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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-101】最終決戦Ⅳ:侵蝕

 あらゆる間合いに対応可能な高機動型汎用MF――ライガのパルトナ・メガミ(決戦仕様)が攻撃態勢に入る!

「(今のオリヒメは反応が良い。格闘攻撃を振っても事前動作を読まれてしまう可能性がある)」

彼は自らの操縦技量と愛機の性能に絶大な信頼を寄せているが、同時に相手の優れている点を素直に認められる広い度量――言い換えるならばスポーツマンシップを併せ持つ。

それがあるからこそ相手の能力を冷静に分析し、誤った思い込みに囚われること無く戦術を組み立てられるのだ。

「(……つまり、牽制しながら隙の少ない一撃を叩き込めばいい)」

これまでの戦闘を基にライガが導き出した答えは、相手に対応させる猶予を与えない電光のような速攻であった。

「ファイアッ! ファイアッ!」

右手に構えた専用長銃身レーザーライフルを連射しながら一気に間合いを詰めるライガのパルトナ。

「(これは牽制! ここからどう仕掛けてくる!?)」

「踏み込みの速度なら負けん! ゼロ距離……取ったぞッ!」

その攻撃が牽制であることをオリヒメは即座に看破したが、彼女の乗機イザナミ決が実際に動き出すよりも先に白と蒼のMFは至近距離へ飛び込んでいた。

「しまったッ!? 光線銃がッ……!?」

「くそッ! 運が良いヤツめ!」

オリヒメのイザナミが回避運動に入った瞬間、パルトナの実体シールド先端部の格闘戦用クローが専用長銃身大型光線銃を捕らえる。

咄嗟に光線銃から右マニピュレータを放したため機体へのダメージは免れたが、強力な主兵装をライガに潰されたのはかなり手痛い。

しかも、彼の"シールドバッシュ"は明らかに白と紫のサキモリの胴体を狙っていた。

「(困ったわね……私でも上手く扱える主兵装を破壊されてしまうとは)」

仕切り直しを図るため一旦後退しつつ、2基しかない使い慣れたメインウェポンを失ったことに落胆するオリヒメ。

「(意外と重い武器だったな……それを二丁持ちで振り回せる技量、あまり気は抜けないか)」

一方、格闘戦用クローで取り上げた際に操縦桿越しに長銃身大型光線銃の重量を感じたライガは、これほどの武装を上手く使いこなせていたオリヒメに対する評価を少しだけ改める。

彼自身はどちらかと言うと取り回し重視の小型軽量な武器の方が好みだからだ。

「(やはり、自分の技量に自信を持てていないアイツは懐に飛び込まれるのを嫌がっている。付け入る隙は間違い無くそこだな)」

同時にライガはアイツ――オリヒメが操縦技量に関しては自己評価が低く、自信が求められる接近戦を露骨に避けていることを見抜いた。

「(私が近距離は苦手だと分かったうえで攻めてくる……強引な殿方だこと)」

自分の苦手意識を見透かされているように感じたオリヒメは首を横に振る。

「(……やるか! こちらのペースに持ち込めば必ず勝てる!)」

中距離に強いオールレンジ攻撃さえ(かわ)せれば主導権を握れる可能性が高い。

気合を入れ直したライガは攻めの姿勢を崩さない。

「(仕掛けてくる! たとえあなたが相手だとしても……この戦い、私も負けられない!)」

対するオリヒメも負けたら後が無い以上、ここで弱気になるわけにはいかなかった。


「ファイアッ! ファイアッ! ファイアッ!」

ライガのパルトナの先手はもはやお馴染みとなったレーザーライフル3連射。

「(この連射が本当に厄介ね……少しは休む暇を与えてほしいのだけれど)」

至ってシンプルなその攻撃もライガの卓越した技量を以ってすれば強力な技となり、オリヒメのイザナミが回避運動へ入る隙を与えない。

白と紫のサキモリは右腕から発生させているビームシールドで蒼い光線を弾くだけで精一杯だった。

「防御態勢ごと吹き飛ばしてやるッ!」

敵機の守りの堅さを見たライガは方針変更を決断。

細かい攻撃を刺していくのではなく、強力な必殺技で押し切るべきだと考えたのだ。

幸いなことに彼の愛機パルトナにはそれを実現し得るだけの火力があった。

「(ッ! まさか、至近距離で一斉射撃を繰り出すつもりッ!?)」

「降り注げ、星の光――"スターダスト・アレイ"!」

その意図に気付いたオリヒメが判断に迷った次の瞬間、彼女の予想通りライガのパルトナは現時点で使える全射撃武装による一斉射撃を最低射程ギリギリの近距離から放つ。

マイクロミサイル及び12連装ロケット弾が無い分攻撃力は低下しているとはいえ、それでもこの距離で全弾直撃――いや、一発でもまともに食らったら耐え切れないかもしれない。

「(いけないわッ! この距離では回避が間に合わない! しかし、防御態勢のまま受け止められる保証は……!)」

命の危機が間近に迫っていることによる錯覚だろうか?

オリヒメは機体をねじ込める隙間さえ無い濃密な弾幕の動きが遅くなる――より正確には"処理落ち"するような未知の感覚の中で無意識のうちに状況整理を行っていた。


 ――この程度の困難で負けを認めるのか? そう簡単に諦めてくれるなよ。

私や月の民を戦禍へ巻き込み、大勢の同胞を殺した罪……それを償い終えるまで楽に死ねると思うな――。


 ほんの一瞬だけ垣間見えたのは、この世の終わりを彷彿とさせる真っ暗闇な虚無の世界。

時間さえ止まった空間で待ち構えていたのは妹ユキヒメを筆頭とする、この戦争で傷付き命を落とした月の民たち。

いや……それだけではない。

ここへ至るまでに手に掛けてきた人々がオリヒメのことを嘲笑っている。

お前は何一つ手に入れられず、逆に全てを失う運命にある国賊以下の哀れな女だ――と。

「ッ!」

"そんなことは無い"と反論しようとした瞬間、ハッと我に返ったオリヒメは現実世界へと帰ってくる。

そして、目の色が変わった彼女の意志に応えるかのようにイザナミの背部から6基の試製立体機動攻撃端末が射出。

「何だ……端末(フェアリア)を使ったバリアフィールドだとッ!?」

その内4基を自機の正面に展開することで蒼い光の壁を生成し、ライガのパルトナの一斉射撃を一部防いでみせる。

バリアフィールドで打ち消せるのはレーザーなどエネルギー兵器だけだが、不幸中の幸いと言うべきか光の壁をすり抜けてきた実体弾は全て外れてくれた。

「(博士の機体に使われていた技術と全く同じだ! 俺の見立てが悪い意味で当たっちまったな……!)」

もっとも、少し前に似たような防御兵装を見ていたライガのリアクションは明らかにブラフであった。

彼が心の中で言及している博士の機体――ライラック・ラヴェンツァリのエクスカリバー・アヴァロンも端末を巨大なビームシールド発生器として利用していた。

エクスカリバーとイザナミは同じ人物が基礎設計を担当しているため、同系統の装備を持っていたとしても不思議ではない。

「(……しかし、今の動作は外部から見て分かるほどに奇妙だった。まるで、オリヒメの深層意識に反応して端末(フェアリア)が勝手に動いたかのような……)」

それ以上にライガが気になっていたのは試製立体機動攻撃端末の挙動だ。

6基の端末(カムイ)が動き出した時、彼のイノセンス能力は強い違和感を示していた。

ただし、この時点では違和感の正体は掴みかねていたが……。

「(端末(カムイ)が防壁を展開してくれた……? いえ……先程の動作に私の意志はほとんど関与していなかった)」

一方、端末(カムイ)の挙動に違和感を抱いたのは使用者であるはずのオリヒメも同じだった。

イザナミの試製立体機動攻撃端末には脳波コントロールシステムが採用されているものの、これに組み込まれているのはあくまでも"搭乗者の脳波を受信する"だけのパッシブセンサーであり、積極的に搭乗者の思考を読み取る機能は存在しない。

にもかかわらず、なぜ端末(カムイ)たちは主の生存本能を汲み取るかのように動いたのだろうか?

「(お父様、お母様……そしてユキ。私のことを恨んでいたのなら、素直にそう言ってくれればよかったのに)」

そのような疑問などオリヒメはもはやどうでもよかった。

知らずのうちに自分自身を追い詰めていた彼女はまだ気付いていなかった。

中途半端な"覚醒"に伴い現れた強迫観念に精神を蝕まれ、少しずつ壊れ始めていることに……。


「アタックッ!」

レガリアのバルトライヒの専用ビームソードが藤色のサキモリ――スズヤの試製オミヅヌ丁を捉える!

「ッ……!」

「避けられた!? でも……回避後の動きが甘いッ!」

目にも留まらぬほど速く力強い刺突をスズヤは決死の回避運動でかわすが、その可能性を(あらかじ)め想定していたレガリアは"緊急回避狩り"とでも呼ぶべき攻撃を繰り出す。

「ビームソード、フルパワーァァァァァァッ!」

「くッ……カタナがッ!」

深紅のMFは上半身を捻るように右回転させながらビームソードの出力を最大値に設定。

攻撃の後隙を突くつもりで死角へ回り込んでいたスズヤのオミヅヌに強烈な水平斬りを叩き込む。

藤色のサキモリは反射的に出したカタナで非常に強力な一撃を辛うじて逸らしたものの、莫大な熱エネルギーに晒された得物の上半分は完全に融けて無くなってしまった。

「思っていたよりもやるみたいね……!」

「(間合いの詰め方と攻撃の初動が全て早い! このままでは押し切られてしまう!)」

必殺の一撃を(かわ)されたレガリアはビームソードの出力を一旦下げ、今度は隙が少ない小技を連発していくことで相手にプレッシャーを与え続けてミスを誘う。

カタナを失ったスズヤは予備武装の改良型光刃刀で対抗するが、"紅い悪魔"の猛攻を前に防戦一方の苦しい展開を強いられる。

「(機体の消耗を抑えるためになるべく温存したかったけど……状況打開のためにはここで使うしかない)」

劣勢に立たされているスズヤにはまだ余力が残されていた。

彼女は最終決戦が長期戦になることを予想し、機体の出力を高くても"100%"に抑えていたのだ。

他のルナサリアン製サキモリ同様、試製オミヅヌ丁には一定時間100%以上の最高出力を発揮できるリミッター解除機能が実装されている。

「(……どうせ死ぬのならば力を出し尽くしてから死ぬべきよね)」

自分の背中を追いかけるように軍人となった妹はもうこの世におらず、たとえ戦争を生き残っても負ければ親アキヅキ派の代表格として一族郎党処刑されるだろう。

スズヤに残された"生存ルート"は目の前の強敵を排除したうえでのルナサリアン側の勝利だが、大勢が決しつつあることは火を見るよりも明らかだ。

進むも地獄、退くも地獄ならばいっそのこと……。

「あなたッ! "もうこれで終わってもいい"などと考えていないでしょうね!?」

自暴自棄に陥りかけていた彼女に待ったを掛けたのは、なんと敵であるはずのレガリアだった。

優れたイノセンス能力を持つレガリアはスズヤの心の揺らぎを感じ取っていたのだ。

「ッ! ち、地球の純心能力者は人の心に土足で踏み込んでくるのかッ!」

「その程度の甘ったれた覚悟しかない小娘など殺す価値も無い! 今すぐ私の前から消え失せろ!」

心を読まれたと思い動揺するスズヤを見下ろし、普段の姿からはとても想像できないほど冷たい視線と冷酷な言葉を突きつけるレガリア。

無論、このような物言いは決して本意ではない。

ただ……"死ぬために生きる"という矛盾を抱えたまま戦い続けることだけはやめてほしかった。

「……消え失せない! 下らない挑発に背を向けることはヨミヅキ家の誇りが許さない!」

皮肉にも(レガリア)の言葉のおかげで悩み事がパチンと消えたスズヤは覚悟を決める。

死に場所を見つけるために生きるのではない。

目の前の大きな壁を壊すために戦う……!

「戦時緊急出力……発動!」

"紅い悪魔"を討つまでは終わらない――いや、終われない。

スズヤは強大な敵に対抗するべく出力制限及び荷重制限を解除し、試製オミヅヌ丁が秘めるポテンシャルを完全に引き出せる状況を整えるのであった。

【Tips】

オリヒメが権力闘争を駆け上がる過程で手を下してきた相手は対抗勢力だけではない。

彼女は自らの立場及び安全を脅かす可能性があるならば、たとえ両親や従姉妹であっても容赦しなかったという。

なお、妹ユキヒメだけ見逃した理由はその能力を惜しんだことに加えて、国民からの人気が高く迂闊に処分できなかったからだと云われている。

無論、高い志を共有する姉妹として強い絆で結ばれていたのも事実だが……。

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