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おもい病

作者: 古寺 卓

 2020年8月13日。

 世は暴発的な、近年でも類をみない世界的流行病の大流行により、自粛を余儀なくされているみたいだけれど、僕は職業柄、自宅作業が多いだけにそこまで不便の無い毎日を、平々凡々、平穏無事に、気の向くままに過ごしていた。

 毎日、朝起きて、仕事の為に机に向かい七時間程度パソコンと対話して、それが終われば、ゲームや漫画、趣味であるプラモデル作りに一日の大半を浪費する。そんな毎日を、もう既に十年近く続けているのだ。否が応でも慣れてしまう。

 他者との会話も今の時代、画面上で大概は済んでしまう。だから、自然と僕は誰とも接する事なく、言うなれば完全鎖国状態でも、何気ない日々を継続し続けることができた。

 そんな、半ば引きこもり状態の僕の姿を見て、学生時代からの付き合いであり、交際中でもある僕の彼女は《ニート》だの、《社会のクズ》だのとよく罵っていたけれど、しかし、2020年の、この情勢、昨今の流行病を前にはその罵倒も、自粛という言葉で簡単に片付いてしまうのだ。本当、引きこもりが世界を救うなんて時代が来るとは思わなかった。

 食品もネットで注文。それか、流行りのデリバリーサービスの利用がほとんど。久しぶりに彼女の手料理や、いわゆる実家の味と言うのも口にしてみたいものだ。

 まあ、しかし、そんなワガママが聞き入れられる程、世間は甘く無いのもまた事実。

 だから僕は静かに、宛ら、カタツムリのように、自宅と言う殻に籠り、冬眠するかのような感情の起伏の少ない生活を続けていたのだけれど、しかし、今日に限っては違った。

 僕は珍しく、憤りと言うのだろうか、静かな悔恨の情を胸の内に溜めていた。

 どうやら、昨日の東京都感染者数は222人らしい。感染のピーク時に比べ、収まりつつあると言えども、やはり、油断ならないのが現実だ。

「やっぱり、今年は無理そうだな……」

 僕はぽつりとそんな事を嘆く。

 本当は、今日、長野にいる彼女の元に行く予定だったのだけれど、現状。県境を跨ぎ、越えての移動は、自身の身へのリスクが大きい。それは、向こうにいる彼女もきっと望まない事だろう。僕は今日、初めて流行病に対して怒りというものを覚えた。

 しかし、どうしようもない事を、どうにかしようなど無理難題、利己主義にも程があると言う話だ。やり場の無い怒りなど、病が大流行してから既に、何万人、何億人もの人々が感じている事。仕方ないで片付けるしか無いのだ。

 だが、そうは思えど、やはり簡単に諦めが付かないのも、また事実である。

 僕は、静かに、寝室横の卓上に飾ってある彼女の写真を手に取ると、まだ温かさ残るベッドの中に潜り、彼女の写真を抱えるようにして横たわる。

 僕は寝る事で、不甲斐無い現実から、やるせないこの思いから、募り続ける悲しみから、少しでも逃れようとしたのだ。睡眠という形での現実逃避。

 そうして、騒がしい感情から、僕がひたすらに逃れようとしていると、ふと、僕の口から、抑えきれなかった感情が言葉として漏れた。

 それは僕からしたら、予想だにしなかった言葉で、そして、本音だった。

「……ごめんなさい、よるさん。今年のお盆はどうやら、そちらの方には、行けそうに無いです。本当にごめんなさい。ごめんなさい……ずっと、一緒にいるって約束したのに、守れなく、て……」

 もう、この世にはいないあの人に向けて僕はただ、謝罪の言葉を口にする。

 その言葉はもう既に、遅いと知っていながらも僕は、それでも謝罪の言葉を口にせざるを得なかった。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 今日だけは、天から降りてきたよるさんも寂しく無いように、少しでも彼女の側にいられるようにと、僕は彼女の写真を強く抱きしめながら、暑く、辛い現実から逃げるようにして、深い眠りの底に、落ちる。

 夢の中だけでも彼女に会えるようにと、そう願いながら。

一日で書き上げた短編小説です。

誤字脱字、重複表現etc...多少の粗があるのはご了承願います。

助言などは、是非是非、今後の参考になりますので言っていただけると、こちらとしても助かります。


貴重なお時間を、自分の短編小説に割いていただき、本当にありがとうございました。

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