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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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エピローグ

 過去から今、未来へと――。

夜の闇を照らせ灯火。

希望の数だけ朝が来る。

 2132年9月30日――。

この日、ルナサリアンと地球側各国との間で正式な停戦協定が結ばれ、約半年間に及ぶ戦争は終わった。

ルナサリアンは今後数年間に亘り主権を制限されつつ戦後賠償にも務めなければならないが、フユヅキ・ヨルハの下で再編された暫定政府ならば必ず上手くやってみせるだろう。


「今、カラドボルグ首相が協定書への署名を終えた模様です。そして……ルナサリア暫定政府のフユヅキ首相と握手を交わしました」

病室内に置かれているテレビにはニュース番組が映し出されている。

今日はルナサリアンの首都ホウライサンにて停戦協定が締結される日であり、どのチャンネルに切り替えても生中継の報道特番が組まれていた。

全世界がこの瞬間を待っていたのだ。

「戦後処理についてでしょうか。お二人は握手だけでなく言葉も交わしているように見えます」

「(これでやっと……世界は前に進める。地球と月が遺恨を清算しながら手を取り合う、新しい時代の始まりだ)」

現地に派遣されているアナウンサーの解説を聞きながらセシルは物思いに耽る。

いつまで続くか分からなかった戦争は、ルナサリアンにて独裁体制を敷いていたアキヅキ姉妹の死によって終わりを告げた。

ルナサリアンは”ルナサリア共和国”と名を改め、議会制民主主義を標榜する国家として生まれ変わるという。

「アリアンロッド様、ご家族と職場のご同僚の方が面会にお越しです」

その時、ドアをノックする音に続けて病室の外から担当看護師の声が聞こえてくる。

筆頭貴族アリアンロッド家の令嬢にして傷痍軍人であるセシルはヴワル市内の軍病院に入院することができ、専属医や看護チームを宛がわれるなど破格の待遇で治療を受けていた。

しかも、彼女は極めて優秀な国家公務員なので入院中の医療費を自己負担する必要も無かった。

「病室に入れてやってくれ」

「かしこまりました――どうぞ」

ベッドから上半身を起こしながらセシルが入室を認めると、彼女の入院生活をケアしてくれている専属女性看護師は面会者2名を部屋に通す。

「セシル……腕の容態は大丈夫?」

「……!」

面会者はセシルの姉カリーヌと幼馴染のローゼルであった。

妹ほどではないが自らも重傷を負いこの軍病院の世話になったことがあるカリーヌと異なり、怪我の様子を初めて目の当たりにしたローゼルは絶句する。

「ああ、左腕はこの通り無くなってしまったが……主治医の先生によると再生医療でほぼ完全に戻せるらしい」

切断面に白い包帯が巻かれた左腕を見ながら今後の治療方針について説明するセシル。

医療技術の発展は日進月歩だ。

今は専用の医療機器を用いて時間さえ掛ければ、失った手足を取り戻すのは難病治療よりも簡単に済ませられる。

これからも現場で働くことを望む彼女は再生治療を迷わず選んでいた。


「それは良かったわ……はぁ、お父様とお母様も本当に心配していたんだから」

とにかく、妹の現況を確認できたカリーヌは病室内の椅子に座り込んでホッと胸を撫で下ろす。

「地球に帰って来てからはまだ顔を合わせていない。手術が終わって容態が安定したら、実家に戻ってリハビリに励むつもりだ」

母艦のメディカルルームに収容された後、この軍病院の集中治療室を経て一般病棟へ移ってきたばかりのセシルはまだ両親と会えていない。

早く実家に顔を出したいのはやまやまだが、左腕が欠けたままの痛々しい姿を見せるのは流石に(はばか)られた。

「その方がセシル姉さまのご両親もお喜びになると思いますわ」

「そうそう、差し入れを持って来たのよ――はい、あなたが好きな料理長の手作りエクレア」

彼女の気配りをローゼルが称賛している横でバッグの中から紙箱を取り出し、それを妹に手渡すカリーヌ。

その中身はアリアンロッド家の屋敷に長年勤める料理人が作ったエクレアであった。

「ありがたい。病院食は少し味が薄くてな……やはり実家の味は落ち着く」

門外不出のレシピが使われているという自家製エクレアを早速口にしたセシルは笑みを(こぼ)す。

子どもの頃におやつとして慣れ親しんだこれを味わうのは何年ぶりだろうか。

「……つい2週間ほど前まで、あの地獄のような月面にいたとは信じられませんわ」

「全くだ。子どもの頃はよく天体望遠鏡を持ち出して星空を眺めていたが、まさか20代のうちに月へ向かうことになるとはな」

しかし、ローゼルが報道特番を映しているテレビを横目で見ていることに気付いたセシルはすぐに真顔へ戻り、共に戦い抜いた幼馴染の言葉に同意する。

天体観測が好きだった彼女にとって月へ行くのは夢の一つであったが、できれば戦争以外の目的で”月面ツアー”には参加したかった。

「でも、あなたもローゼルもみんな無事に帰って来てくれて本当に良かった……私ができなかったことをやってくれて……」

実の妹と妹分の姿を見守りながらカリーヌは嬉し涙をそっと拭う。

3年前の地球外生命体襲来事件では所属部隊が壊滅し、カリーヌ自身も身体と心に大きな傷を負った。

当時と今回では戦う相手が全く異なるとはいえ、姉としては妹たちが自身と同じ轍を踏まず、五体満足で生きて帰って来てくれただけで嬉しかったのだ。

「(腕の1本や2本は病院に行けば治る。だが、喪われた命はどうやっても取り戻せない)」

もっとも、セシルもこの戦争で少なくない仲間を失い、そして数多くの敵兵の命を奪ってきた。

命は失われた手足のように戻って来ることは無い。

「セシル姉さま……?」

「カリーヌ姉さん、ローゼル……私たちは生き続けないといけない。ここ数年間の戦争で死んでいった人たちの分まで、な」

自分の顔を心配そうに覗き込んでくるローゼルの瞳に視線を合わせると、セシルはこの戦争を生き残った人々に課せられた責務を説く。

「(アーダ、ヨミヅキ・スズラン――そしてアキヅキ・ユキヒメ。あなたたちに代わって我々生き残った者が未来を創る)」

同僚、好敵手、宿敵――奪い奪われた未来を背負い、生き続けてみせると彼女は自分自身に言い聞かせる。

「(だから……いつか”星の海”へと向かう時までは待っていてくれ)」

人はいつか必ず死ぬ定めだとしても、それまでは前だけを見て進むしかないのだ。


 ウェルメンハイム市セントハイム区――。

オリエント連邦西部に位置する静かな地方都市。

地球へ帰って来てから数日後、ライガはある目的のために愛車をこの地まで走らせていた。

「――目的地はここで合ってるか?」

「ああ、ここだよここ! 現況は土地を買う時に聞いたとはいえ、私がいた頃よりもだいぶ寂れちまってよぉ……」

青い日本製スポーツワゴンが停車したのはセントハイム郊外に建つ、少し前に放棄されたとみられる古びた修道院のような建物の前。

じつはライガは同乗者の頼みで車を出しており、その中の一人が建物を含む敷地一帯の所有権を購入したルミアであった。

この建物は孤児だったルミアが幼少期から中学卒業まで過ごした思い出の場所なのだ。

「しかし……まさか、お前らが引退後に共同で孤児院を立ち上げる計画を知った時は驚いたぜ」

「この戦争では欧米諸国や月を中心に戦災孤児が発生していると聞く。彼らは昔の僕たちと同じ境遇なんだ」

もちろん、スターライガチーム内では高給取りのルミアと言えど土地購入費を全額負担するのは厳しい。

そこで彼女に共同出資というカタチで助け舟を出したのが、ライガに話を振られているリゲルだ。

ルミアと同じく戦災孤児だったリゲルは戦友の"第四の人生"に賛同し、彼女の相棒として新たな戦いに臨むことを決めたのだ。

「私たちが味わったような辛い思いをする子どもを一人でも減らしたい。戦争で稼がせてもらってきたんだから、それぐらいの罪滅ぼしは必要だろう?」

今でこそ"飄々とした豪放磊落な女"という印象のルミアだが、そんな彼女も幼少期は"どうして自分には親がいないのか"と自問自答し思い悩んでいた。

もし、孤児院に入れなかったら犯罪者や娼婦に身を堕としていたかもしれない。

……実際にそうなってしまった者もいるだろう。

だから、ルミアはかつて自分を引き取ってくれた人が注いでくれた愛情を受け継ぎたいと考えたのだ。

「……寂しくなるな」

車から降りる仲間との別れを惜しむように外の景色を眺めるライガ。

「今生の別れではない。こちらが落ち着いたら手紙ぐらいは出すつもりだ」

寡黙なリゲルはいつも冷静沈着で頼りになる女だった。

特に徒手空拳ではスターライガチームの誰よりも強かった。

「これからは地上でスターライガの戦いを見守らせてもらうさ。私やリゲルが必要無いぐらいには若いのも育ったしな」

対照的な性格をしているルミアもまた、小隊長を任せられるほど腕利きのベテランエースであった。

その賑やかさと実力には何度も助けられ、彼女のバカ騒ぎに付き合うのは本当に楽しかった。

「お前が戦友だったことを誇りに思う。あばよ、ダチ公」

運転席の方へと回り込み、ライガのことを"ダチ公"と呼びながらグータッチを交わすルミア。

「僕も同じ気持ちだ。ありがとう、”リーダー”……それじゃ、またな」

彼女に続いてスターライガの"リーダー"たるライガと最後に力強く握手するリゲル。

「……おい! まだ最後に集まる機会があるんだから、それだけは忘れるなよ!」

二人の背中を見送りながらライガは咄嗟に声を掛ける。

また近いうちに再会する時が来るぞ――と。


「……ふぅ、ただいまー」

戦友の送り迎えから2日後――。

超長距離ドライブの末、ライガはようやくヴワル市ヴェレンディア区の自宅へと戻る。

彼にとっては約1か月ぶりの我が家だが、体感的にはそれよりも遥かに長く離れていたように感じられた。

「おかえりなさい……!」

少し疲れ気味に玄関ドアを開けたライガを待っていたのは愛妻のルチル。

彼女はオリエント連邦本土決戦の前に息子家族と一緒に安全な場所へ避難しており、幸運にも大きな危険に晒されることは無かった。

「ああ、今回も何とか生き延びることができたよ」

「私は絶対に帰って来てくれるって信じていたわ……」

互いの無事を確かめるように深く抱き締め合うライガとルチル。

今はただ、これまで会えなかった時間を取り戻すかの如く愛情を示す。

「……子どもたちは何処かへ行ったのか?」

「ライカは取材の仕事、クラウスは自分がデザインした建物の被害調査で忙しいってさ」

気が済んだところでライガが一緒に避難していたはずの子どもたちについて尋ねると、ルチルは"それぞれの仕事へ戻っていった"と答える。

両者の娘であるライカはジャーナリスト、次男のクラウスは建築デザイナーとして活躍している。

どちらも今の時期が一番大変なのかもしれない。

「あいつらも大変だな……まあ、やるべきことがあるのは良いことか」

とはいえ、世の中には戦争で職場を失った人も大勢いる。

そういった世情を考慮した場合、"戦前と同等かそれ以上に仕事があるのは恵まれているのだ"とライガは安堵する。

自分が母親からそうされたように子どもたちに良い教育を受けさせ、超一流大学へ入れたのは無駄ではなかったようだ。

「ねえ……また、少し休んだら戦いに行くの?」

「いや、今回ばかりは流石に長期休暇を取らせてもらった。半年間ほぼ戦いっ放しだったからな」

少しだけ不安げな表情を浮かべるルチルを安心させるように微笑むライガ。

約半年間北アメリカから月まで駆け回った分、同じ期間休んでも別にバチは当たらないだろう。

「あ……そうそう。忘れる前にこれを見せておかないと」

ここでライガは地球へ戻って来た直後にスターライガ本部で受け取った郵便物のことを思い出し、黒地の金色のデザインが施された特別な封筒を妻に渡す。

このタイプの封筒は一般流通が法律で禁止されている、主に筆頭貴族が重要な手紙を封入するために使う物だ。

「何これ……招待状?」

一封あたり1万クリエン(1万円)は軽く超えそうな、やけに手触りが良い封筒を開けたルチルが手に取ったのは招待状らしき便箋。

「俺の知り合いが近々結婚するんだ。このご時世だからあまり大々的な挙式はできないが……」

この招待状は黒色と金色をシンボルカラーとする筆頭貴族――オロルクリフ家から送られてきた結婚式招待状であった。

じつは新郎も新婦もライガの知人なので、彼は受け取った時点で当事者たちから内容を知らされていたのだ。

「うちに割り当てられた席は4人分。俺と母さんの参列は決まっているから、あと1枠はお前に出てほしいと思っている」

戦後復興に忙しい世間への配慮から身内及び友人中心の小規模な結婚式となる予定だが、そこは長年に亘り序列上位に君臨する名門筆頭貴族。

ライガの家系であるシルバーストン家のために4人分の席を用意してくれていた。


 10月末――。

オリエント連邦が長い冬に入る前に結婚式は行われた。

この日、ライガは妻ルチルや母レティと共に披露宴会場となるオロルクリフ家の屋敷を訪れていた。

より正確には敷地内の広大な庭にテーブルと椅子が並べられ、ここで参列者たちは屋敷内にて挙式を済ませた新郎新婦の登場を待っているのだ。

オリエント圏では指輪交換など夫婦になるための"儀式"は原則非公開であり、これには限られた親族しか出席できない。

「――マジ? お前、結婚式のこと知ってたのにまだ衣装とか見てないの?」

「おいおい、確かに俺は共通の知人だけど式の準備には関与していないからな。今日の俺はあくまでも招待される側で、強いて言えば友人代表としてスピーチするだけだぜ」

秋の終わりを感じさせる肌寒い風が時々吹く中、たまたま同じテーブルに割り当てられたブランデルとライガは笑いながら駄弁っていた。

雰囲気こそ随分とリラックスした感じだが、前者は国際法で正装として認められているシャルラハロート家の略式勝負服(燕尾服タイプ)、後者は最上級の男性用礼服であるモーニングコートをそれぞれ着用している。

「二人とも、そろそろ始まるみたいよ」

「皆様、大変お待たせ致しました。間も無く新郎新婦の入場です。拍手を以ってお出迎え下さい」

オロルクリフ家所属のメイドたちが掃けていくのを確認したレガリアが私語を止めるよう促した直後、屋敷の中からオロルクリフ家の略式勝負服(ドレスタイプ)を身に(まと)ったメルリンが姿を現す。

新郎新婦とその付添人は司会進行という大役を務めるメルリンの後ろに待機しており、彼女の誘導に従い披露宴会場への入場を開始する。


 新郎はタキシードの代わりに略式勝負服(燕尾服タイプ)でバッチリと決めているルナール。

新婦は極めてオーソドックスな純白のウェディングドレスで着飾ったリリー。

二人の門出に際して付き添うのは、それぞれの妹であるリリカとサレナ。

そして、その更に後ろでは当主用の勝負服を着た新郎の父ルナッサが穏やかな表情で見守っていた。


「リリーちゃん、見ないうちに随分と綺麗になったわね……」

「ああ、あいつとルナール先輩がいつも以上に美しく見えるよ」

参列者全員による万雷の拍手喝采――。

久々に見た息子の幼馴染の姿に感動するレティに同意し、今この瞬間をライガはしっかりと目に焼き付けておく。

後から渡される写真よりも俗に言う"思い出補正"の方が鮮明且つ美しい状態で残るからだ。

「緊張しているのかい?」

「ええ……仕事でキャラクター同士が結婚するイラストを描いたことはあっても、自分がウェディングドレスを着るのは初めてで……」

幼少期より社交界でも活躍してきた"ソーシャライト"であるルナールはこういった状況には慣れている。

一方、元筆頭貴族に連なる由緒正しい血筋を持っているとはいえ、一般家庭で生まれ育ったリリーは明らかに困惑していた。

「フッ、予想以上に人が集まってしまってな……まあ、それだけ君と私の結婚を皆が祝ってくれていると思えばいいんじゃないかな」

珍しく緊張している妻を安心させるように肩を抱き寄せ、"この時世にこれほどの人数が参列してくれたのは大変素晴らしいことなのだ"と笑顔を見せるルナール。

戦争終結から1か月ほどしか経っていないにもかかわらず、招待状を受け取ったほぼ全員が結婚式へ参列し、式には来られなかった人たちからも祝辞を戴いていた。

「……みんな、私たちの幸せを願って笑顔で祝福してくれているのね」

「姉さん……!」

夫の気配りによって少しだけ緊張が解けた姉リリーの姿に付添人のサレナは安心する。

「この光景を見てごらん。あそこに他人の幸福を喜べない、嫉妬深い奴は誰一人としていないだろ?」

新郎側の付添人を務めるリリカも参列者たちを指し示し、誰もが純粋に喜んでいることを告げる。

「リリー君とうちのバカ娘の人望が素晴らしい人々を集めたのだよ。君を我が一族に迎え入れることができて、本当に良かったと思っている」

新郎新婦の親世代でただ一人、長女の晴れ姿を見届けることができたルナッサは新たにオロルクリフ家の一員となるリリーを改めて歓迎する。

「今日の主役の一人なんだから、いつもみたいにカワイイ笑顔を見せてほしいな……"お姉ちゃん"♪」

「……フフッ」

最後にこれからは"年上の妹"となるメルリンに笑顔を向けられ、リリーは思わず噴き出してしまう。

だが、そのおかげで緊張は完全に解けたようであった。

「皆さん、私と私の妻となってくれる女性に目一杯の祝福をありがとう!」

妻の手を引きながら参列者たちの前に進み出たルナールは、まず初めに肌寒い中集まってくれた参列者全員に向けて感謝の言葉を述べる。

「ここにいる全ての人々の前で約束する! 私は全力の愛を以って彼女と彼女のお腹の中にいる子どもたちを守り、必ず幸せにしてみせると!」

そして、彼女は全員と自分自身へ言い聞かせるように力強く宣言する。

自らの父ルナッサがそうしてみせたように、家族を持つ者としての責任は果たしていく――と。


 そんな華やかな結婚式を木の陰に隠れて見守る人物が一人……。

「(ルナール・オロルクリフ――あの()と添い遂げるなら何の心配もいらないわね)」

その正体は終戦直後の混乱に紛れて月を離れ、消息を絶っていたはずのライラックであった。

彼女はルナールのことはあまり知らないが、娘を任せられる程度には信頼できる人間だと思っていた。

「(既に手を出して妊娠させているのはアレだけど……)」

もっとも、娘が妊娠していると知った時は流石に頭を抱えたが……。

「(レティやライガも参列しているのね……相変わらず元気そうで何よりだわ)」

ライラックが気に掛けているのは娘たちだけではない。

彼女は昔は家族ぐるみでの付き合いがあったシルバーストン親子の姿を確認すると、それで満足できたのか警備員に見つかる前にその場から立ち去っていく。

「(……結婚おめでとう、リリー。愛する人と引き裂かれた私の分まで幸せになりなさい)」

次はどういった状況で再会することになるのかは分からない。

もしかしたら、もう二度と会うことは無いかもしれない。

それでもライラックは長女の結婚を祝福し、一人の女性として幸せに生きられるよう心の中で激励の言葉を送る。

「……母さん……?」

「どうしたの?」

「いえ、何でもないわ。それよりも……ほら、チルドやヒナが焼いてくれたウェディングケーキが運ばれて来るわよ」

母の存在を感じ取ったサレナはその方向へ一瞬だけ視線を移すが、姉に声を掛けられたことで誤魔化すようにウェディングケーキを指差す。

このケーキの制作にはスターライガチームの仲間にして本職の料理人である、チルドとヒナも携わっていた。

「(母さん……あなたには娘の幸せを願える親心があるのに、これからも"人類の敵"であり続けるつもりなの?)」

これまでに母がやってきた数々の行いを認めるつもりは無い。

しかし、サレナは心のどこかで母が昔と変わらず優しい人のままであることを信じたかったのかもしれない……。


 呪い呪われた未来を乗り越えた世界を守り続けなければならない。

生きとし生ける人々の新たな旅は始まったばかりだ。


 To Be Continued......

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