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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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98/400

【MOD-15】バトル・オブ・ブリテン(前編)

Date:2132/03/27

Time:04:32(UTC+0)

Location:Strait of Dover

Operation Name:ANDROMEDA

 イギリスとフランスを隔てるドーバー海峡の天気は曇り模様。

所々にある雨雲からは稲光が発せられ、海面は強風の影響により荒れ狂いつつあった。

ある意味、これから起こる戦いの「舞台演出」としては最高の気象条件かもしれない。

「山吹1より全機、爆撃高度への下降を開始しろ。ただし、雨雲の下まで降りる必要は無いぞ。我々には最新型の爆撃位置計算機と精密誘導爆弾がある」

星が見えるほどの高高度を飛行していたルナサリアンの爆撃機部隊は、精密爆撃の正確性を上げるため緩やかに高度を下げていく。

地球側の戦略爆撃機が相対的に低コストな戦闘爆撃機や巡航ミサイルへ置き換えられる中、ルナサリアンは「大量の航空爆弾をばら撒くことで攻撃目標を殲滅する」というドクトリンの下、戦場を覆い尽くすほどの敵戦力との戦いを想定し大型爆撃機(ルナサリアンでは陸上攻撃機と呼ぶ)の開発及び運用を続けてきた。

現在の主力爆撃機「アメハヅチ・キ-38 ビャッコ」はそういった努力の成果と言っても過言では無い。

その結果、緒戦のヨーロッパ空襲では強力且つ正確な戦略爆撃によって軍事拠点や工業地帯を破壊することに成功し、それに続く侵攻作戦の足掛かりを築いたのである。

ヨーロッパの地理や軍事力まで考慮され、緻密に練られていた電撃作戦――。

先手を打たれたヨーロッパ諸国の反応はほぼ一様に「してやられた!」だったという。


「下に広がっているのは地球の海かな? たしか、舐めると滅茶苦茶しょっぱいって聞いたことがあるけど……」

ルナサリアン爆撃機部隊の隊長機――「山吹1」に乗る若い爆撃手が興味深そうに眼下のドーバー海峡を眺める。

「おい! 兵装の最終確認に集中しろ!」

「まあまあ、好奇心旺盛なのは良いことじゃないか。地球の海は本国の研究者たちにとっても興味深いらしいからな」

「はぁ……見知らぬ土地に来てはしゃぐ気持ちは分かるんですけどね……」

それを聞いた副操縦士は後輩を叱りつけるが、機長に諭されたことで致し方無く矛を収める。

彼女たちの母星である月にも海は存在するものの、太平洋や大西洋のように自然に形成されたものではない。

遥か昔、ルナサリアンの祖先が月へ追いやられた時代に「水資源の確保」「海水魚の養殖場」「地球への思慕」といった目的で建設が進められた、言うなれば人造湖ならぬ「人造海」なのだ。

地球の天然海水と月の人工海水は成分が微妙に異なっており、後者は塩分濃度のわりに塩味が薄いと云われている。

「ユーケーを降伏させれば我が国の研究者がこの辺りを調査できるようになる。もしかしたら、月の常識では考えられない発見があるかもしれん」

迎撃機の飛来が予想されながらも、落ち着いた気持ちで作戦に臨む山吹1の搭乗員たち。

だが、迎撃の魔の手は背後から音も無く忍び寄っていたのだ。


 一方その頃、宇宙を掠めるほどの高高度に浮かぶ母艦から出撃したスターライガMF部隊は、敵爆撃機部隊の斜め上後方からの奇襲を試みていた。

一般的に航空戦では「敵機の背後から接近するといい」とされているが、これは航空機の機上レーダーは構造上機首に搭載されていることが多く、その関係で後方にはレーダー波をほとんど照射できないからだ。

レーダー波を飛ばせない方向は当然ながら死角となるため、敵戦力の存在を把握していない場合は不意打ちを食らうリスクが大きく増す。

MFや戦闘機なら僚機にカバーさせることで容易に後方確認が行えるものの、同じ攻撃目標に向かって編隊飛行を行う爆撃機だとそういうわけにはいかなかった。

護衛機が随伴してくれているとはいえ、運動性が低く自衛火器も最低限しか持たないビャッコの場合、迂闊に密集編隊を崩すと迎撃機に各個撃破されてしまう可能性が高いのである。


「パルトナよりワルキューレCIC、タイムリミットはどれくらいだ? 残り時間次第ではかなりシビアな戦いになるかもしれん」

敵の大編隊が暢気に北上を続けているのをレーダー画面で確認しつつ、ライガはCICへ防衛ラインまでの猶予を尋ねる。

技術革新のおかげで30年前に比べたら改善されているとはいえ、E-OSドライヴ搭載型MFの稼働時間は決して長くはない(航続距離とは別の話である)。

旧世紀のロケット戦闘機(8分しか飛べなかったらしい!)ほど極端ではないにせよ、大規模な爆撃機部隊を殲滅するには一切の無駄を廃した速攻が求められるだろう。

「グレートブリテン島上空から帰って来るのは戦闘行動半径的にキツイと思われます。大雑把に計算してみたところ、1時間以上の作戦行動は不時着のリスクが大きく高まることになります」

「その1時間というのは帰艦までを含めた計算か?」

「ええ、戦闘に費やせる時間は30分から40分程度かと」

シビアな時間制限を聞かされたことに物怖じするどころか、逆にヘルメットの中で不敵な笑みを浮かべるライガ。

「タイムアタックのようなものか……面白い! 困難な状況で最大限の戦果を出せてこそのエースドライバーだろ?」

「その通りだ。爆撃機如きに手間取るようではこの先の戦いが思いやられるからな」

彼の発言に対し同じエースドライバーとして同調するサニーズ。

彼女はライガと同等以上の操縦技量及び冷静沈着な戦闘スタイルを持つ一方、逆境でこそ闘志を燃やせる精神力の強さも併せ持っていた。

「よし……スターライガ全機、武装のセーフティ解除! 有効射程に入った時点で攻撃を許可する! 護衛機には構うなよ!」

爆撃機部隊のどん(じり)の機影が見えてくる。

「(雨雲の下を飛ばないとは……やはり、地球の空には慣れていないようだな)」

その機体がレーザーライフルの射程内に入った瞬間、ライガは素早く狙いを付けながら操縦桿のトリガーを引くのであった。


「こちら常磐(ときわ)9、背後から攻撃を受けている! クソッ、完全に不意を突かれ――!」

「常磐9が火を吹いて墜ちたわ! 護衛戦闘機は何をやっているのよ!?」

「尾部銃座を作動させろ! 多少は役に立つはずだ!」

突然の奇襲攻撃をもろに受けてしまい、無線でも分かるほどの混乱状態に陥るルナサリアン爆撃機部隊。

紫紺(しこん)4より1へ、敵航空戦力を電探に捕捉しました! 数は……何なのよこれは! サキモリが20機以上ですって!?」

「大陸側から飛来してきたとは思えん……こちら紫紺1、機種の特定はできそうか?」

「いえ……もっと接近しなければ不可能です」

「そうか。だが、イタリアでユキヒメ様と互角に戦ったという『蒼い奴』が混じっているかもしれん。全機油断するなよ」

当然、この状況を護衛部隊が黙って見ているはずが無く、彼女らは「爆撃機を引き続きエスコートする部隊」と「反転して敵機を迎撃する部隊」に分かれて戦闘行動を開始する。

ちなみに、紫紺1が警戒している「蒼い奴」とは、ヨーロッパ戦線を戦うルナサリアンの間で最近噂になっている凄腕のエースドライバーのことだ。

空色系の制空迷彩に塗装された、変形機構持ちのサキモリに乗っているのでこう呼ばれているらしい。


「護衛機が動き始めたわね……どうするの、ライガ?」

愛機クリノスの主兵装である「試製長銃身3連装レーザーライフル」で爆撃機を攻撃しつつ、動きを見せる護衛機への対処法について指示を仰ぐサレナ。

彼女は姉のリリーと同じくライガからMF操縦を教わっているが、双子且つ同門とは思えないほど技量には差があった。

才能に関しては五分五分と評されているものの、サレナのほうが真面目な性格ゆえ訓練に対する意識が高く、ライガも「弟子」としての幼馴染については好意的な評価を下している。

もっとも、実戦においては訓練でやる気を見せないリリーが勝負強さと強運を発揮することも多く、単純な戦果では彼女に負けてしまう場合も珍しくないのだが……。

「護衛機が爆装しているのなら叩くべきだが、ここから敵機の装備は見えるか?」

「さすがに肉眼では判別できないわね。そこまで目が良いわけじゃないし」

「俺は何かを投下するのを確認したが、あれはおそらくドロップタンクだろう。奴らの航続距離を削れたのは朗報だ」

護衛戦闘機は空対空兵装だけを装備している――。

そう判断したライガは護衛機の相手を必要最低限に留め、主目標である爆撃機を優先的に排除するようα小隊を含めたスターライガ全機へ命ずるのだった。

「全機、護衛機に夢中になるなよ! 俺たちが落とすべきなのはあくまでも敵爆撃機だ!」


「(かなりの数の爆撃機ね……ロンドンを焼け野原にするつもりなの?)」

HISの擬似スコープ越しに爆撃機の姿を捉え、レンカは操縦桿のトリガーに人差し指を掛ける。

彼女の愛機「RE-IV178 ルーナ・レプス」はMF用スナイパーライフルによる超長距離攻撃に特化した狙撃機であり、同時に高い索敵能力を活かした偵察機としても有効活用されている。

特化型で非常にクセが強い機体なので、開発中は「こんなニッチな機体が必要なのか?」という疑問も挙がっていたが、専任ドライバーのレンカは操縦が極めて難しいルーナ・レプスを完璧に乗りこなしていた。

「隊長、私たちはどうすればいい? あんたの機体ならともかく、この間合いは私たちのスパイラルでは手も足も出ない」

「汎用機乗りは一方的に相手を撃てなくて大変ね」

「卑怯者扱いされないから気楽なものだぞ」

アンドラからの指摘を受け、少しだけ役割分担を再考をするレンカ。

言葉には出していないが、カルディアやソフィも同じことを思っているに違いない。

その役割から「技術試験隊」と揶揄されることも多いΖ小隊は、本来ならばルーナ・レプスに代表される前衛的な機体を運用し、そこから得られたデータを既存機体の改良や新型機開発へフィードバックすることを存在意義としている。

ところが、Ζ小隊の戦力となるはずの「前衛的な機体」は最終調整が難航しており、信頼性の問題から実戦投入の目途は立っていなかった。

そのため、アンドラとカルディアは予備機のスパイラルC型で本作戦に参加していたのだ。


 当然のことだが、狙撃に特化したルーナ・レプスに比べて「汎用機」であるスパイラルの最大射程は短い。

新型機で採用予定の試作武器「プロト・レーザーバスターランチャー(P-LBR)」を擁するカルディア機はともかく、格闘戦重視のインファイターであるアンドラ機と新人ゆえ癖のある武器を使えないソフィ機にとって、最大射程の短さは戦術の幅を狭める死活問題となっていた。

「そうね……カルディア、あなたは私と一緒に爆撃機へ遠距離攻撃を撃ち込んでくれるかしら?」

「私たちが編隊を崩し、そこへアンドラとソフィを突っ込ませるのね」

「その通り! 話が早くて助かるわ」

レンカが15秒で考えた作戦は次の通りだ。

まず、数キロ単位の遠距離攻撃が可能なレンカ及びカルディアが攻撃を仕掛け、爆撃機の編隊に回避運動を強要させる。

護衛戦闘機は多方向から殺到するMF部隊に気を取られているため、現状ではΖ小隊をマークしている敵機はいない。

そして、編隊が崩れたところへアンドラとソフィが切り込み各個撃破を狙う。

彼女たちが仕留め損ねた機体はレンカとカルディアの再攻撃で片付ける――という算段である。


「アンドラ、ソフィ! 誤射はしないからさっさと突っ込みなさい!」

「あ、はいッ!」

切り込み役の僚機を急かし、再びHISの擬似スコープを覗き込みながら機体の微調整を行うレンカ。

「エネルギーチャージ開始……」

その近くではカルディアのスパイラルもP-LBRを構え、照準を兼ねたエネルギーチャージ態勢に入っていた。

砲身側面部に多数設けられた排熱ダクトが開き、真っ白な蒸気を漏らす光景が排熱量の多さを如実に物語っている。

「(同胞を撃つのは気が引けるけど……恨むのなら戦争を恨みなさい。私はここで正体がバレるわけにはいかないのよ)」

レティクルが敵爆撃機の機首――コックピット付近を捉えた瞬間、レンカのルーナ・レプスは「同胞殺し」となる一撃を躊躇い無く放つのであった。


 レーザーの弾速はMFの飛行速度よりも目に見えて速く、二条の蒼い光線は先に飛び出していたアンドラたちの頭上を通り越し、敵爆撃機のコックピットや胴体を見事貫いていた。

爆弾を腹一杯抱えていたであろう爆撃機は誘爆により一瞬で爆発四散し、その衝撃でもぎ取られた翼の一部だけがドーバー海峡の荒波へ呑み込まれていく。

搭乗員は……サメの餌になるよりは爆殺されたほうが楽に死ねるだろう。

「寸分の狂いも無い、正確無比な射撃だな。ソフィ、(やっこ)さんが混乱しているうちに切り込むぞ!」

「はい! 頑張ります!」

3機編隊の先頭――おそらくは小隊長機が撃墜されたことで残る2機は混乱状態に陥っており、編隊を解き単独での回避運動に移っていた。

ここまではレンカが15秒で考えた筋書き通りだ。

そして、ここから先はアンドラとソフィが期待に応えなければならない。


「回避運動が遅い! 直撃させる!」

鈍重な機体で必死に回避を試みる爆撃機へ狙いを定め、強固な目標にも対応可能な6連装ボックスミサイルランチャーを構えるアンドラのスパイラル。

マルチロックオンが全て爆撃機を捉えていることを確認し、彼女は操縦桿のトリガーを引く。

「フレアか! いや、その程度では捌き切れまい!」

攻撃を察知した爆撃機は防御兵装を散布しながら右へ急旋回するが、完全に振り切ることはできず2発のマイクロミサイルを被弾してしまう。

それとは別にソフィ機の援護射撃も主翼へ命中しており、手負いの爆撃機は絶体絶命の危機に瀕していた。

もう奴は長くは持たない。

「お前がトドメを刺せ、ソフィ! 記念すべき初白星ぐらいは譲ってやる!」

その気になれば追撃で仕留めることはできたものの、新人に成功体験を味わってもらうためアンドラはあえてソフィにトドメを譲る。

「ありがとうございます。これが……私の初戦果になるんだ……!」

先輩の気遣いを察したソフィは感謝の言葉を述べ、愛機スパイラルのレーザーライフルを爆撃機へと向ける。

「(この引き金を引いたら二度と後戻りはできない……でも、私を抜擢してくれた人たちには結果で恩返ししないと!)」

そして、「普通の女の子」から「戦場を翔ける女戦士」へと生まれ変わるため、彼女は操縦桿のトリガーを引くことを選んだ。

「フォルテ、ファイアッ!」

【ユーケー】

ルナサリアンにおけるイギリスの呼称。

アクセントがオリエント語と同じであるため、接触したオリエント人から取り入れた言葉だと思われる。

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