幕間・灼眼ノ鬼
“魔物”はその発生方法から大きく2つに分かれる。
1つは、全ての元凶“龍”が生み出した、神話から都市伝説、果てはゲームやマンガなどにも登場する化け物ども。真紅の瞳が特徴の、かつて空想上の生き物とされてきた奴らだ。
そしてもう1つは、そんな化け物との生存競争に打ち勝つべく急速に進化した、凶悪な動物達である。
後者の代表格が“虎猫”だ。
虎猫と言っても、“虎のような毛並みの猫”では断じてない。
虎と同等の体躯、虎をも凌ぐ身体能力、虎並みに発達した大きく鋭い牙、虎がごとき獰猛さ-そして、虎にはない、十数匹単位の群れをなす習性。
無論、神話に語られるような理解の埒外にある怪物には遠く及ぶまい。されど、人間にとってはより身近な存在故に、それらより遥かに脅威だ。
普段はゴブリンなどを狩って暮らす彼らが、今宵の食事に選んだのは、人間の少女。いや、群の規模を考えれば到底腹を満たせはしないだろう。せいぜい、おやつと言ったところか。
「来ないで!やめて…!嫌…嫌……!」
見た目の割に逃げ足が速く、少々手こずったが…食前の運動にはちょうどいい。
右に左に、ちょこまかと逃げる姿が狩猟本能を刺激する。
「え…」
そして、遂に追い詰めた。少女の前には絶望的なまでに高い壁。追いかけっこは終わりだ。虎猫達は残忍な笑みを浮かべる。
「嫌…助けて……!」
哀れな少女は命乞いを始めた。
しかし、優秀なハンター達が獲物の泣き声に耳を貸すことなどあり得ない。
-獲物の喉笛まであと5秒…3、2、1…
「まったく、なんだってこんな時間にガキが出歩いてやがるんだ?」
そんな時、声と共に現れたのは、漆黒のマントに身を包んだ男。
「まあいいか。見て見ぬふりは俺の流儀に反するからな」
喉を咬み切ろうと飛び掛かった虎猫は、ただの生温かい物体に成り下がっていた。
「あー、でも、この数は本当に面倒くさいな」
虎猫達は、すぐに逃げ出せばよかった。
否、いつもの奴らなら生存本能に従って一目散に逃げていただろう。
それなのに…
「纏めてかかってこい。その方が手間が省ける」
何かに憑かれたかの様に飛び掛かる虎猫達。
待っているのは、ただ“死”の運命のみ。
「…ふん」
マントがはためく。
虎猫達が宙を舞う。
「…さて、お前はさっさと帰りな。夜は人の出歩く時間じゃない」
積み上がる虎猫だったモノ。
「あのっ、あり…が……と………」
「見るな。礼も要らん。さっさと失せろ」
少女は言葉を失う。
見てしまったのだ。
男の瞳が赤く紅く朱く輝いているのを…。