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第百二十八話 治療

第百二十八話 治療


サイド 剣崎 蒼太



「ふむ、なるほど……」


 場所をおばば様の家に移し、新垣さんとおばば様が机を挟み向かい合っている。


 流石に新垣班の皆さんを全員家に入れる事は出来ず、家の前に待機してもらっている。竹内さん含め治療した人は休んだ方がいいと思うのだが、本人が『問題ない』と言って立っている。


 まあ下田さんは『あ、じゃあ俺休憩に』と言おうとして加山さんがヘッドロックして確保していたけど。


 ちなみに村人たちは鹿野さんだけ俺と一緒におばば様の家におり、他の『自警団』とやらが竹内さん達を見張っている。


「『野土村』。まさかこの様な所があったとは、寡聞にして知りませんでしたよ」


「出来る限り隠して来たからね。人外どもの村なんぞ、いつ燃やされてもわからんからね」


「いえいえ。敵対もしていないのにその様な事しませんよ」


「おや、種族どころか『人種』だけで殺し合うのが人間だろう?」


「はっは。耳が痛い」


 なんとなく、おばば様の視線が自分達の時よりも厳しい気がする。


 鉄砲を持っている、というのよりも、今は『政府の人間』というのに警戒心を強めている気がする。


「しかし、人の世から隔絶しているようでいて、意外なほど見慣れた景色もありますね」


「そりゃそうさ。まあ、ここに定住する気はないんだろう?あんた達が知る必要はないさ」


「興味本位からの質問、ではだめですかな?」


「知りたがりはあんたらの業界では長生きなのかい?」


 うわぁ、なんかピリピリしてる。


 そして鹿野さんだが、彼はどこか困惑した様子ながらおばば様の傍でいつでも彼女を庇える立ち位置にいる気がする。


 この人、たぶん村民の中で一番強い。その力の底は知らないが、油断できる相手ではない。そして、彼はいざとなれば躊躇なく新垣さんに襲い掛かるだろう。


 どちらが正しいとか、現状がどうとかわからん。だが、この人を死なせるつもりはない。いざとなれば……。


「……はあ。霧が晴れるまでなら好きに村で休んでいきな。村人の生活を邪魔しない範囲なら見て回るがいいさ」


「感謝します。決して無用な騒ぎは起こしませんので……」


 どうにか穏便に終わったらしい。よかった、マジで。


 一礼して新垣さんと共におばば様の家を出ると、何故か山田さんがロリ単眼ラミアに絡みつかれていた。


「うぇーい。山田タイフーン!」


「わー!」


「こら妙子。あんまりご迷惑を……」


「いえ、大丈夫ですので」


「おお、そのような工夫が」


「この辺の山はクマも出ますからね」


「ああ、貴方も昔ブラック企業に……」


「転職って難しいんですね」


 なんか滅茶苦茶うちとけとる。


「ほら江崎ちゃん。江崎ちゃんもタイフーンですよタイフーン」


「え、あの山田さん。私達は任務を」


「ほーらダブルタイフーン」


「ちょ、ま、ああああああ!?」


「あははははは!」


 江崎……さん?がロリ単眼ラミアに絡みつかれた山田さんに両手をとられ、そのままグルグルと三人で回るはめになっている。


 というかあの青メッシュ。微妙に見覚えがある気がする。だが江崎という名前には覚えがない。しかし、新垣さん達って公安って言っていたし、まさか偽名?ならグールの時『やっかい性癖心中おじさん』に絡まれていた復讐系少女か?


「おやおや諸君。仲良くなれたようでなにより。平和が一番だからね」


「「「はーい」」」


「はい、いいえ、うっぷ……」


 引率の先生かな?


「あのー」


「おや、なにか?」


 鹿野さんが少し気まずそうに自分と新垣さんに話しかけてくる。


「その、あの炎はいったい?怪我があっという間に治ったやつは」


「ああ、それなら俺の魔道具です」


 小さく手を上げて答える。あの魔道具についてと言う事は、誰かしら怪我人か病人でもいるのだろうか。


 まあ、言っては悪いがこの村に現代医療ほどの治療技術があるとも思えんし。


「まどうぐ?魔法の道具って事かい?」


「ええ、そんな感じです」


「……なら、頼みたい事があるんだ」


 そう言うと、鹿野さんが深々と頭をさげる。


 その光景に周囲の村人たちが動揺し、自分と彼とで視線をいったり来たりさせていた。だが誰も疑問を挟んでこないあたり、彼らも事情を察しているのだろうか。


「治療してほしい者達がいるんだ。僕に出来る事ならなんでもする。だからっ」


「わかりました」


「ああ、アレが貴重な物なんだろう事は……え」


「治療に向かいましょう。こちらも泊めて頂いている恩がある」


 殺しではなく治療というのなら、断る理由を探す方が難しい。恩があるのも本音だし。


「あ、ありがとうございます!さ、こっちに」


「ふむ……僕も同行しよう。多少なら医学の心得もある」


「助かります」


「細川くん達はここで待っていてくれ。お行儀良くね」


「「「了解」」」


 ぶっちゃけ完全に異形となった者の治療とかした事ないので、新垣さんが来てくれるのはマジで助かる。


 まあ、色々と調べる事があるからだろうけど。新垣さん達が理由もなくここに来るとは思えない。まして異形の村に。


 そうして鹿野さんに連れられておばば様の家の裏手に向かうと、そこには他の建物より少ししっかりした造りの館があった。


「ここは病院さ。村唯一のね。おばば様普段診ているんだけど……あの人にも、限界はある」


 中に入ると、そこはドラマで見る昔の診療所みたいな内装をしていた。ただし、受付カウンターと思しき所にいた人物に兜の下で目を見開く。


なんと白い服を着た巨大ナメクジがいたのだ。思わずビクリと肩がはねさせてしまう。一瞬戦闘態勢に入りそうになったが、気配からして村人だ。敵意はない。隣にいる新垣さんも不敵な笑みを浮かべたままで、動揺した様子はない。


「ああ、鹿野さん。そちらは……?」


「こんばんは撫子さん。こっちは外からきた魔術師の人達さ。もしかしたら彼らを治療してくれるかもしれないんだ」


「まあ!」


 女性の声、撫子さん。マジか、この人性別女なのか。いや見た目で判断するのは駄目なんだろうけど、うん。ちょっとビビった。


 唯一の救いは、ちょっとデフォルメされた感じの見た目な事か。これがリアルナメクジをそのまま巨大化させた感じだったら悲鳴の一つもあげていたかもしれない。


「ささ、こっちに!皆今日が峠かと心配で……」


「あ、はい」


 撫子さんがズリズリと移動する後をついていく。床がなんかぬるぬるするんだが……いや、考えないようにしよう。


 そうしていくと、うめき声が漏れ聞こえてくる部屋へと通される。


「これは……」


 右手足と脇腹を失った人型の馬。首を含め体中が抉れている一本角の鬼。下半身が見当たらない人面ワニ。


 明らかに致命傷と見受けられる。むしろ異形の生命力がなければ一晩どころか数分で真でもおかしくない深手だ。


「彼らは……」


「山の怪物に襲われたらしいんだ。君達も通っただろう?あそこで妙な肉塊に遭遇して、逃げるように降りてきたそうなんだ。この村に来た時にはこんな姿で、詳しい話は聞けなかったけど……」


 山の怪物。恐らくあの肉塊か。アレ、異形となった人も襲うのか。


 とにかく今は治療だ。指輪の残りは心もとないが、出し惜しみして救える傷ではない。早速治癒の炎を使い、三人を覆い隠す。


「こ、これは」


「大丈夫。実際これで治った人をみたんだ」


 心配する撫子さんをよそに治療は終了。五体満足……五体っていいのかワニの人。六本足だし、そもそもワニみたいな体なんだが。けど足の形状的にもしかして二足歩行するのか?


ちょっと疑問はあるが、とにかく全員無事傷は癒え、呼吸も正常に戻った。じきに意識も戻るだろう。


「これでなんとかなったはずです。ですが、生憎と自分は彼らの体に詳しくありません。後は貴方がたにお任せします」


「ありがとうございます!これで村の新しい仲間が救われた!」


「う……」


 喜ぶ鹿野さんの傍で、馬の人が目を覚ます。体毛は見受けられず、どこか鋼じみた光沢の皮膚。一見風変りな鎧でも着ているように見えるが、魔力の流れや動きからして生身なのだろう。


 そんな馬の人が上半身を起こし、頭を数回振るう。


「こ、ここは……俺達は、確か任務で」


「やあ、目覚めて何よりだよ」


 するりと、今まで無言で立っていた新垣さんが馬の人に歩み寄る。


「あ、あんたは、まさか!」


「ふっ……色々と、話を聞きたいな」


 動揺する馬の人を前に、新垣さんが不敵な笑みを向ける。


「もちろん、問診の意味もかねて、ね」




読んでいただきありがとうございます。

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