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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-106】最終決戦Ⅸ:皇族親衛隊の最期

 在りし日の大切な人へ、正しき祈りよ届け――。

 ライガとオリヒメが激闘を繰り広げていたその頃、レガリアとスズヤによる一騎討ちも熾烈さを極めていた。

「アタックッ!」

持ち前の高い機動力を活かし、専用ビームソードによる一撃離脱を幾度と無く仕掛けるレガリアのバルトライヒ。

「(無理に回避運動を取る必要は無い。相手の攻撃を弾くことに集中し、反撃の機会を窺う……!)」

対するスズヤの試製オミヅヌ丁は鉄壁のディフェンスで深紅のMFの刺突を捌き続け、体勢を崩さないよう気を付けながらカウンター攻撃のチャンスを待っていた。

「ッ……!」

反転して再攻撃へ移ろうとしたその時、脳を貫く高圧電流のような激痛を感じたレガリアはヘルメット越しに頭を押さえる。

「(この感覚……アキヅキ・オリヒメ!? やはり生きていたわね……しかし、これは今までの彼女とは違う!)」

レガリアはライガやラヴェンツァリ姉妹ほどではないが優れたイノセンス能力を持つ。

彼女が感じ取ったのは、つい先ほどこの世から消えたはずのオリヒメの気配。

しかも、一度消える直前とは全くの別人のような感覚に変貌していた。

ここまでの変化を説明できるのはルナサリアン版イノセンス能力――つまり純心能力以外にあり得ない。

「(オリヒメ様の機体の反応が復活した!? そうよね……主君が健在である限り、私はその命をお守りするために戦わなければならない!)」

一方、純心能力を持たない"ノンセンス"のスズヤは機上レーダーによってオリヒメ機の反応を確認する。

碌な援護もできず見殺しにしてしまった――そう思い込んでいた主君の復活を知った皇族親衛隊隊長は息を吹き返す。

「(相手の動きが鈍っている……仕掛けるなら今しかない!)」

イノセンス能力が鋭敏過ぎるのか、特定の気配を感じ取った時に深紅のMFは動きが鈍る傾向がある。

これまでの戦いでその弱点を見抜いていたスズヤに迷いは無かった。


「(武士道精神などに拘っている場合ではない! 悪魔に勝つためなら誉れだって捨ててやる!)」

ルナサリアン的武士道精神とは、相手の戦闘能力に敬意を示し対等な条件で正々堂々戦うこと。

その教えの中では当然ながら"誉れ"も重視されており、それに反する戦い方は基本的に許されない。

だが……悪魔打倒という勝利に固執するスズヤは完全に道を見失っていた。

「死ねッ! 紅い悪魔ッ!!」

「くッ……何ですってッ!?」

これまで守ってきた武士道をかなぐり捨て、紅い悪魔の動きが戻るよりも早く殺意に満ちた斬撃を繰り出すスズヤ。

負のオーラを纏った一撃にレガリアは驚くような表情を浮かべるが、彼女は考えるよりも先に操縦桿とスロットルペダルを動かす。

「かわされたッ!? この間合いでッ!?」

「(この小娘、少しでも隙を見せたら躊躇無く仕掛けてくる。0.1秒反応が遅れていたらビームで蒸発していたわね……!)」

スズヤのオミヅヌの改良型光刃刀は深紅のMFのコックピット――いや、そこに座るレガリア自身を極めて正確に捉えていた。

蒼い光の刃は確かにバルトライヒのコックピットを掠めていたが、レガリアは驚異的な反射神経でその一撃をかわしていたのだ。

彼女のヘルメットの右側面に残された焦げ跡が"0.1秒"の大切さを如実に物語っていた。

「アタックッ!」

「ッ!」

相手が攻撃の後隙から立ち直る瞬間を狙うようにレガリアのバルトライヒは反撃へ移り、さっきのお返しと言わんばかりにスズヤのオミヅヌの正中線上をビームソードの先端で切り裂く。

先ほどの自分と同じコックピット狙いの攻撃にスズヤは堪らず怯み、残弾数が少ない固定式機関砲を撃ち切りながら後退していく。

「(意外にやる! あと70cm間合いを詰めていればコックピットを切り裂けたのに!)」

レガリアは相手の命を取るつもりで攻撃を仕掛けていた。

ついに彼女が本気の一端を見せ始めたのである。

「(さすがにパワーを抑えた状態で圧倒できる相手じゃないか……仕方が無い、仕方が無いわね)」

冷却系のトラブルで温度管理が難しいため、レガリアのバルトライヒは現在90%程度の出力で稼働している。

つまり、ドライバーも機体もまだ力を温存していた。

スズヤのオミヅヌはリミッター解除状態で戦っていたはずだが……。

「(最後ぐらいは少しだけ本気を出させてもらうわよ……!)」

藤色のサキモリはかなり危うい精神状態で戦い続けている。

そのまま若者が破滅に向かって突き進むことを止めるべく、レガリアは満を持して愛機のリミッターを解き放つ……!


 リミッター解除状態で戦い続けてきたスズヤのオミヅヌはエネルギー消費が非常に激しく、予想通りあと数百秒で活動限界を迎えようとしていた。

「(稼働時間の限界が近い。そろそろ……いいえ、次で決めなければ!)」

攻撃態勢へ入るための準備時間やその後の離脱まで考慮した場合、次がおそらくラストチャンスとなるだろう。

そして、スズヤ自身の体力及び精神力も限界が近かった。

「出力最大! その首……貰い受けるッ!」

右手に握り締めた改良型光刃刀の出力を最大まで引き上げ、全身全霊を込めた最後の一撃に臨むスズヤのオミヅヌ。

試製オミヅヌ丁は非常に高性能な少数量産機。

完璧な攻撃を差し込めばスターライガ製ワンオフ機と言えどタダでは済まないはずだ。

「耐Gリミッター解除ッ!」

「なッ……!?」

しかし、レガリアとバルトライヒの本気はスズヤの予想を遥かに上回っていた。

藤色のサキモリの攻撃が届くか否かというギリギリの間合いで深紅のMFは運動性のリミッターを解除。

相対するスズヤに"残像が発生している"と錯覚させるほど鋭くスマートな動きで攻撃を回避してみせる。

「……E-OS(イーオス)ドライヴ、フルパワー!」

「ぐぅッ……しまったッ!?」

私の動きに対応できていない相手はまだ後方にいる――。

豊富な実戦経験と優れたイノセンス能力で敵機の位置を完全に見抜いたレガリアは、愛機バルトライヒのビームソードを逆手に持ち替えながら背後に向けて最大出力の刺突を繰り出す。

目標を一切視認しない"ブラインドアタック"は予想通りの場所にいたスズヤ機の右腕を光刃刀諸共熔解させていた。

「(こ、これが紅い悪魔の本気……!?)」

悪魔と形容されるに相応しい深紅のMFの戦闘力にスズヤは戦慄する。

どうやら、彼女は絶対に怒らせてはいけない人物を本気にさせてしまったようだ。

「ハァァァァアアッ!!」

「(……かくなる上は!)」

レガリアのバルトライヒが続けざまに放ったフルパワーでの水平斬りはかわせたものの、両腕を破壊されたスズヤのオミヅヌにはもう攻撃手段が無い。

残された脚部による蹴り技ではさすがに対抗できないだろう。

ならば、方法はたった一つ……!

「粒子機関、出力臨界点へ移行……!」

終止符を打つ覚悟を決めたスズヤは計器投映装置の設定画面を開き、特殊な操作を行うことで粒子機関(E-OSドライヴ)の出力を本来あり得ない数値に変更する。

彼女が指定した異常な数値では粒子機関の回転数が際限無く上昇し続け、通常運用時は速やかに出力を下げないと最終的に機体その物が破壊されてしまう。

少数量産機の試製オミヅヌ丁にとっては機密保持を目的とした自己破壊の手段であり、同時に藤色のサキモリに残された最期の攻撃方法でもあった。

「(何をするつもり――まさかッ!?)」

「バケモノめ……死なば諸共よッ!」

壮絶な自決の意図を察したレガリアはすぐさま回避行動へ移ろうとするが、"紅い悪魔"の実力を以ってしても死を恐れないスズヤのオミヅヌを振り切ることはできなかった。


 次の瞬間、二機の機動兵器は激しい空中衝突を起こして共にバランスを崩す。

「うぐぅッ……!」

「くッ……捕まえ……たッ!」

レガリアのバルトライヒの大出力ならば容易に振り払えるはずだが、スズヤの鬼気迫る押し込みがそれを許さない。

彼女のオミヅヌは両腕を失っているため、機体を直接押し当て続ける以外に相手の動きを封じる方法は無かった。

「バカなことは止めなさいッ!」

「私はバカだから……こういうやり方でしかあなたを倒せないし、死んだ妹に顔向けできないのです……!」

自爆特攻などという"バカ"をやるなと翻意を促してくるレガリアに対し、自分が"バカ"であることを認めたうえでこれ以外の方法は思い付かないと苦笑するスズヤ。

たった一人の妹を戦争で喪い、護るべき祖国も無くなろうとしている絶望的状況に自暴自棄に陥っているのは明白だ。

「ッ……!」

彼女の悲しみに沈んだ心を感じ取ってしまったレガリアは掛けるべき言葉を見つけることができない。

「(出力臨界点を突破……これで何もかもが終わる……ようやくスズの所へ……)」

出力臨界点を超えても今ならまだ間に合うかもしれない。

ただし、諦観し切っているスズヤを説得することはおそらく不可能だろう。

いくらイノセンス能力者でも他人の精神に直接干渉はできないのだ。

「この……大バカ野郎ッ!!」

それでもレガリアは諦めない。

たとえ自分の身に危機が迫っていたとしても、救えるかもしれない命を見捨てることはしない。

自分も彼女も必ず五体満足で生き残り、一時(いっとき)の過ちはその後の生き方を以って反省させる。

それがレガリアの――いや、スターライガチームの信念だ。

「あなたみたいなのは……こうしてやる!」

「え――?」

満足に身動きが取れない中、レガリアのバルトライヒは唯一自由に動かせる右腕を思いっ切り振り上げる。

マニピュレータに握り締められたビームソードは困惑するスズヤの頭上を抜け、オミヅヌの背部へと突き立てられていた。


「(E-OSドライヴ自体にビームソードのような高熱源体を近付けたら誘爆を助長してしまう)」

ビームソードは極めて端的に言えば強力な熱エネルギーの塊。

蒼い光の刃は金属を一瞬で溶断できるほどの高熱を帯びており、使い方を誤れば起爆剤と化してしまうことも十分あり得る。

「(……ならば、エネルギー回路をピンポイントで焼き切って供給を断った後、ドライヴだけを切り離せばいい)」

だが、バルトライヒの専用ビームソードには一般品よりも出力を細かく調整できる機能がある。

出力臨界点を超過し危険な状態のE-OSドライヴを沈黙させるには、周辺部品を破壊しエネルギー供給そのものを止めるしかない。

レガリアはマニュアル操作で得物の出力を最低値まで引き下げ、経験と勘を頼りにオミヅヌのバックパックの内部構造を探る。

「(私が斬るべき場所を教えてちょうだい……メイヤ!)」

何度も突き刺して試す余裕は無い。

攻撃ポイントに目星を付けたレガリアはその直感が正しいのか確かめるべく、今は亡き大切な人に祈りを捧げる。

そして……。

「……ッ! 分かったわッ!」

死者があの世から手取り足取り丁寧に教えてくれたわけではない。

しかし、大切な人のおかげで確信を得られたレガリアはついに行動へと移す。

「ドライバーはそのまま! 機体は破壊させてもらう!」

「し、出力低下!? 何をした――きゃあッ!?」

彼女のバルトライヒはまず極めて浅い角度で敵機のバックパック側面にビームソードを突き刺すと、その勢いのまま今度は順手持ちに変えながら内部のE-OSドライヴを破壊する。

突然の出力低下にスズヤが動揺した次の瞬間、二機の機動兵器のすぐ近くで大爆発が起こるのだった。


「くッ……何とか間に合ったわね……」

間一髪のところで敵機から離れていたレガリアのバルトライヒに爆発によるダメージは見受けられない。

一方、バックパックに致命的な損傷を負ったスズヤのオミヅヌのダメージは大きく、全システムがダウンしているのか体勢を崩したまま急降下していく。

「脱出しなさいッ! あなたは死ぬにはあまりにも若過ぎる!」

仮に全システムがダウンしている場合、航空無線も使えなくなっているかもしれない。

それでもレガリアは自分の3分の1の年齢の若者を救うべく、無線の出力を最大まで上げてオープンチャンネルで必死に呼び掛ける。

「(あの人は私にトドメを刺せたはずなのに……この期に及んで情けを掛けたというの……?)」

動かしても反応しない操縦桿を握ったままスズヤは茫然自失としていた。

幸いにも彼女に怪我は無かったが、虚ろな青色の瞳は迫り来る月面を映したまま固まっている。

「生きる気力を捨てるなッ! あなたの思い出の中の妹は、あなたの死を望んでいるのかッ!?」

その時、奇跡的に無線装置が復活したことでレガリアの声が聞こえてくる。

スズヤの脳裏に浮かび上がったのは在りし日の妹スズランの笑顔。

「ッ……!」

記憶の中の妹がどんな言葉を掛けたのかは本人以外に知る由は無い。

だが、青色の瞳に光を取り戻したスズヤは両脚の間の射出ハンドルに手を掛けていた。

「(愛する人を喪った世界にも、いつかは色鮮やかな花が咲くはずだから……)」

別れの悲しみは時間が癒してくれるのを待つしかない――。

関係性や原因は大きく異なれど、レガリアもこの戦争で大切な人を喪った被害者の一人であった。

【ブラインドアタック】

ドッグファイトのような間合いが近い戦闘において、敵を直接視認せずに攻撃を繰り出すこと。

たまに勘違いされるが、"敵から見てブラインド"ではない。

視界外の敵の位置や状態を正確に予測する能力が求められるため、コンボに組み込むのは難易度が高いとされる。

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