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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-95B】星月の大太刀

 ギガント・ソード――。

MFの全高に匹敵する長大な刀身を誇る、両手持ち前提の超大型実体剣。

斬撃・刺突の両方に対応可能な設計となっているが、その実態は質量を以って対象を叩き潰す"剣としても扱える鋼鉄の塊"といった感じの武器だ。

「アタァァァック!」

「くッ……振りが大きい攻撃など!」

携行武装としては規格外のサイズにセシルのオーディールM2も苦労しているのか、前隙・後隙共に大きすぎる攻撃をユキヒメのイザナギに当てることができない。

「はぁッ!」

「速い!? その武器でよくやる……ッ!」

しかし、以前一度だけ使った時の感覚を思い出しながらセシルは徐々にアジャストしていき、ついに大質量にモノを言わせた一撃が白と赤のサキモリの左腕を捉えた。

「(こちらもそろそろ抜くべきか……"星月の大太刀"を!)」

ギガント・ソードの刃先で回転式多銃身機関砲を斬られたユキヒメは誘爆防止のためそれを投棄しつつ後退。

そして、巨人の刃のポテンシャルを目の当たりにした彼女は、自らも"星月の大太刀"なる同等の武器で対抗することを決断する。

「アキヅキ流が第十一奥義……『霜月の太刀』の二連撃!」

まずは抜刀の隙を補うための時間を稼ぎ出すべく、ここまで使う機会に恵まれなかった2基の汎用光刃刀を時間差で投擲するユキヒメのイザナギ。

「ブーメラン如きでッ!」

この程度の牽制攻撃では足止めにさえならないものの、それでも回避運動を強いられたセシルのオーディールとの間合いを少しだけ取ることはできた。

「見るがいい! アキヅキ流最強の大技――そして、それを放つために作られた大太刀の姿を!」

バックパックに装備されている鞘へ両腕を伸ばすと、そこからユキヒメのイザナギは巨大なカタナ――"星月の大太刀"を勢い良く抜刀する。

まるで、自機の全高とあまり変わらない大型実体剣を振り回せる高出力を誇示するかのように……。

「大型機め! どれだけ武装を積んでいるんだ!?」

パワー勝負では分が悪いと感じて一撃離脱戦法に切り替えるセシル。

「その大剣諸共叩き切ってくれるわッ!」

一方、ユキヒメは相手が得意とするスピード勝負には付き合わず、あくまでも自分の戦い方に集中するのだった。


「でやぁぁぁッ!」

「うぐぅッ……実物の反動がこれほどとは!」

持ち前の速度――運動エネルギーを乗せたセシルのオーディールの一撃は非常に強烈で、それを真っ向から受け止めたユキヒメはシミュレータ訓練では体感しにくい衝撃に苦しめられる。

「(この調子で打ち合っていたら身体が持たん! むち打ち症になってしまうぞ!)」

「(くそッ! こちらの方が機体が軽いから、攻撃を防がれると反動で弾き飛ばされてしまう!)」

長時間に及ぶ激戦で身体に違和感を覚え始めたユキヒメと同じく、攻撃側のセシルも大型実体剣の打ち合いで生じる反動への対処に苦労していた。

「(地上戦ならば反動を地面に逃がせる……それに推進剤の残量もそろそろ厳しい)」

反動の影響をもろに受けやすいのは、全備重量が軽くパワーでも劣るセシルのオーディールの方だ。

スラスター噴射で姿勢をコントロールできれば多少補えるものの、激戦続きでダメージが目立つ蒼いMFは推進剤にあまり余裕が無い。

眼下に広がる都市公園を見たセシルは残りわずかな推進剤を節約するため、あまり気乗りしないが地上戦に切り替えることを決めた。

「(高度を下げていく? ……なるほど、地上の方が戦いやすいという判断か)」

急に攻撃の手を緩めた敵機の行動を訝しむユキヒメだったが、彼女はすぐにその意図を理解し"蒼い悪魔"を追いかけ始める。

「先ほどはやってくれたな! さあ、今度はこちらから仕掛けさせてもらう!」

ギガント・ソードの登場により後れを取っていたユキヒメのイザナギは態勢を立て直し、星月の大太刀の扱いに慣れてきたところでようやく本格的な攻勢に転じる。

「アキヅキ流が第七奥義! 『文月の太刀』!」

白と赤のサキモリが繰り出すのは「文月の太刀」と呼ばれる錐揉み回転しながらの刺突。

この奥義自体は以前にも使用したことがあるが、星月の大太刀を装備した状態で行うのは当然ながら初めてだ。

ユキヒメが"再発見"するまで顧みられなかった長物のポテンシャルを図るには良い機会だろう。

「かわせる……ものかよッ!」

「ぐぅぅぅッ……!」

蒼いMFの回避運動を見切り、自分自身をドリルのように回転させつつ突撃を仕掛けるユキヒメのイザナギ。

だが、動きを読まれながらもセシルのオーディールは咄嗟に防御態勢を取り、歯を食いしばって地面を踏みしめることで強力な一撃を受け流してみせる。

「(まともに食らっていたら死んでいた! しかし、あの程度の攻撃で恐怖に屈するわけにはいかない!)」

直撃を受けなかったのは幸運であった。

仕切り直しのため離れていく白と赤のサキモリの動向を注視しつつ、セシルは気持ちを切り替えて次の行動を考える。

「(奴は膠着状態になると、状況打開のため大技を繰り出してくる傾向がある。その後隙にチャンスもあると見た)」

これまでの戦闘を振り返ったセシルはユキヒメの戦い方の癖に気付いており、そこに付け入る隙があると予想した。

ただし、大技に入る前は牽制攻撃などで確実に安全マージンを作ろうとするため、実際にチャンスが訪れるのはおそらくアキヅキ流奥義をかわした直後だけだ。

「(もう一度だ……もう一度隙の大きい攻撃を誘って、それを回避しつつカウンターを叩き込めば……!)」

肉を切らせて骨を断つ――。

セシルのオーディールはギガント・ソードを構え直すと、あえてその場から動かずに相手が痺れを切らすのを待つのであった。


「(仕掛けてこないのか? 奴は一体何を……そうか!)」

自信を持って放った「文月の太刀」を防がれたユキヒメは距離を取りながら相手の出方を窺う。

なかなか攻めてこない蒼いMFの姿にヤキモキしていた時、彼女はそれもまた作戦の一つだと見抜く。

「(反撃狙いというわけか……フッ、悪くない戦法だが私には通用せんよ)」

反撃で確実にダメージを与える戦法は"悪くない"と評しつつも、自分はその手には乗らないと心の中で笑うユキヒメ。

「(私にアキヅキ流奥義の大技を使わせ、それを(かわ)しながら反撃を打ち込む腹積もりと見た)」

実戦経験豊富な彼女はセシルの策を完全に読み切っていた。

「(……ならば、小技を繋いでいく予想とは真逆の戦い方には対応できるかな?)」

相手はアキヅキ流奥義を筆頭とする大技が来るつもりで構えているはず――。

ならば、その裏をかくように動いて小技で決めるまでだ。

「戦時緊急出力、発動!」

スピードが要求される高速戦闘に備えるべく、ユキヒメはここでついに戦時緊急出力――リミッター解除を実行する。

あらゆる制約を解き放った白と赤のサキモリの実力はハッキリ言って未知数であるが……。

「このイザナギが力任せの機体とは思わんことだ!」

高速戦闘では邪魔になる星月の大太刀を鞘に一旦納め、あえて素手の状態で加速していくユキヒメのイザナギ。

「(長物を持っていない!? 懐に飛び込んでくるつもりか!?)」

「むぅんッ!」

違和感を覚えたセシルのオーディールが反応するよりも早く距離を詰めると、甘い防御態勢の隙間を狙うようにユキヒメは左腕の接近戦用杭打機で攻撃を繰り出す。

彼女にしては珍しい戦術もクソも無いシンプルな攻撃だが、案外こういうやり方が有効な場合もある。

「何とか避けられるが……!」

「う……ぐッ……遅いんだよッ! 抜刀ッ!」

「ッ! 手数重視の戦法に切り替えてくるとは!」

そして、この程度の攻撃ならセシルは反応を追い付かせて回避することも想定しており、ユキヒメのイザナギは急旋回しながら最後まで残しておいた2基の汎用カタナを抜刀。

ギガント・ソードを持っているため細かい動きが難しい蒼いMFを切り崩すべく、普段の戦闘スタイルとは大きく異なる素早いラッシュで一気に畳み掛ける。

「回避も防御も良い動きだ! しかし、その調子では遅かれ早かれ体力が尽きるぞ!」

「(くそッ! 至近距離で纏わりつかれたら防戦一方で手が出せない!)」

二刀流を存分に活かしたユキヒメの連撃をセシルはギガント・ソードで何とか切り払い続けているが、この状態では反撃に転じることができない。

「アキヅキ流が第十二奥義! 『師走の二太刀』!」

膠着状態を脱したいのはユキヒメも同じであり、彼女は二刀流専用の奥義「師走の二太刀」でパワープレイを図る。

「その二の太刀だぁッ!」

もっとも、上から下にVの字斬りを放つこの奥義はあくまでも牽制。

ユキヒメの真の目的は"二の太刀"と呼ばれる派生技の切り上げへと繋ぎ、自機の隙を突くつもりで振り下ろされたギガント・ソードを逆に弾き返すことだった。


 実力者同士のハイレベルな戦闘では、たった一つのミスや不運が致命的な事態を招く。

「なッ……!?」

乾坤一擲のカウンター攻撃にカウンターを返されたセシルのオーディールは完全にバランスを崩し、簡単にはリカバリーできない状況に陥る。

「でぇりゃぁぁぁぁぁぁッ!!」

次の瞬間、2本の汎用カタナを両手で束ね持ったユキヒメのイザナギの縦斬りが蒼いMFの左腕と左胸を切り裂いた。

「うぐッ……ああああああッ!」

先ほどの一撃はオーディールの左上半身――おそらくはコックピットブロックまで到達しており、これまで感じたことが無い激痛にセシルは悲鳴のような絶叫を上げる。

声として発散しなければそのまま気絶していたかもしれないからだ。

「その首、貰い受けるッ!」

「(今は怪我のことは考えるな……機体を何とか動かすことに集中する!)」

手応えが微妙だったユキヒメは返し刀で蒼いMFのコックピットを直接狙うが、辛うじて意識を繋ぎ止めたセシルはギガント・ソードを投棄しながらスロットルペダルを操作することで本能的に回避運動を行う。

「う……くッ……!」

「トドメは届かないか……あの怪我でまともに動けるのは、さすがの判断力及び生存本能と言ったところだな」

彼女の固定式機関砲による苦し紛れの牽制射撃を被弾したユキヒメは潔く追撃を断念。

深手を負ってもなお悪影響を最小限に抑えているセシルの技量――そして精神力の強さに純粋に敬意を示す。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

一方、都市公園から大通り一本隔てたビル街へ逃げ込み、地上・空中共に死角となりやすい位置に機体を待機させたセシル。

呼吸が整わず意識が朦朧(もうろう)としていく中、彼女は肩で息をしながら恐る恐る先ほど激痛が奔った部位に右手を伸ばすが……。

「(……ッ!? どおりで左腕の感覚が無いわけだ……死ぬほど痛いとはこのことか……)」

右手は空を掴むばかり。

そこに本来あるべきはずの左腕の感触――いや、左腕そのものが物理的に無くなっていた。


「逃げても隠れても無駄だ! "蒼い悪魔"の恐怖はここで終わらせる! 今日、この私が命に代えてでも!」

ユキヒメの決意表明が混線で聞こえてくる。

ノイズがほとんど混じらず音質が良いことから、彼女はすぐ近くまで迫っている可能性が極めて高い。

「(……私は生きる! 2年前の戦いやこの戦争でそれが叶わなかった、仲間たちの分まで!)」

だが、致命傷を負っていてもセシルはまだ死ねない。

先に逝った仲間たちと――そして、自分の帰りを待っている人々のためにも。

「見つけたぞ……"鷹の眼"と呼ばれる私の視力とイザナギの索敵能力ならば容易い」

入り組んだ市街地の中に潜伏する敵機の位置を特定し、2基の汎用カタナを構えながら攻撃態勢に入るユキヒメのイザナギ。

「アキヅキ流が第一奥義! 『睦月の太刀』の二本差し!」

白と赤のサキモリが繰り出そうとしているのは一撃必殺の刺突である「睦月の太刀」。

しかも、その派生技にあたる"二本差し"と呼ばれる特殊な攻撃だ。

「(左腕部フューエルカット……出力配分を右腕に集中……バランサーはマニュアルで調整!)」

残された右手でH.I.S(ホログラム・インターフェース)の設定画面を操作し、機体のバランスを可能な限り再調整するセシル。

「戦士としての手向けだ! 美しく残酷に死ねッ! セシル・アリアンロッド!!」

「……悪魔をナメると死ぬぞ……アキヅキ・ユキヒメ!!」

道路上をホバー移動しながらカタナを構えたユキヒメのイザナギが突撃してくる。

それに対してヘルメットを脱ぎ捨てた満身創痍のセシルが選んだ行動は……。

【フューエルカット】

MFの場合、損傷部位に対する推進剤及びE-OS粒子の供給を強制停止することを指す。

これ自体は引火や誘爆の危険性は低いものの、ダメージコントロールやリソースの再配分を目的に行われることが多い。

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