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スプリングエラー -Spring error-  作者: is a donut.
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-秘密のプレゼント-

日本を飛び立った松傘一向、何事もないフライトに思えたが、既にゲームは開始されていたのだった。

スプリングエラー-spring error-no.5



-秘密のプレゼント-



松の原から一番近くの空港は、火のひのみや空港になる。約五時間ほど掛かる道のりは、珍しい事に磨蛇がほとんど話しをしなかった。彼なりに気を使ってくれたのだろうか。

その少ない会話の一つで、こんな事を言った。

磨蛇「あんたの身内って、あの娘だけ?」


秋月「そうだよ」


磨蛇「ふーん、、なら、、、、なぁ、、」

ボソッと呟いた為、「えっ?」と聞き返したが、磨蛇はそれ以上反応しなかった。

気にはなったが、秋月も月子の事で気持ちが悲観していたので追及はしなかった。


お互いに黙っていると、やけに周りの音が大きく耳に入ってくる。

段々と車の走る一定の音がまるで催眠術か睡眠を促す曲の様に、秋月の思考をゆっくりと落としていった。


気が付いたのは、飛行機の離陸する轟音だった。はっと目を覚ますと、車は火の宮空港の敷地内を走っていた。秋月は

秋月「悪い、寝てた」

と運転する磨蛇を気遣った。

また、轟音が響く。

秋月「しかし、飛行機は凄い音だな」

磨蛇が答える。

磨蛇「いやいや、飛行機だけど戦闘機」

そう言って窓の外を、親指で指した。

磨蛇「隣が火の宮駐屯地、航空自衛隊あるんだよ」

秋月が指差す方を見ると、まさに三機目が離陸しようと、滑走路を一気に加速する。ゴゴゴゴと地響きが陸上で鳴り響く。凄まじい音とともに、矢の様に空へ鉄の鳥が伸びて行った。

直ぐに機体は米粒ほどの大きさになり、見えなくなった。

秋月「凄いな」

思わず言葉が出る。磨蛇は

磨蛇「ちょっとは回復した?あんた弱ってると、この先苦労するかもだからさ、さっさと切り替えてくれよ」

期待されてるのか、ただ生意気なのか

秋月は

秋月「わかってる」

と短く答え、続けて

秋月「蓮太郎でいい」

と呼び方を指定した。磨蛇にあんたと言われると何だか腹立たしかったのだ。磨蛇は特に悪気があったわけではなく、

磨蛇「あぁ了解、俺ケンタね」

と名乗った。秋月は生意気な奴だと思っていたが、少し打ち解けられた様な気がした。

大きくBと書かれたゲートを潜る。


駐車券を取り中に入ると、数台のベンツが隅にかたまっていた。松傘組の人達だ。何人か人影も見える。その周りは、ベンツを囲む様に車一台分のスペースが出来ていた。

どうやら、一般の方々は避けて止めている様だ。ベンツの群れにベンツが引き寄せられていく。一箇所にクワガタが集まっていくみたいに。

磨蛇がチカチカとライトを点滅させる。外にいた一人が手を振り、ここに止めろと誘導した。

シルエットからして梧桐だ。ようやく空港に到着した。車を降りると梧桐が寄ってきて、

梧桐「磨蛇、蓮太郎、長旅ご苦労じゃったな。大丈夫か?」

と直ぐに秋月を心配する。

秋月は

秋月「ありがとうございます。きちんと話ししてきました。大丈夫です」

と頭を下げる。バシッと背中を叩き

梧桐「本当はわしが一緒に行きたかったんじゃが磨蛇が止めよったんじゃ自分が行くってきかんくてな」

と裏話を聞かせた。

秋月はもし、梧桐が来てたら号泣に次ぐ号泣で病院を出るに出れなかっただろう、出たとしても運転が大変な事になっていただろうと想像し、磨蛇の起点に感謝した。

梧桐「月子に別れを言いたかったんじゃがな」

根は本当にいい人なんだなと、秋月は梧桐にも感謝した。

秋月「帰った時、また来てください。月子喜びますから。」

とお願いした。梧桐は嬉しそうに、にかっと笑って、また背中を叩いた。


そこに齋藤が、数名でこちらへ戻ってきた。黄色い大きなシートを抱えてきた。

齋藤「着いたか、きて早々悪いがこれ車にかけてくれ。」

と磨蛇と秋月に渡す、大きさの割にズシリと重いシートの束を、二人で広げる。車一台すっぽりと覆える大きさと形だ。隅には紐を通す穴がありそこを結ぶと車を綺麗に包み込める、専用シートの様だ。シートの真ん中には火の宮空港の文字が大きく白で書かれていた。


秋月は

秋月「何だろうなこれ」

と磨蛇に聞く

磨蛇「さぁ」

会話が終わる。梧桐達も他のベンツに次々とかけていく。あっという間に黄色一色になった。そこへ火の宮空港駐車係と書かれた腕章をつけた鮮やかな緑のネオンカラーのスタッフジャンパーを着た人達がコーンで車を囲った。

齋藤は

齋藤「では、契約通りに宜しくお願いします。」

と、車の鍵をまとめた小さな金庫を渡した。

駐車係「はい、しっかり管理させていただきます。」

と中年のスタッフがぺこぺこと頭を下げた。車を預かってもらう様に話をつけたらしい。

齋藤は

齋藤「よし、じゃあ行くぞ」

と指示を出した。秋月がきょろきょろと松傘を探すがその姿は無い。齋藤に駆け寄り

秋月「車預かってもらえたんですね。空港ってそんなこともできるの知らなかったです。」

と意外に知られていない裏技を知った気分になった。齋藤は

齋藤「いや、そんなサービスないよ。ただ金を積んだだけ」

と秋月のちょっとした高揚感をさらっと払い除けた。何か裏取引を見た気分になり、話を変える。

秋月「えっと、松傘さんは?」

と聞く

齋藤「親父は東城さんとラウンジにいるよ。チケット、ファーストクラスだったみたいだね。なんだか、最後の晩餐をさせられてる気分だよ」

と苦々しく表情で自分の力の無さを実感していた。

秋月「結局、俺たちはどこへ行くんですか?」

謎が多すぎる事態に、勢いでバタバタと話が進んでしまっていた為、空港からどこへ行くのか秋月は聞くことを忘れていた。

月子にも日本から出ることしか言っていなかったことに気がつくが、それは逆に良かったなと胸をなでおろす。月子なら後を追ってきかねないと思ったからだ。

齋藤が答える。

齋藤「スコーチ共和国だよ、知ってるかな?人口3000人位の小さな国でね、観光地化されていないから、あまり聞き覚えないかな。」

と困った様に笑う。残念ながら、秋月の知識の中には存在しない情報だった。遊びではないとはいえ、初めての海外が聞いたこともない土地で不安が少しずつ秋月の足元から登り始める。

齋藤が続ける。

齋藤「僕なりに調べたんだけどね、小さい国ながらに以外に情報操作がしっかりしていてね。どの記事も同じ様なことしか書かれていないんだ。日本からは、カナダで、一度乗り換えで行けるらしいよ。トータル十五時間のフライトだね。名産はコナックって言う、伝統衣装、、こんな事調べても仕方がないんだけどね」

とても辛そうに呟いた。

秋月はお礼を言って、一歩下がりラウンジに向かった。


カナダ航空のラウンジに入る。ワインレッドと白を基調とした、シンプルだが豪華な空間があった。迎えの壁は全面ガラス窓になっていて、2メートルほどの高さがある。そこから、飛行機の離着陸が見られるようだ。中は一人ひとりが足を伸ばしてゆったりと座れる大きめのソファが綺麗に並んでいて、商社マンらしい人たちが寛ぎながら、パソコンを叩いている。

そんな中で、人だかりが出来ている場所があった。バーカウンターの横にある大きなカウチソファで何かやっているようだ。

その人集りが歓声をあげるとその中から、はっはっはっと聞き覚えのある笑い声が突き抜けるように聞こえてくる。

どうやら、あの中心に松傘姫一が居るようだ。齋藤は振り返り、

齋藤「離陸は今から、1時間後だ。それまではこのラウンジで好きに過ごしてくれ。もちろん、親父からは目を離すな。ここを出て単独で行動することも駄目だ。後、酒は程々に。特に磨蛇、梧桐さん気をつけて。以上、解散。」

そう注意事項と二人に釘を刺し、齋藤は松傘のいる人集り隣のカウンターへ腰を下ろした。

それぞれがラウンジ内に散らばる。

梧桐と磨蛇はすぐにバーへ向かう。いかにもお祭り好きそうな二人は人集りと酒のある方へ吸い込まれていく。


磨蛇「お兄さん俺にバーボン瓶ごとちょうだい」

と早速ルールを無視する。

齋藤「おい!俺の話聞いてたのか!」

とすかさず止めるが、

磨蛇「大丈夫っすよー俺と梧桐さんくらいになると、このくらいウォーミングアップっすから。ねっ梧桐さん」

梧桐「おう!齋藤、心配するな。わしがしっかり目ぇ光らしとくからのぅ!」

と言いながら既に両手に酒の瓶を持っていた。

齋藤はいや、だからと身を乗り出す。早くも言い争いが始まった。


善吉も梧桐の後を追う。

坂井はすぐ近くのソファに靴を脱ぎ足を伸ばして、脇にあるラックから雑誌を取り読み始める。

東海林は窓際の一番隅のソファに腰掛けじっと滑走路を見つめていた。


秋月も人集りの盛り上がりが気になり、足を向ける。

おお!とまた歓声が上がる。あっはっはと松傘の笑い声。梧桐と磨蛇も既に一緒に騒ぎ始めた。

覗き込むと、松傘が絨毯の上に座り込み、東洋系の外国人と向かい合う形で花札をさしていた。

松傘の後ろには東城が正座して、後ろを守るように囲っていた。松傘と対戦相手の間には、互いにさしあった花札とその横には、日本紙幣と海外紙幣が数枚積み上がっていた。硬貨もパラパラ散らばっている。

賭け花札をしているのだ。

松傘「よーし!わしはこいこいじゃ」

パチンと札を叩きつけて、

松傘「さぁどうくる?Mr.ロバート」

そう言ってにかっと笑う。

相手の男は、ロバート.アルベスク。42歳でカナダ国立大学の教授をしている。くしゃくしゃの小麦色の癖っ毛とヨレヨレの赤いチェックのシャツがトレードマークだそうだ。手を顎にやり、ずれ落ちてくる大きな丸いレンズの眼鏡を手の甲で元に戻しては、また顎に手をやり真剣に考えている。


ロバート「OK、Mr.姫一!私もこいこいデス。その勝負受けて立ちましょう」

区切るところが気にはなるが、きちんとした日本語を話している。さすが大学教授だ。

賭けは見る限り少し松傘が儲ているように見える。

松傘「その心意気や良し!」

そう言って山札から一枚シュッと手元に取る。口の端をキリッと上げ、

松傘「あっはっは五光じゃ!どうじゃロバート!あっはっは」

周りで歓声が湧く。拍手する者や口笛を吹く者がわぁっと一斉に喜び出す。この一角だけ大宴会でもやっているようだ。

松傘が中央にあった二種類の紙幣を杖で引き寄せる。

ロバートは頭に手を当て残念そうに手元から消える紙幣の束を見つめた。

松傘はやめる気がないのか、

松傘「ヘイ!Mr.ロバート、どうする?まだやるかい?」

と顔をくしゃくしゃにして笑顔で問いかける。ロバートは両掌を松傘に差し出すようにして、

ロバート「これ以上、負けると妻と娘にお土産が買えません。この位にしておきましょう」

困ったように笑って、左手を伸ばし握手を求めた。

松傘は紙幣の山を鷲掴みした。そのまま、ロバートの手に、握手する形で両手で包み込むように握らせた。

驚きと、困惑の表情を見せるロバートに、

松傘「わしの遊びに付き合ってくれた、礼じゃ。また、遊ぼうや」


そう言って、立ち上がりあっはっはと大笑いしながらその場を立ち去った。


東城が残った金を集め整える。それを封筒に入れて鞄にしまう。

そして、ロバートに頭を下げ松傘の後を追った。

粋な計らいに、周りの見物人は拍手喝采を松傘の背中に贈った。


ロバートも貰った金を握り、

ロバート「君には最高の勝負師だ姫一!」

と称賛した。

これでひと段落とはいかないようだ。

その歓声の中心に梧桐が入っていく。

そして、ロバートの前まで来るとドスンと腰を下ろす。

財布を取り出し数枚の紙幣を目の前に置く。腕まくりをして、肘を床につけた。木の幹のような太い筋が束になった和柄の腕が床から生える。

梧桐「さぁて、お次はこれで勝負じゃ!」

アームレスリング大会の始まりだ。

見ていた観客の中から、こちらも巨木の様な大男が数人名乗りを上げた。彼等は同じアウターを着ており、背中には「Dragon aging」とロゴがあった。海外のプロレスラーチームだ。


ロバートは席を譲る様にして後ろへ下がり、観客へと変わる。

梧桐はで出来た挑戦者を前にして、ガハハハと満足そうに笑い、

梧桐「強そうじゃのう、よぉし誰からでもええぞ」

と手をぐう、ぱぁとゆっくりと動かし、ギジリと拳を軋ませる。相手を待つその構えた腕は、敵を前にした古竜の如く堂々と、異様な威圧を噴き出していた。

日本人だとバカにしながら出てきた男達も顔つきが変わった。


秋月は松傘に改めての御礼と、月子への別れが済んだことの報告をしようと、後を追った。


後ろから、磨蛇の仕切りが聞こえてくる。

磨蛇「さぁさぁ、良いすかぁ?二人とも力抜いて〜、ready?GO!!」

ワァッと歓声が秋月の背中を押して、追い抜いていった。第2ラウンドの開始だ。


松傘はラウンジのバイキングブースで、ムール貝の酒蒸しと白ワインをテーブルに並べて無料のサービスを楽しんでいた。

向かい合う形で、東城が座っている。


秋月が近くまで行くと、それに気が付いた松傘が手招きをする。

秋月は二人の間に立ち、報告とお礼を言った。

隣へ座るように言われ、席に着く。

松傘「ここにある食べ物は、全部無料なんだとよ。腹一杯くっときな。」


そう言って、笑顔でワインを一気に飲む。気を使ってくれたのか、それ以降他愛のない話を搭乗時間までしてくれた。秋月は見たこともないような料理を皿一杯に積み上げて、言葉通り腹が一杯になるまで料理を堪能した。


搭乗準備完了のアナウンスが、ながれラウンジに散り散りだった乗客が一つのゲートへと集まり始める。

梧桐は勝負をしていたプロレスラーと肩を組み、旧知の仲のように楽しそうに列に並ぶ。何故か磨蛇と善吉もその中に混ざり一緒に騒いでいた。よく見ると、一人ひとりの手に酒の瓶がしっかりと握られている。


すると秋月の後ろから、

齋藤「チッ、あの馬鹿」

と齋藤が呆れと怒りを混ぜて呟く。

振り向かなくても、どういう顔をしているか秋月には想像がついた。


坂井、東海林も気だるそうに列へ並んだ。一人また一人とチケットを渡して、機内へ収まっていく。30分ほど掛けて全員が乗り込んだ。ガコンッとハッチが閉じる音がした。秋月は自分の席k-6へに座る。窓側だった、少し特をした気分になる。少し後ろからは、

磨蛇「えー俺窓側がいいっす、梧桐さんずりーよ」

梧桐「ワシだって真ん中じゃ、どうせ寝るじゃろうが」

磨蛇「おい善吉かわれ」

善吉「嫌だ」


などと駄々をこねる声やらで騒がしい。右後ろからは

齋藤「チッ、静かにしろよ」

ボソッと苛立った声が聞こえる。

松傘、東城は隣同士の席で、東城の後ろに坂井が座る。東海林は何列も先に居た、席はバラバラだった。


機内アナウンスが流れる。今の天気とカナダの天気。到着予定時刻、機長と副操縦士の簡単な自己紹介があった。

離陸時刻に遅れはなさそうだ。


CAがシートベルトをするように促す。その間に飛行機はゆっくりと滑走路へ進んで行く。


機体が真っ直ぐな滑走路の上に真っ直ぐに止まった。

ゴワンゴワンと両翼のエンジンが唸り始め、ゆっくりと進み始めたかと思った瞬間にはゴゴゴゴというジェットの轟音に合わせ鉄の塊は勢いよく走り出した。加速度が乗客にのしかかる。


ふわりと足元から地面を捉える感覚がなくなる。そうなると、後はぐんぐんと飛行高度の33000フィートまで一気に上っていくだけだ。五分程すると、飛行機が安定して、シートベルト着用ランプも消えた。秋月は一人では十分すぎるほどのシートに体を預け、カナダまでのフライトを楽しむことにした。


1時間ほど飛行しただろうか、照明を落とすとアナウンスが入る。夜間飛行に入った。


さすが、ファーストクラスだけあって180センチを超える秋月でも余裕で足を伸ばして寝れるような広さがあった。半卵型の中に座り込むようなデザインで、サイドテーブルやCAへ直接繋がるマイク、タブレット、天井には、小さなモニターが有り様々なチャンネルが寝ながら見られるようになっていた。

カプセルの中の灯りをつけて、作業する人や、映画を見る人、既に睡眠をとる人と各自時間を過ごしていた。


フライトから、五時間ほど経った頃、秋月はハッとして目を覚ました。

三年ほど前に上映された洋画のエンドロールがモニターに流れていた。途中で寝てしまったようだ。

朝からバタバタとしていた為か、まだ寝たりなさを感じた。モニターをオフにしてブランケットを肩まで持ってくる。その時、自身の上から何かがストンと床に落ちた。

秋月(なんか落ちたな、、、)

秋月は先程見ていたパンフレットが落ちたのかと、くらい足元を手探りする。紙の手触りの、厚みがあるものが手に当たる。やはりパンフレットを落としたようだと、それを拾い上げてラックに戻そうとする。しかし、そこには既にきちんとしまってあるパンフレットがあった。

拾い上げたものを、目をこすりながら、再確認する。

瞬間、秋月の頭は真っ白になった。


秋月が掴んでいるものは、パンフレットではななかった。

それは、初めて松傘邸で見たあの招待状と同じ赤い封筒、それがあった。

一気に汗が額に浮き上がるのを感じる。

自然に身体が警戒をして、上体を起こして身構える。

周りに注意を払いながら、ゆっくりと封筒を観察する。

秋月「どうして、コレを俺が持ってるんだ?」

疑問から疑問がどんどん増殖していく。手紙の裏をみて、ハッして声が出てそうになる。

秋月「この手紙、、まだ封が切られていない!?」

手が震えるのがわかった。

秋月(これは、松傘さんの手紙じょない?!)

秋月は左右の乗客を目だけで確認する。どちらも灯りを消して寝ているように見える。

秋月(どうする?!一番近い人は、、、2つ後ろの齋藤さん、、)

手に汗が滲んでくる。シンと静まり返った機内で微かに聞こえる、誰かの打つパソコンのキーボードの音、、それ以上に、自身の心臓の鼓動がうるさいほど耳に入り込んでくる。

もう一度手紙に目をやる、手紙の裏隅に文字が見えた。

ゆっくりと目を落とす。そこには、


dear Rentaro Akizuki t’s a secret


秋月「俺宛の、、手紙?!シー、、シークレット。秘密にしろって事か?!」


小声で自問自答する。

真っ赤な蝋で封印された部分を剥がしていく。パリパリと固まった蝋が弾け、パラパラと膝上に落ちていく。

蝋を剥がし切ると、封筒口は自然と開いていった。

中には厚めの紙の便箋が、四つ折りになって収まっていた。

それを広げて、ゆっくりと読んでいく。中の文字はパソコンで打たれた日本語だった。


秋月 連太郎 様宛


この度は、私"M"が主催のdesire


gameのご参加、誠にありがとうござ


います。秋月様はdesiregame参加チ


ーム、松傘姫一様御一行の、サポータ


ーとなります。この手紙は、


desiregameにおけるサポーターのご


説明とその特典となります。よくご覧


ください。


-サポーターの説明と特典について-


この度は、desiregameへのご参加感

謝しております。

まずは、desiregameサポーターの役

割をご説明させて頂きます。


*1 サポーターの皆様は、常にゲームに参加することになります。

参加人数は、ゲーム内容によっては異なりますが、参加人数+サポーターという形になります。


*2 サポーターには、解答権がございません。

助言など答えに繋がる意見交換などは可能です。※一部例外を除く


*3 サポーターには特別執行権限が与えられております。秋月様の執行は、松傘姫一様御一行の中でのみ、有効となります。執行回数は5回となり、条件によって一度に複数の権限が失う条件もございますので、ご注意下さい。


*4 最後に、初参加して頂く秋月様にプレゼントがございます。

会場にてdesiregame専用端末を配布いたします。そちらにQRコード、またはURLを入力して、お受け取りください。



説明は以上となります。特別執行権限につきましては、その都度、ゲーム内容の説明とともに、変更点や使用制限を付け加えさせて頂くことがございます。



秋月様のサポートにより、皆様の道が良い方向に開かれる事を、心より願っております。 -M-



手紙はこのように締めくくられて終わっていた。他にカードが一枚、説明にあったQRコードとURLが書かれていた。

もう一度読み返してみる。しっかりと事情を把握は出来ないが、どうやら自分には他には出来ない権限と責任があることだけは分かった。


目を閉じて背もたれに全体重を預ける。

秋月(もう、ゲーム始まっている、、)

と心構えをする。


初めての海外、初めてのファーストクラスで浮かれていた気持ちは、一瞬でどこかに消え失せていた。


そこから秋月は残り5時間のフライトを、一睡も出来きずに現地到着となった。


無事着陸した機体は、ゆっくりと出口の接合部に向かう。

ガシャんと重い接続音が機内に響く。


ハッチが開く、まずはファーストスクラスの乗客から降りられるようだ。エコノミークラスを待たせて先に降機出来るのは、何だか金持ちになったようだ。しかし、今の秋月はそんな事を考えている余裕が無かった。


入り口近くにいた秋月は、早めに降りることができた。

全員が揃うまで、降りてくる乗客をじっくりと観察し始める。


今、出て来る中に手紙を置いたゲーム関係者がいる。何か手がかりがあるわけでは無いが、一人ひとり上から下まで観察する。側から見ると、出て来る人を順に睨みつけているようで、乗客からは不審な視線を向けられていた。


迎えにきている家族と合流して嬉しそうにゲートを後にしていく者や、仕事の電話をしながら時計と睨み合いでていく者など様々だった。


その中から齋藤やら、松傘組員もパラパラと流れに乗って降りて来る。

齋藤は出口付近で険しい顔の秋月を見つけて、すぐに駆け寄った。


齋藤「秋月、どうかしたのか?」


松傘 姫一の頼みを受けると決めた日から、周りは自然と秋月を呼び捨てに呼んでくれていた。客人から、仲間として受け入れられたようだ。

秋月もそれに違和感なく答えていく。


秋月「齋藤さん、これ」


と言って、ジーンズの後ろポケットから手紙を取り出しす。

流れるように出てくる乗客からは目を離さずに、齋藤に差し出した。それを見て齋藤は目を丸くする。

ほんの一瞬考え、瞬時にこの手紙が、今自分達が所持しているものとは別物だという考えにたどり着く。

そしてこの秋月の行動、すぐさま齋藤は

齋藤「誰からもらったのか分からないのか?」


と最短で確信に近い質問をする。さすがだなと感心しながら、

秋月「分かりません、寝ていた時に置かれたようで、、中見てください。」


秋月は出口から目を離さない。

手紙を受け取ると、齋藤は慎重に中を確認する。松傘 姫一宛の手紙に、人の皮が入っていた例を考えて警戒をしていた。


どうやら手紙のみで、少し安堵する。手紙に目を通す。

一気に読み上げた齋藤は、内容の説明よりもこの状況がきみ悪く、気分が悪くなる。

齋藤(俺は何をしていたんだ、向こうの指定した航空チケットだ。監視されていると考えるのが、当然だろ)

くちびるを噛み、自分を叱責する。みるみる額には太い血管が浮き上がる。


自分の甘さに怒りが湧く。その熱に、本人を見ずとも齋藤が噴気していることが伝わる。


秋月「齋藤さん、僕だけじゃ色々限界があります。」

と、どんどん人の吹き出す出口を1人で見ていくのに限度を越していた。

齋藤は怒りを諭され、今やるべきことに気を向ける。

齋藤「秋月、お前は右のゲートを見てくれ、左は俺が見る。」

秋月「はい、齋藤さん今更なんですけど、何に注意を払えばいいですか?さっきから見てはいますけど怪しい人を見分ける方法とかあります?」


と言葉通り、今更問いを出す。齋藤は

齋藤「俺が降りてくる前にいた客は、秋月見てどんな反応だった?」


秋月「えっと、俺の顔見てびっくりしたり、不審そうな顔をしたり、とにかく何だこいつは?!って顔してました。」

齋藤は秋月の肩をポンと叩き、

齋藤「よし、じゃあそのリアクションを全く取らないやつを見つけろ。相手は絶対に気がつかれていないと思ってる。秋月がこうやって出てくる人間をチェックするのも想定済みだろう。だからこそ、お前の存在に驚かないはず。すまんな、見当違いのことを言ってるかもしれんが、今はこんなことしか思いつかん。」


秋月は改めて齋藤の頭の回転の良さ起点の早さに脱帽した。

秋月「十分です、ありがとうございます」

と言うと、2人は黙って乗客の群れを必死に目で追った。


途中で東海林、坂井が降りてくる。2人とも眠そうだ、秋月達を見つけても寄っては行かず、窓際のベンチに腰を下ろす。


そして松傘と東城、それに日本で賭け花札の相手をしていたロバートが話をしながら出てきた。

齋藤はすぐさま手を上げて東城に気づいてもらう。

東城は松傘とロバートを窓際のベンチに座るように促し、坂井と東海林に任せる。


東城が駆け寄る。

東城「何があった?」

阿吽の呼吸で、齋藤の異変に気がついて声をかける。東城も相当な勘の鋭さだ。

齋藤「はい、離陸中の機内でゲーム関係者が秋月に接触してきました。」


東城「?!」

顔が険しくなり、ビリビリとした空気を纏う。

齋藤「顔は見ていないようですが、寝ている間にこれを渡されたそうです。」

手紙を渡す。

手紙に目を通した東城は、直ぐ2人に

東城「犯人探しはしなくていい、この状況で見つけることは至難だろう。それに、我々はゲームの行方を追っているんじゃない、既に参加が決まっているんだからな。嫌でも行けば分かることだろう。」

そう言って観察を止めた。

東城(しかし、何故このタイミングなんだ、、、)

と一つの疑問を心で呟いた。


東城「とにかく、これは君が持っていろ」

と秋月に手紙を返した。そうしている内に、梧桐、磨蛇とプロレスラーの騒がしい塊が降りてきた。


磨蛇「いやー寝た寝たー」


と大きく背伸びをする。梧桐は拳が入るような大きな口を開けてあくびをしている。まだ寝たりない様子だ。


東城が松傘に説明に行く。

ロバートと話をしていた松傘は別れを告げ、東城の話を聞く。


皆んなに一言づつお礼を言って、ロバートは去って行った。


梧桐達もプロレスラーと握手や腕と腕をぶつけ合って別れていた。


全員が松傘のところに集まってくる。


(?)突然、秋月の頭に疑問が現れる。


何かはわからないが、今のやり取りで納得がいかない事があったのだ。

秋月(なんだ?)

自分でも分からないが脳内の角に一片の切れ端が引っかかったのだ。

だが、分からない。


東城が秋月に起きたことを皆んなに説明を始めた。

その間も、秋月の頭はじわじわと違和感の毒に痺れを与えられている。


とうとう目を瞑り俯いてしまう。その光景に齋藤が声をかける。

齋藤「どうかしたか?具合でも悪いのか?」


齋藤の声が耳に入ってこない。

何かに集中した時の秋月は、決まってこうなる。

おかしな部分が、底からぷかりと浮かんで顔を少しのぞかせる。

秋月(これか!)

秋月は齋藤に聞いた

秋月「齋藤さん!さっきなんて言いましたっけ?あの時、、あのー」

急に迫る秋月に驚く。

齋藤「おい、落ち着け秋月。何の話だ?」

秋月「えっと、、そう!ロバート!さっき別れる時、なんて言ってました?!英語でもない話してましたよね」

秋月は齋藤に詰め寄って聞く。


突然の予想にしない名前に困惑するが、思い出しながら答えた。


齋藤「確か、"いい時間を過ごした、君たちのボスは最高だね。"俺が、"親父の相手をしてくれて感謝します。ところで、ロバートは迎えがいないのか?""はい、私は独身で身内もいませんので迎えがない。いつもこの時が寂しく感じる。それではもう行きます、皆様に幸運を。"だったかな、これがどうした?」

やはり、そういう意味かと自分の横で話していた英単語の意味を聞き確信する。

齋藤「まさか、最後の"皆様に幸運を"の言い回しが手紙に書いてあった文章が似てるっていう考えじゃないんだろうな?」

秋月を呆れた顔で見る。しかし秋月は

秋月「そうじゃなくて、火の宮空港でロバートが妻と娘がいるって言っていたんです!でも齋藤さんにはI am singleって、違う事を言った。理由はわからないけど、嘘をついていたんです」

そう言いながら、秋月は走ってゲートを飛び出した。

おい!待てと齋藤が振り返った時には、もう秋月の姿はなかった。


齋藤「くそっ」

齋藤はとりあえず松傘に一言伝えなければと、一旦戻る。

東城から一通りの説明を聞いた一同の中から、磨蛇が声を上げた。

磨蛇「あーそれ多分ロバートっすねー」

それを聞いた齋藤が詰め寄る。右肩を掴んで、

齋藤「あ?どーいう事だ!磨蛇!」

と、怒鳴る。磨蛇は動じる事なく

磨蛇「いや、俺ションベンしたくて起きた時に、ロバートが蓮太郎の席の横に立ってたんすよ。なんか話してるんだなって、そん時は思いましたけど。明かりもついてたし」


みるみる齋藤の顔が険しくなる。

齋藤「どうして、すぐ言わねえ!」

そう言って齋藤も後を追う。

松傘が怪訝そうに

松傘「齋藤、どうかしたのか?」

と尋ねる。

走りざま少し振り向き、

齋藤「秋月がロバートを追っていきました。俺も行きます」


そう言って齋藤もゲートを出た。

磨蛇は

磨蛇「えっ?なして俺が怒鳴られんの?」

と腑に落ちない様子だった。


初めての場所。しかも空港とあってその建物は横に凄まじく広く、向かう選択肢が木々の先端のように幾つも存在して、秋月の進行を鈍らせる。


周りは外国人しかいない。しかし秋月は、もし本当にこのゲームの関係者であるなら、直ぐにこの場を離れたいのではと考え、空港の出口を探して走り回っていた。そんな中、ふっと耳に聞き覚えがある言語が飛び込んできた。


観光客女「お父さん、後は麻衣子さんのところにもお土産買っていかないと!」

観光客男「ああ、そうだな。あそこは何人家族だった?」


秋月(日本人だ!)

秋月は壁に打ち込んで返ってくるボールのように、バックをしてその夫婦に声をかけた。


秋月「あの、すいません。日本の方ですか?」

すると、話し好きそうなころんとした眼鏡をかけた60代くらいの女性が、


観光客女「あら、あなた日本語上手ね。そうよ私達は日本人よ。何か用?」

とにこにこと笑って答えてくれた。すごく面倒見の良さそうな雰囲気だ。

秋月「僕も日本人なんです。あの、出口、ここから1番近い出口ってどう行けばいいですか?」


焦っていて順を追って説明できないが

女性は

観光客女「あら、そうなの。観光?」

と世間話に流れそうになる。

秋月は

秋月「すいません、急いでいて、その出口教えてください!」

あまりにも潔白した様子を見て女性は驚く。隣にいた男性がそんな秋月を見て、何か悪さをして逃げようとしているのではと勘違いしてしまう。

観光客男「君、何故そんなに焦っている?見たところ手ぶらのようだし、旅行者には見えんが」


腕を組み、女性を庇うようにして前に出てくる。女性も不安そうな顔をするが、

観光客女「何か大事な用事があるのよきっと、ねっ?」

と秋月を見る。咄嗟に秋月はポケットにある手紙を出して、

秋月「想いを伝えたい人がいて、これを渡したいんです!早くしないと空港をでてしまうんです!」


と大きな声で恋愛ドラマさながらの臭い台詞を言い放つ。

側から見れば、秋月が高齢の女性にプロポーズしたようにも見える。


現に周りを歩いていた何人かの外国人から謎の拍手をもらい、カシャカシャとスマートフォンのカメラで撮影される音が聞こえた。しかし秋月の耳にはそれすら入ってこなかった。

あまりの気迫に、男性は目を丸くしている。後ろから女性が

観光客女「まぁまぁそれなら急がないとね。出口はここをまっすぐ言った突き当たりを左に行ったところが1番近いわ。ほら行って!頑張って来なさい」

と満面の笑みで背中を両手で押してくれた。

秋月は一度立ち止まり振り返って頭を下げた。そしてあっという間に走り去った。

その後ろ姿を老夫婦は腕を組み嬉しそうにずっと見守った。


女性の言っていた突き当たりがすぐに目の前に迫る。11Exitと表示が壁にあった。

秋月(あそこか!)


一気に左へ曲がる。

目の前に二重になった自動扉があっり、その向こうにタクシー乗り場があった。よく見ると先頭車両にロバートが乗り込んで、運転手へ話しかけている。行き先を告げているようだ。


秋月は抉じ開けるようにして扉から出る。外へ飛び出したと同時に、ロバートを乗せたタクシーが動いた。


秋月「ロバート!」

乱した呼吸を整えないまま叫んだ。

しかし、タクシーは止まることなくぐるりと迂回しながら乗り場を出て、道路へと出るためウィンカーを上げる。

秋月(この距離じゃ走っても間に合わない)

そう思いながら、悔しさを噛み締めて車中のロバートを睨みつける。


すると、背中を向けていたロバートが振り返って秋月を見たのだ。

ジッと秋月を見ていた顔が笑顔になる。


手を振り、そして両手の人差し指で長方形の形をなぞった。それから、指を口に当て"静かに"といったジェスチャーをして、また手を振った。と同時にタクシーは道路を走る車の群れに消えていった。


くそっとその場に座り込む秋月。

秋月「なんなんだよ」

そう呟く秋月にはロバートの合図の意味がわかった。

両手でなぞった長方形は、"手紙"そして、静かにというジェスチャーは"秘密にしろ"そういうことだろう。大きく溜息を吐く。

秋月「もう、喋ってるよ」

また小さく呟いた。

後を追っていた齋藤が追いついて来た。座り込む秋月を見て間に合わなかったかと、横へ立つ。

齋藤「ダメだったか」


秋月「はい、タクシーに乗って出てきました。でも、こっちには気がついて、手紙の事は秘密にしろって合図出してきましたよ。」

そう言って立ち上がる。齋藤が手を貸しながら

齋藤「じゃあ確定だな。」

と不安な表情を浮かべていた。


ロビーへ戻る途中、秋月は磨蛇の言っていた話を聞かされた。


松傘が参加表明した手紙を返信した時点でもう既にゲーム始まっていたと、思い知らされた。


その通りだった。


ロビーへ戻ると、そこには"ようこそ 松 傘姫一 [E]と書かれたプラカードを持った男が松傘達と対面するように立っていた。

双方の間にピリピリと緊張が張り詰めているのがわかった。


秋月は、その男の笑顔はまるで"笑う"とは真逆の感情が顔に張り付いているようで、心に溜まった不安をかき混ぜられる気分になった。


まるで、地獄からやってきた使者のように見えたのだ。


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