お題「ロウソク」
いつものように雪の舞う月夜。痩せ細った小さな体を妹とくっつけるようにして、ボロボロの布切れを二人で纏う。
眼前には、今にも消えそうな弱々しい炎を揺らすロウソクが地面に突き刺さっている。
かじかむ指先をこの炎で炙りたい。
妹もきっとそうに違いない。なにせ俺より激しく震えているんだから。
売り物じゃないマッチ箱には、さっき見たところ後二本だけ入っている。
売り物は当然、見向きもされてない。
人はこんなに行き交ってるのに。
「……なぁ、妹」
「……ん? なに」
震えた妹の声。
自分のはもう震えてるのかすらわからない。
「俺たち……生まれ変われる、かな」
「……神様、信じてるなら……きっ、と」
「……どうかな」
生まれた時からマッチ売り。
そんな人生くれた神様に感謝しろって?
誰が。
「でも……次こそは、せめてお前の名前くらい覚えておくから」
「……わた、しも」
今でも思い出せない妹の名前。
誰かに殴られた時に忘れたのか、それとも生きるために勝手に頭が消したのか。覚えてない。
ーーフスッ
我慢できなくて、俺は雪の中に両手を突っ込む。あったかいんだよこれ。
「お一ついいかな?」
そんな声が背中からかかるけど、答える気力すらない。かろうじて妹の横顔を見るが、かくんと、今にも眠ってしまいそう。
「じゃあ、お一つ貰うよ」
首だけで見る。
ぽんと、代わりに置かれたのは黒い財布。
「……神様」
くだらない名前を、思わずこぼしていた。