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短編部屋〜悲しいのから可愛いのまで〜  作者: シャドーナイト
3/4

お題「踊り子」


 近所の騒がしい声や拍手で、俺はほとんど強制的に目が覚めた。


「……うるさい」


 寝ぼけ眼のふらつく足取りで窓際へ向かって外を見る。カーテンのない窓から差し込む光に目を細め、張り付いた埃にふっと息を吹きかけた。

 一面に見える人混み。

 何かを囲うように集まっているが、あまりの数に中心が見えない。

 でも、よく見れば母さんまでいる。妹も、ペットの犬まで。……俺は?


「置いてくなって……」


 何にでも興味を示す母さんはともかく、可愛いものしか眼中にない妹まで、興味津々に何かを見ていた。

 流石に気になる。

 俺はパジャマの上から適当にパーカーを羽織って部屋を出る。少し冷える廊下を横切り、玄関から人混みへ向かう。

 「すみません」と謝りながら人混みをかき分ける。少しして見えた母さんに、俺は呆れたように声をかけた。


「何かあるなら起こしてくれよ」

「……綺麗ね」


 会話が成立しない。

 母さんの横顔は完全に何かに虜のようで、頬をかすかに紅く染めていた。

 隣の妹も、はたまた犬まで。

 何がそんなに綺麗なんだよ。そう思って俺は少し背伸びをする。母さんたちは人の隙間から見えてるっぽいけど。


 そうして見えたのは、一人の女性。


「……っ」


 息が止まる。景色も、音も。


 女性は淑やかに踊っていた。

 この質素な町を、その華奢な四肢で精一杯に表現しているよう。

 ふわっと回る踊り子の女性に人々が息を飲む。

 音楽なんてない。だからこそ、視覚に全神経が集中していた。でもそれ以上に、見えない迫力をパーカーの上から肌で感じ取れる。

 ふわり、ゆらり、シュッ。

 右手に持った花束を、まるで体の一部のように扱う。


「そぉれっ!」


 そんな可憐な声が聞こえて、俺は肩を跳ねさせた。

 宙に舞う花束。

 人の上を通り過ぎて、自然とそれを目で追って。キャッチしたのは俺だった。

 色とりどりの花から香る甘さ。顔を上げて踊り子を見る。


「どうぞ」


 そう言ってはにかむ彼女を、俺はただ呆然と眺めることしかできなかった。

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