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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-44】魂無き翼(前編)

 空の向こうから所属不明機の大群が姿を現す。

「素早い!? 一気に距離を詰められたぞ!」

「三日月のマークだ……こいつら、ルナサリアンの機体か!」

ルナサリアン所属と思わしき戦闘機たちは驚異的なスピードで空軍州兵のF-22Aとすれ違った後、ポストストールマニューバの一つ「クルビット」を用いて彼らの真後ろに張り付く。

有人戦闘機では考えられない、まるでパイロットの安全を捨て去ったかのような運動性だ。

……いや、本当に中の人はいるのだろうか?


「ケツにつかれた! クソッ、ラプターの運動性でも振り切れねえのかよ!?」

複雑な三次元運動で敵機を引き離そうとするF-22Aのパイロット。

だが、ルナサリアンの新型戦闘機は極めて正確な動きで追従し、獲物へ確実に喰らい付いていた。

「助けてやりたいが……ダメだ、俺もアンノウンに追われている!」

「戦闘機のわりには小柄な機体だな。あれのどこに人を乗せるってんだ」

謎の戦闘機のサイズはF-22Aの3分の2程度に収まっているうえ、コックピットだと一目で分かる部位が確認できない。

むしろ、人が乗るスペースを切り捨てた設計にも見える。

「ゲイル隊、後ろのヤツを追い払ってくれ!」

「こちらゲイル1、了解。撃ち落とすまで辛抱しろ!」

友軍機にしつこく纏わり付くアンノウンを発見し、セシルは敵機の背後から攻撃チャンスを窺う。

「頼む、ゲイル1! ……いや、落ちる――!」

F-22Aの最期は呆気無かった。

セシルのオーディールが援護位置に就いた瞬間、アンノウンは彼女を嘲笑うかの如くステルス戦闘機にパルスレーザーを浴びせる。

至近距離で集中砲火を受けたF-22Aは一瞬で火の塊となり、パイロットのベイルアウトよりも先に爆発四散していた。


「……血も涙もない無人機にしては、随分と胸糞悪いことができるじゃないか」

セシルはアンノウンの機械的なマニューバに見覚えがあった。

約1か月前に行われた超兵器潜水艦撃沈作戦「モビーディック作戦」。

あの戦いの時、潜水艦が護衛機として射出した無人戦闘機にそっくりなのだ。

外見、挙動、武装――その全てがとにかく似ている。

というより、同型機ないしその発展型としか思えない。

モビーディック作戦後の報告書で無人戦闘機についても触れていたのだが、外部の人間までは伝わっていなかったらしい。

「無人機だと? 中佐、アンノウンのことを知っているのか?」

「ああ、『ノーティラス』と戦った時に相手したことがある。今飛んでいる連中はおそらく無人機だと見た」

モビーディック作戦には参加していなかったフェルナンドに対し、無人戦闘機との戦いについて簡潔に説明するセシル。

しかし、彼はどうも納得がいかないようだ。


「だが、発射母体の潜水艦は中佐たちが沈めたじゃないか。一体どこから飛んで来たというんだ」

確かに、ルナサリアン唯一の無人戦闘機運用プラットフォームと考えられていたノーティラス――正式名称「ナキサワメ」はセシルたちの手で海の藻屑となった。

普通に考えれば占領した飛行場などから飛ばすのだろうが、この一帯はさすがにアメリカが押さえている。

つまり、近場ではなくそこそこ遠い所から飛来してきた可能性が高い。

「とにかく、無人機とは仲良くなれそうにない。戦わなければこちらが殺されるぞ」

人間のタフな心が、魂の無い機械に負けるなどあり得ない――。

スロットルペダルを力強く踏み込み、セシルは無人戦闘機とのドッグファイトを開始するのだった。


「――こちらポラリス、了解しました」

畏まったような受け答えに終始するポラリス。

どうやら、HQと何か大事な話をしているらしい。

「……全機、悪い知らせだ。『ドラゴン』撃墜作戦は失敗に終わった」

それを聞いたパイロット及びドライバーたちの間に衝撃が奔る。

「本当かポラリス!?」

「空を覆い尽くすほどの航空戦力を差し向けたらしいが、それが全滅したのか?」


 アメリカ空軍による渾身の総攻撃は「ドラゴン」が隠し持っていた「謎のバリアフィールド」で(ことごと)く弾かれ、大きなダメージを与えることは叶わなかった。

しかも、「ドラゴン」から発艦してきたエース部隊やパラサイト・ファイターの猛反撃に曝された結果、アメリカ空軍は航空戦力の60%以上を損失してしまう。

生き残っていた部隊による決死の攻撃も空しく、「ドラゴン」攻略は不可能であると判断したHQは撤退を決定。

不確定要素が少なからずあったとはいえ、詳細な分析を怠ったまま強行された航空作戦は、貴重な戦力をやみくもに消耗するだけに終わったのだ。


「全機、HQより撤退命令が下された。繰り返す、全機撤退せよ」

ポラリスは撤退を指示しているが、大量の無人戦闘機が飛び交う状況では困難だと言わざるを得ない。

事実、一度獲物に喰い付いた無人戦闘機は対象が力尽きるまで離れないのだ。

「簡単に言いやがって! こっちは逃げるだけで精一杯なんだぞ!」

F/A-18EやF-22Aといった21世紀レベルの戦闘機ではさすがに分が悪いらしく、懲罰部隊との空戦をこなしていた連中がいとも簡単に落とされていく。

無人戦闘機の行動に迷いなど無かった。

このままでは遅かれ早かれ空軍州兵側は全滅し、運が悪ければオリエント国防空軍側にも被害が及ぶだろう。

「隊長、このまま彼らを見殺しにするつもりですか?」

セシルに対し指示を仰ぎつつ、スレイは既に無人戦闘機との戦いを開始していた。

答えは決まっている。

「いや、無人戦闘機どもの相手は私たちでやる! ゲイル各機、できる限り多くの友軍機を助けるんだ!」

「……ゲイル2、了解!」

「ゲイル3、了解! これ以上犠牲を増やすわけにはいきませんわ!」

ゲイル隊の面々はルナサリアンの無人戦闘機と戦い、そして生還を果たした数少ない戦士たちである。

操縦技量や機体性能も考慮に入れた場合、殿(しんがり)を務めるのに最も適したエース部隊だと言えた。


「プロキオン1よりゲイル隊、俺たちも手を貸すぜ」

大量の無人戦闘機が飛び交う空域に颯爽と駆け付け、見事な一斉射撃で3~4機の敵機を叩き落としていくプロキオン隊。

ゲイル隊だけでは全然手が回らなかったので、1個小隊が増えてくれるだけでも確かにありがたいが……。

「気持ちはありがたいが……無理に付き合わなくてもいいんだぞ」

「どいつもこいつも中佐に頼り過ぎなんだよ。俺たちだって雑魚じゃないんだから……たまには味方を頼ってくれ」

少し離れた距離にいるスターメモリーのコックピットから、フェルナンドらしき人物が手を振っている。

セシルとしては自らの仕事を黙々とこなしているだけだったが、それが人によっては過酷なハードワークに見えたのかもしれない。

おそらく、フェルナンドもその中の一人なのだろう。

そして……。


「ゲイルやプロキオンだけじゃない。O.D.A.F(オーダフ)の力を見せつけてやる」

プロキオン隊とは別の部隊章を纏ったスターメモリーが近付き、ゲイル隊に向けてマニピュレータでハンドサインを送る。

「ゲイル隊について行けば勝てるぞ」

後方に就いてくれたのは3機のスパイラルⅡで構成される、軽空母クルーゼ所属の部隊だ。

「みんな、ゲイル隊を中心に集まれ! 彼女らへ恩返しする時間だ!」

MF部隊だけではない。

F-35EやSF25-Aといった全領域戦闘機を運用する部隊も撤退を拒み、殿として戦うことを選んだのである。

その結果、オリエント国防空軍側は作戦参加中の全機が友軍の撤退支援を行うことになった。

損傷を受け後退した機体も少なくないが、それでも30機以上は戦場に踏みとどまっている。


「O.D.A.Fには仲間を見捨てて撤退する臆病者などいない。みんな、セシル中佐とは一蓮托生で往くつもりなのさ……プロキオン1より各機、ここからが正念場だ!」

フェルナンド率いるプロキオン隊が大編隊から離れ、無人戦闘機と友軍のF-16Vの間に割って入る。

敵機のターゲティングを自分たちへ誘引し、その間に友軍機が逃げる時間を稼ぐつもりらしい。

「行くぞ、一人でも多くの友軍を生き延びさせろ!」

「「了解!」」

他の部隊も各々の判断で無人戦闘機との交戦を開始する。

「……主導権争いに終始する政治屋にも見習ってほしいものだな、お前たちの見事な共同戦線を」

オリエント国防空軍側の通信を聞いていたポラリスもまた、ゲイル隊の行動に突き動かされた男の一人であった。

「ポラリスより空軍州兵全機へ通達。可及的速やかに戦闘空域より離脱せよ。無人戦闘機の相手はオリエント軍の凄腕たちが引き受けてくれる」


「背後を取られた! このままじゃやられる!」

複数の無人戦闘機に追い掛けられるF/A-18Eがいた。

この機体のパイロットはかなり健闘していたものの、傍から見ればいつ撃墜されてもおかしくない状況にある。

「クソッ、引き離せねえ!」

コックピット内に鳴り響くミサイルアラート。

もうダメだと覚悟を決めた時、彼が目にしたのは火を噴きながら落ちる無人戦闘機の姿だった。

「……助かった。あんたがいなかったら俺が落ちていたな」

難を逃れたF/A-18Eの右側を翔け抜ける、一機の大型全領域戦闘機。

その機体――SF25-A スピカの主翼裏面には「雪の結晶」が描かれていた。

見間違えるはずが無い、あれはオリエント国防空軍の国籍マークである。

「気にしないで。好きで人助けをしているだけだから」

SF25-Aの女性パイロットはそう告げると、別の友軍機を助けるために飛び去っていく。

「(ゲイル以外にも腕の良い奴らがいるのか。俺もあれぐらい手早く落としたいが……)」

F/A-18Eよりも一回り大柄な機体でありながら、無人機に喰らい付けるほどの運動性を誇るSF25-A。

最新鋭全領域戦闘機(スターファイター)の姿を「スーパーホーネット乗り」は羨ましげに見送っていた。


「ゴブリン1よりポラリス、我が隊は戦闘空域を離脱する。オリエント軍の連中に感謝すると伝えておいてくれ」

「こちらグレムリン4、戦闘空域外へ到達した。ウチの隊長がまだ戦っているはずだ……彼のことを頼む」

オリエント国防空軍が敵機をある程度減らしたおかげで空軍州兵側の撤退ペースが上がり、無事に離脱できたという報告がポラリスを介して伝わって来る。

「ゴブリン隊とグレムリン4、計5機の離脱を確認。ポラリスよりオリエント軍、残るアメリカ軍機は13機だ。できる限り多くの友軍を逃がしてやってくれ!」

かなりの数を撤退させたとはいえ、レーダー上にはまだアメリカ軍機の反応が10機以上残っている。

彼らを援護し、無事に基地へ帰すのがオリエント国防空軍の闘いだ。


 祖国から遠く離れた場所にある、荒涼とした大地。

一人でも多くの友軍を救うため、雪国生まれの戦士たちはモニュメント・バレーの空を翔け抜ける。

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