第百二十一話 新城明里は天才である
アリシアって誰ぞ。な方もいらっしゃるので大雑把な現状
国立海洋博物研究所
国の肝いり施設。けど裏でアバドンを研究。現在アバドン細胞で大惨事。
木山直人、カレン夫妻
亡くなった娘のアリシアを蘇生する為アバドン細胞をばら撒いた研究所の所長と副所長。死んだ。
佐藤三郎
落ち武者ヘッドな謎の男。剣崎達をサポートする。
剣崎と明里
アバドン細胞をばら撒くのを阻止したい。二手に分かれて片や教授たちをしばきに。片やアバドン細胞満載で人口密集地に飛ぼうとするロケットの発射阻止に。
アバドン?
復活?した残骸が地下に逃げた。剣崎が追ってる。
第百二十一話 新城明里は天才である
サイド 剣崎 蒼太
階段の先は、恐らく荷物置き場か何かだったのだろう。だだっ広いだけの空間が存在しているだけだ。警備室で佐藤さんが見せてくれた地図と、第六感覚で把握した情報を組み合わせる。
暗がりに足音を響かせながら階段を降りていく。その最中、刀身に魔力を流し込む。
もはやこの先にいるのは人ではない。いかに人の姿をしていようと、そこにいるのは魂のない残骸だ。
ゆえに、迷うな。
階段を降りた先にあった扉の前で剣を腰だめに構え、後方に向かって炎を解放。タックルする様に扉を打ち砕き、一瞬にも満たない刹那において室内へ突入。
中に入るなり自分へと迫る雷の数々。その全てが俺より速く、しかし俺の方が『早い』。
腰だめだった剣を振るい、全方位に炎をまき散らす。蒼の炎が雷撃を構成する魔力を燃やし尽くし、天井も床も問わず火の手がおよぶ。血管のようにそれらへと纏わりついていた肉塊に燃え移り、薄暗い部屋を蒼く照らし出した。
部屋の中央で槍を手にする一人の少女がいる。
ウェーブのかかった伸び放題の銀髪は、しかし最高級の銀糸を束ねた様な印象を受ける。その隙間から覗く金色の瞳。黄金律とでも言うかのように整った顔立ち。
首から下はレオタードじみた黒いピッタリとしたボディスーツに包まれた、女性らしい体。その四肢は決して戦士のものには見えないだろう。
平時であればその美貌と肉体に見惚れていたに違いない。街を歩けば服装に問わず百人中が百人振り返る事だろう。あるいは一目で恋に落ちる者も少なくないかもしれない。
だが、今の奴を見ればいかなる人間も怖気を覚え、本能的な危機感に襲われるに違いない。
右手に持つ黄金の槍。左手に撒きつけられた深紅の戦旗。首から銀のチェーンで提げられ紫銀の懐中時計。どれ一つとってもこの世の物ではない。
気配だけでわかる。あれは己が持つ剣と同じ……いいや、同じ物の『粗悪品』か。
十代半ばの見た目をした少女。しかし外見年齢にそぐわぬほど表情からは生気を感じられない。それもそうだろう。アレに魂などないのだから。
彼女の、『アバドン』の魂は去年の十二月に東京で、自分が葬り去った。
「おおおおおおおお!」
咆哮をあげながら、炎をまき散らしアバドンへと斬りかかる。
『アアアアァァァ!』
あちらもまた、細い喉を振るわせて獣の声をあげながら槍を振るう。
人外の膂力をもつ者同士が、人の世の理から外れた武器を叩きつけ合う。その瞬間、部屋の耐久度が限界を超え崩れ落ちた。
* * *
サイド 新城 明里
「君の瞳にプレゼントぉ!」
ニードリヒの瞳に熱線を二本!ふぅー!テンションあがるぜぇ!脳内麻薬がいきわたるぅ!
「ごぼっ!あ、これちょっとまずいですね」
血痰を吐きながら笑う。さっき脇腹に触手の横薙ぎを喰らったのがまずかったかもしれない。アレ、障壁展開のネックレスが無かったら死んでたかもしれん。サンキュー相棒。
まあそのネックレスも限界で壊れたのだが。すまん相棒。
内心で蒼太さんに謝りながら、彼に渡されていた指輪を使用する。相変わらずとんでもない回復量だ。千切れた指や脱臼した肩はもちろん、痛めつけられた内臓まで全回復。これ、もしかしなくても値段をつけたら億じゃ足らんのでは?
こーれは、未来で返済しないといけない相棒への借りが増えてしまったな。あちらは『え、俺が勝手にあげた物だし』と否定するかもしれないが、それはそれ。
この私、新城明里は貰えるものは貰うが『施し』だけは受けないのだ!プライドの問題で!施しを受けるぐらいなら相手の顔面に鉛玉ぶち込んで奪う所存である!我ながらちょっとアレな美少女かもしれない!
けどパーフェクト美少女だからね!しょうがないね!
「お、いい物みっけ」
拳銃とヒートガンをしまい廊下の壁にあった懐中電灯を手に取る。
「美国、周囲の警戒よろしく」
幸い今は周囲に敵がいない。歩きながらナイフでテキパキと懐中電灯を解体していく。
ナイフはいい。使い方次第でドライバーにも鋏にもハンマーにもなる。もうこれ無しで出歩くと落ち着かないぐらいだ。
バラした懐中電灯とアルミやらなんやら組み合わせて、テレレテッテレー、『即席閃光弾』ー!
お父さん。今日も貴方に教えてもらった技術で私は生きています。今度帰って来てくれたら肩でも揉もう。
さて、それはそうと次の団体さんが次の角から来たようだ。さっそく物陰から閃光弾をシュート!そして壁に隠れて目を守る。
『アアアアアア!!??』
おお。目つぶしされたニードリヒ達がめっちゃ吠えてる。
ご近所迷惑になってはいけないから口を閉じさせるため美国と角から跳び出し、ヒートガンを撃ちこんでいく。うーん、この銃火薬の音がしないから微妙。
けど威力は十分。一体につき二発眼球に撃てば死ぬ。これ、さては人間に撃ったら一撃で焼死するな?
だが団体さんも数が多い。なんだ七体って。もっとばらけろよ。他のお客様の事も考えて分散してご来店くださる?
仕留めきれなかった三体が触手を放ってくる。やめて!エロ同人みたいにする気でしょ!美国を!このロボットにしか見えないゴーレムボディに欲情しているのね!
頭の中で茶番を繰り広げながら、自分に向かって来た二本のうち一本を勘で回避。もう一本を至近距離で右手の銃弾を当てて逸らす。
そのまま左手のヒートガンを発砲。私に触手を伸ばして来た奴は死んだ。よし。
残りの二体も美国が片方を射殺し、もう片方をナイフで斬り倒したところだ。
ここまで何体倒したんだっけ?ちょっともう覚えていない。この研究所資料にあるより人多くない?
かと思ったがちょうど壁の肉塊からニードリヒが生えてきた。あー、そういう事?
通り過ぎざまに産まれたてのニードリヒのおめめに真っ赤な目薬をジュッ!とやって、階段を上っていく。
さて、ようやく屋上だ。ここからならロケットの狙撃ができる。
そう思ったのだが、嫌な予感がして咄嗟に扉から離れて壁に張り付く。直後、扉が向こう側から四本の触手に貫かれた。
わぁ、これどう見ても普通の扉とは比べられないぐらい分厚い鉄製なんだけどなぁ。
引き戻される触手と一緒に扉が屋上へと飛んでいったので、手鏡で屋上を確認。そこには四体合体したニードリヒの姿が。
「なんですか四体って!五体以上にしないと戦隊として微妙でしょうが!」
この新城明里、日曜朝は必ず特撮を見ると決めている!妥協しても録画だけは欠かさない!
合体するなら五体以上でやれ!面倒くさい懐古厨とか前例はあるとかぬかす奴は奥歯が変形合体してしまえ!
「奥歯見せろやこらぁ!」
正当な怒りと共に手榴弾を物陰からぽーい。
炸裂音が響き、奴の視界が一瞬塞がれたと判断して突撃!
美国が。
「いけー!」
そして私は美国の後ろから走る。だって私か弱いし。お箸以上の重さは持てない深窓の令嬢なので。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
「うるせえ!?」
咆哮をあげながら四本の触手を美国に放つニードリヒ。それを盾で受け止めた美国の陰から跳び出しながら二丁拳銃でぶっ放す。狙いはつけない。でかい的だし、それ以前にどうせ防がれる。
案の定雷撃の壁に鉛も熱線も防がれ、美国には向けなかった残りの触手四本がこちらへ迫る。
「私中学生なんでー!」
R18もR18Gもお断りである。
というわけで二本は鉛玉で軌道を逸らし、二本は熱線で迎撃。だが通常の個体とは格段にあがった性能ゆえか、軌道を逸らしきれず一本は右手を掠めていく。
薬指と小指と一緒に、拳銃が壊れてしまった。グッバイ拳銃。いい仕事でしたよ。
「ハッハー!」
死ぬのは嫌だ。でもちょっと楽しい。
ヒートガンを一発。あ、やべ魔力きれそう。
だが囮になったかいはあったらしい。美国がニードリヒの意識がこちらに向いた隙に、一気に距離を詰める。
目が四個あるだけあってそれに気づいたニードリヒが、背部に生えた腕から雷撃を浴びせる。
それにサブアームに取り付けられた盾を構え、更に左手でその盾を押しながら突っ込む美国。見事その流体魔力を用いた装甲で防ぎ切り、懐に飛び込む。
代償に盾と左腕を失いながらも、美国が右手でヒートガンを奴の眼球へと向ける。
だが、それは寸前で防がれる。八本全ての触手が左右から美国の全身を襲い、鋼の体へといくつもの風穴を作ったのだ。
まるで下手糞なラップに合わせて踊る人形のように体を震わせながら、パーツを撒き散らかす美国。その右手もバラバラに散り、ヒートガンが宙を舞う。
それを『真後ろから』見届けた私が、美国の背を駆けあがって手に取った。指が三本あれば銃は使える。特に反動がないこのヒートガンなら!
「ごーきげんよう!」
四つの瞳と目が合う。それらに素早く熱線を連射。
『ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
「あー」
八発の熱線を三秒で撃ち込むのと、比較的近かった二本の触手が私の背中を貫くのがほぼ同時。
悲鳴の様な声をあげながら倒れるニードリヒの上に、べちゃりと落ちる。
やばい。ギリギリ心臓と肺ははずれたが、めっちゃ痛い。視界がチカチカするし、思わず泣いちゃいそうだ。
「がぼ、ふ、ぐぅぅぅ……」
だが立ち上がれ。まだ終わってない。動け。銃をとれ。
視界の端で、衛星打ち上げ用のロケットから煙が出始めたのが見えた。もう発射されてしまう。
「美国ぃ!」
血が混じった唾を飛ばしながらそう呼びかける。それに対し、金属が擦れ合わさる音を出しながら相棒のくれた頼れる護衛は答えてくれた。
だが、美国も大破。四肢も左足以外その辺に散らばっている。これでは狙撃など不可能だ。
「ライフルかして!私が撃つ!」
美国の右側にあるウェポンラック。それが開き、中から一丁のライフルが飛びだす。
メタリックな色合いに、シルエットはアンチマテリアルライフルに近いそれの銃口はヒートガン同様赤い宝石がレンズのように取り付けられている。だが、そのサイズは子供の握りこぶし程もある大きさだ。
『試作型ヒートライフル』
我が相棒が過保護にも自ら同様『使徒』に私が襲われた場合の対処用に作り出した、とんでも火力の珍兵器。
最低出力でも戦車の側面装甲をぶち抜き、自壊覚悟なら蒼太さんの固有異能に一瞬だけ匹敵する。あの人も随分とはっちゃけた物を作るものだ。最高だぜ相棒!
傷口から血と臓物の一部をまき散らしながら美国へと駆け寄り、ライフルを手に取る。
だが重い。普段でもきついだろうに、このコンディションでは狙いを定めるなど不可能。
ならばと美国に背中を預けるように座り、左のサブアームを台座代わりに斜め上へと伸ばさせる。
その上にライフルを置き、両手で構えた。
ふふっ、視界がめっちゃ揺れる。これはロケットの振動がこちらにきているのではない。単純にこの体が限界間近なだけだ。死にはしないだろう。指輪は使い切ったが、数々の魔道具がまだ私を生かす。ただ、ここで狙撃に失敗すると意味がないのだが。
けど大丈夫。だって私は天才だから!
「すぅー……ふぅー」
呼吸は乱さない。心も冷徹に。狙撃の基本を思い出せ。
揺れる視界が不思議と止まり、代わりに白黒のそれへと変わる。先ほどまでやかましかったロケットの音も消え失せた。
白黒の視界で、やけにゆっくりとロケットが昇っていく。その進行方向にピタリと銃口を定め、引き金を絞った。
魔力が美国の動力炉から吸い上げられ、銃身を経由し赤い宝玉から熱線となって放たれる。
遠慮なしの最大出力で放たれたそれは易々とロケットを飲み込み、遠くの雲まで打ち晴らした。
ぐらりと体が揺れる。そして背後の美国もガタがきたのか、スリープモードに移行してしまった。
戻って来た痛みと、視界の色合い。その中で先端が潰れたライフルの一部が開き、意味のない排熱機能が作動する。いや、ライフルの場合は意味があるのだったか?
まあいい。
「かっくぃー……」
排熱機能はロマンだ。できるなら全ての兵器につけるべき最高のオシャレアイテムだと断言できる。
ちょっともう意識を保てそうにないが、我ながら完璧な仕事であった。
後は任せましたよ、相棒。
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