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今学期最後の集会。
強い日差しがカーテン越しにも俺の机を明るく照らす。
温まっている机とは裏腹に冷房が利いていて教室はかなり快適な環境にある。
ホワイトボードにはプロジェクターから校長先生の姿が映し出され、その校長先生は長々と夏休みの過ごし方について話している。
「おい……おい、真也ってば!」
ぼーっとしていた俺の背中はボールペンで突かれた。
「なんだよ」
「今日もさ、手伝ってくれないか? 手伝ってほしいイベントがあるんだよ」
「…わりぃ。今日は予定があるんだ」
「そっかー……まぁ、お前ぐらいのレベルになればいろいろあるだろうな」
「悪いな、また手伝ってやるから」
「おう! 助かるよ! 今日は一人でやるとするよ! それよりこれ見てくれよ!」
「またそんなの描いていたのか」
俺の目に飛び込んできたのは日本刀を両手に持ち軍服姿の大柄の男を一刀両断している 一人の男のイラスト。
よくSNSで目にするようなレベルの高いイラストだ。
「すごいだろ!」
「龍太のイラストはいつ見てもすげーよ。このイラストもとてもシャーペン一本で書いたようには見えない」
見えないと言ってはウソになる。が、この長いようで短い校長の話。一学期終了のお知らせの間に描いたとなれば話は違ってくる。
「だろ? でも、本当にすごいのはこの剣士だよなー」
龍太は自分で描いたプリント顔の前でペラペラとしている。
「そうかな……」
俺たちがそんな他愛もない話をしている間に式が終わり担任が話を始めようと教卓の上のノートパソコンをカタカタと音を立てている。
「今、みんなのパソコンに資料を送信したので確認してくれ」
そういうと同時に俺のパソコンに資料が送信されてきた。この夏休みの過ごし方についてだ。
内容はいたって普通のことばかり。ただ、普通でないことも書いてある。
日本という国の政治ついて戦争の話だ。
もちろん核というものは全世界で禁止された。が、国同士や内戦が無くなったというわけではない。むしろ、高校生の俺にも身近になっている。
簡単に言うと、ゲームはやりすぎるなということが書いてある。
「では、楽しいだけの夏休みはせず、目標をもって規則正しい生活を心がけるように。それでは解散」
先生の号令が終わるとクラスのみんなは一気に立ち上がりそれぞれが夏休みやりたいことで盛り上がっている。もちろん、俺と龍太も例外ではないが。
「真也、帰ろうぜ」
「おう」
俺たちはそのまま自分のノートパソコンをバッグに入れ、席を立ち盛り上がっている他の生徒の隙間を抜け扉を出る。
「やっと夏休みだね! 一緒に帰ろ! それにしても龍ちゃんはもっと前髪すっきりさせたほうがいいんじゃない? せっかくの夏なんだし」
隣のクラス、星城高校一年生の高嶺の花であり俺たち昔からの幼馴染の筒井沙紀が迎えに来てくれた。
彼女は入学早々に長く艶やかな髪、水色の澄んだ瞳、女の子にして女性らしいスタイルで、次々と思春期真っただ中の血に飢えた男子学生に告白されてきたのだ。
まあ、堂々と俺たちに関わりに来てくれるところからだれか特定の人物と交際しているということはないのだろうけど。
「余計なお世話だよ!」
龍太は少し大げさに反応をしながらも少し自分の前髪を触って気にしている様子だ。
こんな会話をしながらエスカレーターで一階まで行き、下駄箱で靴を履き替え、校門を出た。
「ところで真也君は帰ったらまたゲームなの?」
「そうだな。ゲーム以外やることもないしやってみると結構楽しいもんだぞ」
「そっか……せっかくの夏休みなんだし外に遊びに行ったらいいのに」
「そういうわけにもいかなんだよ」
「ふーん」
彼女は俺たちが歩いてる数歩先まで早歩きをして一瞬立ち止まった。
そのあとは何事も無かったような顔をしてまた一緒に歩き始めた。




