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トゥルーメモリーズ  作者: 阿呆童子
1/5

序章

知識も経験もないので至らぬ点しかないと思いますが、是非に…!

 夢を見ていた。

 それは幸せを当たり前のように思い込んでしまうほど、小さく些細な幸せ。

 お父さんお母さん、そして私。

 

 「一緒にご飯を食べ」

 「一緒に同じ布団で寝て」

 「一緒の時を過ごす」


 人は誰しもがこれらを当たり前のように享受し、疑問にも思わないのだろう。

 そしていつかは愛する人が出来て両親から「おめでとう!」なんて言葉を貰い、嬉し泣きをするのだろう。


 -そんな普通の幸せを-


 そんな「夢」とも言えない「夢」を見ていた少女はゆっくりと意識を覚醒させる。

 

 

 目が覚めた少女はその紫紺の瞳から流れる大粒の涙に驚いた。

 日常の一コマ。

 そんな普通の幸せを享受できなかった哀れな少女は儚げに微笑む。


 「一人前の人間のつもりなのですかね私は・・・」

 

 そんな自傷とも自己嫌悪とも取れる言葉を零す。

 目覚めの悪い気持ちを引きずりながら部屋を見渡す。


 「ここはどこでしょうか・・・」


 最後の記憶が思い出せない。

 記憶が混濁しているみたいだ・・・


 その部屋は宿の一室程度の広さ。床や壁は石作りで、ベッド、机、椅子と簡素ながら清潔感のある部屋だった。

 

 しかしまったく覚えのない部屋だ。

 いくら考えても思い出せない。


 「考えても埒があきませんね、外に出て人を探してみますか」


 そしてベッドから立ち上がろうとしたその時

 体制を崩しベッドから転がり落ちた。

                    

 「あちゃ~なにやってるんだろ私・・・ただ手をついて立ち上がろうとしただけなのに」

 

 床から立ち上がろうとして少女はそれに気づく。

 

 あるはずのものがないのだ。

 左腕が。


 

 「?!」

 

 どういうこと?!どうして?!意味がわからない!


 自問自答、自分の体が欠けている問は自分ではわからず困惑するしかできない少女。

 痛みはない、だいぶ前に失っているということのはず。

 そのうえでベッドで寝ていた?

 腕がちぎれてなお完治するまでの間ずっと寝ていた・・・?

 ダメだ思い出せない。

 他にも体に異常があるかもしれない、調べてみよう。

 服を脱ぎ白い柔肌が露わになるのも気にせず体を調べた。

 「何・・・これ・・・?」

 それは右脇腹に真っ黒い、傷跡と呼んでいいのかもわからないような跡があった。

 傷跡というよりそれは(呪い)と表現したほうがしっくりくるほど異様な代物だった。

 それを見た瞬間、頭をよぎった。

 


 「思い・・・だした・・・!」


 少女はなぜ左腕がなくなっているのか

 少女はなぜ見知らぬベッドの上で寝ていたのか。

 すべてを思い出した


 思い出し

-歓喜に見舞われた-


 これほどまでに生きてきて嬉しいことがあるだろうか!否だ!

 もう一本腕が残っていたら誰かに飛びついてこの歓喜を共有したい!

 嬉しい!嬉しい!嬉しすぎる!


 弱冠17歳の少女は年相応の笑みを輝かせ、心底喜んだ。

 その喜びはすぐに豹変することになったが・・・


 「元気そうで何よりです。」


 ん?

 ドアに顔を向ける。

 んんん?

 見られた?

 下着姿を・・・?

 歓喜に打ち震えてよくわからない動きをしていた今の私を・・・?

 

 「あ、あの~・・・いつからそこに・・・?」

 「これほどまでに嬉しいことがあるだろうか!のあたりから」


 最初から見られてたあああああ!!

 というか声にも出てたああああ!!

 恥ずかしいいいいいいいいいい!!


 三秒前の歓喜はどこへやら。

 今や羞恥の感情しか湧いてこない。

 私は感情をすり替える錬金術なんて使えたかな・・・

 なんて意味不明なことを想いながら口を開く。


 「あの、見なかったことにしてください」

 

 顔を真っ赤にしながらなるだけ冷静を装い放った言葉。

 しかし悪手だった。


 「とても可愛らしかったですヨ?」

 「勘弁してくださああああああああい!」


 トドメの一言で片方しかない手で顔を覆う少女



 少女は極東の小さな島国出身だった。

 海に囲まれ、自然が豊かで人々は温かかった。

 

 そんな国に産まれた少女は異様だった。

 

 海に囲まれ他国との交流のないその国は黒髪黒目の人種が大半を占めている。

 しかし少女は違った。

 産まれた時からその容姿は、蒼白の髪を生やし、紫紺の瞳をしていた。


 産まれてすぐ、その姿をした自分の子を見て両親が放った第一声が「化物」である。

 

 その島国は異物を好まない。


 一般的な枠組みからはみ出ているもの、そういったものを受け入れられない。

 そんな人種だった。いわば「お国柄である」


 生後三日で両親には見放され、せめてもの情けで孤児院の門の前に捨てられていたらしい。

 言葉を話せる年齢になっても何も変わらなかった。

 その蒼白の髪、紫紺の瞳、その国では到底あり得ない容姿をしていた少女は孤児院の子供たちにひどい迫害を受けていた。


 外に出れば歳の近い大勢から煮え湯を浴びせられる。

 部屋にいても石を投げられ遠くから暴言を吐かれる。

 こちらが怪我をするとかそんな配慮は一切ない、そのまま死んでくれればいっそ楽なのにと言わんばかりだ。

 うんざりだ、なんのために生きているのか。

 日々それしか考えられなかった。

 部屋から出るのもお手洗いと食事を取りに行くときだけになっていった。


 しかし唯一そんな少女を「一人の人間」として見てくれる先生がいた。

 

 その女性は(べに)先生という。黒い髪を腰まで伸ばし、身長はおよそ170前後の綺麗な女性だった。

 紅先生はいつも一人の名もなき私に積極的に話しかけてくれた。


 「君、お名前は?」

 「わからないです・・・」

 「ご両親につけてもらわなかったの?」

 「親は・・・いると思いますがいません・・・」


 地雷を踏んでしまった・・・

 そんな表情の紅先生。

 しかしほとんどを察してくれたのか、温かな口調で話をしてくれた。


 「先生は・・・私が気持ち悪くないの?」

 「どうして?こーんな綺麗な髪を先生は見たこと無いよ、透き通って煌びやかで、なんで皆が受け入れないのか不思議でしょうがないわ」


 その一言で少女は救われた気がした。

 今まで生きてきて浴びせられた言葉はすべて「きもちわるい」「化物め」「疫病神が!」だいたいこんな感じだった。

 世辞でもうれしかった。


 「本当にお名前ないの?」

 「ありません・・・しいて言えば化物と疫病神です・・・」

 「もう・・・」

 

 呆れる紅先生を傍らに素直になれない少女。

 

 「誰かに出ていくように話してこいとか言われたのですか・・・?それでしたら私は素直に出ていきます。」

 

 およそ物心ついた子供とは思えないほど卓越した、流暢に話す少女を見て紅先生はひどく心が痛む


 ―この年でどれだけ辛い思いをしてきたのだろうか―


 「ううん、私が君とお話したくてこうしてきたのよ、私はみんなが言うようにあなたのことを化物だとか思ったりしていないのよ、お友達になりましょ?」

 「ほんとうに・・・?」

 「ええ、本当よ?」


 それから少女が紅先生に懐くのは早かった。


 「やっぱり名前がないのは不便ねえ・・・」

 「名前なんてなんでもいいよ、そんなのなくてもこの髪がある限りすぐにわかるでしょ?」

 「わかってないわね、名前っていうのはいろいろな意味が込められてつけられるものなのよ?」

 「ふーん、じゃあ何でもいいです、紅先生つけてください」

 「ざっくばらんな子ね・・・」

 

 そうねー・・・と悩む先生

 それをなんだかんだ言いながら期待したまなざしを向ける少女。

 

 「そうだ(奏)なんてどうかしら!」

 「なんて読むの・・・?」

 「かなでよ」

 「こんな小さいころから人の何倍以上の苦労や不幸を背負ってしまったのだから、これからの人生はいろいろなことを想いそれを自分の意志で(奏)て生きていってほしい、そう思ったの。だから、奏。」

 「かなで・・・私はそれでいいと思います!」


 内心喜んでいるのが丸わかりな表情だった。

 

 「名は決まったけど性が・・・う~む・・・」

 「それはいいんです。私はただの奏です。私には(産んだ親)は居ても(育ててくれた親)はいないので性はいりません。奏でいいです。」

 

 それを聞いた紅先生は自分の意志がはっきりしている子、自分の立場や境遇がわかる子、などではなく哀れで可哀そうな子、という気持ちでいっぱいになった。


 「でも喜んでくれたみたいで先生は嬉しいわ」

 「よ、よろこんでなんていないです、固有名称がついても私は何も変わりませんので・・・」

 

 ん~かわいいなー!

 紅先生の笑みを見て少し不思議そうにする奏であった。


 孤児院での子供たちや、紅先生以外からの先生から受ける扱いは一切変わりはなかったが、たった一人信用できる人がいるだけで毎日が激変した。


 「紅先生!この本読めない文字がたくさんあったので教えてください!」

 「はいはーい、一緒に勉強しながら読みましょうか」

 「紅先生!お裁縫の玉留めどうするのー?」

 「怪我しちゃうと危ないし一緒にやろうね~」

 「紅先生!この本なんでか女の人がたくさん出てきてみんな服を脱ぐんですけどどうしてです_」

 「やめなさい、この本を読むのだけはやめなさい。」


 奏は毎日が楽しくてしょうがなくなっていた。

 紅先生たった一人のおかげで。

 産まれて初めて私にひどいことをしたり、言ったりしない人と会ったのだ、それで頼りにするな懐くなというのは無理な話だ

 紅先生も自分に甘えてくれる娘が出来たような感覚に毎日張り合いを見出していた。


 「ねえ、先生。私なんかと一緒にいたら他の人に煙たがられたりしない?」

 「煙たがられる・・・そんな言葉どこで覚えたのよ・・・」

 

 呆れ半分、うれしさ半分の面持ちで先生は答える


 「私はね、実は前に娘がいたの、実の子よ。」

 「・・・。」

 「でも生まれつきひどく体が弱くて死んじゃったのよ」

 「可哀そう・・・」

 「そう思ってくれる?ありがと」

 「奏みたいに私にたくさん甘えてくる子だったわ。あ、別に奏は娘の代わりってわけじゃないからね。

 「私は、代わりでも全然いいよ?」

 

 紅先生、盛大に悶える。

 -何この子めっちゃかわいい!-

 違うそうじゃない・・・


 「よく似てるのよ、娘に。内気で大人しくて素直になれない、そんな奏のことが。最初は可哀そうだと思ったというのもあるけれど接するうちにいい子でとても可愛らしい子だって気づいた。そんなところも娘に似ているの」

 「だからどうしても無視はできくて・・・」

 「先生は、やさしいんだね」

 「?!」

 「私は先生の娘さんの代理役でも全然かまわない、それだけ私は先生のこと、その・・・大好きだよ?」


 紅先生盛大に吹き出す(鼻血を)


 「でもそうね、やっぱり奏はもう私の中では娘みたいなものだわ、私の命と引き換えに奏を守れるなら、私は何の迷うもなくこの身をささげられるわ、それほど大事よ」


 布団の中、お互い向き合いながら紅先生は奏の蒼白の髪を手櫛しながら抱き寄せる。


 「先生、だいすき・・・」

 

 これアカン!アカンやつや!

 体を張って守るなんてことは当たり前だそうだあいむびりーぶ・・・


 「大丈夫?先生?」


 「今日はもう寝なさい、先生も一緒に寝てあげるから。」

 「うん!」


 なんでこんな素直な子が不幸な目に合わないといけないのだろうかと世の中の不条理に腹を立てる紅先生である。


 頭を撫でながらその寝顔を見て実の娘と重ねる。

 そして紅先生の意識も暗転していった。


 「んん・・・騒がしいなあ・・・」


 奏が寝たら自室に戻る予定が一緒に寝ちゃったのか・・・

 奏はいまだぐっすりだ。

 それにしてもやけに騒がしい。一体なんなのだろうか・・・


 バタンッ!

 唐突に開けられる扉の音で二人は目を覚ます。


 「お、メス2匹はっけ~ん♪」

  

 それは醜い肥え太った人とも見わけがつかない生物だった。

 

 顔は豚なのに体は人間・・・?!

 わけがわからない!


 「おいお前ら、大人しく餌になるってんなら苦しまずに逝かせてやるよフヒヒ♪」

 「何?!どういうこと?!」

 「お前ら人間は、魔族の餌ってことだよフヒヒ♪」

 

 詳しいことはわからない、ただこいつは私達を殺す気だッ


 一方奏はよく状況を理解できていなかった。

 何かのサプライズ?また私のこといじめに来たのかな・・・?

 そんなことを朧げに考えていた。


 「奏、いい?窓から出て逃げなさい!」

 「どーいうこと・・・?」

 「おいおい、敵を目の前にして堂々と相談かい?以外と強気なメスだなあ~」


 逃げる?敵?よくわからない・・・


 「早く逃げなさい!殺されるわよ!」

 殺される?どうして・・・?でも先生凄く必死な顔してる・・・

 「え・・・?じゃあ先生も一緒にいこ・・・?」

 「私は大丈夫だから早く逃げて!」

 「え、あ・・・わ、わかった」

 

 理解が追い付かないまま窓から飛び出し駆け出す。

 

 「一匹も逃がさねえぞ~♪」

 「私はどうなってもいい!あの子だけは殺させない!」

 

 紅先生は近くにあった椅子や花瓶を投げつける。

 非力な人間の女性の抵抗なんてたかが知れている。

 

 

 「大丈夫だよね・・・?きっと先生も無事に逃げてるよね・・・?」

 

 どうしても心配になった奏は恐る恐る孤児院に戻ってきた

 そして絶句した。

 血まみれになっている紅先生の姿を見て。

 そしてその隣にいた異形の化け物に煮えたぎるような怒りが沸き上がるのと同時、奏の宿していた力が解放され、そこで奏の意識は暗転した。


 

 

 


 

 

 

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