エンジェライト
閲覧は自己責任です。
読了後の色々なモノはどうぞご自身の胸の中に。
水音がした。
僅かな濁りが浮かんだ水はそれでも美しく、水面は何かを受け入れた証に漣が立っていた。
もう一度、水音がした。
先ほどより大きな漣が立ち、濁りが水を色づけていく。
静かになっていく水面に、一人の青年の姿が映る。
泣いて、泣いて、泣き続けたが故に枯れた喉が、それでも悲しみを歌った。
水面が応えるように揺れる。
もう一度、もう一度……絶える事の無い水音と漣。
色づいた水が青年の歌に合わせて踊る。
大好きだった。
大切だった。
愛していた。
手放したくなかった。
離れたくなかった。
愛しい人を思って青年は歌う。
歌っては水に放たれる淡いブルー。
一つ、また一つ……沈む蒼。
徐々に途切れていく歌。
静かになっていく水面。
途絶えた歌。
動かぬ水面。
青年の想いを受けて放たれた蒼はただ静かに溶けていく。
空のような、涙のような、誰かの気持ちのような形と色をした最後の蒼。
それが溶けきる前に、消えきる前に拾い上げたのは、美しい翼を持ったモノ。
愛していたよ
翼を持ったモノはその蒼を胸に抱くと、いつかの青年よりも静かにその瞳から藍を落とした。