011 会議は踊る
「さて、それじゃあ本題に入ろうか」
シエラはホワイトボードに大きく全人類の為の究極娯楽仮想空間コンテンツと書き殴ってばんっとボードを叩く。
「君達にはこれを作って貰う」
「以前から似た用な言葉を何度も聞いてるけど、具体性無さ過ぎて何したらいいかまったく分かんないんだけど?」
僕は率直に聞いた。
「それはこの会議で決める。
諸君、娯楽と言われてまず思い付く事を何でもいいから挙げてみてくれ」
娯楽ねえ…
早速はいはい、と手を挙げるビビ。
「手は挙げなくていい、勝手に口々好きに言ってくれ」
「はい、じゃあ遊園地」
ホワイトボードに遊園地と書き込まれる。
「美味い物を食う、とか?」
これはロッカ。
美食と書き足される。
「史跡探検」
意外と渋い趣味のチキータ。
「ゲーム?」
自分も何か言っておかないとと思ったので、ぱっと浮かんだ言葉を出した。
その後も、カラオケ、映画、ショッピング、温泉、スポーツ、盆栽、海、スマートボールと次々と書き連ねられていく。
ひとしきりそうやっていたが、ふいに皆の視線がネグロに集る。
「ネグロ君、君も何か思い付く事は無いのかい?」
ずっと押し黙っていたネグロを見兼ねてシエラは聞いたが。
「…特に無い」
ぼそっとそう答えただけだった。
シエラはボードに特に無しと書いた。
それも書くのかよ。
「よし、そこそこ出揃ったじゃあないか」
きゅっとマジックの蓋を締めて満足そうに頷くシエラ。
「究極の娯楽を目指すからにはこれらを全て内包した世界に仕上げようじゃないか。
つまり何でも好きな事が出来る世界」
無茶言うな。
「ではチキータ君、全体の世界観やディテールについては君に任せる」
「へ?」
いきなり振られて固まるチキータ。
「他のメンバーはチキータ君の設定を元に世界を構築してくれたまえ。
おっと、そろそろ私はマスタードライブの会合があるので行かなくちゃあならないんだよ」
左腕の袖をめくり手首をちらりと見る素振りをするシエラ。
特に腕時計とかは巻いていなかった。
「という訳で失礼」
ぷつん
言うが早いかシエラの姿がかき消えた。
嘘だろ?おい。
取り残されて呆然とする僕達。
「ふ、ふふふふふふ…」
突然、チキータがうつむきながら肩を揺らして笑い始めた。
怖っ、ていうか大丈夫か?
何か声を掛けるべきか迷っていると、チキータは勢いよく席から立ち上がった。
弾みでパイプ椅子がやかましい音をたてて倒れる。
「何でも出来る世界?何でも?何でもって言ったわよね?本当にやるよ?やってもいいんだよね?ね?どうなっても知らないよ?(#^ω^)」
黒いオーラを放ちながら低く笑うチキータ。
なにやら不味い事態を予感せずにはいられなかった。




