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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-7】星、落ちる星(中編)

「パルトナよりバルトライヒ、状況はどうなっている!?」

レガリア率いるベータ小隊と合流し、彼女へ状況報告を求めるライガ。

とはいえ、レガリアのほうもこの戦場で何が起こっているのか完全に把握しているわけではない。

「それはこっちのセリフよ! とにかく、今分かっているのは崩壊したコロニーが移動を始めていることと、かなり大規模な敵増援が接近していること――この二つね」

リーダーからの要求に対して彼女はこう答えるしかなかった。

「クソッ、リリーの悪い予感がさっきから当たりまくりだ。レガリア、ワルキューレCICに援軍は要請したのか?」

「ええッ!? なんかリリーが悪いみたいな言われ方なんですけどぉ!」

「ええ、待機中の部隊を全て出撃させるよう頼んだけど……少なくとも5~6分は私たちだけで耐えないといけないわね」

何やら喚いているリリーのことは軽くスルーしつつ、自分たちの援軍が来るまでは時間が掛かるという厳しい現実を伝えるレガリア。

だが、アルファ、ベータ、ガンマの3小隊に所属するドライバーの大半は第2次フロリア戦役やバイオロイド事件を戦い抜いてきた、人生経験豊富な歴戦の猛者たちである。

多勢に無勢という状況下で5~6分間生き残るなど、彼女らにとっては造作も無いことだった。


「――なるほど、姿勢制御発動機を設置していた先遣隊が予想以上の損害を?」

「はい、ユーロステーションへ潜入していた工作員の事前情報に誤りがあったらしく、我々の知らない『強力な航空部隊』が防衛任務に就いていたようです」

宇宙の向こう――月の方角より飛来する大量の所属不明機。

その数は最前列に配置されている部隊だけでも1個MF大隊を優に超えている。

更に言えば後方にもMF中隊や戦闘機部隊が控えているため、実際の総戦力はスターライガ及びコロニー防衛部隊を優に上回っているはずだ。

彼女らがユーロステーション周辺宙域に向かっている理由はただ一つ。

――核パルスエンジンの設置を行った先遣隊の撤退を援護し、スペースコロニーを利用した大質量攻撃「星落とし」を成功させることである。

当初は最小限の戦力で実行可能な簡単な任務だと思われていたが、コロニーに駐留する防衛部隊の抵抗が予想以上に激しかったことから損害が発生し、先遣隊の全滅を危惧した総司令部は慌てて援軍を派遣したのだ。

「強力な航空部隊か……フッ、この新型機の慣らし運転でもさせてもらうとするか!」

MF大隊を構成している部隊「白部隊」の隊長――ミナヅキ・ニレイは余裕の表情を浮かべながらスロットルペダルを踏み込む。

それが大きな慢心であることを知らないまま……。


 ガンマ小隊及びキリシマ・ファミリーのMF部隊と再合流を果たし、スターライガはコロニー防衛部隊と共に防衛ラインの構築を図る。

「ねえ、ライガ。ちょっと要望があるのだけれど……いいかしら?」

「何だ?」

「私個人としては目の前のアンノウンよりも崩壊したコロニーの対処を優先すべきだと思うの」

本当なら今ある総力を以って所属不明機たちを迎え撃つつもりだったが、レガリアからの「要望」を聞いたライガは(しば)し考え直す。

確かに、不自然なほど速い速度で動いている――ように見えるコロニーのほうが気になってはいるが……。

しかし、この宙域を覆い尽くさんとする物量で迫り来る所属不明機たちを放置できるとは思えない。

「あっちも気になるが……アンノウンを減らさないと俺たちがやられるぞ」

圧倒的な戦力差があり援軍到着にも少し時間が掛かる以上、コロニー方面へ貴重な戦力を割く余裕など無かった。

「それは分かっているわよ……だから、私一人でやらせて。その間の指揮はブランに引き継がせるから」

だが、オリエント連邦有数の名家の当主にして世界一の億万長者というだけあり、レガリアもそう簡単に引き下がるような女ではない。

彼女は「要求に応じてくれないのなら一人でやる」とワガママを言い始めたのだ。

「姉さん! 何言ってんの!?」

「やめとけ、ブランデル。ああなったら梃子でも動かないこと、妹である貴様が一番よく知っているだろ?」

困惑するブランデルを冷静に諭し、半ば諦めたように首を横に振るサニーズ。

一度やると決めたら、そう簡単には信念を曲げない――。

その強情さが良くも悪くもレガリアの気質であることを、スターライガの面々は知っていたのだ。


「はぁ……ったく、しょうがねえな。お前が抜けた分は俺とサニーズで埋めるから、気が済むまでコロニーを調べてこい」

何を言っても無駄だと悟っていたライガはため息を吐き、レガリアの単独行動を許可することを決める。

互いのことをよく知っている仲なので勝手に動いてもそこまで心配にはならないが、独断専行前にそれを明かしてしまう辺りは何ともレガリアらしい。

「……ありがとう。手早く済ませるつもりだから、その間は何とか持ちこたえてちょうだい。ブラン、指揮ぐらいは執れるわね?」

「ああ、それぐらいならできるけどさ……」

「任せたわよ。ニブルスとソフィを守ってあげてね」

妹へ強引にベータ小隊の指揮を引き継がせ、レガリアは愛機バルトライヒを左右に振りながら編隊から離脱していく。

「全く、相変わらず強引な人だ……仕方ない! 姉さんの分も頑張るか!」

それを見届けたブランデルは呆れながらも「スーパーエースである姉の分も働く」と決意を固め、迫り来る大編隊を睨みつけるのであった。


 その頃、編隊を外れ単独行動を取っていたレガリアはコロニーの外壁まで接近し、何か不審な点がないかを探り始める。

幸いと言うべきか、つい先ほどまでコロニー周辺にいた敵機は全てスターライガ本隊の方へ向かっているため、今のレガリアをマークしている者は誰一人としていなかった。

「(ふむ、建造時にモジュラーを接続する部分が狙ったように爆破されているわ。おそらく、メンテナンス通路に強力な爆発物を仕込んでいて、アンノウンの襲来に合わせて起爆させたのね)」

完全に破壊された接続部分と爆発物の痕跡を発見し、バルトライヒのマニピュレータでそれらをなぞっていくレガリア。

真相追究は詳細な調査を待つことになるが、コロニー崩壊の大まかな原因について把握することはできた。

次に気になるのは、爆発物による破壊工作で分離したコロニーの居住区が移動している理由――そして、その行き先である。

スペースコロニーには稼働中の位置調整用に大型スラスターが設置されているものの、これらはあくまでも微細な制御を目的とした高レスポンス・低出力タイプであり、コロニーを宇宙船のように動かすほどのパワーは持っていない。

つまり、コロニーをかなりの速度で移動させる出力を持つ「何か」が仕組まれているはずなのだ。


 コロニー崩壊時に宇宙空間へ吸い出されたであろう自動車や瓦礫をかわしつつ、レガリアのバルトライヒは「何か」を見つけるべく外壁近くを飛び回る。

「(向こうの方はもう戦いが始まっているのね。これ以上は手掛かりを得られそうにないし、そろそろブランたちと合流しようかしら……)」

これ以上の捜索を諦め戦場へ戻ろうとしたその時、レガリアはコロニー外壁に奇妙な装置が取り付けられているのを発見する。

大掛かりな「それ」は蒼白い強烈な閃光を発しており、下手に直視すると目をやられてしまうかもしれなかった。

「(これは……まさか、核パルスエンジン!? アンノウンめ、謎のコンテナの中身はこいつだったのね……!)」

核パルスエンジンはコロニーや資源採掘用小惑星の大移動に用いられる物であり、ニュースで実際に運用されている映像を見る機会も少なくない。

本当ならここで核パルスエンジンを破壊してしまいたいところだが、専門知識を持っていない状況で手を出すのはリスクが高すぎる。

迂闊にレーザーライフルで撃ち抜いたら放射能物質を撒き散らし、規模次第ではこの宙域一帯を汚染しかねないからだ。

「(くッ、結局は戻るしかないか……! 仲間を呼んできて慎重に破壊しないと!)」

核パルスエンジンの破壊ないし無力化は一旦諦め、レガリアは(きびす)を返すように戦闘宙域へと戻るのであった。


 一方その頃、レガリアを除くスターライガの面々は大量の所属不明機たちを相手取っていた。

「クソッ、コロニー防衛部隊が少しずつやられてる! 何やってんだヘタクソどもめ!」

友軍である防衛部隊の被害拡大を目の当たりにし、思わず悪態を()くサニーズ。

そう言う彼女は驚異的な高機動戦闘で着実に敵機を撃墜していき、気が付くと誰も寄り付かない状況となっていた。

「でも、これなら姉さんがいなくても何とかなりそうだね。たまにはバカンスにでも行ってもらわないと――」

「悪かったわね、お節介を焼かれるほど働き詰めで」

「ん? ……げげっ、今の聞こえてた?」

スーパーエース不在でも戦えている状況にブランデルが軽口を叩いていると、聞き覚えのある声が通信回線に割り込んでくる。

「今回の一件が落ち着いたらニュージーランドで休暇を取るつもりよ。それはともかく……ブラン、今から核パルスエンジンの破壊に付き合いなさい」

「はぁ? 核パルスエンジンってコロニーの移動とかに使うヤツでしょ? そんな物、一体どこに……」

あまりにも唐突過ぎるレガリアの指示に素っ頓狂な声を上げるブランデル。

「崩壊したコロニーに設置されていたのよ。これは私の予想だけど……このままでは地球の大気圏に深く突っ込むわ」

地球へと真っ直ぐ向かって行くスペースコロニー――。

レガリアはそれが隕石のように落着し、甚大な被害を生む可能性を危惧していたのだ。


「――というわけだから、これよりベータ小隊は別行動でコロニーの移動阻止を試みるわ。じきに援軍が到着すると思うし、私たちの穴は彼女らが埋めてくれるでしょ?」

「ああ……それは問題無いと思うが、本当にお前たちだけで人手は足りるのか? 必要なら俺たちも手伝ってやるぜ?」

一度本気になったレガリアを思い留まらせる術をライガは持たない。

だから、彼にできることと言えば戦友の行動をサポートしてあげることぐらいだ。

「ふーむ、戦力の逐次投入は愚策中の愚策とも言うわね……じゃあ、こうしましょう。あなたたちは敵戦力を排除しながらコロニーの方へ向かいなさい。私たちにとってこの宙域は裏庭のようなものだけど、アンノウンにとってはフットボールで言うアウェイのはずよ」

レガリアの発言には一理ある。

大気圏内外問わず仕事を請け負うスターライガは宇宙でも積極的に活動しており、スペースデブリが散乱するような宙域での戦闘は得意中の得意としている。

一方、彼女らが相対しているアンノウンたちはコロニー防衛部隊以上に良い動きをしていたものの、デブリだらけの「汚い宙域」にはあまり慣れていないように見えた。

ケスラーシンドロームとは無縁の、高度なデブリ対策が施された「綺麗な」宙域――。

アンノウンはそのような場所から遠路遥々やって来たのかもしれなかった。


「隊長、敵部隊の一部がスペースコロニー方面へと向かい始めています! まさか、我々の作戦がバレたのでしょうか?」

「それは分からん。だけど、コロニーを大気圏突入時の熱で消滅する程度にまで破砕されたら作戦失敗だ。帰艦限界線までは粘って敵戦力の撃滅を試みるぞ。月の周りに比べたら散らかっている宙域だが、やるしかない」

「了解です、隊長」

敵――スターライガに作戦目標を勘付かれたことを心配する副官を落ち着かせ、戦闘続行を改めて指示するニレイ。

翌日に控えている宣戦布告を有利な状況で行いたい――。

それがニレイたちの所属する国家の狙いであったのだ。

彼女らの母国は一体何者なのか?

そして、宣戦布告の先に待っているものとは……?

【フットボール】

オリエント圏ではサッカーのことを英国式にこう呼ぶ。

専門用語もイギリス英語からの借用となっている。

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