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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-41】EMANCIPATION

 栖歴2132年5月15日、ついにエドモントンは解放される。

だが……それを果たすために数え切れない屍が築かれたのも事実だ。

ルナサリアンの防衛戦闘や焦土作戦は地球側を大いに苦しめ、投入された戦力のうち無事に生還した将兵は6割程度であった。

特に損害が大きかったのがアメリカ軍であり、カルガリー方面に展開していた戦力はほぼ全滅。

グリーンベレーやデルタフォースといった精鋭特殊部隊も壊滅的なダメージを受け、今後は州兵の動員による戦力補充も検討されているという。


 全ての戦闘が終結し、通信システムの復旧及び本格的な救助活動が始まったことで被害の全貌が明らかになる。

エドモントンの大通りに並べられた、おびただしい数の遺体袋。

これに入っているのは戦死した兵士ばかりではない。

むしろ、焦土作戦の犠牲になった一般市民が大多数を占めていた。

「一般人と思われる遺体を回収した。ここに置いておくぞ」

「了解、あんたたちはしばらく休憩に入ってくれ。焼死体ばかり運ぶのは気が滅入るだろう」

「ありがてえ、感覚が麻痺してきたところだった」

彼らは戦闘後の後始末のために本土から招集された、アメリカ陸軍州兵の予備役たち。

クタクタに疲れ果てた現役軍人たちを休ませるため、ある意味では最もキツイ任務を代わりに担当することとなった。

「(これは……兄弟? 身を寄せ合ったまま焼け死んだのか)」

遺体の状態を確認した軍医は思わず顔をしかめる。

先ほどの兵士たちは大人1人だと思っていたようだが、厳密には子ども2人の遺体が高熱でくっ付いてしまったらしい。

人間が溶接されてしまうほどの火災――。

その光景が地獄であったことは容易に想像できる。

「(結局、戦禍に苦しむのはいつの時代も一般市民……か)」

夜明けを迎えたばかりの空を見上げる軍医。

彼の視線の先には蒼白い月――侵略者たちの祖国が薄っすらと浮かんでいた。


 オリエント国防軍の損害はアメリカ軍及びカナダ軍に比べればマシだったが、高価なオーディールを2機も失うなど、チューレの戦いを上回るダメージを受けたのは紛れも無い事実だ。

特に、エース部隊であるブフェーラ隊は開戦以来初めて人員及び機材に損失を出し、補充を行わなければ次の作戦には参加できない可能性が高い。

機材に関しては使用可能な予備機が残っているものの、問題はその予備機を使うはずだった人員――アーダ・アグスタの後任である。

戦死した彼女の代わりとなるドライバーは既に確保しているが……。

「シートポジションはどうだい? 一応、お前が乗っていたスターメモリーと同じ位置に調整済みだ」

「うん、感覚的にはスターメモリーと変わらないね。後は実際に動かしながら微調整していかないと」

新たなブフェーラ3として数名のドライバーが候補に上がる中、最終的に白羽の矢が立った人物はヴァイル・リッター。

純粋な操縦技量や協調性はもちろん、決め手となったのはリリスの親友セシルによる進言だった。

彼女曰く「ヴァイルの度胸は凄いぞ。生き残って場数を踏めば、私たちと遜色無い実力になれる」とのことなので、思い切ってヴァイルの上官と直接交渉を行い、本人を交えた話し合いの末に引き抜きを認めさせたのだ。

なお、これに伴いヴァイルが率いていたエリダヌス隊は解散。

2人の隊員はブフェーラ隊と同じく欠員が生じた部隊へ異動することになる。


 エドモントン解放作戦の翌日、オリエント国防海軍第8艦隊指揮下に属するエース部隊の隊長たちが、正規空母「アカツキ」のブリーフィングルームに集合していた。

招集されたのはプロキオン1、デアデビル1――そして、リリス(ブフェーラ1)とセシル(ゲイル1)である。

ちなみに、この中にアカツキを母艦とするドライバーは一人もいない。

「なあ、みんな聞いたか?」

「何の話だ?」

突然そう尋ねてくるプロキオン1に対し、至極当然な反応を示すセシル。

「昨日の謎の戦略兵器のことだよ、中佐。技術士官たちが早くもアレの解析に成功したらしい」

「なるほど、技術者連中が忙しそうにしていたのはそれか」

命からがら帰艦した直後のことを思い出す。

報告書の提出やアヤネルの出迎えを終えたセシルはそのまま寝てしまったのだが、徹夜直後にもかかわらず通路が騒がしかったのは覚えている。

「……その報告を今から行うというわけね」

物静かに小説を読んでいたデアデビル1が納得したように頷く。

「んで、私たちには『ルナサリアンの新兵器を破壊しろ』という任務が与えられるのさ」

セシルの隣に座るリリスが「やれやれ」と肩をすくめた時、ブリーフィングルームに一人の女性士官――コーデリア大佐が入室して来る。

「諸君、休暇を与えたいのはやまやまだが申し訳ない。これより、昨日確認された敵戦略兵器に関する臨時報告を行う」

そう言いながらコーデリアは自身のタブレットとHIS表示装置を接続し、敵戦略兵器の予想図を立体映像として投影するのだった。


 エドモントンとカルガリーを地獄の業火で焼き尽くした、ルナサリアンの新型戦略兵器には「アポローン」という地球側共通のコードネームが与えられた。

当初は核弾頭を搭載する巡航ミサイルとさえ言われていたが、戦闘終結後の調査で放射能が検出されることは無かったため、使用されたのは非汚染大量広域破壊兵器――通称「N.O.M.A.D(ノーマッド)」であると結論付けられている。

ただし、犠牲者の遺体の損傷状態からN.O.M.A.Dの中でも極めて強力な「サーモバリック爆薬」の原理を用いていると考えられており、攻撃を受けた際の被害は核兵器とあまり変わらない。

違いがあるとすれば、放射能汚染が発生するか否かぐらいだろう。

……つまり、今回のような焦土作戦に用いられたら、核が落とされるのと同等の大惨事を招くというわけだ。


 しかも、「アポローン」には特徴的且つ厄介な能力がもう一つ確認されている。

戦闘中に地球側を悩ませた広域的な通信障害。

あれは内部に収められた超小型ジャミング装置と信管作動時の電磁波放射が原因だったらしい。

弾着前に通信及びレーダー機能を麻痺させることで敵を混乱させ、そこへ核弾頭並みの強烈な一撃を叩き込んで全てを消滅させる――。

この悪魔の戦略兵器がどれだけ配備されているかは分からないが、野放しにしたらいずれ戦争は終わってしまう。

……地球側の敗北という結末で。

今すぐにでも手を打ち、これ以上の発射は食い止めなければならない。

さもなければ、地球上の全ての都市がエドモントンと同じ末路を歩み、将兵たちは帰る場所を失うことになるだろう。


「ルナサリアンめ、通常兵器だけでなく戦略兵器も準備万端というワケかよ」

「アポローン」の資料に目を通していたプロキオン1が忌々しげに呟く。

緒戦のコロニー落としに炸裂弾頭ミサイル、そして今回のサーモバリック巡航ミサイル。

戦略兵器の大盤振る舞いには呆れるどころか感心さえ覚えていた。

「しかし、ルナサリアンの目的は『地球侵略』だったはず。彼女らの軍事行動は侵略というより大規模な『破壊活動』に見える」

リリスが指摘した通り、ルナサリアンの地球侵略の主な動機は「地球の植民地化」であったはずだ。

植民地化が主目的なのであれば、占領した地球上の都市へ自国民を移住させるのが最も効率的だろう。

にも関わらず、彼女らは既に完成されている都市を跡形も無く吹き飛ばした。

そもそも、植民地が欲しければスペースコロニーを建造すればいいのに、どうして戦争という危険な賭けに出たのか。

「……それも気になるが、今優先すべきなのは『アポローン』の対策だ。戦闘の度にアレを使われたら、命が幾つあっても足りんぞ」

敵の頭の中よりも超兵器の対策方法が気になっているセシル。

ルナサリアンがどういう意図で侵略戦争を仕掛けてくるかなど、今はどうでもいい。

自分たちの命を――この星の人々を守るため、戦うしか生き残る道は無いのだ。


「『アポローン』の発射方式についてだが、カルガリーの地獄を生き延びた兵士やアメリカ軍無人偵察機が情報を手に入れている。これを見てくれ――」

コーデリアが手元のタブレットを操作すると、立体映像がアポローンから謎の超巨大航空機へと切り替わる。

それだけなら「ルナサリアンの新たな超兵器」程度で済むのだが、MF部隊の隊長たちがざわつくのには別の理由があった。

「おいおい、デカすぎやしないか!? 比較対象のB-52が小さく見えるぞ!」

超巨大航空機とアメリカ軍戦略爆撃機「B-52K ストラトフォートレス」の3Dモデルを見比べながら声を上げるプロキオン1。

全長約48mのB-52Kに対し、超巨大航空機はどう見ても6~7倍の長さとそれに相応しい翼幅があるように思えた。

「フェルナンド大尉、これは実物に近いサイズ差で描かれている。いやはや、私も初めて見た時は目を疑ったがな……」

「勘弁してくれよ、こんなバケモノを俺たちMF乗りで相手しろと?」

プロキオン1――フェルナンド・サインツ大尉は「マジかよ」と言わんばかりに両手を挙げる。

一度超兵器と戦い勝利を収めたことがあるセシルはともかく、リリスやデアデビル1もフェルナンドに同調するような反応を示していた。


「コーデリア大佐、この空中要塞が『アポローン』の発射プラットフォームであることは確かなのか?」

他の3人が超巨大航空機のサイズについて話している中、セシルは冷静沈着にコーデリアへと質問を投げ掛ける。

「ああ、信頼性の高い情報だ。ちなみに、軍上層部は超巨大航空機に対し『ドラゴン』というコードネームを与えている。今後はその名前で呼んでもらえるとありがたい」

「了解した、大佐。しかし……『ドラゴン』は超弩級戦艦並みの巨体だが、どうして早期発見ができなかったんだ?」

セシルが疑問に思うのも無理はない。

ドラゴンはステルス性を優先した機体形状とは言い難く、巨大さも相俟ってレーダー反射断面積(RCS)は極めて大きいはずだ。

RCSの大きさはそれだけレーダーに捕捉されやすいことを意味しており、普通なら飛んでいるだけで存在がバレてしまうだろう。

……もちろん、ルナサリアンの超兵器は多かれ少なかれ「普通」じゃないのだが。


 セシルたちの疑問に対し、コーデリアはアメリカ軍のとある資料を提示することで答えた。

立体映像に投影されているのはアメリカ本土の高解像度な地図。

地図の欄外には英語で「3/1~5/15における国内のレーダーサイト喪失状況」と書かれている。

「理由は3つある。まず、この再現アニメーションを見れば分かると思うが、開戦から約2か月の間でアメリカ本土にあるレーダーサイトの8割が破壊ないし機能不全に陥ったこと」

右上に表示されている日付が進んでいくに従い、レーダーサイトの位置を示すマークに赤い×印が付けられていく。

5/15――作戦終了直後の時点でアメリカ本土は×印に覆い尽くされていた。

ハワイやアラスカにはあまり×印が付いていないが、これは戦略的価値が低いから見逃されたのだろう。


「そして、軌道上に浮かぶ情報偵察衛星の約半数がハッキング攻撃で使えなくなった。それで機能不全にされるだけならともかく、問題は一部の衛星がルナサリアンの手に落ちてしまったことだ」

立体映像をアメリカ軍が運用する軍事衛星の一覧表に切り替えるコーデリア。

地球を模した球体の周りを小さな衛星が飛び回っており、軌道や分布が直感的に分かるようになっている。

その中には×印を付けられている衛星が多数存在し、これらが開戦後にアメリカ軍の手を離れてしまった物らしい。

「言うまでも無いが、現代の戦争とは情報戦である。ルナサリアンにとってもそれは同じらしく、敵国の衛星を奪い取るという戦略を採ってきた。相手の情報収集能力を削ぎつつ、そっくりそのまま自分たちのモノにできる――アメリカ軍にとってはいい迷惑だがな」

同情するように肩をすくめると、コーデリアは立体映像を再び「ドラゴン」の三面図へ戻す。

「3つ目の理由は『ドラゴン』に起因するものだ。どうやら、こいつには極めて強力な電波妨害装置が搭載されているらしい。まあ……こればかりは実際に戦って確かめる必要があるが」

実際に戦って確かめる――。

それを聞いたセシルたちの表情が一層引き締まり、ブリーフィングルームに緊張感を漂わせる。

「諸君、落ち着いてくれ。我々にはルナサリアン以外にも倒すべき敵がいるだろう――セシル中佐、貴官なら分かるはずだ」

「ホワイトウォーターUSA……か。スターライガがいよいよ総攻撃を仕掛けるらしいな」


 セシルたちがルナサリアンと戦っている間、スターライガはWUSA(ウユーザ)の補給基地や本拠地を探り出し、苛烈な強襲攻撃を以ってこれらを壊滅させていた。

そして、グランド・キャニオン国立公園へ逃げ込んだWUSAの息の根を止めるべく、5日後の5月21日にスターライガ含むオリエント連邦系プライベーターによる合同作戦「ラストリゾート作戦」が決行されるらしい。

当然、オリエント国防軍に対しても協力要請が寄せられており、同じ北アメリカで活動中の第8艦隊がこれに応じることとなった。

アメリカ軍内部にさえ深く入り込んでいるWUSAは見た目以上の戦力を有しているため、オリエント国防軍がスターライガのバックアップを行うのである。

現時点で行動可能な戦力をほぼ全て動員し、アメリカ空軍と共に戦闘空域の制空権確保に努めるのが第8艦隊の役目だ。

一方、アメリカ空軍の別働隊はラストリゾート作戦に合わせて「ドラゴン」撃墜作戦を実行。

WUSAと水面下で協力関係を結ぶルナサリアンが「ドラゴン」を援軍として向かわせることは、地球側の偵察活動で既に判明しており、相手が現れたところを叩くという作戦になる。

詳細なブリーフィングに関しては、いつも通り出撃前に行われるであろう。


 約1時間に亘るブリーフィングがようやく終わり、コーデリアはタブレットとHIS表示装置の接続を解除する。

座りっぱなしで疲れているのか、MF部隊の隊長たちは各々が身体を(ほぐ)そうと首や肩を回していた。

「ルナサリアンの超兵器について散々説明しておいて何だが、我々が参加するのはWUSAとの最終決戦だ。もっとも……アメリカ軍がしくじった場合、次は諸君らが『ドラゴン』と戦うハメになるだろう」

オリエント国防軍人の大半は「自分たちのほうがアメリカ軍よりも強い」と思っているが、上級将校のコーデリアもその(たぐい)らしい。

「詳細な作戦内容は暗号通信で各艦へ送っておく。諸君らは万全のコンディションで作戦に臨めるよう、今はゆっくりと身体を休ませてくれ。以上……解散!」

ブリーフィングからようやく解放され、使用した部屋の後片付けを始めるセシルたち。

「期待しているよ、セシル中佐。君たちがいればきっと勝てる……総司令部は楽観的だよ」

背筋を伸ばしていたセシルの左肩をポンっと叩き、笑顔でブリーフィングルームを後にするコーデリア。

「期待……か。次の作戦もかなりハードなものになりそうだがな」

「ええ……しかも、ウチの隊は再編が間に合わないかもしれない」

上官の後ろ姿を見送りながら、セシルは親友リリスに対して本音を漏らすのだった。

【N.O.M.A.D】

北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)との混同を避けるためか、現場ではあまり用いられない言葉だったりする。

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