006 舞台装置
『説明しよう、イベントオブジェクトとは、見えない装置みたいな物だと思えばいい』
『とにかく実際使ってみたまえ、それが理解するのに一番てっとり早い』
シエラは手に持っていた丸の中に!のマークが入ったボール、イベントオブジェクトをこちらに放って寄越した。
落とさない様に慌てて受け取ろうとしたがその箱は恐ろしく軽かったので危うく取り落としそうになった。
『それを噴水内部、水の供給元と想定される所に埋め込むんだ』
言われるがままそのボールを噴水の中心部に押し付けると、なんの抵抗もなくあっさり石材の内部にめり込んだ。
どうやらこの箱自体に実体は無いらしい。
『よしそれでいい、そしたら埋め込んだ箱に意味を持たせる』
『ボールのオブジェクトメニューからイベントリストを開くんだ』
>イベントリスト
ぽんっ
縦長の予定表の様なものが表示された。
『そこには埋め込んだボールが今から起こす出来事を書き込むんだ』
『一行目に【一回待つ】
ニ行目に[水]を【新規作成】
三行目に[一行目]に【戻る】
と書けばいい』
何となくこれがどういう仕組みか飲み込めてきた、つまりこれは命令が無限にループして延々と水が湧き続ける装置なんだろう。
言われた通り書き込む…が、予想に反して何も起こらなかった。
『ふふ、この世界にはまだ時間が流れていない、再生から実行を選ぶんだ』
>再生
>実行
ぽんっ、じゃばじゃばばば…
おお、ちゃんと水が出てる!
噴水だ、これは立派な噴水だ!
初めて構造物らしいものが出来上がった嬉しさに、思わずガッツポーズしそうになる。
が、それも束の間。
じゃばだばだばだばだば…
うわ、水が下の水溜めから溢れてえらいことになってる!
>再生
>停止
ぽんっ
噴水の周りが水浸しになってしまったので慌てて実行を取り消した。
シエラの方を振り返ってみると、どうかしたのかいタヌキ君?と言わんばかりの笑みを浮かべている。
分かってて何も言わなかったな、畜生。
すぐにこのキツネに対処法を聞くのも少し癪だしここは自分で何とかしたい。
要は無限に湧き出るから溢れてしまうんだから、水を湧かすんじゃなくて循環させる方の仕組みで考えてみよう。
なら、ポンプの代わりをイベントオブジェクトにさせてみるとどうだろうか?
>削除
つつつ、ぽんっ、すこっ
噴水の底の方からイベントオブジェクトのある中心部まで管状の穴を空ける。
>イベントリスト
[水]を[上方向]に【移動】
二行目を書き換えて…
>再生
>実行
ぽんっ