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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-95A】CLOSED RUNAWAY

 緩やかに旋回しつつ高度を下げることで速度を稼ぎ、2機のMFは猛スピードで秘密トンネルへと突入する。

「くッ……逃がさないわよ!」

「それはこっちのセリフだぜ! 姉さんたちの邪魔はさせない!」

それを未然に妨害できなかったライラックは速やかに追撃態勢へ移ろうとするが、ここでバスタードソード"レーヴァテイン"を構えたブランデルのプレアデスが行く手を阻む。

「貫けぇッ! レーヴァテインッ!」

魔剣の名を冠する大型実体剣を投げ槍のように持ち替えると、ブランデルはそのまま愛機プレアデスの大出力を活かして右腕一本で投擲(とうてき)する。

「サーヴァントッ! 奴に突撃して食い止めなさいッ!」

対するライラックのエクスカリバー・アヴァロンは最後の一基となったオールレンジ攻撃端末"サーヴァント・デバイス"に指示を送り、超高速で迫り来る大剣をかわしながら自機の端末(フェアリア)を真紅のMFに向けて突撃させる。

「くそッ! 直接打撃だとぉッ!?」

小型とはいえかなりの速度で体当たりされたら衝撃自体はそれなりに激しく、身体を揺さ振られたブランデルが怯んでいる隙に白いMFはトンネル内へ飛び去ってしまう。

「ブランッ!」

「私は大丈夫だ……この端末(フェアリア)を使い捨てにして逃げたか」

擱座(かくざ)した乗機フルールドゥリスに乗ったまま戦闘を見守っていたリリーの声に食い気味に反応し、突撃で全エネルギー及び推進剤を使い切り地面に落ちたエクスカリバーの端末(フェアリア)を回収するブランデル。

「何やってんのよッ! 早く追い掛けなさいよッ!」

「バカ野郎ッ! 中破した味方機を置いていくわけにはいかないだろうがッ!」

友人が無事だと分かったリリーは"そんな呑気にしてる場合じゃない"と声を荒げるが、ブランデルは逆に"仲間を見捨てて敵の撃破に拘るほど冷酷ではない"と強い口調で言い返す。

「ッ……もぉーッ!! バカバカバカぁーッ!! また逃げられたぁッ!!」

次の瞬間、急に感情を爆発させコックピットの補助計器盤を何度も殴り始めるリリー。

良くも悪くもマイペースな彼女がここまで悔しさを露わにすることは非常に珍しい。

「リリー……!」

「これじゃあ30年前と一緒じゃないッ! この30年間は一体何だったのよぉッ!」

付き合いがそれなりに長いブランデルはなぜリリーが悔しがっているのかを理解できる。

これは30年という月日を費やしながらも、結局30年前とほぼ同じ結果に終わった自分自身に対する強い怒りだ。

「……無駄じゃなかっただろ。あの女が多少ムキになるまでは追い詰めたんだ」

しかし、ブランデルはこの30年間を全くの無駄だとは考えていない。

傲慢不遜でいつも余裕の態度を崩さないライラックを一瞬とはいえ感情的にさせたのは良い収穫だった。

「ここから先は姉さんたちに任せよう。あるいはトンネル内で壁に激突して自滅するのに期待だな」

コンクリート壁に突き刺さった"レーヴァテイン"を引き抜きつつ、地下深くまで伸びる秘密トンネルの内部を見やるブランデル。

「(姉さん、ライガ……死ぬなよ)」

トンネルはMFがギリギリ高速飛行できる程度の広さ。

あまり心配はしていないはずだが、ブランデルは無意識のうちに姉と戦友の無事を祈っていた。


 ホウライサン近郊と月の宮殿地下を繋ぐ秘密トンネルは月面最大の人造湖"ジュン湖"の湖底を通るように建設されている。

専用輸送列車の通過を想定した直径はMFの機体サイズならば決して狭くはないが、かと言って安全に急旋回して引き返せるほど広いわけでもない。

「無理に飛ばす必要は無い。確実に飛べ」

「分かってる……50センチズレたら二人揃ってあの世逝きね」

深紅の重可変型MFに"リフター"されているライガは速度よりも確実性を重視した飛行を求め、この極限状況で戦友の命を預かるレガリアは言われるまでも無く慎重な操縦に徹する。

彼女の重機動型バルトライヒの高すぎる機動力と"リフター"による操縦性悪化を考慮した場合、コース取りの許容誤差は上下左右共に50cm未満といったところだろうか。

「お前と一緒に死ぬのは御免だ」

「……ッ! 後方から敵機がトンネルに飛び込んだわ!」

重心を下げるため機体を低姿勢にするなどライガも冗談を述べながら善処していたその時、イノセンス能力で敵意を感じ取ったレガリアは操縦に集中したまま警戒を促す。

彼女に後方確認する余裕は無いため、操縦以外の役目は手持ち無沙汰なライガに任せた方が効率的だ。

「ライラック博士だ! あの人なら多少の無茶は承知でやりかねん!」

「――フフッ、逃がさないわよ」

同じくイノセンス能力を持つライガの予想通り、彼らを追いかけるように遅れてトンネルへ飛び込んで来たのはライラックのエクスカリバーだった。

「あなたたちには進路も退路も無い……滅びへの道を飛びなさい!」

これまでの戦闘で消耗させたのが効いているようだ。

トンネル内で追従しながら使える射撃武装を全て失っているためか、ボスキャラのような発言で煽ってくるわりにライラックは目立った攻撃を仕掛けてこない。

「レガッ! 引き離せッ!」

「了解!」

とはいえ、接近を許したら一気に加速して格闘攻撃を振ってくる可能性も考えられる。

狭所での戦闘は避けたいライガは接触通信でレガリアに指示を送り、機動力の差を活かして逃げ切る作戦へと変更する。

「おいおいおいッ! 危うく俺の頭が削れるところだったぞッ!」

狭く暗いトンネル内での超高速飛行は綱渡りのような集中力とバランス感覚が求められ、バルトライヒに"リフター"しているライガ機の上部が天井を何度も擦りそうになっていることからも、レガリアが如何に限界ギリギリの操縦をしているかが窺える。

「後方への攻撃で追い払えないの!?」

「無理を言うな! この状態じゃ照準が安定しない!」

少し落ち着ける直線に入ったところでレガリアはようやく口を開くが、彼女の要望にライガは応えることができない。

彼のパルトナ・メガミは後方へ攻撃する手段を持っているものの、いくら能力者(イノセンティア)でも不安定な状態で敵機を確認せずに狙いを付けるのは至難の業だ。

「(博士をこのまま引きずって行くわけにはいかないが……果たしてどうする?)」

しかし、ライラックのエクスカリバーに付き纏われるのはリスクが大きいのもまた事実。

機体が時々揺れる中、厄介なストーカーを追い払う方法をライガは考え始めるのであった。


「(おそらく、この辺りがトンネルの中間地点且つ最も深い場所――そして緊急用の水抜き穴が設置されている箇所のはずだ)」

トンネル突入後の経過時間と平均飛行速度から大まかな現在位置を計算し、その結果をブリーフィング時に覚えた内部構造図と照らし合わせていくライガ。

自分たちの頭上にあるジュン湖は例えるなら"巨大な浴槽"であり、水位調整設備として湖底に複数の巨大排水溝が設置されている。

これは地上側では調整が追い付かない場合に非常手段として開放され、人造湖の真下を通るトンネルへ湖水を流すことで迅速に水位を下げるという。

「何か策があるみたいね」

「ギャンブルだ。ラスベガスのカジノで100万クリエン(=約1000ドル)を一気にぶち込むような、分の悪い賭けかもしれない」

雰囲気の変化を察したレガリアからの問い掛けにライガはギャンブルを引き合いに出す。

彼が講じた策は成功云々以前に実行へ移せるかどうかも分からない。

「トンネル内の水抜き穴を一撃で破壊して、上の人造湖の水を流し入れることで博士を足止めする」

それでもライガはこういう時こそ"ハイローラー"として攻めるべきだと考え、これから打つ大博打の内容について簡潔に説明する。

「中間地点を抜けたら次は登り坂。仮に後ろから水流が追いかけて来ても私たちは多少余裕があるけど、相手は逆に突っ込んでしまう――というわけね」

「あまり惨い殺し方はしたくないがな」

一言二言で目的と手段を理解できるレガリアはさすがと言ったところだが、発案者のライガ自身は"宿敵とはいえ過度な苦痛は与えたくない"と首を横に振っていた。

「攻撃目標は分かる? 必要であれば速度と機体姿勢は調整できるわよ」

「ああ! このトンネルの構造は頭に叩き込んでいる!」

金は貸せないがそれ以外のサポートならできるというレガリアの申し出を受け入れ、ライガは早速100万クリエンのギャンブルの準備に取り掛かる。

「速度と機体姿勢を安定させろ!」

まずは唯一の足場である重機動型バルトライヒを水平飛行で安定させ、攻撃準備のため機体を動かしても転落しにくい状況を作る。

「くそッ! まるでクライムアクションゲームの主人公にでもなった気分だ!」

「ここから1000mは直線よ! 振り落とされてゲームオーバーにだけはならないでね!」

ライガのパルトナ・メガミは体勢を反転させる過程でかなりふらついてしまうが、それでもレガリアに励まされたことで何とか機体を立て直す。

長時間水平飛行ができる場所はおそらくこの直線が最初で最後。

下手に減速するわけにはいかない以上、攻撃チャンスは一度だけだ。

「HVAR、セーフティ解除……ファイアッ!」

HVARという略称で火器管制システムに登録されている12連装MF用ロケット弾ポッドのセーフティを解除すると、ライガはタイミングを図って右操縦桿の兵装発射ボタンを押し込むのだった。


 12発のロケット弾の着弾による爆風で命中判定の目視確認ができない。

「やったか!?」

「トンネルが揺れている……激流が来るわよ! しっかり掴まっていなさい!」

「いいぞ! 行けッ!」

しかし、トンネルが轟音を伴いながら揺れ始めたことでライガとレガリアは命中を確信し、後ろから迫り来る水流に呑まれないようフルスロットルで離脱を図る。

「何ッ……!? トンネルが崩落している!?」

100メートルほど後方を飛行していたライラックのエクスカリバーが同じ場所に接近した時、爆破された巨大排水溝からは既に大量の湖水が流れ込みつつあった。

「(違う! 脆い部分を攻撃することで人造湖の水を流し込んでいる……やってくれる!)」

地形を利用した足止めに感心しつつもライラックは脚部スラスターを前方へ最大噴射しつつ接地することで急減速。

それからすぐにスロットルペダルを踏み直して機体を浮上させ、出せる限りの速度で来た道を引き返し始める。

「(溺死と焼死とレ〇プの口封じで殺されるのだけは嫌なのよね……!)」

彼女も人の子だ。

一説には最も苦しいとされる死に方と、女にとっては想像さえしたくない最悪の末路だけは願い下げであった。

「(ともかく、これ以上進むのは不可能か……)」

忌々しげに後方を見やりながら肩を落とすライラック。

幸いにも水の速度はそこまで速くなく、焦って操縦ミスを犯さなければ激流に追い付かれることは無いだろう。


「(悔しいわね……仕留めるチャンスは何度かあったのに、またも奇策で逃げられるとは)」

この戦争を通してライガと戦う機会は度々あったが、技量で上回る彼の撃墜に近付けたのは今日だけだった。

特に機体を露天駐機している時とトンネル内での追いかけっこはライラック有利の状況だったにもかかわらず、彼女はそれを活かせず目的を達成できなかった。

射撃武装の後方発射によるオールレンジ攻撃端末の迎撃に、作戦エリアの地形を完璧に把握しているからこそ思い付いたであろう湖水流し込み作戦――。

いずれもライガの能力が予想を大きく上回っていたがゆえの結果であり、そう考えるとライラックは十分過ぎるほど健闘していたと言える。

「(……フフッ、これじゃあ30年前と同じ結果じゃない)」

もっとも、彼女はこの結果に何一つ満足していない。

30年前――世間では"バイオロイド事件"と呼ばれる戦いの最終局面、ライラックは今日と同じようにライガと事実上の一騎討ちを展開したが、その時も彼の驚異的な粘り強さにより引き分けに終わっていた。

「(推進剤もエネルギーもそろそろ限界か。私の戦争はこれでお終いね)」

スターライガチームとの激戦で相当消耗させられたうえ、拠点となる個人所有戦艦"ネバーランド"を諸事情で使えないライラックには燃料弾薬を補給する手段が無い。

つまり、力を出し切った彼女はここでゲームオーバーというわけだ。

「(オリヒメ……貴女の実力ではライガに勝つことはできない。それだけは断言できる)」

一つ思い残すことがあるとすれば、同志として互いに上手くやってきたオリヒメについてだろうか。

オリヒメの能力自体は平均以上の高い水準に位置しているし、尚且つ自分が設計してあげた超高性能な専用機に乗っている。

それらの要素を加味したうえでライラックは"オリヒメに勝機無し"と結論付けていた。

「(……それでも戦いなさい。下手に生き残っても救いが無いのならば、いっそ片想いしてしまった男に討たれた方が幸せかもしれないから)」

戦術的にも戦略的にもオリヒメとルナサリアンの敗北は既に決まっている。

……だからこそ、最期ぐらいは"良い負け方"をするべきだとライラックは考える。

「(戦争犯罪人として処刑されるならまだしも、生きたまま慰み物として弄ばれる姿は見たくない)」

彼女にとってオリヒメは同志であると同時に娘のような存在。

もし、オリヒメが非人道的な扱いを受けたらライラックは確実に激怒するだろう。

「(だから……ライガと本気で殺し合って、悲劇のヒロインのように潔く死んでちょうだい)」

何もオリヒメの死を望んでいるわけではない。

ただ……幸せになってほしいだけなのだ。

【HVAR】

High Velocity Aircraft Rocketの略称で、正式名称の日本語訳は「高速航空ロケット」。

作中世界ではMFや攻撃ヘリ、無人攻撃機が装備可能な汎用ロケット弾を指す。

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