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プロローグ


プロローグ


サイド 剣崎 蒼太



 勝ちもうした。


 一人部屋でガッツポーズを決める。これで十回目だが、あと二十回はしようと思う。


『ちょっと来週の土曜日、海に行きませんか?』


 そう明里から電話があったのが先週の金曜日。その場ですぐさまOKの返事をしたとも。


 しかし当然がっつくような真似はしていない。紳士かつクールに受けたとも。


『は、ひゃい!ももろちんです!行きます!すぐ行きます!イキマス!』


『え、キモッ』


 ……紳士かつクールに受けたとも!


 水着、よし!学校指定の物しか今生では持っていなかったが、今回は奮発してちゃんと今年のトレンド?とやらな水着を購入した。トランクス型で、ぶっちゃけ他とどう違うのかわからんけども。


 サンダル、よし!やはり砂浜を歩いたり走ったりするならこれだろう。泳ぐだけが海じゃない。ビーチでキャッキャウフフと過ごすのもまた海の楽しみ方だとも。前世も今生も家族以外の異性と行った事ないけど!


 遊具レンタルの注意事項、よし!ビーチボールや浮き輪など、持って行くよりも現地でレンタルするのが今の主流らしい。まあ新幹線で行くらしいから、あまり嵩張る物を持って行くのはマナー違反だな。


 特製の日焼け止め、よし!魔道具の知識をフル活用し、更に自分の血も少量だが使った自信作だ。紫外線のカットはもちろん『体力増強』『回復速度上昇』『概念防御結界』『病毒耐性上昇』など、その他できうる限りの効果は盛った。自分には必要ないが、明里は使うかもしれないし。


 そ、そして紳士の必需品『近藤さん』もよし……!ほ、ほら。下心とかはないけど?で、海へのデートに誘われたわけだし、た、多少はね?備えをしないといけないと思うのだよ。だからこの箱は必要な物だ。


「ふぅ……ふ、ふふふふふふ」


 自然と笑いがこみあげてくる。


 現在7月の終わり。夏休みに入ったばかりだ。バイトに明け暮れる日々を予定していたが、どうやら変更が必要らしい。


「はーっはっはっはっは!」


 今年の夏は大人の階段を一足飛びで駆け上るぜひゃっほぉぉぉおお!


「うるせーぞ!」


「あ、すみません」


 壁ドンされた。



*  *    *



「なんで?」


 新幹線にて、死んだ目で問いかける。


「なんでって……なにがですか?」


 少し古めの電車。そのボックス席で対面に座る明里が窓枠に肘をついて、顎を手の上にのせている。


 くっそ、顔がいいぶん絵になるな……。


「海、水着、違う」


「なんでカタコト……」


 そう、自分はとても酷い奇襲を受けたのだ。この世の全てから裏切りをうけた。


 お互い別の新幹線に乗って、降りた先の駅で合流したのだ。そして出合い頭に明里はこういった。


『いやぁ、研究所の見学楽しみですね』


 嘘やん。


「騙したんだ!俺の純情な心を弄んだんだ!」


 弄ぶならもっといやらしい感じで弄んでください!


「いや知りませんよ。むしろどっから水着って発想が出たんですか」


「だって海に行こうって……!一夏の過ちって……!」


「言ってませんよ?後半の部分」


 涙がとめどなくあふれ出る。絶望した。この世界に希望はない。海辺でピンク色な青春おくっている奴は全員小指の爪が剥がれろ。


「なんでガチ泣き……私、ちゃんとメールでどこに行くとか書きましたよね?」


「めー、る……?」


「そもそも誘った時にも言ったはずですが」


 ……だめだ。海に誘われた段階でピンク色に脳が支配されたからその辺を聞いた記憶が一切ない。


 というかメール。そう言えば準備とバイトで忙しくって見てなかったな。


「……私の話しを聞き流したあげく、メールを無視したと」


 薄っすらと青筋をうかべる明里に、そっと笑みをうかべる。


「今日もパーフェクト美少女だね明里」


「当たり前の事を言って誤魔化せるとでも?」


「誠に申し訳ございませんでした」


 膝に額を擦り付けて謝罪する。いや、うん。しょうがないんだ。童貞に巨乳美少女から海への誘い。しかも二人っきりとかテンションがバグるのは必然なんだ。


「まぁったく。というか、私のこの格好では不服ですか?」


 そう言って頬を小さく膨らませる明里の姿を改めて眺める。


 所々に派手にならない範囲で彩られたレースの白いワンピース。黒い半袖の丈が短い上着に、綺麗な爪先が見えているサンダル。膝に置かれている白い帽子。


 どこからどう見ても深窓の令嬢そのものである。


「めっちゃ綺麗」


「ふふん。当然の賛辞とは言え、悪くはありませんね」


 得意げに胸を張る明里。かわいい。そしておっぱい。


「それはそうと、俺達はどこに向かっているんだ?」


「マジで読んでなかったんですね、メール……」


 ゴミを視る様な目で見られた。やめてくれ。女子中学生のそういう視線は心をボロボロにする。そして低確率で新しい扉を開く。それほどの危険物なのだ、女子中学生とは。


「『海洋博物研究所』。国立の海に関する研究所ですよ」


「海洋博物研究所……海洋科学博物館とか、海洋博物館とかじゃなく?」


 微妙に聞いた事のない字面だ。こう、ニアピン感が凄い。


「比較的新しい所ですからね。たしか十年ぐらい前に建てられたのだとか。海に関する事なら無節操に研究している所です」


「無節操って……」


「事実ですから。ですが、かなり力をかけた研究所らしいですよ。最先端の機械や世界中から集めた研究者が日夜色々やっているとか」


「色々って?」


「それを今から見に行くんですよ」


 ニヤリと明里が笑みを浮かべる。


「わくわくしませんか?深海の未だ謎に包まれた生物とか、海の生態系の変化とか、未踏の地はまだ存在するのかとか。ロマン満載ですよ」


「あー、まあ、うん」


 否定はしない。自分とて宇宙だったりそういう未知には興味がある。


 ただなぁ……海の生物って聞いて真っ先に浮かんだのは『深き者ども』だし、海原さんが拾った銀の宝玉なんだよなぁ。というか、実はあの宝玉封印したままアパートに置いてあるんだけど。


 そして俺は女体の神秘の方がロマンを感じます。


「気のない返事ですねぇ。冒険の香りがしませんか?世紀の大発見をする足がかりが見えませんか?私は見えます」


「お、おう」


 目をキラキラとさせて語る明里に少し気圧される。うん、そういえばこういう子だったわ。


「けど、受験はいいのか。三年だろうに」


「ふっ、甘いですね蒼太さん」


 余裕の笑みを浮かべ、指パッチンをする明里。


「私は勉強でもパーフェクト美少女。常にテストで百点満点中九十点以上を出し続ける女です」


 あ、そこは百点じゃないんだ。いや凄いんだけどね?


 まあ受験の心配はないらしい。最初に会った時に魔導書の和訳が間違っていたのも、魔法用語の解釈が出来ていなかっただけだし。


「けど油断するなよぉ……受験にはね、魔物がいるからなぁ……」


 ああ、本当なら国立の高校で奨学金も出てスーパーで半額商品を主婦の人達と争う日々なんてなかったのに……。


 受験生の貴重な十二月に殺し合いをさせたバタフライ伊藤が悪い。


「ふ、ふふ……テニス部で真っピンクなドスケベライフの予定が……」


「テニス部になんの偏見をもっているんですか。ほら、見えてきましたよ」


 そう言って明かりが窓を指さす。夏の太陽に照らされてキラキラと輝く海。そして、その中に浮かぶ一つの島。


 島その物を改造したのか、一部の森林を除いてコンクリートの建物に覆われたその島を見た時、何故だろう。


 胸が締め付けられるような痛みを感じた気がした。



*  *   *



サイド 尾方 響



「ふんふっふふーん」


 寂れた教会の講壇に座り、足をぶらぶらとさせる褐色の少女。機嫌がいい事を隠す様子もなく、彼女は鼻歌に合わせて足を動かす。


「やあハニー!待たせてごめんね!」


「待ってないよー」


 懺悔室を乱暴に開けて出てくるのは一人の美女。ただし変質者だった。


 綺麗な栗色の髪を後ろで結い、シミ一つない背中を露出させる『花園麻里』。彼女は上下ともにフリルのついた紫色の水着を身に着け、スレンダーな肢体を見せつけながらサンダルで歩いてくる。


 左右で違う瞳は怪しく輝き、ステンドグラスからそそぐ陽光はその白い肌を煌めかせる。長い脚は細くしなやかでありながら柔らかそうな曲線をえがき、胸元は慎ましいながらも存在を主張して彼女が大人の女性である事を伝えている。


 変質者だけど。


「夏と言えば海!海と言えば水着!水着と言えばドスケベセ●クス!」


 いやそれはおかしい。


「さあハニー!『ピー』とか『ピー』とか『ピー』で『ピー』『ピー』『ピー』をしよう!」


 なんて?


「あれ、この『ピー』って音なに?」


「昼間だからねぇ。卑猥な事を言ったら出るようにしておいたよ」


 ニコニコと笑う少女に、変質者は額を叩いて「たっはー」と体を仰け反らせる。


「かわいい!初心な君も可愛いよハニー!」


 うぜえ。


「おっと響ちゃん!」


「……なんですか」


「君の分の水着も用意したよ!今の君なら似合うこと間違いなしさ!」


 なにやら紐を振り回している変質者は置いておこう。そして近づいたら槍で頭をぶち抜こう。


「二つお伺いしたい事があります」


「うんうん。いいともいいとも。なんせ私は機嫌がいいからね」


 シスター服の少女が気前よく頷く。唇を舌で湿らせ、呼吸を整えた。


「では一つ目。『落ち武者』はどこに?」


「撮影に行ってもらったよ。息子の成長をしっかり記録したいからね!」


「……では、二つ目。『なぜそんなにも機嫌がいいのですか?』」


 今日定例会議としてきた段階でこの少女は――邪神は、機嫌よさげに鼻歌を奏でていた。いっそ聞きほれそうになるそれにどうにか耐えながら、様子を観察したが何もわからない。


 だが、先ほど『息子』と言った。それはつまり。


「ああ。彼の可愛い顔がまた見れると思ってね?」


 邪神は嗤う。無垢な少女の顔で、朗らかに。


「あの子は『戦士』になりつつあるからね。敵を前に怯えても、守るものの為なら剣を振るえる。戦える。殺せる。けど、けどね?」


 講壇から降りて、少女はクルクルと回る。シスター服のスカートを翻し、まるで花畑で戯れる子供のように。


「守りたい者と。守るべき者と戦う時、彼はいったいどんな顔をするんだろうね?」





読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。今後ともよろしくお願いいたします。


※明里とセット剣崎が動く場合、互いの弱点を補ってしまうのでその分ストーリーの難易度が上昇します。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これは残念イケメン [気になる点] またろくでもないことに巻き込まれる予感
[良い点] 主人公ぇ・・・ [一言] 絶対に楽をさせないぞ⭐️ というバタフライ伊藤の意志を感じる。
[一言] 中学3年生の美少女を非常にみっともない感じで口説く超絶美形か……。 光景を想像するだけで頭が痛くなりそう。
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