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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-100】最終決戦Ⅲ:駆け引き

 お互いに射撃が得意且つ射撃戦向きの機体に乗っていることから、オリヒメとライガは一定の間合いを保ちながら一進一退の撃ち合いを繰り広げる。

「発射ッ! 発射ッ!」

高威力だが連射が利かない長銃身大型光線銃を二丁持ちスタイルで構え、短所を補うような時間差攻撃を仕掛けるオリヒメのイザナミ決。

「ファイアッ! ファイアッ! ファイアッ!」

それに対してライガのパルトナ・メガミ(決戦仕様)も専用長銃身レーザーライフルを二丁持ちしているが、こちらは時間当たりの火力を更に高めるためのテクニックだ。

時間差で迫り来る蒼く太いレーザーを最小限の回避運動でかわしつつ、左右のレーザーライフルを3連射し反撃を叩き込む。

「行きなさいッ! "カムイ"!」

長銃身大型光線銃は扱うエネルギー量が大きい分、連続使用すると温度が上がりやすいためクールタイムを設ける必要がある。

そして、その時間を凌ぐのにカムイ――試製立体機動攻撃端末は非常に相性が良かった。

オリヒメのイザナミはリチャージを終えた6基の端末を全て射出し、白と蒼のMFに向かわせることで牽制を試みる。

「(まだまだ動きが甘い! この程度の機動なら自力で振り切れる!)」

ライガの予想通り、白と紫のサキモリのオールレンジ攻撃は前回よりも明らかに機動が鋭くなっていた。

もっとも、動きが良くなったとはいえ彼の動体視力と反射神経ならば十分対応できる範囲内だ。

今度はVSLC(可変速レーザーキャノン)による迎撃は行わず、愛機パルトナの高い運動性を活かして蒼く細いレーザーの弾幕を掻い潜っていく。

「MRRG、ファイアッ!」

四方八方からの攻撃を切り抜けた次の瞬間、ライガのパルトナはMRRG――左肩部中射程レールガン"ケラヴノス"を発射するのだった。


 レーザーには劣るものの、それでも専用弾を電磁気力で加速させるレールガンは実体射撃武装としてはトップクラスの弾速と攻撃力を誇る。

「くッ……!」

目視確認してからでは間に合わないことも多いが、蒼い電流を纏った一撃をオリヒメは決死の急旋回で辛うじて回避してみせた。

あとコンマ1~2秒ほど反応が遅れていたら、おそらく直撃を受けて木っ端微塵になっていただろう。

「かわされた!? 運動性を重視した換装形態は伊達じゃないというわけか!」

必中を期した攻撃を避けられたライガはさすがに驚きの表情を浮かべ、対MF戦を意識した調整を施してきたイザナミ決の性能に一定の評価を与える。

ここで重要なのは彼が"オリヒメの技量"には全く言及していない点だ。

「(あの電磁砲は以前の戦闘では6発程度で弾切れになっていたはず。早めに使い切らせれば攻撃力を低下させられるけど……)」

回避運動から復帰したオリヒメは以前の戦闘――絶対防衛戦略宙域での苦戦を思い出す。

あの時はレールガンの一撃で機体の増加装甲を破壊され、そこからダメージが蓄積しギリギリの戦いを強いられることになった。

一応、初めてライガと互角に渡り合えた戦闘なので成功体験でもあるのだが……。

「(レールガンのことを気にしているのか? 前の戦闘で増加装甲をぶち抜いてやったのが余程トラウマになっているらしいな)」

それをイノセンス能力で感じ取ったライガも同じく前の戦闘の内容を思い出し、次弾装填及び砲身冷却を完了したレールガンのコンディションを確認する。

彼にとってはこの戦争を通して唯一機体を大破させてしまった、お世辞にもベストとは言えない戦いであった。

「(次はコックピットを潰してやるか? いや……奴は俺にレールガンを無駄撃ちさせる算段かもしれない)」

縦横無尽な機動で照準を定める隙を与えない白と紫のサキモリを捉えようとするが、これを一種の揺さぶりと判断したライガは左操縦桿の兵装発射ボタンに中指を置いたままタイミングを図る。

戦闘中のマガジン交換ができず、弾数も6発しかないレールガンは慎重に使わなければいけない。

「(有効射程が読めないわね……中距離ではあらゆる射撃武装を使ってくる可能性がある)」

「(こっちは射撃武装を豊富に持っている。簡単に俺の手札を読めると思うなよ)」

自機の周囲にオールレンジ攻撃端末を展開することで中距離以下の接近を牽制するオリヒメのイザナミ。

中射程レールガンや専用長銃身レーザーライフル、そしてVSLCといった豊富な攻め手をチラつかせてプレッシャーを掛けるライガのパルトナ。

両者は互いが切ろうとしている"カード"を当てるべく静かな読み合いを展開する。

「(オールレンジ攻撃が収まったら一気に切り込んでやる!)」

白と紫のサキモリを守るように配置されていた端末(カムイ)が活動限界を迎え母機へと戻っていく。

その絶好のチャンスをライガは決して見逃さず、自身が最も得意とする距離まで詰め寄るべくスロットルペダルを踏み抜いて愛機を加速させる。

「(立体機動攻撃では仕留め切れないか……マズいわね。距離を詰められたら一層不利になる)」

対MF戦のために実戦投入した試製立体機動攻撃端末はまだ真価を発揮できていない。

圧倒的実力差を前に盤面をコントロールすることさえままならず、オリヒメは更に焦りを募らせていく……。


「悪魔め……何という馬鹿力だ……!」

同じ頃、別の場所で戦闘中の皇族親衛隊隊長スズヤも"紅い悪魔"の強大な出力に苦戦を強いられていた。

「力の差は歴然としている! 今ならまだ後戻りできる……私の前から立ち去りなさい!」

「貴女を討ってからそうさせてもらう!」

紅い悪魔――レガリアのバルトライヒは約14万kwのパワーでスズヤの試製オミヅヌ丁の攻撃を(ことごと)く切り払い、同じ"良血"ゆえの同情からかあくまでも撤退を呼び掛け続ける。

もっとも、圧倒的実力差を現在進行形で見せつけられているスズヤにとってそれは事実上の恫喝であり、如何なる理由であろうと受け入れられるはずが無かった。

「くッ……この……分からず屋の小娘めッ!」

「突きッ!」

予想以上に頑固な小娘の気迫にレガリアが珍しく怯んだ隙を突き、深紅のMFの胸部めがけてカタナによる鋭い刺突を繰り出すスズヤ。

「はぁッ!」

「何ッ!?」

しかし、レガリアのバルトライヒはカタナの斜め下へ潜り込むように刺突をかわすと、回転する動きを活かした(かかと)蹴りを藤色のサキモリの右手首に当てることで攻撃を潰してみせる。

自機の特定の部位を敵機のピンポイントな部分に当てる――高い技量と搭乗機に対する理解度が無ければできない芸当だ。

「チェックメイトよ……お嬢さん!」

乾坤一擲の刺突を弾かれバランスを崩したスズヤのオミヅヌの腹部にレーザーライフルを突きつけ、チェックメイトを宣言するレガリア。

彼女が左操縦桿のトリガーを引けば藤色のサキモリの腹部に風穴が開き、戦闘力を大きく削ぐことができる。

「ッ……無礼(なめ)るなッ!」

「ライフルが……!?」

だが、今のスズヤはこの程度のピンチでは止まらなかった。

レーザーライフルの銃口が蒼く光る直前、藤色のサキモリはフリーとなっていた左マニピュレータでライフル自体を掴むことで接射を逸らし、更にそのまま力を加え続けてライフルを握り潰す。

ライフルを掴まれたレガリアのバルトライヒは咄嗟に左手を放したため、武器の破損に伴う小爆発には巻き込まれずに済んだが……。

「脳天唐竹割りッ!」

「ッ!!」

窮地を脱したスズヤのオミヅヌの力強い縦斬りに対する反応が僅かに遅れ、深紅のMFは左胸のエアインテークに切り傷を入れられてしまう。

ただし、攻撃を食らった後に固定式機関砲を発射しながら後退する判断は適切であり、レガリアはそれ以上の追撃を避け一旦距離を取ることができた。

「一撃当てられた! あれに乗っているのは悪魔の姿をした人間……中身が人間なら殺せるはずなのよ!」

絶対無敵と思われた深紅のMFにようやく傷を付けられたスズヤは自信を取り戻し、まるで自分を奮い立たせるかのように"悪魔を必ず殺してやる"と声を震わせながら意気込む。

「(何とか反応できたけど……あの()、相当イレ込んでいるわね。可及的速やかに無力化しないと危ういかもしれない)」

一方、機体をファイター形態に変形させて逃げに入ったレガリアは冷静に状況を分析していた。

彼女が心配していたのは自分のことではなく、いつ大崩れしてもおかしくないスズヤの精神状態の方であった。


 月の宮殿――"ゴショ"の周辺は月面都市と同じく巨大なガラスドームに覆われており、当然ながらこの中では飛行に大きな制限が課せられる。

ガラスドームの高さは頂上付近で約150m程度と推測され、外縁部へ近付くに従い低くなっていく。

これはMF及びサキモリの機体サイズならば多少余裕があるとはいえ、空中戦を行うには空が低すぎることを意味していた。

「逃げるなッ! どこまでも追いかけてやるッ!」

その制約下で天井を掠めるように空を翔ける深紅のMFを射程内に捉え続け、改良型光線銃をしつこく連射するスズヤのオミヅヌ。

「(マイクロミサイルは次が正真正銘のラスト……だけど、あそこまで動きが良い敵にはおそらく命中しないわね)」

冷静さを欠いている攻撃は当たらないと判断したレガリアは回避運動には入らず、彼我の位置関係を逐一確認しながら次の一手を考える。

彼女のバルトライヒは機体本体のバックパックにもマイクロミサイルを搭載しているが、ここまでの戦闘でそれなりに使ってきたので弾数は残り少ない。

しかも、自分を徹底的にマークしている相手には事前動作を読まれてしまう可能性が高い。

「目標捕捉! 誘導弾発射ッ!」

機体性能や技量にモノを言わせて慎重且つ堅実な戦い方ができるレガリアとは対照的に、攻めて攻めまくる以外の勝ち筋が無いスズヤは乗機オミヅヌのバックパック側面から大量のマイクロミサイルを発射。

今のスズヤに周辺への被害を考慮する精神的余裕など残っていなかった。

「(流れ弾がガラスドームに当たるわよ! 正気なのッ!?)」

月面を守るガラスドームを破壊しかねない無謀な攻撃に正気を疑いつつ、それを早急に止めるべくレガリアは予定よりも早く反転攻勢へ移行する。

「(くッ……回避運動を取りつつ反転! ヘッドオンでマイクロミサイルを叩き込む! ラッキーショットが当たってくれるといいんだけど……!)」

深紅のMFは飛行速度を維持できる旋回半径で後方から接近するマイクロミサイルを振り切ると、今度は敵機を正面に捉えながら自機のマイクロミサイルユニットのカバーを展開。

全弾回避されることを前提に――少しだけまぐれ当たりを期待して一斉発射を仕掛ける。

「マイクロミサイル、シュートッ!」

ロックオン完了を知らせる電子音が鳴った瞬間、レガリアは左操縦桿の兵装発射ボタンを押し込み残りのマイクロミサイルを全てバラ撒く。

「(そちらに動くか……その程度の機動ならば!)」

彼女の予想通り、正面からの攻撃はスズヤほどの実力者には容易に見切られてしまう。

だが、若干迷いが残る藤色のサキモリの回避運動をレガリアは見逃さない。

「ファイア!」

「ッ……!」

この相対速度では格闘戦への移行が間に合わないため、深紅のMFはファイター形態でも使用可能な固定式機関砲を発射しながら一旦すれ違う。

反応が追い付かないスズヤのオミヅヌは小口径弾を防御態勢で浴びる格好となり、機体の外装に小さなダメージを受けていた。

「モードチェンジ! ノーマルモード!」

藤色のサキモリがワンテンポ遅れて反応した直後、レガリアのバルトライヒはポストストールマニューバに入るキッカケとして変形による急減速を利用。

人型のノーマル形態へ姿を変えつつ敵機の背後を取る。

「退くつもりは無いのね……だったら、本気で殺さないといけなくなる!」

バルトライヒのもう一つの主兵装――専用ビームソードから蒼い光の刃が形成される。

穏やかな性格で心優しい女性と評されるレガリアだが、明確な殺意を持って向かって来る相手にはさすがに本気で対応しなければならなかった。

【Tips】

ケラヴノスとはギリシャ語で「雷」「落雷」という意味。

レールガンは莫大な電力を必要とし、発射時に砲身及び専用弾が蒼い電流を纏うことからこの名が付いた。

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