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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-92B】セシルは前だけを見て進む

 失速を活かした戦闘機動で"蒼い悪魔"の攻撃をかわしたユキヒメのイザナギは、縦方向の動きを封じやすい超低空――都市公園内の人工池の水面付近を飛ぶことで相手を誘い込む。

「(私は戦士だ……戦闘中に背を向けることはしない。しかし、この状態では本来の機動力を発揮できないか)」

戦士としての高いプライドを持つ彼女は相手に背を向けない。

それは個人的な拘りだけでなく、"視界内に常に相手の姿を置くことで動向を監視するべき"という一般的な戦術論にも基づいている。

ただし、相手を正面に捉える姿勢は推力ベクトルの最適化が難しいため、通常姿勢での飛行よりも速度を出しにくいのが難点だ。

「射撃開始ッ!」

いずれ追い付かれることを想定したユキヒメは人工池を跨る橋の真下を通り過ぎる瞬間、水面に向けて回転式多銃身機関砲を発射する。

比較的低めの場所に設置されている橋の下の空間に水柱を立たせ、敵機の行く手を遮るという算段だ。

水柱に突っ込んだ勢いで墜落してくれればラッキーだし、そうでなくても失速させることができれば次の行動で優位を取れる。

「水柱で撹乱(かくらん)しようなどと! ファイアッ!」

だが、"月の武人"の搦め手を看破したセシルはレーザーライフルを最大出力で発射。

水柱のど真ん中を熱エネルギーで蒸発させ、それにより繰り抜かれた部分を一瞬で通り抜けていく。

「捉えたぞ……ッ!」

ほぼ減速無しで白と赤のサキモリへ一気に詰め寄り、再びレーザーライフルの発射体勢に入るセシルのオーディールM2。

この時、セシルは直撃弾を与えられると確信していたのかもしれない。

「来たッ! 散弾銃の間合いだッ!」

「ッ……!?」

ところが、実際には経験豊富なユキヒメの方が一枚上手であった。

彼女のイザナギは密かに右マニピュレータで散弾銃(ショットガン)らしき武装を構えており、反射的に回避運動を取ろうとした蒼いMFの下面に向けてすかさず発砲するのだった。


「ぐあッ! 被弾したッ!? ダメージインジケーター、チェック!」

機体の内部構造に食い込むような痛々しい音と激しい衝撃がセシルを襲う。

幸運にもコックピットブロックまで散弾が貫通することは避けられ、彼女はすぐにカウル裏面の全天周囲スクリーンに表示されているダメージインジケーターで損傷状況を確かめる。

「間一髪で直撃は避けたか……若いだけあって反射神経は良いようだな」

一方、新武装の"試製大口径散弾銃"で命中弾を与えながらも仕留め損ねたユキヒメは、より長射程の回転式多銃身機関砲で追撃を試みるがこれは不発に終わってしまう。

しかし、細い黒煙を吐きながら飛び去って行く蒼いMFの姿はまだ見失っていない。

「(今の衝撃は普通のソードオフショットガンではない……大口径タイプか! くそッ、以前戦った時には無かった強力な武装が追加されている!)」

セシルほどの実力者ともなれば、被弾時の衝撃だけで攻撃の正体はある程度絞り込める。

もっとも、格闘機が片手で悠々と扱える大口径ショットガンの存在はさすがに知らなかったが……。

「その損傷では持ち前の機動力を発揮できまい! さあ、今度は貴様が逃げ惑う番だぞ!」

「(脚部スラスター損傷と推進剤漏れ――逃げられるなら誰も苦労しない!)」

追撃態勢に入ったユキヒメが指摘している通り、機動力の要と言える部分にダメージを受けたセシルのオーディールは飛行速度が伸びない。

メインスラスターが生きているおかげで飛行能力自体は失われていないが、このまま推進剤漏れが止まらなければ地べたを這いずり回るハメになるだろう。

「……誰が逃げるものか! 私の母国では『逃げるは一生の恥であり、何一つ手に入らない』という格言があるからな!」

低速域での姿勢制御能力に優れる人型のノーマル形態へ変形しつつ、災害用備蓄倉庫らしき構造物の物陰に身を隠すセシルのオーディール。

勇猛果敢な彼女が逃げるという選択肢を取ることはまずあり得ない。

「勝利を手に入れるため、貴様は前だけを見て進むか……良い心掛けだ」

敵機の位置を見抜きながらもユキヒメは自国の建物を破壊することは良しとせず、格闘戦による強襲を仕掛けるタイミングを図り始める。

"蒼い悪魔"に対する称賛の言葉は純粋な感想であると同時に、自機の行動を悟らせない巧妙なカモフラージュでもあった。

「全く、貴様のような若者が同胞でないことが本当に悔やまれる! だが、刃を交える以上は問答無用の情け無用!」

状況打開に貢献した試製大口径散弾銃を左手に持ち替えつつ、空いた右手で専用カタナを抜刀するユキヒメのイザナギ。

「一気にケリを付けてくれるわ! アキヅキ流が第四奥義『卯月の太刀』!」

散弾銃の引き金を何回も引きながら白と赤のサキモリは「卯月の太刀」――猛禽類の如く空中から襲い掛かる剣技を繰り出す。

「そこかいッ!」

イザナギの強力な攻撃は蒼いMFの姿を完全に捉えていた。


 至近距離で命中すればMFの装甲さえ貫通し得る実包が装填された散弾銃に、同じく金属板を容易に一刀両断できてしまう特殊合金製のカタナ。

「ッ……!」

当たればタダでは済まない連続攻撃をセシルのオーディールは華麗なバックステップでかわしてみせる。

脚部スラスターが損傷の影響で上手く動作しないため、こういう時はフランス車のようにしなやかな足回りで地面を蹴った方がいい。

「当たれぇッ!」

「散弾ではなぁッ!」

素早い身のこなしで間合いを取ろうとする敵機に向けてユキヒメは再び散弾銃を発砲するが、その一撃をセシル機は両腕から発生させたビームシールドで食い止める。

有効射程内では威力が高い散弾を完全には防げなかったものの、腕部装甲の破片が飛び散る程度なら問題無い。

「光学盾諸共切り裂いてやる! アキヅキ流が第九奥義『長月の太刀』!」

「持ってくれよ……私のオーディール!」

散弾銃が弾切れとなったユキヒメのイザナギが繰り出すオーソドックスな袈裟斬り――「長月の太刀」を再びビームシールドで受け止めるセシル。

地球側の量産MFとして初めてビームシールドを採用したオーディールだが、エネルギー回路に対する負荷を理由に運用マニュアルでは左右同時展開は非推奨とされている。

「その防御態勢がいつまで持つかな!? 続けてアキヅキ流が第十奥義『神無月の大太刀』!」

袈裟斬りを防がれたユキヒメは怯むこと無く「神無月の大太刀」――アキヅキ流を代表する奥義にコンボを繋ぐ。

「えいッ!」

「(予想以上の攻撃力だ……このままではエネルギー回路が焼き切れてしまう……!)」

白と赤のサキモリの連続攻撃はこの時点で非常に力強く、セシルのオーディールは少しよろめきながらも何とか踏みとどまる。

「ええいッ!」

「ぐッ……!」

神無月の太刀は×の字になるよう斬撃を放った後、最後に刺突で(しめ)るユキヒメだけが使える大技。

その×を描くための二の太刀を受けた瞬間、ビームシールドを掻き消された蒼いMFは大きくバランスを崩してしまう。

「むぅぅぅぅぅんッ!!」

「うぉぉぉぉぉぉッ!!」

そこへカタナを構えたイザナギの鋭い刺突が迫る。

シールド防御も切り払いも間に合わない中、セシルは大博打同然の思い切った行動に出る……!


「何ッ!? 真剣白刃取りだと……!?」

敵機のコックピットを完全に捉えていたユキヒメは驚愕の表情を浮かべる。

「実体剣ならば物理的に止められる! マンガとジャパニメーションじゃよくあることさ!」

セシルのオーディールが火花を散らしながら素手で銀色の刃を押さえ込み、互いに動けない膠着状態を作り出したからだ。

「(無理に力を加えたらカタナが変形してしまう……だが、奴が動きを止めている今は最大の好機でもある)」

おそらくE-OS(イーオス)ドライヴをフル稼働させているであろう蒼いMFのパワーは凄まじく、イザナギの大出力を以ってしてもカタナを動かすことさえままならない。

……しかし、それと同時にユキヒメは状況打開に必要な"次の一手"も既に考えていた。

「フンッ! カタナを止めただけでイキがるなよッ!」

完全フリーとなっている左腕の接近戦用杭打機(パイルバンカー)で彼女は追撃を図る。

今の位置取りならオーディールのコックピットに銀色の杭を直接打ち込める――はずだった。

「ナメるなぁぁぁぁぁぁッ!」

「散弾銃がッ……!?」

相手が攻撃態勢に入った瞬間セシルは全力でカタナを押し戻すと、続いてスロットルペダルを巧みに操り格闘ゲームを彷彿とさせるサマーソルトキックを繰り出す。

オーディールの優秀な駆動系を体現するこの一撃は不意を突くのに十分で、左手首に蹴り技を受けた白と赤のサキモリはその衝撃で散弾銃を落としてしまう。

「アタァァァック!」

機体が半回転した辺りで今度はスロットルペダルを踏み込み、推進力で後方宙返りをキャンセルしつつ得意のビームソード二刀流へと繋げるセシルのオーディール。

「その程度でッ……!」

莫大なエネルギー量を持つ蒼い光の刃の縦斬りを両手持ちに切り替えたカタナで受け流そうとするユキヒメ。

「ビームソードがッ! エネルギー回路はもうダメそうか……!」

「我がイザナギのカタナを刃毀(はこぼ)れさせるとは……貴様が最初で最後かもしれん」

互いの得物がスパークし合うほど激しい鍔迫り合いの末、とうとうエネルギー回路がショートしたセシル機はビームソードを投棄。

そして、ユキヒメのイザナギも刀身が大きく損傷したカタナを鞘に戻さずその場へと投げ捨てる。

「さあ、代わりの剣を抜刀するがいい!」

機体右腰に装備されている2本目のカタナに手を掛けつつ、ユキヒメはハンドサインで促す。

貴様も予備の武器を取り出せ――と。

「それがお前なりの武士道か……では、御言葉に甘えさせてもらう!」

その意図を汲み取ったセシルが選んだ武器は試製ソリッドサーベル。

ルナサリアンのカタナをリバースエンジニアリングしたデッドコピー品であり、エネルギー消費量の少なさから回路への負荷も小さくて済むことが特徴だ。

「……ほう、その玩具(おもちゃ)は我々月の民の誇りを模造した物か?」

地球の金属加工技術で再現されたカタナを一瞥(いちべつ)するや否や、ユキヒメは少しだけ不愉快そうな表情を見せるのだった。

【Tips】

実体剣は刀身を形成する際にエネルギーを使う必要が無いため、取り回しや瞬間火力に優れるビーム刀剣類よりも長期戦に向いている。

地球製MFではナイフ・ダガータイプの物が一部機体のサブウェポンとして採用されているほか、選択武装としてより大型なバスタードソードを装備できる機体も存在する。

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