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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-107】最終決戦Ⅹ:織姫と彦星

 他者を信じられる世界を望み、実際に多くの仲間たちから信頼されているライガ。

裏切られる恐怖から他者を信じることを拒み、そして自分自身を信頼できず心を閉ざしてしまったオリヒメ。

二人の主義主張は絶対に交わらない平行線であった。

「俺はお前とは違う! 俺が信じる者たち――そして、俺を信じてくれる者たちの為に戦う!」

ライガのパルトナ・メガミの背中を不可視の力たちが支える。

白と蒼のMFはツインビームトライデントの出力を上げ、格闘戦を仕掛けるタイミングを図る。

「(私の本質は独善的な理由で戦う、傲慢不遜な女というわけか……)」

唯一の肉親であるユキヒメと実の両親のように尊敬していたライラックはもういない。

無能な皇族親衛隊隊長の機影も既に消失しており、碌な戦果を挙げられないまま撃墜されたのだろう。

たった一人で戦い続けてきたオリヒメのイザナミ決は試製光刃薙刀を構え直す。

「でぇぇいやッ!」

「ッ!」

先に動いたのはライガのパルトナ。

彼は機体の足で月面を蹴って大地を走りながら格闘攻撃を繰り出すが、その素早く正確な連撃をオリヒメは光刃薙刀で何とか切り払っていく。

純心能力が無ければ反応が間に合わず攻撃を食らっていたかもしれない。

「もう私は誰も信じない! せっかく信じても裏切られるのなら、初めから心を許さない方がマシよ!」

「くそッ! パワーが違い過ぎる!」

今度は連撃を凌いだオリヒメのイザナミが動く。

彼女が怨嗟の言葉を吐きながら放つ攻撃は非常に強力で、過酷な戦闘で消耗が激しいライガのパルトナは受け止め切れずに得物を落としてしまう。

「これでぇッ!!」

「やらせるかッ!」

この隙を突くべく光刃薙刀を思いっ切り振り上げるオリヒメのイザナミ。

だが、こういったコンマ数秒での状況判断は実戦経験豊富なライガの方が一枚上手であり、彼は自機に向かって振り下ろされる光刃薙刀の柄にハイキックを叩き込む。

「(ナギナタを弾き飛ばしてやった! さて、攻撃手段はあとどれくらい残っている!?)」

出力が落ちている状態と言えどパルトナの蹴り技は決して非力ではない。

敵機のメインウェポンを封じることができたライガは気を抜かずに次の行動に備える。

「ハァァァァァァッ!」

「右ストレートだとッ!?」

そう、彼は決して油断していたわけでは無かった。

ただ……武器を失ったオリヒメの咄嗟の判断が肉弾戦だとは予想できなかったのだ。


「うぐぁッ!?」

強烈な鉄拳をもろに食らい、物凄い勢いで後ろに吹き飛ばされるライガのパルトナ。

「戦いの基本は格闘でしょう? 射撃主体のあなたは忘れているかもしれないけど」

「格闘戦が苦手なお前が殴り合いをやるのか!」

白と蒼のMFが体勢を立て直す前にオリヒメは一気に距離を詰め、彼女曰く"戦いの基本"だという肉弾戦(機体の四肢による格闘攻撃)で畳み掛けを図る。

対するライガは可能な限り素早いリカバリーを試みるが、今回はオリヒメの思い切りの良い突撃の方が速かった。

「フフッ、捕まえた! もう逃がさないわよ!」

「くそッ……!」

敵機のコックピット――というよりライガ自身の頭部をマニピュレータで鷲掴みにしながらそのまま地面へ叩き付け、完全に倒れ込んだところへ飛び掛かりマウントポジションを奪うオリヒメのイザナミ。

そこから始まる白と紫のサキモリの強烈な連続パンチにライガは為す術が無い。

「(高出力且つ重量級な機体だ……どうやって退かせばいい?)」

顔面がミンチより酷い状態になりかねない攻撃に耐えながら策を練るライガ。

パワーと機体サイズにモノを言わせて馬乗りになっているイザナミを無理矢理退かすことは難しい。

しかし、このままチャンスを待っていては本当に頭が潰れてしまう。

「どうしたの? あなたは一方的に殴られ続けることを許すような男じゃないでしょう?」

「(なんか顔が腫れた気がして痛ぇ……)」

有利な状況を作れたことで精神的余裕が生まれたのだろうか。

とにかくパンチを繰り出しながらオリヒメは不敵な笑みを浮かべて挑発してくる。

ライガの方はヘルメットが変形しバイザーが歪むほどのダメージでそれどころではなかった。

「早くいつもみたいに反撃しなさいな!」

「(だったら、殴るのを止めてくれ!)」

調子に乗っているかと思えば突如逆ギレし始めるオリヒメの情緒不安定ぶりに付き合い切れず、ライガは心の中でド正論という名の悪態を吐く。

「あのねえ! あなたは完璧で究極、完全で無敵でなければいけないでしょ!?」

彼の思考を純心能力で感じ取ったオリヒメはますます怒りを露わにする。

だが、そこから吐き捨てられる言葉の数々には相手に対する理想や羨望が入り混じっていた。

「あなたは私にとっての金輪際現れない一番星なのだから!」

十数年前、満身創痍で月に流れ着いたライラックが"情報提供"と称して語ってくれた一人の男の半生。

現在進行形で仲間たちと共に伝説を作り続けているというその男にオリヒメは興味を持ち、地球侵攻作戦の中で必ず現れることに期待していた。

そして、実際に対面した時の姿は想像とは大きく異なる、自分よりも一回り以上小柄で中性的な――美少女のように儚げな容姿と綺麗な声を持つ男だった。

最初はこの世のものとは思えない美しい雰囲気に一目惚れしたのかもしれないが……。

「私が欲しかったモノを全て持っているあなたが完璧でないことは許せない! 誰よりも強いあなた以外は絶対に認めない!」

人間は妬みと僻みの生き物――ついさっきの舌戦の中でオリヒメが口にした真理だ。

その言葉を自分自身で証明するかのように彼女は"全てを持っている"ライガへの嫉妬心を爆発させるが、それと同時に"私が好きになったライガ・ダーステイは完璧且つ最強であってほしい"という矛盾した感情が見え隠れしていた。


「あなたの存在は私を狂わせる! だから……人を惑わせる偶像には死んでもらう!」

全ては彼の存在を知った時から始まった。

ライガ・ダーステイという男について意識し始めた瞬間、オリヒメの心に大きな変化が現れたのは紛れも無い事実だ。

だが、"月の専制君主アキヅキ・オリヒメ"が崩れることを恐れた彼女は、その原因を抹消し後顧の憂いを断つつもりであった。

「肩部補助肢展開ッ! これで本当に終わらせてあげるッ!」

両肩に装備されている近距離戦用のフレキシブルアームを展開し、マウントポジションという絶対的有利な体勢からトドメを狙うオリヒメのイザナミ。

「勝ったと思うな……まだ勝負は付いていない!」

彼女の攻撃は確かに速かった。

並の人間の反射速度は絶対に反応が間に合わないほどに。

しかし……"並の人間"ではないライガは違う。

「邪魔だッ! どけぇぇぇぇぇぇッ!」

「くッ……!?」

連続パンチが途切れたタイミングで咄嗟に防御態勢を取ったライガのパルトナは、フレキシブルアーム先端部から出力される光刃刀を実体シールドで受け止めていた。

そして、機体の全エネルギーをシールドを装備する左腕に回すことで2基のフレキシブルアームを払い除け、一瞬怯んだ白と紫のサキモリをシールド先端部のクローアームで突き飛ばして脱出のチャンスを作る。

「ふぅ……俺は……お前を憐れむ!」

「何ですって……?」

過去最大のピンチを切り抜けたライガは変形して使い物にならなくなったヘルメットを脱ぎ捨て、少し腫れ上がった中性的な顔を晒しながらオリヒメを憐れむ。

当のオリヒメ自身はなぜ同情される必要があるのか、この時点では理解できなかったが……。

「自分自身の可能性に気付けず、間違ったやり方で己の存在価値を証明しようとしたお前のことだ!」

「ッ……!」

地球上での経験とこの戦いの中での遣り取りからライガはようやく分かったのだ。

オリヒメが地球侵攻を決意した理由――そのキッカケの一つは本当にちっぽけな承認欲求だったのかもしれない。


 ライガ・ダーステイ――。

彼は多くの仲間たちに支えられながら戦っており、それと同時にスターライガチームを導く星の光でもある。

「妹のことを忘れたのか! 彼女はお前を姉としても主君としても信頼していたから、お前の戦争計画に表立った反対はしなかった! あいつにとってはお前はたった一人の肉親だった! それは立派な存在価値だ!」

そして、誰かを導く旗頭となっているのはオリヒメも同じはずだ。

"戦いの基本"たる肉弾戦を仕掛けながらライガは彼女の妹ユキヒメを例に挙げ、その人生の大半を信頼する姉のために捧げていたはずだと指摘する。

アキヅキ姉妹の強い絆は部外者のライガでさえ時々感じ取っていた。

「(そんなことは分かっているつもりよ……ユキの姉は私にしかできないということぐらい)」

白と蒼のMFの素早い連撃を(かわ)しながらオリヒメは唇を噛み締める。

"私はあの子の姉として上手くやれたのだろうか"と心の中で自問自答する。

……もうこの世にいない妹は何も答えてくれない。

「親衛隊のことも思い出せ! 全員がそうとは限らないが、親衛隊とやらはお前に忠誠心を持つ連中を集めて作った組織だろう! 本物の忠誠心はな……それに値することを示してやらなければ手に入らないんだ!」

「ぐはぁッ!」

完全に主導権を取り返したライガのパルトナの猛攻は更に激しさを増す。

皇族親衛隊への言及と共に放たれる鉄拳をオリヒメは避け切ることができず、強い衝撃を受けた彼女は思わず呻き声を上げる。

「そして何より……お前はライラック博士から信頼されていたことにも気付けなかったようだな!」

「……逆に尋ねるけど、あなたは敵対しているはずのライラック博士の何を知っているの?」

だが、この非難にだけはハッキリと反論することができる。

ライガのパルトナが得意とするシールド先端のクローアームによる攻撃を受け止め、相手の動きを押さえ込みながらオリヒメは毅然とした態度で言い返す。

出力差が現れる取っ組み合いでは相変わらず彼女のイザナミの方が優勢のようだ。

「ここ十数年間での関わり合いはお前の方が深いかもしれないがな、俺が子どもの頃はあの人と家族ぐるみの付き合いがあったんだよ!」

パワー勝負はやはり不利と見たライガは仕切り直しのため一時後退。

ファイティングポーズを取りながら自分とライラックの意外な接点について明かす。

事実上の敵対関係にあるとはいえ、ライガにとってライラックは今でも"幼馴染の母親で自分にも優しくしてくれた憧れの人"であった。

【Tips】

接近戦:交戦距離が近い状態での戦闘(格闘・射撃は問わない)

格闘戦:徒手空拳や刀剣類による戦闘(交戦距離は問わない)

肉弾戦:機体の四肢を用いた徒手空拳による戦闘(交戦距離は問わない)

白兵戦:生身の人間(歩兵)の戦闘行動

※これらはあくまでもスターライガシリーズ独自の区分であることに留意されたし

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