気がする。悪い大人に騙されなければいいが。
「うん?」
そこで服の裾を引っ張られる。エマちゃんだ。
「どうしたの?」
片膝をついて目を合わせながら問いかける。相変わらずエマちゃんは笑顔だが、どうにもその奥の感情がよくわからない。
「お父さんについて教えてほしいんです。貴方は私と似ている気がします」
「え、エマ。それは後に」
「まあまあ、スペンサーさん。俺も正直気になりますし」
この焦りよう。いったい何を隠しているのか。
正直言おう。敵意はないようだが、俺は村人たちよりもこの人こそ警戒している。
その『顔』は本当に自分のものか。人を殺めた気配がするのは何故か。火薬の臭いがするのはどうしてなのか。
霧の方には流石に関係ないのだろうが、それでもただ『知り合いの姪の父親捜しのために日本へ来た』と思えない。
いったいどんな思惑がある。この子の伯父とは何者か。
「私のお父さんは『鎌足尾城』と言います。どうか知っている事はありませんか?」
聞くんじゃなかった。
「おぶっ……!」
「御屋形様!?」
ほんと、きっついなぁ……。
読んでいただきありがとうございます。
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すみませんが明日はリアルの事情で投稿を休ませていただきます。申し訳ございません。




