エピローグ 下
エピローグ 下
サイド 九条 黒江
「以上が『私から』の報告にございます」
宇佐美グループ会長、宇佐美秀時の私室にて首をたれる。
「ご苦労。今回もよく働いてくれた」
しわがれた声が、落ち着いた雰囲気ながら見る者が見れば一目でわかるほど貴重な魔術兵装が並べられた室内に響く。
宇佐美時重。現在七十五歳。毛髪一本ない頭に、豊かにたくわえられた白い口髭。洋風の装飾がされた部屋に反して和服を着た、好々爺然とした老人だ。
表の顔は日本でも有数の富豪であり経営者。しかしその裏の顔は平安より残る魔術師の一族。その当主である。
魔術師としての腕は日本でも三指に入る。ともすれば世界で見ても上位百人に数えられるだろう妖怪。
「特別報酬はいつもの口座に入れておく。本当にありがとう。お主の働き、見事だったぞ」
「ありがとうございます。では――その報酬は不要ですので、今回お嬢様に与えられた『宿題』についてお聞きしても?」
本来メイドとして、雇い主の意図を無遠慮に探るのは重大なマナー違反。そんな事は承知のうえ。あえて一歩踏み込んだ。
「ふむ……それを孫の教育係である君に、わざわざ言う必要があるのかね」
瞬間、空気が針の山に変わる。呼吸一つで臓腑全てに毒の針が突き立つ異質の空間。
宇佐美グループ会長として、そして日本最高位の魔術師がもつ威圧感。僅かにでも機嫌を害する発言をすれば、一瞬の死ですら慈悲と呼ばれるこの世の地獄が私を包み込む。
「貴方の教育係だった者としてお聞きしております。『坊ちゃま』」
わざとらしい『悪戯』をしてくる生意気なクソガキにそう返してやる。誰がおしめ変えてやったと思っているのだ。
お嬢様の、京子様のお付きとしてこれは聞かねばならない。今回の一件はあまりにも危険すぎた。お嬢様のような、言っては何だが未熟者に任せるような一件ではなかった。
「かなわんなぁ、『黒江さん』には」
先ほどまでの人外じみた空気が嘘のように霧散し、朗らかな懐かしいものへと変わる。
「目的は剣崎蒼太様。『蒼黒の王』とのパイプですか?」
「ああ。彼は間違いなく、『人間サイドに味方してくれる人外』としては最優だからな。もっとも、彼の未来はほとんど視えないんだが」
「最強ではなく、最優ですか」
「うむ」
御当主が深々と頷く。
「腕を一振りすれば戦車は小石のように転がるだろう。地を蹴れば一足にて隼となるだろう。その肉体は常人の持つ武具では殺める事はできず、魔力が渦巻けばそれだけで街が燃え尽きるだろうとも」
「それでも最強ではないと?」
はっきり言って、アレより強い生物などこの世に浮かばないのだが。アバドンでもあの世から連れてくるのか。
彼を言い表すなら『人の形に押し込められた神の指先』。大地を神が一撫ですればそれだけで地図は書き換わる。そういう存在だ。
人では彼を殺められない。神域にたどり着いたほんの一握りの、人を止めた魔術師か。あるいは同じように神格と深い関りのある『なにか』でもないとそもそも戦いの土俵に立てない。
「ああ。最強ではないとも。彼は人の心をもちすぎる。それも外道の類ではなく無辜の民としての心をな」
ああ、なるほど。確かにそう言われてしまえば頷かざるをえない。
たとえば、その辺の赤子を盾にすれば彼はどうするのだろうか。
たとえば、家族や親しい友人を人質とされても戦えるのだろうか。
たとえば、敵を殺すには百万の無辜の命を犠牲にする必要がある時、剣を振り下ろせるのだろうか。
きっと、それがどうしても必要とされるのであれば彼はその力を振るうのだろう。だがそれは血反吐をはき、己の命を断ちかねないほどに憔悴しながらの事だ。
一般的な魔術師なら一切の躊躇なく生贄とするだろう。なんなら、嬉々として切り捨てる者さえいるに違いない。
いいや、魔術師でなくともいくつかの戦場を生き延びた兵士なら躊躇わないかもしれない。
「彼の力は人の理解を越えている。だが、その価値観も精神もあまりにも人間すぎる」
「つまり、『人の世そのものが檻』であると」
御当主が頷く。
なるほど、ようやく納得した。
「だがまあ、それでも人が頼れる存在としては間違いなく最強だ。可愛い孫のため、残せるものは残さなくてはな。人脈もその一つよ」
「……なるほど、理解いたしました」
「賭けではあったがな。儂の『千里眼』でも、神格に関わる者は見えぬ」
『千里眼』
御当主が有する最高位の魔眼。千里先さえ椅子に座りながら見通すそれは、時間軸さえ無視をする。
制御は出来ず、今を生きているのか未来を生きているのかも本人には断言できない。また、かの猟犬どもが常に彼の血肉を欲して周囲を徘徊するのだ。その護衛兼世話が私の初仕事だったのを覚えている。
この力を自在に扱う事は、未だ御当主にもできていない。だが、付き合い方は学んだのだろう。
そうでなければ、宇佐美家を裏表問わず世界に轟かせる事はできまい。
「ええ、未来など視えている事はこの黒江も重々承知しております。お嬢様が無事帰還する事も程度は見えていたのでしょう。しかし」
声にありったけの殺意を込める。
「敏夫様の様な事があれば、契約違反だと言う事をお忘れなきよう」
「――ああ、わかっているとも」
魔術師と言うのは、『人でなしこそ強い』ものである。
いかに才能があろうとも、人の心をもったままでは限界がくる。今のお嬢様がそうだ。才能だけなら御当主の七割ぐらいはあるだろうに、それを半分も活かせていない。
そして、目の前にいるこのクソガキは、くされ爺は、紛れもなく世界で百人に数えられる『人でなし』だ。
「宇佐美家の直系。その子供には必ずお前を傍に置く事が契約だ」
「ええ。本来なら敏夫様とお嬢様。両方まとめて私が教育するはずだったのを、お嬢様一人だけに絞らせた。あげくの果てに、敏夫様を殺したのですから」
「人聞きの悪い事を言わんでくれ。あやつは自ら命を絶ったのだ。妹を助けるため、己が身を差し出す。魔術師としては落第だが、人としてはなんと素晴らしき心意気か。祖父として、悲しくはあれど誇りに思おう」
悲し気に語るこの老人は、今の発言になんの嘘も含みも持っていないのだろう。
お嬢様一人の方が、未来で蒼黒の王に気に入られやすいと視えていた。だからもう一人の孫を死なせたというのに、だ。
「敏夫様の教育に、御当主自ら関わったのは聞き及んでいました」
「ああ。『あのクソガキが孫をそうも可愛がるか』と、お主も喜んでおったなぁ」
「ええ、貴方の教育係としてとても喜ばしかったのを覚えております。ですが、『妹の為に死ぬように洗脳する』とは、露とも思っておりませんでした」
知っていたのだ、この老人は。あの日、あの時、あの場所で。己の孫の片方がどうあがいても死ぬのだと。闇から闇に移り住む異界の鬼に生きたまま食い殺されるのを視ていたのだ。
そして、それを変えようともせずに死なせるほうを選んだ。その方が家の為になるからと。
「今でも昨日の事のように思い出す。あの可愛かった敏夫が青年となり、異界を住処とする鬼どもに喰われる姿を……」
……ああ、これも嘘ではない。心からの言葉だ。断言できる。
心から悲しみ、慈しみ、そのうえで平然と利用して殺す。それが目に入れても痛くない愛しの孫だとしても。
これが『一流の魔術師』という存在だ。
「お嬢様が納得のいく相手と子を産むまで、そのお命に何かがあれば契約違反とし、私はできうる限り暴れましょう。命尽きるその時まで、契約を破った者を逃しません」
「わかっているとも。黒江さんが儂のひ孫を『我が子のように』愛する姿、しかと見届けよう」
「……どうしてここまで捻くれて育ってしまったのでしょうね」
「はて、よっぽど酷い失恋をしたからではないかな?」
ため息をつき、もう一度礼をする。
「お聞きしたい事は以上にございます。御当主様」
「うむ。さがるがいい」
「失礼しました」
「ああ、最後に京子に伝言を頼む」
「……はい」
にっこりと、好々爺は笑みをうかべる。
「ゲームのし過ぎはいかんが、まあ目が悪くならない程度なら息子たちに儂から説得してやると伝えておくれ」
「……かしこまりました」
御当主の部屋を出て少し歩くと、お嬢様がウロウロと廊下を歩いていた。
「お嬢様。どうなさったのですか動物園の白熊のように同じところを行ったり来たり」
「あ、黒江。お爺様はなんと言っていた?その、私について、こう……」
不安気に、自信のないテストの返却でも待つように手をあたふたと動かすお嬢様。その姿に心の中で小さく笑う。本当に、この子は。
「よき仕事ぶりだったと。宿題は合格だそうです。後日お褒めの言葉が改めてあるでしょう」
「そう、よかった……」
心底安堵したように笑みを浮かべるお嬢様。その笑い方は昔から変わらない。
「それともう一つ」
「うっ、何かしら……」
「ゲームのし過ぎはいけませんが、目が悪くならない程度なら御当主から御父上様達に説得をしてくださると」
「本当!?」
宿題とやらのお褒めの言葉よりも嬉しそうに笑うお嬢様に、サムズアップを決める。
「ですが、ピコピコをやり過ぎたと私が判断したらその瞬間御父上様に直でご報告し、お説教をするよう進言いたしますので」
「く、黒江ぇ~……」
まったく、あのクソガキもこれぐらいポンコツならば可愛げがあるのだが。
どうにか私を説得しようと言葉を並べるお嬢様の交渉術を採点しながら、あの老人が幼い頃の姿を思い出していた。
* * *
サイド 尾方 響
「ふんふふふーん」
寂れた無人の教会で、涼やかな鼻歌が聞こえてくる。
本来なら神父が聖書を置いて説教する所に腰かけて、気持ちよさげに鼻歌を奏でるシスター服の少女が一人。
それはそれは美しい少女だった。銀色の長い髪に黄金の瞳。褐色の肌は艶めかしく、清楚なはずの修道女の衣服も彼女が切れば淫猥な娼婦のようだ。
――少女が、そして己がいる今もこの教会は無人である。
だって、まっとうな『人間』などこの場にはいないのだから。
「もう、合いの手ぐらいいれて欲しいなぁ。せっかくの親子水入らずの時間なんだから」
声に笑いを込めながら、少女はそんな事をのたまった。
「親子、ですか」
「そうだとも。君は実質私の『養子』だ。この世に産まれた時は違えども、今は私の子となったのだから」
ああ。確かに今のこの身は眼前の少女が作り上げた。いいや、作り変えた代物だ。より彼女の力を受け入れやすくするために、直接手を加えた巫女としてのそれだとも。
だが、この『邪神』を親と思うのはかなり抵抗がある。
「つれないなぁ」
こちらの心の内を読んだのだろう。驚きはしない。なんせ神なのだから。
さて、この『主』が面白半分で街一つ使ってデスゲームでも始めないように、どう時間を潰させたものか。
その時、ボロボロの教会のドアがノックされる。
「どうぞー」
「しっつれいすっるよーん!」
ああ、嫌な人がきてしまった。
ボロボロのドアをギリギリと音を鳴らしながら押し開けて、一人の女が入ってくる。
栗色の髪を長く伸ばし、黙っていれば清楚な印象の美女。その顔には満面の笑みが浮べられ、実年齢よりも幼く見える。
「会いたかったよマイハニー!一日千秋とは正にこのことさ!君の愛しのガールフレンド、花園麻里が帰って来たよ!」
スキップでもしそうなぐらい声を弾ませ、ムーンウォークからの指パッチン連打。そしてくるりとターンを決めて邪神の眼前に跪く女、花園麻里。
それに対し、少女の姿をした邪神は胸に手を当てて舞台女優のように高らかに声をあげる。
「ああ、我が愛しの君!貴女と再開できる日を毎夜数えておりました。どうかその悲しき日々を忘れさせるほどに、情熱的な愛を注いでくださいませ」
やろうと思えば純粋な技術だけであらゆる人間を魅了する演技が出来るだろうに、少女は学芸会でやってそうな返しをしてみせる。
まるでお前にはそれで十分だとでも言っているように。
「おお、じゃあ早速裏手でしっぽりと」
「ダメダメ。そこはもっと情緒を大事にしなくっちゃ」
抱き着きにいった変態を立ち上がってヒラリと躱し、邪神は人差し指を振って嗤う。
「それより、例の物はちゃんと撮れたのかな?」
「うんうん。勿論だともマイハニー」
そう言って恭しく差し出されたスマホを受け取り、邪神は画面を撫でる。
「おお、しっかり撮れているね。ありがとう麻里ちゃん」
「いやいや、君の恋人として当たり前のことさ☆」
うぜぇ。
☆マークでも出そうなキザったらしいウインクをする生ごみに冷たい視線を送っていれば、何を勘違いしたのか投げキッスしてきた。
「おっと、惚れてしまったかな?今の君ならウェルカムだとも。さあ、私の胸に飛び込んでおいで!」
「三メートル以内に近づいたら刺します」
「おやだいたん。そんな道具を使ってまぐわい、あ、冗談!冗談だから!」
左手に槍を呼び出して構えれば、流石に両手を上げて降参のポーズでさがる変態。
だが油断は出来ない。こいつは命を懸けてもセクハラしなくては生きられない珍獣だ。害獣とも言う。
「うんうん、本当によく撮れてる。ああいう室内だと、私は見に行けないからなぁ」
そう少女が言って、教会にある割れたステンドグラスを見上げる。
満天の星空でなお一際に輝く白銀の月。それを見た瞬間、強い怖気が走る。
あれは『目』だ。天上からこちらを見下ろす、神の瞳だ。
あらゆる人間を等しく愛する慈母のような。あらゆる人間を無価値と嗤う悪魔のような。あらゆる人間に興味を抱かない傍観者のような。
愛が、妬みが、好意が、嫌悪が、哀れみが、憎しみが、慈しみが、劣情が。この世全ての感情を混ぜて煮詰めたような瞳。
一瞬だけ、月面に燃える様な灼眼が映った気がした。
「っ……」
小さく首を振る。危ない。今の体だから多少の吐き気を覚えただけで済んだが、これが元の体だったら気が狂っていたかもしれない。
……いいや。邪神の手をとったのだ。とうに狂っているのだから、なにも変わるまい。
「見ると言えば、ハニーの瞳はやっぱり凄いねぇ」
そう言って花園さんが左目の眼帯をはずす。
眼帯の下から現れたのは黄金の瞳。シスター服の邪神の目と瓜二つのそれが、花園さんの左目としてそこにある。
「本当に便利だったよ。これがなかったら死んでたね」
「お礼は不要さ。それは君が試練を乗り越えて獲得したものなのだから」
にこやかに笑う少女と、照れたように頭を掻く花園さん。
大抵の人間が微笑ましいと感じるこの光景の裏で、何十人もの人間を彼女が騙し、犯し、踏み潰し。邪神のゲームを攻略した結果だとは思うまい。
詳しくは知らない。ただ断言できるのは、ここにいるのは『人でなし』だけだ。更に言えば――。
再度、教会の扉がノックされる。
「どうぞー」
――ここには『人でなし』しか来はしない。
「おお、おお!我らが主上!今日もなんと麗しい!」
黒と紫で彩られたローブの集団。その先頭には随分と奇抜な格好の男が一人。
頭の側面と後部のみに頭髪をはやし、胸辺りまで伸ばしている。顔立ちは普通だが、強いて言うなら二つに割れた顎が悪目立ちする。言葉を選ばずにのべるなら、少々滑稽な姿だ。
だが、首から下のせいで顔の印象は随分と薄れてしまう。
下は黒いスーツのズボンに革靴。手には革製のこれまた黒い手袋。これらは別にいい。
問題は胴体。一切の衣服を身に着けていないそこは白いながらも筋骨隆々の肉体が無遠慮に晒され、上半身全体にびっしりと走る手術痕も見えている。それらの切開は彼自身の手で行われたのだからぞっとする話しだ。
「ありがとう『落ち武者』くん。君の頭頂部も相変わらず眩しいね」
「はっはっは!主上の微笑みよりも輝かしいものなどありますまい!」
楽し気に笑うこの男。名は知らない。だが周りからは『落ち武者』と呼ばれている。確かにヘアースタイルは落ち武者そのものだが。
「後ろの子達が北海道から呼び寄せた君のお気に入りたちかい?」
「ええ!『真世界教』でも同じ芸術性をもつ同志達。その第一陣です!」
『真世界教』
かつて関東圏を主な活動の場としていたが、信者による犯罪行為が多数発覚した事で北海道に本部を移した信仰宗教。
その教祖の名は『魔瓦迷子』。最近聞いた話しだが、会長と同じく邪神に作られた人間だとか。
「うんうん。よろしくね皆。一緒に楽しいパーティーをしようじゃないか」
少女が声をかければ、ローブの集団が一斉にその場で片膝をつく。
「「「我ら教祖魔瓦の教えのもとに集いし十三の猟犬。いかようにも」」」
「あーだめだめ。そんな堅苦しいのは主上が望んでいるものじゃないよー」
口上を遮って呆れ顔で手を叩く落ち武者。
「しかも今日は主上から楽しいお話しがあるって日なんだから、もっと空気をあっためなきゃ。ささ、主上。どうぞ一発お願いします」
「うーん。そういう事を善意でやってるんだから、君は現代社会で上手くやれなかったんだよねー」
「ええ!?そんな、私が前の会社で上司から嫌われた理由がおわかりに?流石は主上!」
「誰でもわかるよ!見たまえよこの冷え切った空気。ここから面白い話しなんて面倒にもほどがあるじゃないか」
「……?空気を視認する術を普通は持っておりませんよ?」
「うーんこの」
盛大にため息をつく少女が、すぐにコロリと満面の笑みを浮かべた。
「まあいいや。じゃあ諸君、それぞれらくーに話を聞いておくれ」
軽く跳んで講壇の上に飛び乗り、シスター服をはためかせて少女は手を振るう。
瞬間、空気が変わった。先ほどまでの気の抜けたものから一転、背筋にぞわぞわと虫でも蠢いているかの様な不快感。
「諸君!今の世界は好きかい?この魔術も異形も神々も覆い隠した世界を愛せるかい?」
「「「否ッ!!!」」」
声を揃えて否定するローブの集団。
「諸君!臭い物に蓋をして、それを平和と唱える権力者に敬意をもっているかい?」
「「「否ッ!!!」」」
「諸君!見たいものしか見ず、都合のいい自己解釈と他者への批判しかしない民衆を慈しめるかい?」
「「「否ッ!!!」」」
「諸君!この泡沫の夢が続く有限の世界を生きる者達よ!そんな今が大好きかい?」
「「「断じて否ッ!!!!」」」
「よい!人の世になじめず、その不満を他者にぶつけるはた迷惑な愚物どもよ!」
講壇から見おろし、僕達を見くだし、世界を見つめる邪神は嗤う。
「私は君達の凶行を見届けよう!その蛮行を嗤ってやろう!これから君達が命を代価に演ずる舞台をかぶりつきで鑑賞してあげようじゃないか!」
月光がスポットライトのように動き、枝分かれしてこの場にいる少女以外の全ての者を照らし出す。
「さあ、ここから君達がこの世界の中心だ!狂え!踊れ!歌え!楽しい演目にしようじゃないか!」
「「「「「ハッ!!!!」」」」
……もはや後戻りはできない。僕は僕の望みを叶えるために、自らもまた凶行におよぶ。
きっと、会長は、あのお方は許してくださらないだろう。それでもいい。それでいいのだ。
僕もまた狂った愚者の一人として、邪神の手の平で踊るとしよう。
「では、手始めに」
楽し気な笑みをうかべ、声を弾ませながら少女は手に持つスマホを掲げる。
「私の『息子』がお歌を披露してくれたんだ。それを皆で視聴しようじゃないか!」
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。今後ともよろしくお願いいたします。
この後、少ししたら第3.5章のプロローグを出させて頂く予定です。




