009 仇敵現る
「ははは、良いじゃあないか、その格好」
いや、笑ってんじゃん…
シエラから名札を受け取って握手したあの後、自分のアバターも仮のやつから正式な格好がマスタードライブによって支給される事になった。
ついにカチカチ山のタヌキから開放される喜びと、もしかしたら凄くかっこいい姿になれるかもしれないと言う淡い期待が自分の心の内に無くは無かった。
で、実際支給されたのはシエラと同じ上下揃いのスーツ。
これはまあ制服的な物だろうし別に問題は無い。
男物であつらえてくれているので自分の事はこれから僕と言うことにしよう。
それはまあ置いといて。
問題なのは全体的なシルエットだった。
タヌキ耳と尻尾。
身長はシエラの半分も無かった。
まるでギャグマンガの住人である。
どうしてこうなった。
「文句があるならマスタードライブに言うがいいさ、私は充分似合っていると思うぞ」
シエラはニヤニヤしながらそう言った。
いや、だから笑ってんじゃん…
ぴんぽーん
「ういーす!」
何でもいいから言い返そうとしたが、唐突な大きなな声によって遮られた。
「W3配属になったビビでーす!
よっろしくぅー!」
突然だったのでぎょっとして、声の方を振り向くと、片手を上げてやってくる女の人がいた。
シエラよりはやや小柄でスーツはラフ目に着こなし、頭にはウサギの耳が付いていた。
軽いノリでシエラに近づきうぇーいとハイタッチしている。
W3配属?
って事は同僚?
状況に追いつけないでいるとビビはこちらを見るや否や勢いよくこちらに迫ってきた。
な、何だ?
「うっわ、まんま私のデザインした通りじゃん! ウケるわマジで!」
両脇をひょいと抱えて僕はビビと同じ目線まで軽々と持ち上げられてしまった。
そして何より聞き捨てならないのが私のデザインと言う言葉。
「お前なのか?
僕をこんな格好にした原因は」
「そそ、私はW3のグラフィックアート担当。
スタッフのアバターもついでに作ったんだよね」
「殺す!」
「凄味感ゼロなんですけど??」
手足をじたばたさせて賢明にもがく僕をけたけたと笑いながら煽ってくるビビ。
身長相応にしか力は無いらしく、いくら振り払おうとしてもこの女の捕らえる手からは逃れられなかった。
無茶苦茶腹立つ!
こんなヤツにいい様にされるなんて!
「ビビ君、そのくらいにしておきたまえ」
シエラに襟首を掴まれ、またもやひょいと身体を持ち上げられられてしまう。
ていうかそんなに軽いのか僕。
怒りも通り越して悲しくなってきた…