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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-91B】剣には剣を、銃には銃を

 最初の打ち合いを終え、互いに距離を取りながら相対する二機の機動兵器。

「フッ、気合の入った良い打ち込みだ……さあ、貴様の剣技をもっと見せてみろ!」

ユキヒメは"蒼い悪魔"の力強い一撃に感心し、愛機イザナギの右マニピュレータで手招きすることで更なる攻撃を促す。

「(カウンター狙いかもしれん……下らない挑発に乗るべきなのか?)」

一方、その行為を訝しんだセシルは無闇に動こうとはせず、ビームソードを二刀流スタイルで構えたまま様子を窺う。

「……どうした? そちらが動かないのならば、こちらから打って出るまで!」

「ッ!」

せっかく与えた先制攻撃のチャンスを無下にされたと感じたのだろうか。

"こちらから打って出る"という宣言通りユキヒメはスロットルペダルを踏み込み、コンマ1秒遅れて反応したセシルのオーディールM2との間合いを一瞬で詰めてみせる。

「アキヅキ流が第三奥義! 『弥生の小太刀』!」

「くッ……!」

ユキヒメのイザナギが繰り出したのは相手の懐へ飛び込んで一閃するアキヅキ流奥義「弥生の小太刀」。

俗に"暗殺剣"と呼ばれるほど鋭敏な一撃をセシルは何とかパリィし、互いに体勢を崩しながらも先にリカバリーできれば有利を取れる状況を作った。

「続いて第十一奥義『霜月の太刀』!」

「甘いッ! ゲイル1、アタック!」

白と赤のサキモリが搦め手として投擲(とうてき)してきた汎用光刃刀の真下を掠めるようにかわしつつ、一足先に体勢を立て直し連続攻撃に入るセシルのオーディール。

「その勢いも良し! やはり貴様にカタナを預けて正解だった!」

だが、畳み掛けるような連撃に晒されてもなおユキヒメは好敵手を称える余裕を残していた。

「お前は二刀流で戦える技術を持っているうえ、まだ機体の出力を抑えている! 私には本気を出すまでも無いというのか!」

彼女と何度も戦ってきたセシルには分かる。

この女は得意の二刀流と機体のフルパワーを封じている――と。

「言ってくれる……! その物言い、後悔しても知らんぞ」

セシルの意図しない挑発を耳にしたユキヒメは少々意地悪そうな笑顔を浮かべる。

「見たければ見せてくれよう! 私とイザナギ……月を護る大太刀の力を!」

そして、蒼いMFの激しい連続攻撃を全て凌ぎ切った彼女は間合いを取り直すと、少しだけ本気を出すことを宣言するのだった。


「E-OSドライヴ、フルパワー! 今度はこちらから行くぞッ!」

今度はセシルのオーディールが先に動く。

蒼いMFは都市公園の天然芝を巻き上げるほどの速度でホバー移動しつつ、刀身が大きく伸びた2基のビームソードを全力で振りかざす。

「何ッ!? かわさず受け流しただと……!?」

「出力が違うのだよ! 貴様の貧弱な刺突など全て受け止めてくれるわ!」

しかし、"蒼い悪魔"の強力な連続攻撃をユキヒメのイザナギはその場から一歩も動くこと無く完全に捌いてみせる。

高性能量産機に過ぎないオーディールM2とルナサリアン最強のエイシのために設計開発されたイザナギでは、その性能差は残念ながら一目瞭然だ。

「くそッ! オーディールの性能を侮るな!」

「フンッ……アキヅキ流が第八奥義『葉月の護り』」

それでもセシルは諦めずに激しい剣舞を続けるが、白と赤のサキモリは「葉月の護り」と呼ばれる防御の奥義であらゆる攻撃を受け流していく。

「シールドで全て防がれている!? いや……こちらの動きを逆に利用する受け身で攻撃を受け流しているのか!?」

守りに特化した構えをセシルのオーディールは突破できず、隙を突けそうな一撃も演舞のような動作で軽くあしらわれる。

その戦い方は機動兵器というよりも生身の白兵戦に近かった。

「下らん挑発に乗ってやったが……所詮その程度か。搭乗員の腕は良いのに機体が文字通り足を引っ張っているな」

少し本気を出しただけで形勢があっと言う間に傾いたことに対し、これまでとは一転して失望感を露わにするユキヒメ。

彼女はまだ100%中の90%程度しか出していないにもかかわらず、性能差の大きさからこの時点で勝負が成立しなくなっていた。

「ぐッ……ワンオフ機の方がパワーは上か……しかし、私は職業軍人だ! 道具の能力を言い訳にするつもりは無い!」

絶望的なまでの機体性能の差――特に最高出力の違いに愕然とするセシルだが、それは元々承知の上。

戦闘のプロたる職業軍人に言い訳は許されない。

「機体性能のハンデキャップは操縦技術と知略で補うまでッ!」

性能差が出やすいドッグファイトは難しいと判断し、機転を利かせて戦法を切り替えるセシルのオーディール。

「随分とナメられたものだ……三十路にも満たぬ小娘如きに後れを取る私ではない!」

そうはさせまいと素早い蹴り出しから強襲を仕掛けるユキヒメのイザナギ。

「(オーディールの高機動力を活かして一撃離脱を心掛ければ……!)」

性能面では全体的に一回り以上劣るものの、可変機らしく速度性能や加速といった機動力ではオーディールの方に分がある。

セシルの技量ならばこのわずかな強みで勝ち筋を作れるかもしれない。

「性能も技量も経験もこちらが上だ! 一撃離脱などさせるものか!」

もっとも、それ以外の大部分は白と赤のサキモリの方が(まさ)っており、尚且つユキヒメにも形勢をコントロールできるだけの豊富な経験と高い実力があった。


 イザナギはアキヅキ姉妹の姉オリヒメの専用機"イザナミ"との連携を想定して開発された、姉妹機が苦手な近距離をカバーするための機体。

前線に出ることを好むユキヒメの意向を反映し単機での戦闘能力も重視されているとはいえ、その設計コンセプトのせいで武装は接近戦に偏っている――というのは実戦投入直後までの評価だ。

「距離を取っても無駄だ! このイザナギが接近戦だけの機体と思うなよ!」

遅れて完成した武装の到着や実戦データに合わせた調整の結果、白と赤のサキモリは射撃戦もこなせるオールラウンダーへと機体特性を変化させた。

「こいつで蜂の巣にして叩き落としてやる!」

その一例と言えるのがバックパック側面のハードポイントから左腕に移動し、腕部全体で保持するように取り扱う回転式多銃身機関砲(ガトリングガン)の存在だ。

これはユキヒメが以前搭乗していた専用ツクヨミから引き継がれた射撃武装でもある。

「あまり射撃は得意ではないが……射撃開始ッ!」

射撃戦については人並みでしかないと自嘲しつつも、彼女は敵機の動きを予測して左操縦桿のトリガーを引く。

「(ガトリングか!? 直撃したら蜂の巣では済まないだろうが、当たらなければいいだけのこと!)」

駆動音と共に放たれた無数の大口径弾が蒼いMFのすぐ近くを掠める。

発射レートの高さを視認したセシルは回避運動に集中しながら反撃へ転じるチャンスを窺う。

「(それに大柄なガトリングガンは取り回しが難しいはず。タイミングを図って懐に飛び込めば、対応される前に一撃を与えられるかもしれない)」

地球側でも採用例がある携行式ガトリング砲は火力に優れる反面、トリガーを引いてから実際に発砲されるまでに僅かなタイムラグが存在するなど、欠点が無いわけではない。

また、イザナギの保持方式だと左腕の大部分がガトリング砲で塞がるので、左側から一気に肉薄することで反撃が間に合わない可能性に期待できる。

「(……少しだけ無理をする価値はある)」

セシルは自分自身の技量を信じて推力制御を担う左操縦桿を前に目一杯押し倒すのだった。


「ううッ……ぐぅ……くぅッ……!」

フルスロットル状態で圧し掛かる猛烈な加速度と旋回時の横Gに呻き声を上げるセシル。

彼女は内臓が潰れるような感覚に耐えつつ、減速を最小限に抑える理想的な旋回半径で白と赤のサキモリに狙いを定める。

「この速度域からまだ加速できるのか! 足が速い相手はさすがに厄介だな……」

マッハ1を超える超高速域での加速力は巡航形態に変形できるオーディールの方が遥かに優れており、ユキヒメは追いすがることを断念し"待ち"の戦法で迎え撃つ。

「捉え……たッ! ファイアッ! ファイアッ!」

「無粋な……得意でもない射撃をするからこうなる!」

文字通り疾風のような速度で突撃してくる蒼いMFのレーザーライフル連射を掠めるように避け、ニアミスした相手の背後に向けて回転式多銃身機関砲を発射するユキヒメのイザナギ。

「それは……どう……かな……!」

第一撃を避けられてもセシルは冷静に機体を反転させ、荷重超過警報が鳴り響くほどのハイGターンで再び攻撃態勢に入る。

「良い腕だ! 巡航形態の機体を縦横無尽に振り回すとは……だが、攻撃に当たってやるわけにはいかん!」

その優れた機体性能と搭乗者の強靭な身体能力にユキヒメは感嘆する一方、攻撃を食らうつもりは無いとしてこちらも回避運動を取り始める。

「私も回避にはそれなりに自信があるのでな!」

「全弾あの世に持って逝けッ!!」

大型機ながら回避能力に自信を見せる白と赤のサキモリを捉え、レーザーライフルとマイクロミサイルを一斉射するセシルのオーディール。

「高機能自己防衛装置、作動!」

「PSM(ポストストールマニューバ)……!?」

しかし、ユキヒメのイザナギは高機能自己防衛装置――各種デコイの統合運用システムで誘導兵器を撹乱(かくらん)したうえで、機体を意図的に失速させる戦闘機動を利用。

木の葉を思わせる落ち方でセシルを驚愕させ、それを活かした急降下により彼女の攻撃を回避していく。

「月面都市には人工重力が掛かっている。これが如何に空戦へ影響するか、地球生まれの貴様ならよく分かるはずだ」

「(推力だけに頼らず空力と重力を活かす飛び方――基本中の基本なのに、性能に余裕がある機体に乗り続けたせいで忘れかけていたかもしれない)」

オープンチャンネルで聞こえてくるユキヒメの"空戦講義"にセシルは表立った反応は示さなかったが……。

【荷重超過警報】

機体及び搭乗者に一定以上のGが掛かった場合、それをシステムボイス(Warning Over-G)と共に警告する機能。

安全な運用のために搭載が義務付けられている機能だが、戦闘中や緊急回避に伴う急旋回などやむを得ないケースでは警告の無視も認められている。

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