純白の変人
鈴を連れて隣の一軒家に向かう。
学園都市サイバレーのスラムに位置するにも関わらず妙に小綺麗なのは、ここに住む黒鷺家の者が敬意を払われていることを表している。
と言っても、もちろんイサゴ兄が尊敬されているわけではない。その妹のツクモ姉-黒鷺白がいるからだ。
ツクモ姉は、イサゴ兄と異なり真っ当な人物だ。俺らが通うサイバレー討法学園の医師であり、その腕前は世界屈指と言われているらしい。彼女が独自に開発した薬の数々は、まるで魔法のようにたちどころに傷を癒す。
しかも、仕事が終わったあとも自宅で来訪者をタダ同然の対価で診察している。我が保護者ながら立派な人物だと思う。
「ツクモお姉ちゃーん!遊びに来たよ!」
「おー、よく来たね!ちょっと待っててね…よし、今日は1日安静にしていてくださいね。お大事にー」
「また家でも診断してたのかよ…ちょっとは休めって」
「良いの良いの!半ば趣味みたいなもんなんだから」
…とまあ、この通り似ても似つかない2人なんだが、彼女は間違いなくイサゴ兄の妹だ。一目でわかる。
「その格好も趣味?」
「何言ってんのよ、こんなに衛生的な格好無いでしょ?」
「「いやいやいやいや」」
常時頭からシーツを被った変人なんて、イサゴ兄の妹以外無いだろう。
端的に言えば、出来の悪い幽霊の仮装。
160cmくらいの体を純白のベッドシーツですっぽりと覆い、中の人の姿を窺い知ることは出来ない。
裾は常に引き摺っていて足も見えないし(よく転ばないものだ)、傷を縫うときも薬を調合するときもシーツ越しで手も見せない(にも関わらずどんなに精密な作業もこなすのだから恐れ入る)。
顔の辺りには2つの覗き穴があるが、その穴も小さすぎて中など見えやしない。その為、素顔はイサゴ兄同様一度も見たことがない。瞳の色は黒いから魔物では無いのだろうが…
「さてと、それじゃバーベキューを始め…あれ?兄貴は?」
「そんな変態知らないもん!」
「イサゴ兄ならその辺に捨てておいたよ」
「…いつも通りのことがあったのね」
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イサゴ兄(傷はツクモ姉の秘術で元通り)も交え、バーベキューを楽しむ。
決していい肉ではないが、焼き加減塩加減共に絶妙で、中々に美味だった。
家族団欒もたまにはいいものだ…変な奴ばっかりだけどな。
イサゴ兄が鈴にちょっかいを出す→鈴が成敗する→ツクモ姉が治療する→イサゴ兄が(略)の無限ループを眺めながら、食材のほとんどを食べ尽くしてやった。鈴には後で文句を言われたが…まあ、普段ワガママなんだから、たまには我慢も覚えとけっての。