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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-59】矢は放たれた(中編)

 最後の巡航ミサイルを懸命に追い掛けるゲイル隊とブフェーラ隊。

彼女らの前を飛ぶのは一見するとお馴染みの「トマホークⅡ」だが、その挙動は大きく異なるものであった。

「こいつ、巡航ミサイルのくせによく動き回るな。地味に狙い辛い……!」

ここぞというタイミングで放たれたアヤネル機のレーザーを、驚異的な回避運動でかわしていく巡航ミサイル。

一応フォローしておくが、アヤネルの射撃技術はセシルと同等以上である。

そのアヤネルが攻撃を外したということは、やはりミサイルの運動性が常軌を逸しているのだろう。


「おい、ポラリス! 本当にただの巡航ミサイルなのか!?」

「そんなことを言っている場合じゃないぞ、ゲイル1! 方位1-3-2より新たな敵機影を捕捉した!」

目の前のミサイルが「トマホークⅡ」ではないことを勘付き始めたセシルの言葉を退(しりぞ)け、ポラリスは逆に敵増援の襲来を彼女へと知らせる。

一丁前に回避運動を行う巡航ミサイルが連続で飛来したら、セシルたちの実力でも厳しいかもしれない。

「我が軍の識別信号とは違う――だとしたら、ルナサリアンの航空戦力か! 巡航ミサイルを護衛する腹積もりらしい!」

識別信号の解析を終えたポラリスは思わず顔をしかめる。

敵増援の正体は巡航ミサイル第4波ではなかったが、下手したらそれよりも遥かに厄介な相手――ルナサリアンの有人機であった。


 セシルたちが採れる選択肢は二つ。

プランAは敵増援を無視し6機でバケモノミサイル撃墜に全力を尽くす。

そして、プランBは戦力を分割し敵増援もついでに叩く作戦だ。

どっちのやり方も一長一短だが、ゲイル隊及びブフェーラ隊の面々が選んだのは……。

「セシル、増援部隊の相手は私たちに任せてくれ!」

「やってくれるか、リリス?」

「ああ、お前たちがミサイルをやるまでの時間稼ぎぐらいはね!」

高い回避力を持つとはいえ、所詮はプログラム通りに飛ぶ存在――。

そのような相手にゲイル隊が苦戦するとは思えないため、リリスは自分たちブフェーラ隊で敵増援の目を惹き付ける「プランB」を提案したのだ。


 リリスの言い分には一理あるし、何よりも状況判断で一分一秒を無駄にするわけにはいかない。

彼女が自らの意思で「私たちを使え」と進言してくれているのだ。

「頼むぞ、こっちがあのバケモノミサイルを落とせば勝ちだ! だから、無理に相手に付き合う必要は無いぞ!」

親友の覚悟を汲み取ったセシルは、ブフェーラ隊へ敵増援の相手を任せることにした。

「了解! ブフェーラ1より各機、方位1-3-2へ針路を転回! ゲイル隊との面会時間が終わったことを教えてやれ!」

「ブフェーラ2、了解」

「ブフェーラ3、了解!」

リリスの指示に合わせて3機の蒼いMFは南西方向へ反転。

超高速で迫り来る敵増援とのヘッドオン対決に備えるのだった。


 敵増援の迎撃に臨むブフェーラ隊を見送りつつ、ゲイル隊はちょこまかと動き回る巡航ミサイルへ狙いを定める。

「ゲイル1、ファイア! ……チッ、命中せず!」

「ゲイル2、シュートッ! ……外した!?」

セシルとスレイは息を合わせて連携攻撃を行うが、純粋に運動性が高いせいで彼女たちの攻撃は難無くかわされてしまう。

特にスレイ機のマイクロミサイルは良い動きをしていたものの、直撃どころか近接信管が作動する距離まで近付くことすら叶わなかった。

「私に任せろ! ゲイル3、ファイアッ!」

今度は味方機に続くカタチでアヤネルが攻撃態勢に入る。

未来位置を予測しながら敵の姿をレティクルに収め、彼女は操縦桿のトリガーを引く。

これまでの経験から言えば、絶対に命中する感触であったが……。


 蒼いMFから放たれたレーザーは巡航ミサイルの弾頭――の数メートル先を通過し、そのまま大気中に拡散してしまう。

「なッ……!? 狙いは完璧だったのに!」

必中を期した攻撃を惜しいところで外し、思わず悔しさを滲ませるアヤネル。

じつは「回避運動を取ったら当たる」ように狙っていたのだが、今回はその奇策が裏目に出てしまったらしい。

奇を(てら)わず、正攻法で狙い撃つべきだったか――。

彼女がそう後悔しても結果は変わらない。

ビデオゲームならリセットやリワインド機能でやり直せるし、フィクションには「時間を巻き戻す能力」を持つキャラクターだって大勢いる。

しかし、アヤネルたちが生きているのは「現実世界」である。

一度決定された結果を覆す方法など無い。

だが、「巡航ミサイルを落とせない」と決めつけるのはまだ早かった。


「ゲイル3、しつこく攻撃しろ! ノーアタック・ノーチャンスの精神だ! 阻止限界へ逃げられる前に落とせばいい!」

再攻撃を試みるアヤネルに対し、セシルからの指示が飛ぶ。

隊長に言われるまでもない。

アヤネルはもう一度擬似スコープを覗き込み、巡航ミサイルの行動パターンを分析する。

「(RCモデルにしちゃ、随分と物騒なシロモノだよな……!)」

誰かが遠隔操作しているんじゃないかと思うほど見事な回避運動だが、必ずどこかに「穴」があるはずだ。

それを見つけることができれば……!

「ゲイル隊、新たな敵増援を捕捉した! 方位2-8-1、お前たちのすぐ近くだ!」

その時、ポラリスによる通信とほぼ同時に新たな敵影がレーダーディスプレイ上へ浮かび上がる。

やはり、この作戦に戦況逆転を懸けているルナサリアンは、何重にも亘る「こんなこともあろうかと」を仕込んでいるようであった。


 再び困難な選択に直面するゲイル隊。

敵増援を片付けるか、それとも完全無視を決め込むか――。

おそらく、ここでの判断が作戦成功の分かれ目となるだろう。

最終決断は隊長であるセシルに託された。

「あの敵増援は粘着質に纏わり付いてくるタイプと見た。アヤネル、お前は私と一緒に奴らを惹き付けるぞ」

「ミサイルの処理はスレイに任せるんですか、隊長?」

彼女は技量が高い自身とアヤネルで敵有人機を相手取りたいと考えていた。

だが、肝心のアヤネルは隊長の指示に不満があるらしい。

「精密射撃なら私のほうが――」

「次の一発で仕留めろ。それで無理だったら私の命令に従え」

セシルから返ってきたのは意外な答えであった。

そんなに自己評価が高いのなら、それに見合った結果を出せ――と言いたいのだろう。

「――了解、確実に狙い撃ってやりますよ!」

そう返しながら目の前を飛ぶ巡航ミサイルの動きに集中。

天啓が舞い降りた瞬間、アヤネルは絶対的自信を持って操縦桿のトリガーを引く。


 この攻撃は良い! さっきよりも手応えがある――!

しかし……。

「ッ! 外したッ!? 完璧な狙撃だったはずだ!」

アヤネルは思わず自分の目を疑った。

機体がファイター形態固定なので足を止めての射撃ができないとはいえ、彼女の照準には寸分の狂いも無かった。

普通の敵なら撃ち抜けていたはずだ。

普通の敵ならば……!

「分かったか、アヤネル。それが今のお前の実力だ。約束通り、私の判断に従ってもらうぞ。これ以上反抗するつもりなら、始末書どころでは済まさんと思え」

有言実行を果たせなかった部下に対し、厳しい言葉を容赦無くぶつけるセシル。

そして、6月1日に25歳になったばかりの若者とはいえ、アヤネルもここで言い争うほど子どもではない。

何より、射撃技術の未熟さは他ならぬ彼女が最も自覚していた。


「よーく分かりましたよ、隊長。あなたの指示通り、美味しいところはスレイに任せます」

巡航ミサイルの追尾を諦めたアヤネルは戦闘で得たデータをスレイ機へ転送し、自らは敵増援と相対できるように針路を変える。

スレイ一人に任せるの少々不安だったが、彼女はああ見えてやる時はやる女だ。

おそらく、セシルはそれを見越したうえで散開させるつもりだったのだろう。

「スレイ、お前に大物を譲ってやったんだ。ヘマするんじゃないぞ」

「ええ……! 巡航ミサイルによる首都攻撃で味を占めたら、本当に歯止めが利かなくなるわ!」

決意に満たされている僚友の言葉に安堵したのか、機体を軽く振りながら隊長機と共に飛び去って行くアヤネルのオーディールM。

「(失敗の許されない大仕事を任されるのは怖い……だけど、私は弱音を吐けない仕事に就いているんだ! いざとなったら、体当たりをしてでも止めてみせる!)」


 ここから先は僚機には頼れない。

自らの働きぶりが作戦の結末――ワシントンD.C.が滅ぶか否かに直結する。

「(行こう……私のオーディール!)」

これまでの人生で最大のプレッシャーに押し潰されないよう、スレイは思い切りスロットルペダルを踏み抜くのだった。

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