第百二十九話 ルール
忘れている。または3.5章は読み飛ばした方の為、モブキャラ三人娘について。
茂宮市子
女子高生。モブA。軽音部で双葉の先輩。普通オブ普通。
茂野双葉
女子高生。モブB。軽音部で市子の後輩。巨乳美少女だが彼氏なし。グールの血が混ざってる。おむつを常備。
江縫美恵子 現:江崎
復讐完了系女子。モブC。『蒼黒の王』のファン。現在新垣班の新人。銃の腕は確か。
第百二十九話 ルール
サイド 剣崎 蒼太
「まず意識はちゃんとしているかい?自分の名前は言えるかな?」
「……山崎」
「おお山崎くん。久しぶりだね、僕の事を覚えているかい?」
「二年前に大分で。お互い仕事だった」
「ふむ。では最後に、君達に何があった?」
どこかピリピリとした雰囲気のまま語る新垣さん。鹿野さん達が何か言いたげなのに気づき、そちらに一度振り向いてニコリと安心させるような笑みを見せる。
「ああ、彼は私の同僚でしてね。いえ一緒に仕事した事は少ないのですが」
「は、はあ」
「実は私と仲間たちは彼らを探しに来ていたのですよ。貴方がたが保護していてくれてよかった。ありがとうございます」
「……彼らを見つけて、その後はどうするんだい?」
「まあ基本的に連れて帰りますね。状況によりけりですが」
鹿野さんが少し黙った後、硬い表情のまま新垣さんを見つめなおす。
「連れ帰る必要はないんじゃないかな。外は危ない。だって彼らは今……」
「いやぁ、それは本人の意思としか」
そう言って再び新垣さんの視線が馬の人こと、『山崎さん』へと戻される。顔が馬なので表情はわからない。
「……悪いが、まだ状況が飲み込めない。まず、なんで俺の手足がこんな風になってる」
「ああ、そうだったね。すまない……最初にそこから説明すべきだった。正直、君ならもう察していると思うが……」
「人外になっているって事か……」
山崎さんは自分の掌を見た後顔に触れ、大きなため息をつく。
「……これは、帰ったらどうなるのかねぇ」
「あくまで予測だが、本部の医療施設で入院だろうね」
「入院、か」
なんだろう。完全に偏見なんだけど『人外化して公安の病院に入院』って聞くとうさん臭さが尋常じゃないように感じてしまう。
それは自分以外も同じようで、鹿野さんと撫子さんも心なしか顔を強張らせている気もする。いや撫子さんはよくわからんが。
「まあ、帰りたくないならそれでもいいんじゃないかな?」
そんな空気を気にした様子もなく、新垣さんがあっけらかんと伝える。
「は?あんたは俺達を連れて帰る為に来たんじゃないのか」
「任務はあくまで『探し出す』こと。その後連れて帰るのは、先ほど言った通り本人の意思さ」
おどけるように肩をすくめた新垣さんに、鹿野さんの空気が少し柔らかくなる。
「なんにせよ、あの霧が出ている間は帰れない。だったらそれまでゆっくり考えればいいさ」
「……恩にきる」
「構わんよ。僕は仕事で来ただけだからね」
頭を下げる山崎さんから、新垣さんが体ごと鹿野さんに向き直る。
「改めまして。仲間を助けて頂いた事、誠にありがとうございました。おかげで仲間を三人、失わずに済みました」
深々と頭をさげる新垣さんと、それに合わせてベッドの上ながら頭をさげる山崎さん。
「俺からも礼を言わせてくれ。おかげで、俺も仲間も助かった」
「いやいや、助け合いは当り前さ」
「それでも、礼を言わせてください。ありがとうございました」
「あ、えっと、まあ」
少し照れたように視線を逸らす鹿野さん。そして新垣さんは顔を上げると、山崎さんに視線を向ける。
「ああ、けど報告書は書いてくれ。それは持ち帰らないといけない。やめる場合は辞表もね」
「わかった。もう少し休ませてもらったら、仲間たちの分も合わせてあんたに提出するよ」
「よろしく頼むよ」
そうして撫子さんと一言二言会話した後、彼女に見送られて病院を後にした。そして鹿野さんに送られて新人用の小屋がある所に向かう。
そこでは何故か江崎さんが女子高生コンビにプロレス技をくらっていた。
「おらぁ!何も言わずどっか行った弁明しろやぁ!」
うつぶせになった江崎さんの腰に座って両足を掴んで上に反らすいっちゃんさん。
「貴女のせいでそこの先輩に『ミスおしっこ』だとか『おもらしマスター』とか言われる責任をとってください……!」
そして双葉さんは背中側に座り江崎さんの顎を掴んで上半身を反らせていた。
「まっ……しゃべれ……!」
必死に地面をタップする江崎さん。惜しいな……技を喰らうのが巨乳の双葉さんか、もしくは一人でもミニスカートの子がいれば……。
「お疲れ様です。御屋形様」
「ああ、海原さんこそお疲れ様。何か異常はあった?彼ら以外で」
「いえ、彼らが来た事以外には特にありませんでした」
夜である事もあって村人たちは眠っているようで、こっちに人が来る事もなかったようだ。
「『蒼黒の王』、へい、かぁ……!」
「……あの、新垣さん」
「はい。なんですかな、焔さん。ああ、失礼、彼らの治療のお礼を言い忘れていました」
「いや、それはいいのですが。なんで彼女は俺に祈ろうと?」
今も必死の形相でこちらに両手を合わせようとしている江崎さん。正直ちょっと怖い。あれは助けた方がいいのだろうか。
「ああ、彼女はうちの班員の江崎くんです。お覚えですかな?一、二カ月前に地下のグール騒動で御身が助けた一人ですよ」
「ああ、やっぱりあの子だったんですか」
つまり、女子高生組の発言的に江崎さんは彼女らに何も言わず公安に入ったという事か。公安の業務がどういうものかわからないが、あんな事件の後に知り合いと連絡がとれなくなったら普通心配する。
「その前から御身に信仰心を持っていたようですが、あの一件でより一層信仰心が強まったそうです」
「えぇ……」
自分に信仰されても困るんだが。ただの人だぞ?肉体は使徒だけども。
「まあ、それはそうとこれからどうするんですか?」
「そうですねぇ……とりあえず霧が晴れるまでは出られませんね。それまで色々と村の中を見て回るとしますよ」
「……強引に脱出は試さないんですか?」
「おや、すぐに脱出しないといけない理由でも?」
相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、新垣さんが肩をすくめて尋ね返してくる。
「いや、新垣さんって忙しそうですし」
「それは否定しませんが、こういう時強引な突破は悪手ですからね」
「なるほど……」
「釈迦に説法かもしれませんが、魔術や神話生物の絡みの案件は『ルール』があるものです」
「ええ、魔法は確かに」
どれだけ凄い機械でも電源を抜けば止まるように、どれだけ強力な魔法にも何かしら穴はある。
むしろ強力であったり繊細な術式を組んでいるほど、少しのズレで崩れる場合もあるのだ。あるいは縛りをつける事で強化している場合もある。
だがだからこそと言うべきか。その弱点以外においては時に反則的な効果をおよぼすのが魔法というものである。
それがこの村……いいや、あの霧に適応されるという事か。
「御身なら強行突破も可能でしょうが、どうかご辛抱を」
「わかりました。霧が晴れるまでここでお世話になります」
新垣さんの口ぶりから、強行突破した場合自分はともかく他が無事かわからないという事か。
「ちなみに、どういう手段で突破するつもりだったので?」
「え、炎で空を飛ぼうかと」
「ふっ……ではそれはやめておきましょう」
「はい」
どうやらしばらくこの村にいる事になったらしい。夏休みが終わる前に帰る事が出来ればいいが。
こういう時、たいてい碌な事にならないんだよなぁ。
「じゃ、俺らはそろそろ帰るわ」
「ええ。お騒がせして申し訳ありませんでした」
ライオン頭の人が小さく会釈する。
「いやぁ、あんたらがいい人そうでよかったよ。疑って悪かったな」
「いえいえ、銃を持った集団が現れたら警戒するのは当たり前ですよ」
「すまねえ。昔おばば様があったって言う危ない奴らかと」
「危ない奴ら、ですか。それはどんな?」
「あー……すまん。喋り過ぎた。忘れてくれ」
「それは……怖いですね。我々もそう言った存在に遭遇する可能性がありますから」
心配げに喋る新垣さんだが、ライオン頭さんは困ったように首をふるだけだ。答える気はないらしい。
新垣さんと話している時やけにピリピリとしていたが、あのおばば様と言う人は昔何かあったのだろうか。
「なぁに。明日の朝には霧も晴れてるさ。そしたら帰りな。途中までなら送っていくからさ」
そう言ってライオン頭さんは他の自警団にも声をかけていく。
「ほら妙子。帰るよ」
「はーい!」
ラミアの人がロリ単眼ラミア『妙子』ちゃんに声をかけ、妙子ちゃんは元気よく返事をして山田さんと今度はコブラツイストをされている江崎さんに手を振る。
「山田さーん!江崎ー!またねー!」
「はーい、またですよー」
「な、なんで私だけ呼びす……ぐおおおおお!?市子、ギブ、ぎぶぅ……!」
ラミアさんに手をつながれて去っていく妙子ちゃん。今更ながら、あの二人は親子だったのか。
姿は異形なれど、その後ろ姿はどこにでもいる仲のいい母子のものだ。
『……うん。お願い、お兄ちゃん』
「………」
「……どうしました、焔さん」
「いいえ、なんでもありません」
「そうですか……では我々も休ませてもらいましょう。ほらそこの子達。そろそろその子を解放しておくれ」
「に、新垣さん……」
「しばくのは明日にしてあげてね」
「新垣さん!?」
あ、これわかるわ。新入社員が上司のいじりに対してリアクションを迷ってとりあえず大声出しているやつだわ。
それやって『は?』てリアクションされた前世の心の傷が……」
「まあそういう事だったら」
「後で覚えていてくださいよ」
「謝ってるじゃない……それと、言っておくことがあるわ」
立ち上がった江崎さんが真剣な表情となり、それに答える様にどこかしんみりとした表情になるいっちゃんさん改め市子さんと双葉さん。
一人と二人は向かい合い、ほんの数瞬だけ沈黙が流れる。
「今の私は『江崎』というコードネームだから、そこの所よろしく」
「そこは『無事に会えてよかった』とかじゃないんかい!?」
「もっと他にあるでしょう!?」
「うるさいわよ!山で死にかけて心身ともにボロボロな時にプロレス技しかけてくる奴らにそんな言葉がでるか!」
たしかに。
「それでも言ってほしかった!友達だから!」
「わがままか!?」
「それより、なんですかコードネームって。美恵子さんは美恵子さんでしょう」
「甘いわね双葉。魔術師には本名に色々な意味があるのよ」
「まあ名前なんてどうでもいっか。それよりあの後どうして突然いなくなったか教えてよ」
「……悪いけど、言えないわ。それに知らない方がいい事よ」
ふざけた雰囲気はどこへやら。江崎さんが真剣な表情となり二人に対してそう言い切る。
「……そっか」
そして市子さん達もそれで察したのだろう。それだけ言って頷き、深堀りする事はなかった。
正直、それでいいと思う。だって江崎さんからは『人殺し』の気配がする。第六感覚がそう判断していて、彼女の復讐相手は新垣さん達に引き渡されていた。つまり、そういう事だろう。
それに対してどうこう言うつもりはない。新垣さん達は警察だが、そもそもあの男達は魔法使いだった。であれば、真っ当な法で裁く事はできないのは分かっていたはず。なのに始末を押し付けた自分がとやかく言う権利はないし、自分の視界外で悪人が死んだ事で心を痛めるほど聖人でもない。
ただ、復讐を終えた後でもあの子が笑っているだけ良しとするか。
「あの、状況がわからないのですが」
「ああ、後で話すよ」
不思議そうな海原さんにそう言って例の新人用という寝床に戻っていく。
ライオン頭さんの言葉を信じるなら霧は明日の……いやもう日付は回っているのだが。とにかく朝になれば晴れるというのだ。
だったら静かにそれを待ち、霧がないうちに村を出るとしよう。温泉旅行はおじゃんだが、不思議な体験をしたと笑い話で済む事だ。
だが案の定というか、はたまたお約束というべきか。
村を覆う山々の霧は晴れる事はなく、むしろその範囲を拡大させてなお濃霧となり、人を寄せ付けないようにしていた。
まるで、誰も逃さないとでも山が言っているかのように。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.江崎って狂信者?
A.違います。憧れ混じりの崇拝です。ちょっと濃いめのアイドルのおっかけぐらいです。
Q.剣崎のS●N値ひくくない?
A.初期値20とかでも短編ならクリアする探索者もいるんだから多少削れていてもいけるいける。
Q.江崎キャラ変わってない?
A.復讐をほぼ完遂できたので色々ふっきれました。現在は実質人生の余暇時間みたいなもん。




