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第百五話 知らんがな

第百五話 知らんがな


サイド 剣崎 蒼太



 ……なるほど。謎は全て解けた。


 とりあえず指輪で三人娘を治療し、そっと抱えていた少女を重なっている少女の横におろす。


 あれ、上に倒れてる子ちょっと人外化してない?いやまだセーフか。それにしても人外化しかけている子胸でかいな……。


 とにかく、まずあの赤い鎧の男。こいつはあれだ、『やっかい性癖心中おじさん』だな。


 こう、生き死にでしか愛を実感できない系の面倒くさい性癖で、勝手に『愛を感じる!』とか言い出して相手に心中を迫る変質者である。


 そしてあそこの薄ら禿。あれは『エロ同人型どすけべおじさん』に違いない。


 突入した時見た感じ、こう、ねっとりとした視線を女子高生達にむけていた。いや、女子高生は存在がエッチと言えなくもないので、邪な事を考えてしまうのは無理もない。


 だが、だ。ああも露骨な視線を送るとは……『見るハラ』という言葉を知らないのか?この変質者め。


 その点俺は胸や太ももを見過ぎないよう、相手の顔を見るよう心掛けている。まあ偶に重力に引かれて胸に視線が落ちてしまうが。


 とにかく、だいたい推理は完了した。おいおい名探偵だよ……。


 結論。変質者二名に女子三名が襲われているのが現状だ。まったく、なんとはた迷惑な。


「おいおいおい!いくら王様だからってよぉ、人の花嫁を奪うのはいけねえだろうがよお!」


 そう言ってアサルトライフルを片手で連射してくる心中おじさん。下手に避けると後ろの子らに当たるので障壁を展開する。


「っ!マジかよ、こりゃぁ『噂』も本当かもなぁ……!」


『A$%“T%H#H“TH#%!!??』


 え、噂ってなに。そしてスケベおじさんの方は早口過ぎてわからん。もっとこう、ゆっくり喋ってほしい。


 ふむ……なるほど、『奪う』と言ったあたりどうせ『蒼黒の王』はスケベだとか、視線が胸にばっかりいっているとかそういうのだな?自分達の獲物を横取りしにきた新たな変質者として俺を見ているな?間違いない。


 ……いや失礼過ぎない?


「ふん!」


「なにぃ!?」


 障壁を展開したまま前進。一歩で距離を詰めてライフルを切り飛ばす。真っ二つになって飛んでいくそれに意識を逸らさず、驚きながらも拳銃に手が伸びているあたりただの変質者ではないらしい。


 なんでその技術を若い女の子への乱暴で使うかなぁ。


 内心で呆れながら拳銃を左手ではたき落とし両足の脛を切り裂く。すぐに死にはしないが、しばらく動けないし左手の腱を切ったのも含めればすぐに止血しないと命に関わる傷だろう。


「ぐぉおお!?」


『S“#%”“!』


 仰向けに倒れる心中おじさんに驚きながらも、自分の周りに触手の壁をつくるスケベおじさん。


 触手……さてはその触手で卑猥な事をしてきたな?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!


 引き抜いた杖で触手を焼き払い、相手の爪先を踏み砕きながら肘で顎を殴る。反応も出来ず倒れるスケベおじさん。


 彼の近くに落ちていた魔導書に剣を突き刺してから明後日の方向に振るい、壁の方へと投げる。他に武器は……こっちは持っていないな。


 とりあえず制圧完了か?本当は念のため手足をへし折っておきたいが、普通の女子高生の目もあるからなぁ。これが明里だったら気にせずへし折れるのだが。


 念のためまだ意識のある心中おじさんの首筋に剣をあてる。


「抵抗はしないでください。出来る限りは殺しませんが、場合によっては二度と歩けなくします」


 脅しではない。彼らが『一線を越えてしまった』人達だとは感覚でわかる。気配というか、あり方が酷く鎌足に似ているのだ。『自分は奪う側だから何をしてもいい』と思っている、世間一般の評価としてゲスと呼ばれるような人格。


 自分も人の事をとやかく言えるような善人ではないが、それはそれとしてこれだけ『加減』しているのを感謝してほしい。


 心中おじさんは不貞腐れた顔ながらも膝をついた状態で両手をあげる。


「あーあ、流石にあんたが来たんじゃどうしようもねえな。ついてねえぜ」


「両手を頭の上にやったままうつぶせになってください。『口の中の物』や『足首のそれ』には決して触れないように」


「……お見通しかよ。へいへい、わかりました」


 まあ第六感覚でなんとなーく仕込んでんなと思って言っただけだが。


 さて……どうしよう。


 普通ならこの後はお巡りさんに『このおっさん達女子高生を襲ってました!』と突き出して終わりなのだが、いかんせん魔法がらみである。


 警察でも普通の部署だと対応してもらえないというか、下手したら二次災害的な事態になりかねない。


 どうしたものか。ああ、本当に新垣さんに会いたい……というか投げたい。


 そう思っていると、メッシュ髪少女が立ち上がっていた。それはそうとなんだあのメッシュ……もしかして不良?こわい。


「無事ですか?まだ立たない方がいいですよ」


「貴方は、まさか『蒼黒の王』……!」


「っ、この人が!」


「え、すみませんこの状況はいったい……」


 なにやらハッとした顔で見てくるメッシュ少女と女子高生A。そしてちょっと混乱している女子高生B。それにしてもBの子は推定Fだな。素晴らしい。


「助けに来ました。地上に連れていきます。治療したばかりですので、今は安静にしていてください」


 だが明里とのテレビ電話で学習した俺はそんな内心を表に出しはしない。ふっ……これはイケメンムーブなのでは?モテるのでは?


 そう自分にひたっているのだが、なんかメッシュ少女の様子がおかしい。


「感謝します、『蒼黒の王』。貴方のおかげで……」


「気にしないでください。ほとんど偶然の」


「おかげで、復讐がはたせる……!」


「なんて?」


 OK。さっき謎は解けたっての嘘だわ。ぜんっぜんわからん。名探偵は廃業します。


「エド・ウルージぃ!」


『へぶぅ!?』


「!?」


 メッシュ少女がスケベおじさんのお腹を蹴ったぁ!?待って。ちょっとシンキングタイムちょうだい。誰か説明して?


「起きろ強姦魔。それとも刻んで起こしてやろうか」


『Y!$“T!?』


 ナイフをちらつかせられて慌てて起きるスケベおじさん。なに?なにか因縁あるの?


「はっ!そうでした私達はグールたちの恐ろしい計画を止めるため進むも、そこで恵美子さんの家族の仇である彼らと戦闘になったのでした!」


「どうした双葉。なんでそんな説明口調」


 ありがとう女子高生Bならぬ双葉さん!


 ……え、これ復讐とかそういう話し?一番面倒臭いパターンでは?


『“HE2$T”$H!』


「ゆっくり日本語で喋れ。じゃなきゃ殺す」


「っ……!やめて。助けて。やめて。おねがい」


「貴様が……!貴様がそれを言うのか!」


『あうっ!?』


「!?」


 スケベおじさんの顔面に爪先が突き刺さった。容赦ないな!?


「ママもお姉ちゃんも!お父さんだって『やめて』って言った!殺さないでほしかった!壊さないでほしかった!なのに、お前らは!」


「そうでした……恵美子さんのお父さんは拷問されて殺され、お母さんとお姉さんは強姦の被害にあってから殺されたのでしたね……」


「本当にどうした双葉」


 ありがとう双葉さん。なんて簡潔でわかりやすい説明なんだ。


 ……やっぱ面倒臭いやつじゃん!そしてこのおっさん達クソじゃん!


「殺してやる!指先から寸刻みで切り裂いて、鼠や虫に体が食われるのを見ながら死んでいけ!」


「やめて!おねがい!やめて!ごめんなさい!許して!」


「黙れぇ!」


『あぁぁぁああああ!?』


 振り下ろされたナイフがスケベおじさんの肩に突き刺さる。メッシュ少女こと恵美子さんはそのままナイフを抉るようにしながら、わざとゆっくり引き抜いた。


 これは、やはり止めた方がいいのだろうか。どんな事情であれ、一般人が私情で人を殺すのはよくない。


 だがこれって部外者が割って入っていいのか?そもそもこいつら魔法関係っぽいから、司法で裁けるのかって問題もあるし。これが普通の犯罪者だったら恵美子さんを止めて警察に任せてファイナルアンサーだったのだが。


 悩んでいるうちに事態は進む。


「楽に死ねると思うな!」


「待って!私、家族いる!妻、娘!いる!助けて!」


 え、家族いるの。


「胸ポケット!家族の写真!ある!信じて!」


「………」


 無言でナイフを突きつけながら、スケベおじさんの着ているツナギの胸ポケットから写真を取り出す恵美子さん。遠目でチラリとだが、確かに女性と小さい子供。それと一緒にスケベおじさんが映った写真だった。


 それはそうと奥さん若いうえに美人じゃない?殺意わいたんだが?


「これがお前の家族か……」


 必死で頷くスケベおじさんを、恵美子さんは冷徹な目で見おろす。


「わかった。お前の首はこの人たちに届けてやる。そして、この人たちが私に復讐しにくるのを待つよ」


「ま、待って!待って!」


「こういう状況を、私が覚悟していないとでも思ったのか……?」


 やばい。時間切れな気がしてきた。助けて新垣さん。


「待って!」


 ここで未だ名称不明な女子高生Aが動いたぁ!


「なんで止めるのよ、市子!」


 市子さんだった!よし、これで全員名前がわかったな!


 よしじゃねえよ。どうすんだよこの状況。


「やっぱり、恵美子ちゃんはその人達を殺しちゃだめだよ」


「ふざけないで!死んだ人は喜ばないとでも言うの?知った風な口をきかないで!」


「違うよ!私はそんな事を言っているんじゃない!恵美子ちゃんが復讐される立場になるのがいやなの!」


 あ、長くなりそうなので心中おじさんの傷ふさいどこ。失血死されてもやだし。けどあくまで止血である。完治はさせない。


「おやおや、ずいぶんとお優しいこって」


「静かに。ちょっと今取り込み中なので……」


 切っ先を近づけて首の皮に少しだけ刺す。なんかこのおっさんが喋るとこじれる気がするので。


「だからなに?知った事じゃないでしょ。私達は赤の他人よ」


「本当に他人だと思ってるなら、なんであの時私を見たの!」


「っ……!」


 あの時、イズ、どの時?


「勝手に死のうとして、最期にこっちに笑いかけて、それで他人だなんて無茶言わないでよ……!」


「それは……」


 なんだこの熟年カップルみたいな会話。そして心中おじさんが嫉妬の視線を向けてるけどなんなの?痴情のもつれ?


『それが百合ですよ……』


 七三先輩!?直接脳内に!?あ、ただの妄想だわ。


「だから、私は恵美子ちゃんに人を殺してほしくない」


「けれど、私は家族の復讐をはたしたい。皆の仇がのうのうと暮らしているのが許せない」


 言い争っていた二人が、双葉さんが、おっさんズがこちらを見てきた。


 え、なんでこっち見んの?まさか俺に決めろと?


 うっわ無言で皆待ってるよ。ふざけんなよ俺本当に無関係じゃん。けど、うーん……やっぱ人殺しは、うーん。


「……復讐の善悪は、わからない。けど個人的に忠告させてほしい」


「忠告、とは?」


「夢に出るぞ」


 あくまで個人の見解というか、経験に過ぎないのだが。


「相手がどれだけ悪い奴でも、夢に出てくる。最初の内は毎晩見るし、そもそも目を閉じた瞬間見るから眠れない日もある」


「………」


「半年たっても週に一回ぐらいで見る。中途半端な時間に跳び起きて、ないはずの返り血をおとそうとずっと手を洗う事になる……かもしれない」


 無言で聞いていた恵美子さんに、話は終わりと小さく頷く。


「それだけだ。できれば殺してほしくないけど……それ以上は、止める『権利』も『義務』もない。俺は極論、善意でここに来ただけの通りすがりだ」


「私は……」


 言えるのはここまでだ。自分にはここにいる全員が今あったばかりの他人なので、誰もが納得するような言葉などおくれない。なら、もう個人的な経験を話すのが精一杯だ。


 選択は、自分でしろ。


「恵美子ちゃん……」


「……あー、もう!わかったわよ!殺さない!」


「恵美子ちゃん……!」


「なんであんたが喜ぶのよ……」


 なんだか通じ合った顔で見つめ合う恵美子さんと市子さん。


 なるほど、これが百合か……。


「エド・ウルージ」


「は、はい!」


 少し安堵した顔を浮べていたスケベおじさんに、恵美子さんはナイフを投げわたす。


 ……え、なんで?


「それで自分の左手の指全部と左目。そして睾丸を潰しなさい。それで許してあげる」


 ……わお。


「ま、まって!殺なさい、言った!」


「殺さないわよ。ちゃんと止血してあげるから安心しなさい」


「え、恵美子ちゃん?」


「これが譲れないラインよ。こいつは愛する家族のもとに帰ればいい。大丈夫。見た感じ今の仕事はデスクワーク系でしょう?家族と助け合えば暮らしていけるわ」


 名案でしょう?


 冷笑を浮べる恵美子さん。けどたぶんそれが彼女の妥協点なのだろう。それ以上は絶対に譲らないのだろうな。


「ひっ……はぁ……はぁ……!」


 きょどきょどと助けを求めるように視線を巡らせるスケベおじさん。


「はっはっは!ああ、うん。そうなるかぁ。失恋だなぁ……」


 笑いだす心中おじさん。失恋どころかそもそも相手側に脈とかなかったのでは?


「何を笑っているの、サイ・パーコス。こいつがケジメをつけたら次は貴方よ」


「へえへえ。わーったよ。まあしょうがないさ。負けたんだし」


「た、助けて!許して!いや、いやだ!」


 叫ぶスケベおじさんだが、いや、もうそこまでは知らんし。こっちとしてはこのおっさんズをどうすればいいかで悩んでいる。


 止血をした後、どこに持っていけばいいのか……もういっそ警察署の裏手に『新垣さんにお願いします』と張り紙つけて放置していいかな。


「さあ、早くなさい。『蒼黒の王』陛下を待たせる気?」


 待って人の名前突然出さないで?いやそのあだ名認めた覚えないけども。


「う、う、う……うわぁあああああああ!」


 ナイフを手に取るなり恵美子さんへと跳びかかるスケベおじさん。


 まあそうなる気はしていた。杖を構えてナイフを焼くつもりだったが、余計なお世話だったらしい。


 銃声が響く。


『が、あああ!?』


「そう、そういう事するんだ」


 右手の人差し指と中指を失って悲鳴を上げながら尻もちをつくスケベおじさんと、空中で彼が取り落としたナイフをキャッチする恵美子さん。彼女の声には隠しきれない喜色があった。


「じゃあしょうがないわね!私が手伝ってあげる!その指じゃ難しいものね!」


『N#%&“YG#%#”%&&!!!』


 なんかわからないが口汚く罵っているようだが、早口過ぎてわからん。そして心中おじさんは爆笑している。


 うーん。なんだこれ。


「うん?」


 だが、見知った気配を感じとる。


 ずっと探していた。待ち望んでいた。再会する時を何度も想像した。ずっと、伝えたい事がある人が近くに来ている。いいや、ここに向かっている!


 足音もなく神殿へと入ってくる七人の集団。六人が特殊部隊のような衣服をまとっており、一人だけ鎧とそういう服を組み合わせたようなのを着ている。


「新垣さん!」


「ふっ……これは、どう言う状況かな?」


 ゴーグルとマスクを脱ぎながら現れたその男こそ、そう。


「お巡りさんお願いします!」


 この状況をぶん投げるに最適な『警察』である。


「………ふっ、任せてください」


 ふーっ!今日も余裕の笑みが崩れないぜぇー!


 色々とストレスのたまる状況に我ながらハイになりながらも、どうにか全てを解決できる人物の到来に喜びを隠しきれなかった。



読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。今後ともよろしくお願いいたします。


本編に関係ない情報

キャラの料理上手ランク10段階評価


剣崎:6点

 良くも悪くも家庭料理。レパートリーは少ない。

明里:9点

 私はパーフェクト美少女ですので。もうすぐ10点にいきますよ。有名料理店で一品任されるレベル。レパートリーがやたら多い。

海原:7点

 日本料理限定で得意。洋食は苦手だけどレシピを見ながらなら作れる。

宇佐美:2点

 昔九条黒江に訓練として無人島にナイフ一本で放り込まれた事があるので、自分で料理をした事はある。ただし、『とりあえず毒が怖い』と無人島経験のせいでひたすら茹でるし焼く。味付けは塩。

新垣:10点

 元々上手かったが亡くなった奥さんが倒れて旅行に行けなくなった頃、彼女に世界中の美味しい料理を食べさせてやりたいと死ぬ気で鍛えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] やはり彼が、彼こそがヒロイン。
[一言] 新垣の設定が重いんじゃ!
[気になる点] パーフェクト美少女の父親はもっとパーフェクトだった…(料理10点)
感想一覧
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