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エピローグ 上

エピローグ 上


サイド 剣崎 蒼太



 結論から言おう。


 新垣さんがだいたいなんとかしてくれた。


 個人的な復讐とか。巻き込まれた一般人だとか。ちょっと人外化しているおっぱいとか。魔法使いな変質者二人とか。そういうのは、うん。お巡りさんに任せればいいかなって。


「はい頭さげて入ってー」


「へーへー……まったく。まさか日本のエージェントが『蒼黒の王』を手なずけているとはね」


「ふっ……何のことやらわからんね」


 何故か人気のない場所で連行される変質者どもはいいとして、だ。


「新垣さん」


「おやこれは焔さん。それとも『蒼黒の王』陛下と呼ぶべきですかな?」


「それはやめてくださいよ」


 兜の下で苦笑を浮べる。ただでさえ王様扱いとかむず痒いのに、この人に言われたら何故か寒気がする。


「ああ、そういえば使ってくれているんですね、トルーパー」


「っ……ええ。あれには助けられていますよ」


 よかった。どうやらお礼としてちゃんと役に立つ物を送れたらしい。


「そう言えば、あの赤い鎧は?」


 心中おじさんが着ていたアレだ。なんか嫌な予感がしたので脱ぎ捨てられていた兜は踏み潰しておいたのだが、なんとなく似ている気がするのだ、トルーパーに。


 いや、向こうは魔力仕掛けのと電気仕掛けのモーターを両方使っているみたいだが。ぶっちゃけ電子工学?的な方面は知らんし。


「アレに関しては、ええ。どうやらこちらが上に提出したのが『外』にもれたようでして。面目次第もございません」


「え?はあ、そうですか」


 まあトルーパーが彼らにとって有用ならばそうなるだろうなとは思っていた。


 言ってはなんだが、日本の防諜というのはあまり信用できない。前世でも今生でも揃って『スパイの天国』と呼ばれているわけだし。先進国では日本ぐらいなんだっけ?スパイ防止法の類がないのって。公安は国外の相手だとちょっと違うらしいし。


 なので、トルーパーのデータが抜かれるとか想定内だ。だから海原さんのアマルガムや明里の護衛である美国の性能をトルーパー複数相手に圧倒できるものとしたわけだし。


「……責任は御身からトルーパーを直接頂いた自分にあります。どうかこの首一つでお怒りを」


「ちょ、待ってください。怒ってなどいません。それに新垣さんは悪くないでしょう」


 彼は公務員だし、あれは公務中に渡した物。つまり大きく言えば『国へのお礼』とも言える。いや、公務員が公務で一般人から報酬を貰うのはそれはそれでまずいかもしれないが。


 とにかく、こうなる事を想定したうえで渡したのだ。怒るはずもない。というか漏らしたのは新垣さんの上の人達なので、本気で彼は無関係だろう。


「……しかし」


「いいですって。たくさんの人が関われば関わるほど、どうあっても秘密は秘密でなくなるものですから」


「御身の寛大な措置に心から感謝いたします」


「そんな畏まらなくても。あ、けど個人的なお願いが」


 ピクリと一瞬だけ新垣さんの眉がはねた気がしたが、気のせいか?


「新垣さんの連絡先を教えてくれませんか?」


「ふむ……少々お待ちください。自分はこれでもあまり表には出ない警官ですので、連絡先をお教えするのは上からの許可が――」


「お話し中しつれーしまーす」


「なにかね、山田君」


「あ、山田さんお久しぶりです」


「どーもどーも。新垣さん、ボスから伝言です」


 ひょっこりと現れた山田さんが誰かの真似なのか、眉間に皺を寄せて低めの声を出す。


「『臨機応変に我が国の利益と安全を守る為の最良な判断をせよ。ゴーだ』との事です!」


「ふっ……そうかね。ボスには承知したと伝えておくれ」


「はい!」


 元気に駆け足で去っていく山田さんを見送った後、新垣さんがいつものニヒルな笑みで振り返る。


「幸い許可も出ましたので、連絡先を交換しましょう」


「ありがとうございます。いやぁ、最近厄介ごとに巻き込まれる事が多いので、事情を知っていて信頼できる警察の人とパイプができるのは本当に助かりますよ」


「はっはっは。そうも評価していただけると喜びで涙が出てきそうですよ」


 よし、これで『どう考えても警察案件じゃん』という状況を丸投げする先ができたな。よかったよかった。


「あ、それとスマホに送りたい物があるのですが」


「はて、なんでしょう」


「早速送りますので、連絡先を」


 そんな感じで互いのスマホに連絡先を入れた後、あるデータを送る。


「これは?」


「人外化を抑制する魔道具の設計図です」


 元々新垣さんに渡せないかとデータ化していたが、こうして渡せてよかった。


 海原さんに渡した魔道具と基本は同じで、体内の人外として因子を吸収しつつ本来の細胞などを整える効果を持たせている。早い話しが『人外化の抑制』である。


 ただし彼女に作った『アマルガム』は自分の血を使ったのもあって色々高性能だし、そのうち完全に人間になる。だがこれは因子の除去まではできない。それでも魔道具が正常に機能しているうちは人外になる事はない。


 海原さんの一件で人外化に苦しむ人がいるのはわかった。ただまあ私財投げうって救済にあたるかと言うと、うん。察してほしい。


 そこで思ったのだ。国にぶん投げようと。それほど危険な魔道具じゃないし、じゃあいいかと。


「これは……凄まじいですね。専門ではないので詳しくはありませんが……」


「望まずに人でなくなってしまう人達の助けになればと。どう使うかはお任せします」


「……わかりました。まずはこれをあの黒髪の子に使えと?」


「あははは……」


 仕事を増やす様で申し訳ないが、国民が人間である事は国側としてもいい事だと思うし。たぶんだけど。


「いやぁ、黒髪巨乳の美少女とか好みですしねー」


 だがそれを言うのも格式張っている気がするので、冗談まじりにそう言っておく。


 別に嘘ではない。巨乳の美少女とかそれだけで大好きである。ただまあ、黒髪と付け加えると明里が浮かぶのだが……うん。好みである。性格がちょっとアレだけど。


 そう、冗談みたいな感じで言ったのだ。


「はぁ?」


「ひぇ」


 なのになんかとんでもなく低い声が聞こえたんだが?あと殺気。


 慌てて新垣さんに視線を向けるが、彼はいつもの不敵な笑みを浮かべているだけだ。殺気も出ていない。


 気のせい、か?


「に、新垣さん?」


「おお、すみません。そろそろ我々も行かなければ。彼らを一般人に見せるわけにもいきませんし」


「あ、はい。お疲れ様です」


 トラックとパトカーが並んでいる所に向かう新垣さんの背に呼びかける。


「新垣さん!本当にありがとうございます!」


「いえ、こちらこそご協力感謝します」


「これからも『長い付き合い』になると思いますが、よろしくお願いします」


「ええ……ええ。今後ともよろしくお願いいたします。『蒼黒の王』陛下」


 自分の出自もあるのでこれからも厄介ごとに巻き込まれる事は多いだろうし、本当に長い付き合いになるだろうな。


 ……なんか新垣さんの背中が煤けている気がするが、見間違いかな?


 とりあえず人目もなさそうなので鎧を解除し、小さく伸びをする。何はともあれ迷子の女子高生は保護できたし、めでたしめでたし。


 おっと。スマホはもう使えるようだし、明里に連絡をしよう。そう思って電話帳を開いた所で、こちらに向かってくる車に気づく。


 長く大きな車だ。見るからに高そうな黒塗りの高級車。あんな車に乗っているのはあの主従しか知らない。


 すぐそばに止まった車から、案の定宇佐美さんが降りてきた。


「あ、宇佐美さん。お久しぶりです」


 つい胸にいきそうになる目をどうにか彼女の瞳へともっていく。だがあの質量、もはや重力が……!


「剣崎君」


「はい」


「破廉恥よ」


「えっ」


 やっべばれた?


「その胸をどうにかしなさい」


 胸?あ、やっぱりバレてるわ。少し違和感のある言い方だが、それだけ怒っているのだろう。


「す、すみません」


「そのうち捕まるわよ、気をつけなさい」


「はい……本当にすみません。以後気を付けます」


「ええ。私はこれから実家に顔を出す必要があるから、これで失礼するわ」


「はあ」


 え、それだけ言いにきたの?


「……それと」


「はい」


「贈り物は、いつでも受け取るわ」


 ……あ。示談金をよこせと。


「そ、そのうちになってしまいますが、はい。必ず。はい」


 やっべーよ。これ想像以上にキレてるじゃん。裁判一歩手前じゃん。背中にダラダラと脂汗が流れていく。


「そう。なら、いいわ」


「は、ははあ!」


 どうにか示談で済んだ!


 去っていく宇佐美さんに頭を下げた後、何故か九条さんが小走りでこちらに来て頭を下げてきた。


「え、どうしたんですか九条さん」


「お嬢様が本当に失礼を……教育係の私の責任です」


「いえ、悪いのは俺ですから。自覚も、はい。ありますし」


「自覚があるのですか……!?」


 なんでそんな驚くのか。自覚しているのに視線をなおさなかった事にか?


「いや、あの。これでも改善しようとしていまして」


「改善しようとしているのですか……!?」


 んん?なんか余計に驚かれているような。


「……失礼、いたしました。私はこれで」


「は、はあ」


 何やら釈然としないが、とりあえず訴えられなかったからセーフ?けど示談金どうしよう……金なんてないぞ。


 宇佐美さんは魔法使いだし、どうにか魔道具で手をうってくれないかなぁ……。


「剣崎さん!」


「え、海原さん?」


 かと思ったら海原さんが車から降りてこちらに駆け寄って来た。


 ああ、胸が!胸が!そして彼女が洋服とは珍しい。ホットパンツから見える美脚が眩しい。つい胸と足で視線が往復しそうになるが、どうにか堪える。危ない、さっき宇佐美さんに注意されたばかりなのに。


「久しぶり。どうしたの」


「すみません。ちょっとこれに息をはいてもらえませんか?」


 そう言ってビニール袋を押し付けられる。え、なに?呼気検査?


「飲酒とかしてないけど……?」


「お願いします。大切なことなんです」


「はあ」


 よくわからんけど、やけに真剣な目をしていたので言われた通りにする。


 ビニール袋に息を吹き込むと、海原さんが袋の口をきつく縛ったあとジッパー付きの袋に入れていた。本当になんだ?


「よし」


「なにがよし?」


「……じゃ!」


「あ、うん。じゃ」


 何故か突然顔を真っ赤にした後、車へと走って戻る海原さん。


 ……本当になんだったんだ?


「あっ」


 ふらりと、入れ替わるように車から明里がおりてくる。はて、なにやらいつもより覇気がない。


 だがそれはそれとして相変わらず美人だ。そして胸がでかい。エッチだ。


「蒼太さん」


「明里、ごめん。待ち合わせをすっぽかして。この埋め合わせは必ずする」


「それは、構いません。貴方も苦労しているようですので……」


「う、うん?」


 本当にどうした?さっきの海原さんといい状況が飲み込めないのだが?


 誰か説明して?新垣さんカムバック……!!


「と、とりあえずコレ、作ってきたパーツと説明書……」


「ありがとうございます。お礼は必ず……ですが、その前に」


 紙袋に入れたパーツを渡すと、明里がこちらの右手を掴んできたかと思えば、己の頭にのせた。掌にサラサラとした彼女の黒髪が触れ、奥に感じる体温が心地いい。


「あ、明里!?」


 自分の頬が赤くなるのがわかる。ちょ、これはなんだか恥ずかしい。


「撫でてください。ねぎらってください。私はとても頑張りました。そして帰りも頑張らなければなりません」


「え、えっと。お疲れ様?」


 そう言って彼女の頭を撫でる。わー髪の毛の触り心地凄くいい。むしろこっちが元気になってきた。


 だがそれ以上に恥ずい!なんか無性に叫びたくなってきたんだが!?


「……よし!」


 がばりと顔を上げ、胸の前で拳を握る明里。可愛い。そして腕に押されて胸が!


「このスーパーパーフェクト美少女の髪に触れられた栄誉を噛み締めていてくださいね。私は私でやる事があるので」


「あ、うん。ありがとう?」


「では……ああ、そうそう」


 車に向かっていた足を止め、明里が振り返り小さく笑みを浮かべる。


「精々頑張ってくださいね、この色男」


 小悪魔めいたその顔に、一瞬心臓が止まったのはしょうがないと思うのだ。





読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。今後ともよろしくお願いいたします。


この後、本日中に第3.5章の設定を投稿させて頂きたいと思います。


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