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第一話 来訪

※この小説は「俺は苦楽を共にした幼なじみを追放する! そりゃ追放するよ。だってお前に死相が出てるんだもの。他のメンバーも出てるから、どうすっかな。」の後日譚です。

たくさんの方々に読んでいただいたお礼に書いてみました。蛇足だと感じたらゴメンナサイ。

「ブラッドさんは本当によく食べますね」

 

 目の前で無表情のシャーリーが呟く。

 その声を聞きながら、俺は口の中に詰め込んだ食べ物を水で胃に流し込んだ。


「他人が食ってるところを見ててもつまんねえだろ。いいぜ。部屋に戻れよ」

「いいえ、つまらないことはありません」


 辺境伯の屋敷。

 その昼食の食卓には肉やら野菜やらスープが数多くズラリと並んでいる。

 窓からの春の日差しがテーブルクロスに反射する。

「忙しいんだろ。気を使うことはねえ」

「お構いなく」

 シャーリーの前にある皿はずいぶん前に、すべて空だ。それでも彼女は席を立たない。


 このやりとりもいつもの事だ。


 ――まあ、婚約者同士だしな。仲むつまじいところも見せとかなきゃ駄目ってとこか。


 シャーリーは多忙だ。それこそ食事時でないと一緒にいる時間は取れない。


 俺としては会えなくても問題は無いのだが、他人の目がある。

 二人の本当の関係は偽装結婚。

 今はまだ喪に服し、式を挙げていない為に婚約者という間柄だが、辺境伯の屋敷に勤める使用人たちに怪しまれぬよう、それなりに親密を装わなければならない。


 ――悪いがこっちも必死なんだよ。

 俺は食い続けながらそんなことを思う。


 シャーリーと故郷に帰った後、ひたすらに俺がやっていること。

 それは、

 食って、動いて

 食って、動いて

 これの繰り返し。


 理由は単純。

 生き返ったのは良かったが、入れ替わり先の身体が寝たきりだったこともあり、とにかく細かったのだ。

 それこそ最初はベッドから降りて立っているのもやっとなレベル。

 シャーリーからは何もしなくて良い、とは言われたが何も出来ないとは意味が違う。

 なのでここ最近は身体を作り上げることに専念している。


「ふー、食ったぜ」

「そうですか、それでは」

「ごちそうさま」

「ごちそうさま」

 長いテーブルを挟み向かいあって手を合わせる。これもいつもの風景だ。


 しかし、その時。

 なにやら外から怒号に近い大声が響いてきた。

 俺は立ち上がって窓へと近寄る。

「門だな」

 奥側にいたシャーリーも俺の横に立って外の様子を伺っている。

「そうですね」

「俺が行こうか」

「いえ、ブラッドさんはここに居て下さい。一応、対外的には病弱設定なので」

 俺の身体は普通といっていいレベルまで回復したが、シャーリー的にはまだ伏せておきたいらしい。外へ漏らさぬよう屋敷の連中にも口止めしてある。


 シャーリーが食堂から出ようと歩を進めた瞬間、メイドの一人が駆け込んできた。

「シャーリー様、パークと名乗る武装した人間が押し掛けてきております!」

 メイドからその名を聞いた途端、シャーリーの眉根が寄る。


「パークってのは誰なんだ」

 シャーリーは心当たりがあるのか、苛立ちまぎれに答える。

「以前に話した脳筋。父が決めた婚約者です」


 そう言い残してシャーリーは出ていった。


 ――こりゃ面倒なことになりそうだ。




 食堂からは門が見えない。

 俺は二階に上がり、中庭を見下ろせる位置に移動する。

「バラッド殿はどこだ! 我と勝負されたし」

 甲冑を着込み、囲んだ数人の使用人を突破して緑溢れる中庭に男が進んでくる。その男をシャーリーが必死に押し止めながら説得をしている。


 ――うるせえ声だな。


 繰り返される男の主張。

 曰く、

 現婚約者はシャーリーを賭けて元婚約者の自分と勝負せよ。

 だとか。


 ちなみにバラッドは俺の身体の持ち主だった男の名だ。

 奇跡的に似た名前なので、俺も違和感の無さに助かっている。


 ――どうにも埒が開かねえ感じか。


 男は中庭に居座り、先ほどからの主張を繰り返すのみ。

 俺は階段を下りて玄関から出る。

「どうして出てきたんですか」

 俺の姿を確認したシャーリーが、たしなめるように言う。


「アンタがパークか」

「そうだ。貴殿がバラッド殿か」

「ああ」

 俺の答えにパークはあからさまに困惑している。そして、周りを取り囲む当家の使用人たちに小言で本人か確認し始めた。


「なあ、パークさんよ」

「なんだ」

「俺が偽物だったらなんか問題があるのか」

「どういう意味だ」

 俺は挑発する。

「アンタは俺が病弱だと知っていて簡単に倒せそうだからここに来たのか、それとも勇敢に戦って女を取り戻しに来たのかどっちだって聞いてるんだよ」

 俺の問いにパークは一瞬、キョトンとした顔をした後、豪快に笑う。

「ハハハッ、そうか。そういう考え方もあるか。それは失念していた。もちろん、後者だ」


 ――お、意外に物分かりがいいな。


 パークは改まり、持っていた剣を掲げながら言う。

「バラッド殿。我、パークと勝負されたし」

「いいぜ。受けて立つ」


後日譚までお読みいただきありがとうございます。

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