日常と転機
初めての投稿作品。
楽しんで見ていただけると嬉しいです…
ワンダーランド。
おとぎ話によく出てくるこの単語。
確かに、意味は「おとぎ話、おとぎの国」と言うだろう。でも、それを単純な意味で訳すと、「素晴らしい場所、美しい景色」だ。
「あぁ、そんな世界があったらどれだけ幸せなことだろうか」
いつも私が思うことだ。最近、といっても高校生になり始めた頃からで、今は夏休み中。私には、*人間として*欠けているものがあった。それのせいで、中学時代学校では酷い勘違いをされるし、陰で変なあだ名を付けられた。
そもそも、今の私は私ではない。別の誰かに見えない糸で操られているみたいな、そんな気味の悪い感触がする。
なぜなら、私は『笑うことができない』のだから…
第1章 白石 夏紀
1
人間には、必要不可欠なものが幾つも存在する。
例えばコミュ力、信頼性、責任感、そして笑顔など。それらをまとめて、『生きていく力』と思うかもしれない。でも、それら全てを持ち合わせている完璧人間はこの世にいない。そんな尋常じゃない能力を全て持っていたら、この世界では絶対にやっていけないし、退屈してそのまま死んでしまうだろう。そんな人生なんてまっぴらゴメンだ。
そうずっと思い続けて、これまでの15年間生きてきた。
朝8時7分の電車に乗り、憂鬱と毎日勝負する学校へ向かう。夏休み明けの登校は、普段の登校よりも精神的にキツかった。またあのクラスで2学期も過ごすのか。あのクラスメイト達の本当にくだらない話をまた淡々と聞かなきゃなのか。猛烈にイライラしてくる。
クラスではとにかく一人で行動し、一人で考え、一人で生き抜いている。学校生活はもはやサバイバルだ。クラスや学年という集団の中で、いかに自分らしく過ごせられるかが重要だ。人を怒らせたりしないとか、迷惑かけたら一生懸命に謝るとか、殴られたりされないように過ごすとか。本当の自分を隠蔽して、静かに時が過ぎるのを待つだけ。私にとっての学校生活は、そんなものだ。
満員電車を降りると、スーっと、外にある色々な感情が入り交じったような空気を感じる。改札を抜けると、ぎらっと眩しい太陽が顔を出し、すれ違う人達の活気溢れる様子が胸を刺す。一気に帰りたくなった。登校路を歩いていると、ちらほらと同じ学校の生徒が現れ始めた。私の学校は、制服についているネクタイのピンで学年を判断する。私は一年生だから青のピン。二年生は赤で、三年生は緑だ。
登校するときは、いつも決まって淡々と続く景色を眺めながら歩く。もうじき9月なのに容赦なく太陽は照りつけ、体が燃えるように暑い。アスファルトから、真っ赤な炎が上がっているように見えた。数が少なくなってきた木々の道。行き交う個性の塊の人々。私の脳内でそれらが変に融合して、視界が歪む。まだこの時期は熱中症になりやすいから、早く学校へ行こう。自販機に寄って、サイダーでも飲みたい。
2
1年4組。
私の席は、窓側の一番前にあった。
まだ始業式が始まってないのに、クラスは相変わらず騒がしかった。まるでまだ落ち着きを知らない小学生みたいだった。
席に着くと、学校にいるときのルーティーンになっている、あることを行う。
読書だ。
本の世界に一旦引き込まれると、現実を忘れて夢中になれる。周りにある音も動きも、私の視界からはゆっくりとスローモーションになり、やがて薄く白い背景になっていく。私はこの無駄のない一人の時間が好きだ。誰にも邪魔されず、目の前にある物語を、しっかりと自分の目で見て、実際に本の世界にいるかのような臨場感を味わえる。本一つで世界中を巡ることができる。まさに、画期的な旅行だと思う。
最近読み始めた小説を開くと、ふと、しおりを挟んだところに、一つのメモ書きがあった。なんだろうと思って見てみると、そこには今朝書いたであろうお母さんからのメッセージが書かれていた。
「今日の帰りに、できたら夏紀と裕二とお母さんの分の昼ごはんをどこか適当に買ってきてくれると有難い… お母さんより」
私が読んでいる小説にメモを挟むとは。いつも学校に小説を持っていくことを知っているお母さんだからできることだ。あと、少し気になったことだが、今学校に行っているはずなのに、なぜか裕二の分の昼ごはんが追加されている。裕二は私と3つ年が離れている弟で、今年から中学生。小学校、中学校は高校よりも学校がスタートするのが早くて、授業も始まっているんだとか(弟の学校情報)。だから、裕二の中学では授業が始まって、給食が出てるはずなのに、なんで弟の分まで? と思ったのだ。滅多に学校では開かないが、リュックからスマホを取り出して、LINEでお母さんに聞いてみた。
「なんで裕二の分まで昼ごはん買うの?」
数分で返信がきた。仕事の休憩中なのか、それとも合間に返信をしたのだろうか。
「裕二が今日風邪気味だって言ってて、熱もあったから学校は休ませることにしたの。だから今家にいるから、裕二の分もお願い」
「了解」短く私は了承した。帰り少し荷物が多くなるなぁと小さく笑った。
それから、くだらない世間話を少しして、LINEを落としてリュックにしまった。
キーンコーンカーンコーン。
もうすぐ始業式だという合図が鳴った。結局、小説は読まずに終わってしまった。まぁ、これも一つの日常だ、と開き直した。もう一度しおりを挟んで、そのまま机にしまう。私はチャイムが鳴り終わったと同時に席を立った。
*
校長先生の長い話がやっと終わり、今、ようやく教室に戻れた。あの灼熱の体育館に一時間近くいて、尚且つ校長先生の恒例長話。内容は確か、一学期の終業式に言った、勝手に作っていた約束事と、二学期も頑張っていこうみたいな感じだった。はずだ。暑さで頭が廻っていなかったかもしれない。現に、式の途中で二人ほど(同学年ではなかったが)体調不良で先生に訴えていた。
席に着くと、すぐに事前に買っておいたサイダーを開けて、今回は珍しく一気に飲み込んだ。弾ける炭酸が喉の奥まで届き、だんだん痛くなっていく。すると、横からクラスの女子達の笑い声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、いつ湊くんに告白するの?」
「キャー! クラスで言うのやめてよ~ 別の人とか本人に聞かれたらどうするの!」「でも真奈なら大丈夫だよ! いけるいける!」
「ほら、まぁ目立ってない陰キャよりは断然マシでしょ? 真奈は凄いよね~」
よく教室の真ん中でそんな恥ずかしいことを言い合えるなと、冷めた心で思う。あと、さらっと私含む彼氏・彼女いない人達を敵に回したな。そうやってオープンに人を傷つけるのはやめてほしい。私の席から離れて静かに雑談している女子三人組は、そんな彼女達を見て愛想笑いをしていた。おそらく、私と同じ気持ちだけど、今はまだ口にしていないだけだ。あとから三人で言い合ったり、LINEなどで書いたりするんだろう。みんな同じだ。
ああやって人の気持ちを未だに理解できない臆病者は、弱者は黙って見てろとでも言いたいのだろうか。そうだ。ああいう人達は臆病者だ。自分を否定されるのが、ただただ怖いだけなんだ。理解してほしいし、誰でもいいからかまってほしいのだろう。好きにしろと言いたいけど、場所を考えてから言ってほしい。要するに、TPOを守ってくれということだ。
ふと、そう思っていると、昔のことが頭をよぎった。
小学六年生の頃。ある夏の日のことだった。
「なんでお前がここにいるんだよ。とっとと消え失せろよ」
「なに? 自分が被害者とでも言いたいわけ?」
「キャー! 近づかないでよ! アンタのきったない匂いとかが移っちゃうじゃない!」
「お前、キモいんだよ。早くどこか行ってくれる? その方がみんな幸せなんだよ」
…思い出すだけで寒気が走った。
もう思い出さないって決めたはずなのに、ふとした瞬間にフラッシュバックしてしまった。でも、なぜ今自然と思い出したんだろう。多分、昔のクラスメイトと少し似ているところがあったのだろう。明るすぎる人達の声、口調。なにも恐れていないような傲慢な態度。それら全てが昔のクラスメイトとリンクしていた。だから余計、心がチクリと痛んだ。クラスの女子(一部)たちは、やっぱり怖い。同じ女子なのに、なぜこうも生き方が違うのだろう。
すると、ガラガラと、担任の松田先生が入ってきたやいなや、「みんなにニュースがある。早く席に着いてくれ」と、黒縁メガネを押さえながら全体に言った。なんだろう。始業式だから配布物とかが多いのだろうか。それとも夏休みの課題提出?
疑問に思いながら座り直す。と同時に机上にあったサイダーを急いでリュックにしまった。席が一番前だから、危うく先生に注意されるところだった。クラスで目立たないように生きている私にとって、みんなの前で注意されるのは、あまりに最悪だ。
みんなが席を着いたのを確認すると、先生は咳払いを一つして、前をさっと向いた。
「えー、今日からこの4組に新しい仲間ができるぞ」
クラス中がそれを聞いた瞬間、ざわついた。
「えー! マジかよ!」
「誰だろ。男? 女?」
「でもこんな時期に珍しいね。仕事の都合かな」
「男子だったらイケメンがいいなー!」
「もし女子ならすぐに仲良くなって友達になりたい!」
「そいつと仲良くできるといいなぁ」
一人一人それぞれ転校生のイメージを膨らませていた。でも、私も例外ではなかった。どんな人だろう。男子かな。女子かな。どちらでもいい。私なんかと仲良くなっても損しかないと思うし、向こうもゴメンだと思うんだろうなぁ。
一気にマイナス思考になってしまう。いつもの悪い癖だった。私は人間不信レベルで人を信用していない。いや、信じられないのだ。あの日の一件以降、私の体から「笑顔」と「信頼」が消えた。大切な友達と思っていた人から裏切られたことが、一番大きなウェイトをしめていた。
「じゃあ秋風くん、入ってきて」
くん、と言っていたから、すぐに転校生が男子なのは分かった。
入ってきたその人と、一瞬だけ、目が合った気がした。
クラスのみんなの視線が、その男子に集中した。
一言で言えば、すごく整っていた。
さらさらの黒髪で、身長は180近くありそうな大きな体をしていた。目付きもキリッとしたつり目気味で、日焼けも少ししている。まるでサバンナにいる動物でも見ているようだった。
「初めまして。秋風 亜人です。これから宜しくお願いします」
見た目とは違い、礼儀正しく挨拶した。人は見た目だけで判断してはいけないな、と反省した。
それにしても…
「なぁなぁ! 名前すごくね? 亜人って。もはや最強じゃん!」
一人のお調子者男子がはしゃぎたてる。次第に男女関係なく、「確かに」「それってキラキラネーム?」「めっちゃ面白いじゃん」など色々言い始めた。私も実際、キラキラネームかな? と驚いた。
亜人。確かに、どこぞのゲームやアニメでいそうだし、それに呼び方は違えど、名前が亜人なのだからすごい。あと、普通に名前がカッコいいと思った。クラスメイトから散々言われているから、秋風くんはこのクラスのことを嫌いになるだろうと少し思っていた。多分、明日になれば、そんなことを気にしていない素振りを無理やり見せて笑っている。随分と自分勝手な妄想だな、と私は心の中でハッとした。でも、彼は別に気にしてない様子で、「よく言われるよ」と一緒に笑っていた。
「じゃあ、秋風くんはそこの窓側の3番目の席に着いてくれるかな?」
私の2つ後ろの席へと、秋風くんは着席した。途中、「俺、津田 晴彦っていうんだ。宜しくな」と一人の男子が声をかけたり、席が近い人たちが軽い挨拶を交わしていた。
私もあんな風に、人に対して積極的でありたいな、と思ったりした。
いかがでしたでしょうか。
この作品は不定期で投稿していきます(多忙の関係です…すみません。)
また、私自身の自身の無さから、突然削除するかもしれません。皆様の反応次第で続きを投稿するかが決まってきます。こんな私ですが、少しでも応援してくださるとと嬉しいです。