003 地面に立つ
ある地点を起点にして、その点をグッと手のひらで掴みながら離れた場所まで移動してそこを終点として握っていた手を開放する。
すると起点と終点を結ぶ線を対角線にして緑色の長方体が現れる。
>[土]
ぽんっ
範囲指定された緑色部分が、土に置き換わった。
『うむ、慣れて来たようだね、リオ』
手近な長方体の出っ張りに腰掛け、ステッキをくるくるもて遊びながら作業を眺めていたシエラは満足そうに呻く。
そういえば、自分がタヌキになってからシエラは直接音声で話しかけて来るようになった、若干の合成音臭さはあるものの、意識に直接メッセージを送り付けられるよりはだいぶましだ。
「さっきから同じ作業しかやってないからな」
五体を手に入れたので、自分も直接喋れる様になった。
お陰で無闇に考えを読まれる事もなくなった。
そして、さっきからやっている同じ作業というのは、ひたすら土の長方体を連ねて水平に広げて行くというものだった。
最初は何をさせられているかさっぱり分からなかったが、これだけやればいい加減気が付く。
面積にしてまだ100㎡にも満たなかったが、それはこの世界における地面だった。
たったこれだけの事でも、自分がやったんだなと思うと少し嬉しい。
『よし、それじゃあ次は最適化だ』
「最適化?」
シエラは自身が腰掛けている直方体のでっぱりをぽんぽんと叩く
『このままだと直方体の継ぎ目が不自然だろ?』
確かに四角い土の塊がいくつも連なっているだけこの状態はとても自然に見えない。
『一応砂だの礫だの一つ一つ微粒子レベルまで微調整する方法もあるにはあるが、とても効率的とは言えない』
『だからここは最適化の効果を使ってみるといい』
言われるがまま、作り上げた土の地面全てを覆うように範囲指定。
>自動最適化
>地面
ぽんっ
「おお」
思わず感嘆の声が出てしまった。
[土][土][土]と言う感が否めなかったそれが、立派に違和感の無いリアルな地面へと変貌していた。
シエラが腰掛けていた出っ張りもそれっぽい自然な形の岩に変換されている。
『私の強化学習データを持ってすれば容易い事だ』
少し得意そうなのが気に食わなかったので、口を挟む事にした。
「じゃあ、シエラが全部作ればいいじゃん」
『ほう、ではリオ君、君は用無しと言う事で存在を削除されても良いってのかい?』
「いやいやいや、そう言う訳じゃ無いけど!」
ぶんぶんと頭と手を振る。
それが可笑しかったのかシエラは吹き出す様な仕草をした。
『ふふっ、いや失礼、君が面白いので少々からかったまでだ』
『いいかい?あくまで私の仕事はこの世界W3(ワールドワイドワールド)の管理、一方、君の仕事はこの世界の構築』
『故に私は君に助言する事はあっても直接手を出す訳には行かないんだよ』
分かるかね?と言った風にヒゲを触りながらこちらに視線をよこすシエラ。
キツネ姿も相まって少々憎たらしいぞこいつ。
「なら作ってみせるよ、あんたが驚く様な世界」
対抗してキメゼリフを吐いてみたものの、所詮自分の姿はタヌキだったのでいまいち締まらなかった。