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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-61】スレイ、特攻

 戦場が核の炎に包まれた時、爆心地に最も近かったゲイル隊の3人は何を思ったのか――。

運命の午前5時48分から少しだけ時間を巻き戻し、彼女らの戦闘記録を確認してみよう。


 奇妙な巡航ミサイルの相手をスレイに任せ、セシルとアヤネルは西の空より飛来する敵増援へ狙いを定める。

スレイが目標を仕留めるまでの間、少しでも時間稼ぎを行うためだ。

「1人1機ずつだな、ゲイル3。あいつらは私たちで食い止めるぞ」

「分かっている、隊長。頭数が同じならコンビネーションはこっちが上だ」

敵増援の情報は2機のサキモリであること以外不明だが、ゲイル隊はこれまで戦ってきたあらゆる相手に対し引き分け以上の戦績を保っている。

完全勝利を収められるかはともかく、少なくとも敗北はあり得ないとセシルは確信していた。


「敵機接近……! 一撃で仕留めるつもりでやれ!」

「ゲイル3、了解!」

現在装備している武装の中で最も長射程なマイクロミサイルの間合いまではあと少し。

「ゲイル1、シュートッ!」

「ゲイル3、シュート!」

ミサイルのシーカーが敵機を捉え、ロックオン完了を知らせる電子音が聞こえてきた瞬間、セシルとアヤネルはほぼ同時に操縦桿の兵装発射ボタンを押す。

2機の蒼いMFから放たれた大量のマイクロミサイルは濃密な弾幕を形成し、2機のサキモリ――ツクヨミ指揮官仕様へと襲い掛かる。


 マイクロミサイルの弾幕は簡単には抜けられないほどの密度だったはずだが、2機のツクヨミは防御兵装を使用しながらセシルたちの上へと逃げていく。

反撃を考慮した回避運動を当然のように行うあたり、このツクヨミを駆るエイシたちはそれなりに実力者らしい。

「(こいつらの正確性を突き詰めたマニューバ……最近見た気がするな)」

敵機に背後を取らせないよう動きつつ、その空戦機動を注意深く観察していたセシルは既視感を覚える。

彼女の記憶が正しければ、つい最近戦った相手――印象に残っているエースかもしれなかった。


「赤い縁取りの肩部装甲に、例の部隊章――こいつ、ドラゴン撃墜作戦の時に私たちに負けた奴か!?」

アヤネルはそのツクヨミのカラーリングに見覚えがあった。

レーザーライフルの照準に収めても、鋭いマニューバでするりと抜けていくツクヨミ指揮官仕様。

重そうなブースターポッドを尻からぶら下げているとは思えないほど、良い動きをしている。

でも、ドラゴン撃墜作戦の前哨戦で交戦した時はボコボコにしてやったような……。

「……そう、その通り。地獄へと叩き落とされた私は、復讐の炎によって甦ったのさ!」

彼女の疑問へ答えるようにオープンチャンネルの無線で誰かが語り掛けてくる。

聞き慣れた地球の言語ではない。

「誰だ、お前は!? 赤い肩の機体に乗ってる奴なのか!?」

至極当然な反応を見せるアヤネルに対し、赤い肩のツクヨミのエイシ――ハヅキ・アカネはこう答えるのであった。

「同胞たちを……私の部下と帰る場所を全て奪った貴様らの罪を清算してもらうぞ、『蒼い悪魔』め!」


「(正確な射撃でこちらの精神を削ってくる……あの機体のドライバー、ただ者ではなさそうか)」

そこまで追い込まれているわけではなかったが、自機を掠めていく精密射撃にセシルがプレッシャーを感じていたのは事実だ。

彼女のオーディールと戦っているツクヨミは常に一定の間合いを維持し、長銃身光線銃による遠距離攻撃を仕掛けてくる。

セシル並みの動体視力ならある程度余裕を持ってかわせるとはいえ、一方的に攻撃され続けるのはあまり気持ちいいモノではない。


「(もうそろそろ、反撃に打って出たいところだが……ん?)」

どうにかして得意な接近戦へ持ち込む方法を考えていたその時、彼女はツクヨミの断続的な攻撃が急に止んだことに気付く。

敵機の方をよく見ると、マニピュレータで長銃身光線銃のマガジンを交換している姿が確認できた。

さすがにリロードを行っている間は発砲できないらしい。

「(よし、今なら間合いを詰められる! この機は逃さん!)」

これを好機と捉えたセシルはすぐに愛機オーディールMを加速させ、リロード作業中のツクヨミへ一気に肉薄。

既に武装を使い切っていたG-BOOSTERをパージし、分離した増加装甲で撹乱を行いつつビームソード二刀流による強襲攻撃を仕掛けるのだった。


 長銃身光線銃を使いこなすツクヨミ指揮官仕様のエイシ――ミナヅキ・ニレイは「蒼い悪魔」の強襲を見るや否かや、すぐにリロード作業を中止。

まだまだ使用可能であった光線銃をあえて放り投げ、その間に回避運動を試みる。

不毛な執着は破滅を招く――ルナサリアンの間では有名な「コトワザ」の一つだ。

サキモリの装備など失くしたらまた造り直せばいいのである。

「ッ! 邪魔ッ!」

そう叫びながら光線銃をビームシールドバッシュで弾くセシルだったが、その隙にせっかく詰めた間合いを離されてしまった。

しかし、彼女の黒い瞳は敵機の姿――肩部装甲を白く縁取ったツクヨミの機影をまだ捉えている。

先ほど投棄した物とは異なる、標準的な光線銃を構えているところを見る限り、ニレイは格闘戦をやるつもりは毛頭無いらしい。

「(こいつ……チューレやエドモントンで戦ったスナイパーか!)」

自らに向けられた光線銃の銃口――。

その視線に気が付いた時、セシルは戦っている相手が抱く憎悪を察したのである。


 別にセシルは人の心を読める超能力者ではない。

だが、MFドライバーになってからは同じ人間から地球外生命体に至るまで、様々な相手と戦ってきたのだ。

武器の向け方で相手の感情をある程度予想することぐらいはできる。

「お前と剣を交えるのはエドモントン以来か。相変わらず良い腕をしているようだが……心が黒く染まっていてはな!」

オープンチャンネルで忠告も兼ねてこう呼び掛けた後、スロットルペダルを踏み込み今度こそ一刀両断を狙うセシル。

何より、「憎しみで戦う者には絶対負けない」という自信が彼女にはある。

「『蒼い悪魔』……我々月の民の命を踏みにじる、不俱戴天(ふぐたいてん)の敵!」

一方、かつて大切な部下を奪った怨敵に対し光線銃の銃口を突き付ける、ニレイのツクヨミ指揮官仕様。

ゲイル隊の面々が「戦場で最も多くのルナサリアンを殺した」という公式記録は、どう取り繕っても否定しようのない事実であった。


 セシルとアヤネルが一度倒した相手との再戦に臨んでいた頃、スレイは最も重要な攻撃目標――巡航ミサイルの撃墜に躍起になっていた。

「(くッ、また外した! まるでこっちの心を読んでいるみたいな回避運動……!)」

誘導性能に優れるマイクロミサイルを使い果たしてしまい、相手の無茶苦茶な回避性能に顔をしかめるスレイ。

より長射程な空対空ミサイルは第2波を処理する時に使ってしまったため、ここからは無誘導のレーザーライフルで戦うしかない。

「巡航ミサイルの戦闘空域離脱まであと30マイルを切った! 急げ、ゲイル2! このままじゃ間に合わんぞ!」

「そんなこと言われるまでも無いわ! 自分がしていることぐらい分かってるから、今は放っておいて!」

急かしてくるポラリスを少し黙らせ、彼が静かになったところでスレイは改めて照準へと集中する。


 先ほどアヤネルが送信してくれた貴重なデータによると、例のバケモノミサイルは方向転換時に僅かながら動きが鈍くなるらしい。

闇雲に攻撃を仕掛けても命中率には期待できない以上、必中を期すなら方向転換の瞬間を狙うしかない。

「(ライフルの弾数は残り8発……予備のマガジンが無いから、これを使い切ったら終わりね)」

HISに表示されている武器情報を確認し、自らが置かれている状況の厳しさを痛感するスレイ。

オーディール系列機が装備しているレーザーライフル「ストロール・ML-R18S」の装弾数は16発。

いつもは予備マガシン3~4個を腰部ハードポイントに装着するため、実質的な弾数はその分だけ増える。

だが、今回のスレイ機は各種ミサイルの搭載に限られたペイロードを割いており、予備マガシンを積む余裕が無かったのだ。

8発の残弾を使い切ってしまった場合、彼女の機体に残されるのは射程が短い武装ばかりとなる。

……もしかしたら、覚悟を決める時が来たのかもしれない。


「そこッ! ゲイル2、ファイアッ! ファイアッ!」

巡航ミサイルがプログラム通りに方向転換しようとした瞬間を狙い、時間差攻撃を仕掛けるスレイのオーディール。

弾を残したまま終わるぐらいなら――という思いから、1回の攻撃チャンスで2発使用するという大盤振る舞いを見せる。

1発はミサイルの弾頭部分、もう1発は未来位置に狙いを定めていた。

「照準器がズレてる……いや、私の狙いがまだ甘いというの!?」

だが、そう簡単にスレイの攻撃が当たるのなら、彼女よりも射撃の上手いアヤネルが先に落としているであろう。

レーザーライフルから放たれた蒼い光線は巡航ミサイルを掠め、そのまま大気中へと拡散してしまったのだ。


 その後もスレイは諦めること無く攻撃を続けていたが、結果はあまり芳しくなかった。

操縦桿のトリガーを引いてもレーザーが発射されない。

「(8発撃って命中弾無しとは、我ながら酷い結果ね……!)」

HISに表示される「LASER RIFLE:EMPTY」という非情な文字。

射撃技術の悪さをスレイは自嘲する。

念のためにフォローしておくと、別に彼女が致命的にヘタクソなわけではない。

ただ、巡航ミサイルがバケモノ染みた運動性を持っているだけである。

「阻止限界まで残り10マイル! このままじゃマズいぞ、本当に間に合うんだろうな!?」

普段冷静なポラリスもさすがに焦りの色を見せている。

しかし、スレイのほうは彼女自身が驚くほど落ち着き払っていた。


「間に合わせなきゃダメなんでしょ? だったら……体当たりしてでも止めないと!」

「何だって……!? 待て、早まるなゲイル2! スレイ、もう一度考え――!」

通信回線を完全にシャットアウトし、狭いコックピットの中で深呼吸をするスレイ。

死に対する恐怖を少しでも和らげるためであるが、本当に効果的かは分からない。

「(死ぬのが怖いかなんて分からないわ。だって、死人から感想を聞き出すことはできないもの)」

そして、彼女は出撃前にミキに教えてもらった「隠しコマンド」をHISへと入力する。

その効果はオーディールに設定されている荷重制限の解除――そう、所謂「G-FREE」と呼ばれるものだ。

「(私にはセシル隊長やアヤネルほどの操縦技量は無い……だから、自分の命をぶつけるつもりで行くしかないんだッ!)」


 試しにいつもの感覚でスロットルペダルを踏み込んだところ、リミッター作動時とは比べ物にならないほどのGがスレイの身体へ重く圧し掛かる。

「(ぐっ……うぅ……! でも……このスピードなら追い付ける!)」

巡航ミサイルは運動性に加えて速度性能もそれなりに高く、追い掛ける側は失速を最小限に抑えないと引き離されることすらあった。

だが、リミッターから解き放たれた蒼いMFは一味も二味も違う。

加速力も旋回性能も大きく跳ね上がるため、見る見るうちに相手との距離を詰めていけるのだ。

手を伸ばせばバケモノミサイルの尾部に(さわ)れるかもしれない――。

それはさすがに大袈裟かもしれないが、スレイのオーディールは巡航ミサイルを完全にロックオンしていた。

もう何も怖くない。

彼女はスロットルペダルを限界まで踏み切り、全身全霊を懸けた特攻を仕掛ける。

「もう少し……これでッ――!!」


 蒼いMFと巡航ミサイルが暁の空で交錯する。

両者が流れ星になった直後、夜明けの太陽よりも眩しい「破滅の光」が戦場を照らすのであった。

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