第九十話 目的
登場人物が多いという事で、簡単な紹介を。
剣崎蒼太:主人公。チート転生者。ちょっとだけPTSDかも。
宇佐美京子:お嬢様。魔術師。メンタル弱者。金髪爆乳美女。
九条黒江:宇佐美家のメイド。先祖返りの半分スライム。メイド忍者。
花園麻里:変態。
阿佐ヶ谷龍二:イケメン生徒会長。
日向晴夫:さわやかタフガイ。剣崎派閥の筆頭だった。
日向黒木:イケメンだけど二次元厨。晴夫の弟。
日向白木:晴夫の妹。ランスが好き。
大泉ランス:グウィンを寝取った男。フランス人ハーフ。
岸峰グウィン:男の娘。剣崎の幼馴染。宇佐美とは親戚。行方不明。
盛岡理事長:推定『わざわざホモホモしい高校を作った性癖に忠実な男』。及び第一容疑者。
……確かに多い。
第九十話 目的
サイド 剣崎 蒼太
「う、んん……?」
小さく声をあげて黒江さんが目を覚ます。
「黒江」
「お嬢様っ」
素早く起き上がり、宇佐美さんをガン見しだす黒江さん。
の、体を思わずガン見する俺。いやね、しょうがないんだよ。槍でぶち抜かれたうえに宇佐美さんが強く握っていたからか、着物が脱げてしまっているのだ。
結果、黒江さんが今身に着けているのはサラシと褌、メイドカチューシャのみ。華奢で白く綺麗な背中が艶めかしいし、プリッとした小ぶりなお尻は桃みたいだ。スラリと長いカモシカみたいな足も美しい。
あ~、背中に頬ずりしたいんじゃあ。お尻撫でたいんじゃあ。足をペロペロしたいんじゃあ。
……だめだ。もう思考が駄目な方向に突っ走っている。落ち着け俺、ここは敵地だぞ。去年の東京や三月の貝人島の事でも思い出せ。具体的には戦闘後の街や村とか!
「……おえ」
「え、なんかこっちを見ていたと思ったら突然えずきだしたんですけどあの人。失礼すぎません?」
「いいから早く服を着て、黒江……」
いや、ちゃうねん。ちょっと、色々悪夢で見る光景がフラッシュバックしただけで。
いそいそとメイド服を着こむ九条さんだが、腹部には大穴が開いていて可愛らしいおへそが見えている。くっ、性癖ではないはずなのについ見てしまう……!というか心の保養的にも見ないとメンタルブレイクしそう。
「というか、なんか私の質量増えているんですけど……?」
ああ、流石に粘液混じりの体を治したのは初めてだから少し間違えたかもしれない。故意ではないが。
「この質量を綺麗に分配するとお嬢様みたいな体型になるんですが?」
故意ではない。故意ではないがちょっと綺麗に分配してみてほしい。
「普通にメイド服の修復に使ったら?」
「そうですね」
悲しい……。
黒い粘液がメイド服の破けた部分を這ったかと思ったら、いつの間にか元の綺麗な状態に戻っていた。まあこれはこれで。
「さて、とりあえず移動を」
「みんなー」
ぶんぶんと手を振って、変態がこちらに走ってくる。無駄にいい笑顔だ。
「まったく、どこに――」
気づけば手に剣を呼び出し、麻里さんの眼前まで踏み込んで思いっきり振りかぶっていた。
「っ!?」
慌てて肉体を制止。彼女の左寄りの頭部に触れるギリギリで止める事に成功する。
「……へ?」
「す、すみません!」
剣を引いたあたりでこちらの行動に気づいたようで、麻里さんが顔を引きつらせる。
「ちょ、え、なに!?なんなの!?」
「すみません。ほんっっとうにすみません」
我ながらなんでこんな事をしたのかわからない。
ただ、『この世にいてはいけないなにか』を何故か感じ取った気がしたのだ。それで、気が付いたら体が動いていた。
「中学時代君に近づく女の子に粉かけまくったこと!?それとも君の事を『お尻がガバガバだから岸峰君に捨てられた』って噂を流したこと!?まさか蛍ちゃんにこっそり何度もあっていたことかな!?」
「やっぱころぉす!」
「お助けぇ!」
おどれ何してくれとんじゃ。もうどこから怒っていいのかわからない。この変質者は斬り捨てた方がいいんじゃないだろうか。物理的な意味で。
もう……ほんともう……というかここの学生が言っていた『あの』ってまさかその噂じゃないだろうな。
「まあまあまあ」
「落ち着いてください。仲間割れをしている暇はないですよ」
「はい!」
左右から宇佐美さんと九条さんに挟まれた。そして腕も挟まれた。これ以上の幸福があるだろうか。
いつもの鎧姿ではなく、彼女コーデ(借)でよかった……ありがとう、明里。
『え、なんですか気持ち悪い』
ごふっ。
それにしても宇佐美さん、なんという大質量。厚手の服と下着越しだろうに、なんという……これが、エデンか。
「……?」
「あっ」
不思議そうな宇佐美さんと何かを察した様な九条さん。そんな事よりおっぱいだ。
「とにかく移動しましょう」
「はい!」
「あの鎧の子はここに置いて行っても大丈夫……よね、たぶん」
「はい!」
「どこに彼女みたいな騎士がいるかわからないわ。貴方が頼りよ」
「はい!」
「さ、行きましょう」
「はい……」
ああ、エデンが両方とも離れていく。俺は知恵の実でも食べてしまったと言うのか……。
* * *
剣を指輪に戻し、四人で教会に向かっていく。最初理事長室に押し入るか検討されたが、待ち伏せが容易な校内をあまり歩き回りたくないので、まず校舎外の教会に向かう事に。
「そう、日向晴夫君と阿佐ヶ谷龍二君がガウェインとアーサー王に……」
「はい。とりあえずヴァーディガーンは宇佐美さんに壊してもらったので、見立てが成立する事はありませんでしたが」
「……黒幕はここをブリテンにしようとしている。けど、なんで……?」
「いや、それがさっぱり……」
情報が足らない。何故イギリスのブリテンなんだ?それがいったいどういう意味をもつというのか。
そもそも黒幕が盛岡理事長だとして、やたらイギリスに拘るのはなんでだ。単純に好み、という可能性もあるにはあるが……。
「ねーねー」
「なんですか生ごみ」
「おこんないでよー、謝ったじゃーん」
「反省してねーなこのクソボケ……」
手を頭の後ろで組んでブーブーと言ってくる生ごみを軽く睨みつける。
「あのさぁ、黒幕か、そうでなくともそれに近い位置に盛岡って理事長がいるんだよね?」
「まあ、状況証拠でしかありませんが」
「だったらさ、人となりを知っといたら?」
「人となり、ですか」
「そうそう。何も知らない相手より、知っている相手の方が組みしやすいよー」
「それは、そうですが……」
自分とて彼について調べようとした。だが、今はあまり知りたくない感情が前に出ている。
どういう理由で彼がこのような事をしたのかは知らないが、既に笑って済ませられる段階を越えてしまっている。最悪は、殺さなければならないかもしれない。
もう、知っている相手を殺すのは嫌だった。
……だが、そんなわがままを言っていられるほど自分は強くない。事が終わった後に後悔が少なくて済むように、出来る限りはしておくべきだ。
「では、今からでも理事長室に行きますか?」
「いや、まずは彼の噂について整理したいなぁ。蒼太君、盛岡理事長は近所の人になんて言われていたの?」
「えっと」
基本的に紳士でいい人と言う評価だったが……。
『イギリスかぶれの嫌味な野郎』
『蛇をはじめ爬虫類にやたら詳しい』
『大昔は蛇こそが地球を支配していたと言っていた』
『一部にて、蛇男と呼ばれている』
あの建設会社で働いていたというお爺さんから聞いた話しを、この場で並べてみる。
「蛇……蛇……『蛇人間』?」
「へびにんげん?」
宇佐美さんの呟きに疑問符を浮べれば、彼女は小さく頷いて返す。
「そう、蛇人間。大昔、地球上で栄華を誇っていた種族だったけど、様々な理由で絶滅寸前までいったとか。強い魔力と高い技術をもつらしいけど、それもほとんど失伝したと聞くわ」
「大昔に栄華を、ですか」
微妙にお爺さんの言っていた事と一致する。
「それに大昔……まさか、ほしいのは『場所』じゃなくって『時間』?」
「え、そんなまさか」
こちらの言葉に、宇佐美さんと九条さんが動揺する。
「なに、タイムマシンかなにか?」
「ありえないわ!そんな事、まともな魔術師ならするはずがない!」
のほほんと言う麻里さんの声を遮るように、宇佐美さんが大声をあげる。九条さんも信じられないと目を見開いていた。
「ですが、ありえなくはないかと」
昔はよかったと言っている老人が、実際に昔へと戻ろうとしているのではないか。確かに突拍子もない話だが、既にここまでの事が起きている。ありえない話ではない。
「待って。けど蛇人間が絶滅寸前にいったのは本当に大昔よ?それこそ『アーサー王伝説』の時代背景よりも更に昔だわ」
「別にそこがゴールではないのかもしれません。ただの足掛かり。とりあえずブリテンの頃まで戻れるか試した後、更に昔へと戻ろうとするのでは?」
「そんなこと、できるわけが……」
「この結界を作っている魔法使いは、どう考えても常軌を逸した実力と倫理観を持っています。常識的に考えていては目的が読めないかもしれません」
「け、けど……」
「宇佐美さんは、そのまま魔法使いとしての常識で考えてください。俺は門外漢として考えた事をぶつけるので、どうにかヒントにしてください。お願いします」
「「門外漢……?」」
あいにく自分は魔法使いと呼べるような者ではない。中途半端に知識を刷り込まれただけの素人だ。
だが、素人の意見が参考になる事もある。
「えっと、よくわからないんだけど、つまり盛岡って理事長が大昔のイギリスにタイムスリップするってこと?」
「いや、たぶん違うと思います」
不思議そうな麻里さんに答える。だが、個人的にはむしろ彼女の言う通りであってほしかった。
けれども、たぶん違う。実際はもっとふざけた話だ。
「彼は自分自身ではなくこの場所をブリテンにしようとしている。となると、土地ごと飛ぶか、もしくは『現代』を『過去』に上書きするか」
「は?上書き?」
「はい。自分で言っていてマジかとも思うのですが、不可能ではないよな、と」
現在も過去も、極端な話をすると同一のものだ。過去があったから今があり、今があるから過去がある。きちんとした学者からしたら『待て待て』と言われるかもしれないが、魔法なんてそんなもんだ。
ゲームで例えると、ハッカーが過去の環境データを今のデータに上書き入力するとでも言えばいいのか?
とにかく、過去と今が同じ物ならばデータは問題なく適合するわけだ。ただし、そこにいる『他のユーザー』……つまり、普通に暮らしている生物たちを除いて。
今も昔も世界は変わらない。だが、住んでいる生物は過去とは違う別個の存在だ。それらまではこの方法だと上書きできない。
じゃあどうなるか。最悪、上書きされないものは全て『バグ』認定されて世界からの排斥が始まるかもしれない。
「え、えっと?」
「凄く大雑把に言うと、この学校の外は全部ブリテンがあった時代に書き換えられたあげく、住んでいる人間が全員『産まれなかった』扱いで死にます」
「やばいじゃん!?」
そう、滅茶苦茶にやばい。
しかも、ワンチャンそれさえも黒幕の狙いかもしれない。
というのも、だ。もしも世界が上書きされた場合、その基点はこことなる。それはつまり、『世界の中心がここ』とも言えるわけだ。
そうなれば、人が産まれていないと世界に認識されて消滅する際の漏れ出たエネルギーが、ここに集められるかもしれない。
その魔力を使って更に過去へいく。あるいは何らかの別の目的を果たす。その可能性が考えられる。
「魔法使いなら、時間への干渉は凄まじくリスキーでも不可能ではないでしょう?」
「そう、なの……?」
あれぇ?
ちょっと自信をもって言ったら、宇佐美さんに梯子を外されてしまった。
いや、だって確かに突拍子のない話に思えるかもしれないが、『できる』し。まあ専門ではないので膨大な予算と時間と環境が必要ではあるが、自分もやれない事はない魔法だ。
だから『おいおい名探偵剣崎きちゃったよ』と思いながらドヤ顔していたのだが、宇佐美さんこと本職に疑問符を浮べられた。
「あ、ごめんなさい。私、そこまで魔術の腕がたつわけじゃないから……」
「え、あー、はい」
なんか微妙な空気になった所で、麻里さんが手を叩く。
「よし。じゃあ理事長の狙いが世界を過去に戻す事だとして……どうすればいいの?」
「……どうしましょうね」
麻里さんと二人して宇佐美さんへと顔を向ける。自分だともうとりあえず『敷地内の物を片っ端から壊して儀式の妨害が出来ないか試す』ことになる。
ちなみに九条さんも宇佐美さんの方を見ている。
「え、私!?」
「だって魔法使いですし……」
「お嬢様ですから」
「私は君の顔が見たくなっただけだけどね!」
とりあえず馬鹿の頭をはたいておく。今シリアスなシーンなんだよ。
「……とにかく、教会に行きましょう。あそこに何かがあるのは確かだもの」
「はい」
まあ、それもそうか。
それにしても、まさかグウィンを探すだけのはずがこんな事になろうとは。いくら何でも予想外だ。事件を解決した先にいてほしいような、いてほしくないような。
……それはそれとして、今の話で自分の中の警戒度を引き上げる。
はっきり言って、ここまでは命の危険がなかった。そう、『自分』にとって。だが、ここから先はわからないと肌で感じる。
棒立ちならともかく、一対一で戦えばアプリ持ちも問題ない。二人同時でも、まあ大丈夫だろう。
だが、これだけの事をやろうとしている魔法使いがその程度のはずがない。そもそも、『円卓創世記』は見立てを成立させるためのツールでしかない。
であれば、他に迎撃機能があってもおかしくないし、第六感覚はここが自分にとっても危険地帯であると告げている。
神経を鋭く尖らせていく。すると、教会側の方から金属音がする事に気づく。それはまるで、誰かが戦闘をしているかのようだった。
「先の方で誰かが戦っています」
「……たしかに。人数は二人から三人かと」
九条さんも確認したようで、麻里さん以外の三人がそれぞれ得物を手にする。
慎重に、できるだけ音をたてずに進んでいくと三つの人影が見えてくる。
だがそれらの動きは常人の目で捉えるのは不可能に近いだろう。一人一人が猛スピードで動き回り、剣がぶつかる度に火花が散っている。
「ランスロット、貴様を討つ!」
「この裏切り者が!」
「阿佐ヶ谷先輩、晴夫……くっ!」
泥まみれの阿佐ヶ谷先輩と、あっちこっちへこみだらけの鎧姿をした晴夫。
そして、それらにひたすら防戦を続ける蒼銀の騎士がいた。
「ランス……!」
読んでいただきありがとうございます。
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Q.彼女コーデ(自称)の剣崎に触れて宇佐美達は大丈夫なの?
A.頑張った。
宇佐美「凄く怖かった」
九条「同じく」
剣崎「ここがエデンだ」




