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短編部屋〜悲しいのから可愛いのまで〜  作者: シャドーナイト
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望まぬシスコン作家

『変態な兄に困っています。どうすればいいでしょうか』


 置物になっていた自分の部屋のパソコンを不慣れな手つきで扱って、どうにか一つのコメントを投稿することができた。

 パソコンの画面と、カーテンの隙間から差し込む月明かりだけが狭い部屋を照らしている。

 肌寒い時期なのに、私は膝に毛布すら掛けていない。

 代わりになって私に抱きついている兄の腕をそっと床に下ろすと、「むにゃ」って可愛らしい声が返ってきた。


「はぁ……可愛らしい、か。私、お兄ちゃんに困ってるはずなんだけどなぁ」


 なんでこんな風に思ってしまうんだろう。

 寝たままのお兄ちゃんを見下ろす。目にかかるほど伸びた、私よりも長い前髪。お兄ちゃんの白い肌をなぞるように指を沿わせて、それをゆっくり横に移動させる。


「かわ…………こほん」


 決して可愛いなんてことはない寝顔をじっと見つめてしまう。


「はぁ……なんだかなぁ、だよ。お兄ちゃん」


 高校生にもなって中学生の妹に抱きついて寝るなんて。

 私だってもう大人。羞恥心くらいある。

 だからせめて、外で手を繋いだりするのはやめてほしい。本当に恥ずかしいんだもん。

 指に自分の長い黒髪を巻きつけて遊びながら、ぼんやりとそんなことを考える。ただただぼんやりと、お兄ちゃんの顔を見つめて。


「あ」


 ふと、用事を思い出した。

 振り返って壁の時計に目をやる。暗くてよく見えないので目をこすると、短針が十二を少し過ぎていた。


「……本返すの忘れた」


 最寄りの書店で借りた一冊のライトノベルがパソコンの隣で薄く光を反射する。

 何やってるんだろ、私。

 一応あそこでお兄ちゃんがアルバイトしてるのに。妹の私が悪い印象を与えてしまっては一大事だ。

 公募とかいうのを頑張っているお兄ちゃんが、私と二人暮らしするために見つけてくれたせっかくのアルバイトなのに。

 もちろん、両親から送られてくるお金がないと全然足りないけど。


「はぁ……」


 またため息。何度目だろう。

 やっぱりあんなコメント取り消そうかな。

 なんだかんだで私、お兄ちゃんのことが好きみたい。ただちょっと恥ずかしいってだけで。

 嘘、かなり恥ずかしい。


「……消すか」


 やっぱりそう決意して、視線を戻したパソコン画面。

 ピロンという軽やかな音と一緒にテキストが画面上に表示される。

 えーっと、なになに。


 この度は流星文庫へご応募いただき、ありがとうございます。つきましては……


 適当に通知をクリックしてみる。

 すると、お兄ちゃんのメール画面が開く。

 まあこのパソコンお兄ちゃんのだからね。部屋だって同じだし。布団も隣。

 それは置いておいて、画面に目を寄せて見る。


 ふむふむ……なるほどなるほど。大賞?


 良いのか悪いのか、私には全くわからない。

 けどなんかお兄ちゃんを起こさなきゃいけない気がして、気持ち良さそうに眠るお兄ちゃんを揺する。


「んん〜っ、こんな時間になんだ?」


 眠そうなお兄ちゃん。


「なんかよくわかんないけど、メール」

「そんなの後でいいだろ……っていうかパソコン使えたのか。さすが俺の自慢の____」

「いいからっ」


 お兄ちゃんにメールを読むことを促す。

 気怠そうに頭をかきながら私の隣に座ると、画面を覗き込むお兄ちゃん。

 しばらくして、その目が輝いた。


「っしゃあああああああ!!」

「きゃっ」


 突然の大声にちょっとびっくりする。

 でもそれより、嬉しそう。ああ、泣いてる。


「大丈夫?」

「うぐっ……ユナぁぁっ、ぐっ」

「はいはい、元気出して」


 ぽんぽんって頭を撫でる。

 うん、やっぱり消そう。そう思ってさっきまで開いていたアプリを開く。もう慣れたものよ。


「ぐすっ……あれ、ユナ。俺のツイッターなんか開いてどうした?」

「あ、ううん。実はさっき投稿した助けてメッセージを消そうかなって」

「助けてメッセージ!?」


 慌てた様子で画面に食らいつくお兄ちゃん。

 その目線を追うと、ベルのマークに青い数字で九九と書かれていた。なんだろうあれ。

 お兄ちゃんが恐る恐るな様子でそれをクリック。

 表示されたのは、メッセージだった。


『隼人さん、シスコンだったんですね』

『妹さんかな? 警察案件?』

『これは草』

『www』


 変な記号や略語みたいなのが飛び交っている。


「お兄ちゃんこれ……」

「なあ、妹よ。俺の作家人生、シスコンからスタートみたいだ。どうしよう」

「作家? まあともかく、お兄ちゃんならどうにかなるよ」


 笑顔で返すけど、お兄ちゃんはさっきよりも涙を浮かべていた。


「どうにか……なる…………かな」

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