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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-62】終末模様の空

「おい……何だ――は!?」

「ただの――の爆発じゃ――ぞ……!」

「太陽が――いえ、もう一つは――!」

「AWACS――情報報告――! 何がどうなって――!」

アヤネル、リリス、ローゼル、ヴァイル――。

巡航ミサイルの規模とは思えない大爆発を目の当たりにし、彼女らは茫然と北の空を見つめる。

爆発の影響で通信障害が起きているのか、無線にノイズが混じり上手く聞き取れない。


「事前情報よりも――大きいぞ……! こんなものを――覚えは――!」

「ユキヒメ――! これは……――なの――!?」

「クソッ――姉上の――大バカ――!」

この状況はルナサリアンにとっても想定外だったらしく、ユキヒメとスズランは戦闘を中止し状況を整理しようとしている。

出撃前日にユキヒメは姉のオリヒメから作戦内容及び目的を聞いていたが、その時は巡航ミサイルの弾頭に関する話は一度も出てこなかった。

妹の武人肌な一面を考慮し、オリヒメがあえて詳細を言わなかった可能性もある。

だが……真実がどうであれ、その配慮はユキヒメにとっては余計なお世話だった。

「(大量破壊兵器だと知っていたら、戦争犯罪人になる覚悟もできたのに……! 姉上……都合の悪い部分を隠し、言葉巧みに人を惑わすのが貴女のやり方なのか……!?)」


 太陽よりも眩しい「破滅の光」が煌々と輝く中、ルナサリアン航空部隊は戦闘空域からの離脱を開始する。

ワシントンD.C.よりも手前で巡航ミサイルが全滅した以上、自分たちの仕事は終わったということなのだろうか。

「ブフェーラ各機、みんな生きてるか? ……ヴァイル、勝手に離れるな!」

状況確認のためリリスは一旦僚機を集めようとするが、何を思ったのかヴァイルが突然単独行動を始めてしまう。

隊長の制止を無視したヴァイルは愛機オーディールのG-BOOSTERをパージし、ノーマル形態へと変形させる。

他所(よそ)の星にコロニーを落とした挙句、核ミサイルまで撃ち込むとはどういう了見だ……! この……この、侵略者どもめッ!!」

両手持ちでレーザーライフルを構え、「侵略者」の機体に向かってヴァイルは叫ぶ。

その視線と銃口の数百メートル先には、つい先ほどまで(しのぎ)を削っていた2機のツクヨミ指揮官仕様の姿があった。


「……そんなに我々が憎いか」

ヴァイルがトリガーを引いたら避けられない状況にも関わらず、逆に若者へそう問い返すユキヒメ。

爆発時に発生した電磁パルスが収まってきたのか、先ほどよりは無線が聞き取りやすくなっている。

「……」

それに対するヴァイルの回答は沈黙。

簡潔且つ短い文章だったので、ルナサリアンの言葉が分からずとも発言内容自体は理解していた。

ただ……否定も肯定もできなかっただけだ。

「答えられないことを悔いる必要は無い。既に答えは出ているが、それを表沙汰にすべきか迷っているのだろう?」

「……!」

図星を指され、構えていたレーザーライフルを思わず落としそうになるヴァイル。

ユキヒメの予想通り、若きヴァイルの心にはある迷いが生じていた。


「くだらん戯言を……! ヴァイル、奴の言葉に惑わされるな――!」

訝しんだリリスが部下へ注意を促した直後、彼女のオーディールの股下を一条の蒼い光線が掠めていく。

この状況で突然威嚇射撃を受けるとは思っていなかったので、さすがのリリスも少し肝が冷えた。

1~2メートルほど上にズレていたら、間違い無く上半身に直撃していただろう。

「人と人の話に横槍を入れるか、無礼者め……恥を知れ、俗物!」

威嚇射撃の正体はユキヒメ機の短銃身光線銃による攻撃であった。

これで興が冷めてしまったのか、彼女は武器を収めると近くにいたスズラン機へ手信号で指示を出す。

「『天に凶兆の星は満ちる』――」

ブフェーラ隊に背を向けて撤退する直前、彼女らに対して詩的な言い回しで何かを伝えるユキヒメ。

「え?」

「貴様たちの祖国が造った『天空の星の都』は最終兵器となり、再びこの星へ墜ちる。それを阻止したければ……ゲイルの連中を連れて来るのだな」

素っ頓狂な声を上げるローゼルをよそに、ユキヒメはスズランと共に今度こそ戦闘空域から離脱していくのだった。


 永遠にも感じられた核爆発がようやく終息したため、セシルとアヤネルは地上へ緊急着陸し状況確認を開始する。

計器類や航法装置が軒並み不調になり、安全な巡航が難しくなったからだ。

電磁パルスの影響がまだ残っているのか、遠方のブフェーラ隊やポラリス――そしてスレイとの通信は途絶したまま繋がらない。

「隊長……スレイは……スレイはどうなったんだ?」

機体から降りたアヤネルはすぐにセシルのもとへ駆け寄り、消息不明となってしまった僚友について尋ねる。

「……」

そのセシルはアビオニクスの復旧作業に集中しているらしく、部下の声が耳に入ってないようだった。

「何とか言ってくれよ……隊長……!」

蒼いMFの胴体へとよじ登り、アヤネルはコックピット内で航法装置の再起動を行っていた隊長に詰め寄る。

ヘルメット越しでも声が聞こえるほどの至近距離にも関わらず、露骨なまでに無視を決め込むセシル。

「聞こえなかった」では済まされない、故意でやっていると思わしき無反応ぶり――。

普段冷静なアヤネルもさすがにしびれを切らし、彼女は怒りのままにセシルの襟首を無理矢理掴み上げていた。


「いい加減にしやがれ、セシルッ!! 一言二言喋ったらどうだッ!? ああッ!?」

ヘルメットのバイザーを上げ、凄まじい剣幕で睨みつけながら不満をぶちまけるアヤネル。

隊長を呼び捨てにするほどの荒々しい言動が、彼女の胸中を如実に物語っていた。

「……」

「私はな……あんたと違って無言を察することはできねえんだよ……!」

しばしの沈黙の(のち)、セシルはヘルメットを脱ぎながらこう答える。

「……あの核爆発に至近距離で巻き込まれたら助かるまい」


プツン――!


その時、アヤネルの中で決定的な何かが切れた。

「ッ……!」

次の瞬間、彼女は強烈な右フックをセシルの左頬へと放ち、自らもヘルメットを脱ぎ捨てる。

「なぜ断定できる……!? そんなの……死体を見なきゃ分かんねえだろうがッ!!」

怒りが収まらないアヤネルは2発目の鉄拳を見舞おうとするが、今度はセシルのバケモノ染みた反応速度の前に止められてしまう。

「見なくても分かれ、現実を受け入れろ……!」

「現実は見なければ分からない!」

ルナサリアンと戦う時以上の気迫で主義主張をぶつけ合うセシルとアヤネル。

我が強い両者の緩衝材を担えるスレイはもういない。

ゲイル隊は大切なメンバーを喪ってしまったのだ……。


 言いたいこと言い合った末、セシルとアヤネルは機体の復旧作業に戻る。

情報交換はもちろん、視線さえ合わせること無く彼女らは黙々と電子機器を弄っていた。

「(私が代わりに核ミサイルへ突っ込んでいれば……クソッ!)」

「(生存が絶望的なことぐらい知っている……でも……!)」

こういう時にスレイがいてくれたら、気まずい状況を執り成してくれるのに――。

二人は全く同じことを考えていたが、「星の海」へ旅立った者は二度と帰って来ないのだ。

たとえ、残された者たちがどれだけ強く祈り、願ったとしても……。


 最低限のアビオニクスを何とか復旧させ、一息つくために腰を下ろすセシル。

真っ白な空には核爆発の余韻がまだ残っていた。

もし、この悪魔の大量破壊兵器がワシントン上空で起爆していたら、どれほどの人命が犠牲になったのか――。

「(核兵器……まさか、現役のうちに目の当たりにするとはな……)」

無意識のうちに震えていた手を押さえ付け、セシルは命と引き換えに最悪の事態を防いだ親友へと語り掛ける。

「スレイ……私も……少しだけ奇跡に期待していいか?」

ふと空を見上げた彼女の視線が止まる。

「破滅の光」に包まれた北の空。

その方角から一機の未確認飛行物体が現れたからだ。


 セシルは目を凝らしながら未確認飛行物体の様子を観察する。

具体的な形状は判別できないが、蒼っぽい色合い及びフラフラと低空飛行している姿は遠目から見ても分かった。

奴の高度は徐々に低下しており、このままではセシルたちの近くに不時着する可能性が高い。

「(核爆発の次はUFOか……狂ってやがる)」

中の人が救助を必要としている場合に備え、彼女は腫れ上がった左頬をさすりつつ眼前に広がる綿花畑へと入って行く。

「隊長……? 何やってんだ――って、ありゃUFOか!?」

一方、作業に没頭していたアヤネルもようやく未確認飛行物体の存在に気付き、綿花畑を掻き分けながら進むセシルの後ろ姿を追い掛け始めた。

「いいのか、見知らぬ農家の畑に押し入ったりして!」

「私に話し掛けるな。誰かさんの鉄拳制裁のせいで痛みが治まらん」

「そりゃ、殴ったのはやり過ぎだったと反省してるけど……」

言葉を交わしながら綿花畑の真ん中にやって来た二人は、そこで改めて未確認飛行物体の姿を確かめる。


 未確認飛行物体のサイズは普通車より一回り大きいぐらいで、外宇宙航行能力を持っているとは思えないほどコンパクトだ。

また、長旅で疲れ果てているのか、何かの破片を撒き散らしながら飛行――いや、滑空していた。

……ここまで来たところで、セシルたちはようやく未確認飛行物体が「見慣れた機体」と瓜二つであることに気付く。

「待てよ……あの蒼い機体……オーディールMじゃないか!?」

「ああ、違いない……! 蒼いボディに私たちの部隊章――見間違えるもんか!」

興奮気味に互いの顔を見合わせ、力強く頷くセシルとアヤネル。

彼女らの頭上をボロボロの蒼いMFがゆっくりとフライパスし、綿花畑へ緩やか且つ完璧な胴体着陸を決める。

収穫直前の綿花が舞い散る中、セシルたちはすぐに不時着した機体へと駆け寄るのだった。


 塗装と装甲が焼け(ただ)れ、内部フレームが露出するほどのダメージを受けているオーディール。

コックピットブロックは一見すると無事なようだが、外から抉じ開けるには相当の勇気が必要だろう。

もし、中に炭化した焼死体が乗っていたらと思うと……。

「アヤネル、コックピットから離れろ! コントロールパネルを弄って強制的に開かせる!」

部下を機体から退かし、コックピット後部に隠されている整備用のスイッチ類を操作するセシル。

その名の通り本来は整備作業で使うものだが、何かしらの理由でドライバーがコックピットを開けられない時にも利用される。

また、外部から機体を操作できる唯一の方法でもある。

ドライバーが触れる機会は滅多に無いものの、念のために教わっていた対応方法がここで役立った。


 ファイター形態時にコックピットを覆うカウルのロックが解除され、人の手が入る程度の隙間が生じる。

MFのパーツは一つ一つがとても軽いため、簡単に持ち上げることが可能だ。

とはいえ、大破した機体の安否確認ほど怖いモノは無い。

「……」

「やってくれるか、アヤネル?」

「ああ……」

セシルに促され、意を決して隙間へ両手を滑り込ませるアヤネル。

ヒンジが歪んでいるのか、思ったよりもスムーズに上がらない。

それでも、彼女は特に力むこと無くカウルを持ち上げることができた。

コックピットを抉じ開けたセシルとアヤネルは、恐る恐るといった感じで内部を覗き込む。


 彼女らが見たのは、絶望という名の現実か。

それとも、希望という名の奇跡であったのか。

その答えは……。

【天空の星の都】

元々はオリエント連邦によるスペースコロニー建造の最初期に用いられていたキャッチフレーズ。

しかし、月生まれのユキヒメは何故この言葉を知っているのだろうか?


【星の海】

オリエント圏においては宇宙――そして「あの世」の代名詞として扱われており、オリエント神話には「流れ星より生まれし流星の民は、下界で使命を果たすと夜空を昇り、星の海へ還る」という一文がある。


【綿花畑】

作中世界には品種改良で6~8月に収穫可能となった木綿が存在し、アメリカでは従来の品種(9~11月)と一緒に栽培することで、収穫量増加や疫病発生時のリスク軽減といったメリットを享受している。

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