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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-90】Moon Over

 ルナサリアンの首都ホウライサン中心部の都市公園に不時着した母艦アドミラル・エイトケンを防衛するべく、ゲイル隊は同艦のすぐ近くで最後の戦いを繰り広げる。

「ターゲット、ロックオン! マイクロミサイル、シュート!」

母艦に迫る複数の敵機をマルチロックオンで捕捉し、スレイのオーディールM2は脚部外側のカバーを展開しながらマイクロミサイルを一斉に放つ。

「ッ! 間合いを詰められる……!?」

攻撃の結果は4機中3機撃破。

撃ち漏らした1機の接近を許してしまい、急いで武装を切り替えようとするも窮地に陥るスレイ。

「ファイアッ!」

しかし、捨て身の突撃を仕掛けようとしたツクヨミ改は蒼く細いレーザーに撃ち抜かれ、空中分解しながらスレイ機の近くを掠めていく。

チームメイトのピンチを救ったのは、母艦の甲板上にポジショニングするアヤネルのオーディールM2による狙撃であった。

「アヤネル……!」

「ったく、数だけは多いな! 油断するとすぐこれだ!」

僚機の安全が確保されたところでアヤネルは試製MF用レーザースナイパーライフルから冷却材を排出し、次の波状攻撃に備えて再びH.I.S(ホログラム・インターフェース)上の疑似スコープを覗き込む。

彼女は今日の戦闘だけで既に19機も撃墜しているのだが、敵戦力が減っているようには全く感じられなかった。


「このバカ者共がッ! 死を強いる指導者に踊らされていると気付いていながら、なぜ戦いを止めない!?」

セシルのオーディールM2のビームソード連続攻撃が改ツクヨミ指揮官仕様を捉え、怒りに満ちた剣捌きで灰色のサキモリをバラバラに斬り落とす。

コックピットがある胴体だけ見逃したのは、自分と戦うレベルに至らない者に対する一種の憐れみだろうか。

「くそッ! 今はプロキオン隊やデアデビル隊の加勢で持ち堪えているが……このままでは厳しいな」

サキモリ、戦闘機、戦闘車両、艦艇、固定配備式対空兵器――。

これらの目標を合計100以上撃破(共同戦果含む)してきたセシルだが、彼女の悪魔の如き活躍や友軍部隊の援護を以ってしても、ルナサリアンの猛攻を凌ぎ切れる可能性は極めて低い。

長期戦に入り戦闘が泥沼化した場合、補給線が整っている防衛側の方が有利なのは言うまでも無い。

「ええ、ブフェーラ隊が親衛隊との戦闘で消耗したのは予想外でした」

「リリス少佐は右脚に重傷を負っているらしい。すぐに再出撃とはいかないそうだ」

また、スレイとアヤネルが指摘している通り、ゲイル隊に比肩する戦闘力を持つブフェーラ隊が小隊長の負傷により戦線離脱した点も厄介だ。

それと引き換えに皇族親衛隊の1個小隊を殲滅できたのは不幸中の幸いだったが……。

「……彼女たちが頑張った分、今度は我々が奮戦しなければならない」

大将首として自分を狙ってくる敵機をカウンターで返り討ちにしつつ、部下たちに対しブフェーラ隊の分まで戦うよう奮起を促すセシル。

「(スターライガの皆さん、打倒アキヅキ・オリヒメはあなたたちに任せます。そして、私の相手は……)」

彼女は心の中で独白する。

スターライガがオリヒメを討つのならば、自分にもここで決着を付けるべき相手がいる――と。

「ゲイル隊、こちらエイトケンCIC! 本艦に高速接近する所属不明機を捕捉した! 数は1!」

敵の攻撃が多少落ち着いたその時、アドミラル・エイトケンCIC(戦闘指揮所)のシギノ副長から敵増援の接近を告げられ、戦術データリンクでゲイル隊各機のレーダー画面にも最新情報が反映される。

「方位0-8-8! 射程に飛び込んで来た瞬間を狙い撃ってやる!」

好条件であれば8000m近い射程を誇るレーザースナイパーライフルを構え、いつでもトリガーを引けるようスタンバイするアヤネルのオーディール。

「単機でエイトケンに直接向かって来る敵――隊長!」

「ああ、間違い無い! まるでこの国の最期を見届けに来たようだな……!」

一方、所属不明機の行動に奇妙な違和感を覚えたスレイとセシルは、相手の正体を薄々ながら察していた。


「機種照合――特定! "ミルドレッド"です!」

アドミラル・エイトケンのレーダー管制官エーラ=サニアはすぐに所属不明機の照合に取り掛かり、データベース内に蓄積された情報のうち"ミルドレッド"というコードネームの機動兵器と完全一致したことを報告する。

「ルナサリアンのナンバー2のお出ましか! 艦長、攻撃の準備を!」

「……いえ、"ミルドレッド"との戦闘は一切認めない。あれはゲイル1に単独で相手してもらう」

それを聞いたシギノは先制攻撃の許可を求めるが、"ミルドレッド"の正体を知るメルトは副長の意見具申を退け、作戦行動中のゲイル1(セシル)に対応させる判断を下す。

「艦長! 本当に撃ってはいけないのか!?」

「あなたの上官を……私たちのエースを信じなさい」

「"ミルドレッド"以外の敵との交戦は認める。セシル大佐の戦いを邪魔するなよ」

CIC内の遣り取りを無線で聞いていたアヤネルにも同じお触れを通達し、あくまでもセシルの意向を尊重することを伝えるメルト。

最初は反発気味だったシギノも国防空軍のエースには信頼を置いているらしく、彼女がアヤネルに対して与えた別命は明らかにセシルの支援を意図していた。

「――重雷装巡洋艦アドミラル・エイトケンの艦長に告ぐ、私は貴官らが"ミルドレッド"と呼ぶ機体に搭乗するアキヅキ・ユキヒメである」

"ミルドレッド"への対応が決まったその時、CIC内のスピーカーから突然ノイズ混じりの音声が流れてくる。

ネイティブ並みに流暢なルナサリア語と声を分析するまでも無い。

この音声通信の発信源は自ら"ミルドレッド"の搭乗者――アキヅキ・ユキヒメを名乗ったのだ。

「オープンチャンネルによる通信だと?」

「私はオリエント国防海軍重雷装ミサイル巡洋艦"アドミラル・エイトケン"の責任者、メルト・ベックス少佐であります」

敵味方双方が受信可能な周波数で接触を図った月の武人の大胆さにシギノが驚く一方、メルトは艦の最高責任者として冷静沈着に振る舞ってみせる。

そして、ユキヒメとセシルが一騎討ちに臨める状況を作り出すため、ここは上手く交渉しなければならない。

「ユキヒメ様、貴女が単独で戦場に現れた意図は把握しております。そちらの要望通り、我々はセシル・アリアンロッド大佐を我が軍の代表選手として派遣しましょう」

相手が何を要求してくるのかは分かっている。

せっかく言葉を交わす機会を設けてくれたユキヒメの機嫌を損ねないよう、メルトは慎重に言葉を選んでいく。

「ベックス少佐といったか? 私個人の武士道に理解を示していただき感謝する。その代わり、私が健在である限りは貴官の(ふね)に一切手出しさせないことを約束しよう」

互いの腹の探り合いの末、ユキヒメは"希望する対戦相手を差し出してくれるなら"ということで提示された条件を承諾し、その見返りとしてメルトたちが今一番必要としているモノを与えるのだった。


 アドミラル・エイトケンCICからの命令に従い、ゲイル隊各機は砲撃及び対空射撃を停止した母艦の甲板上に集結する。

「ッ! 敵機視認……!」

「ゲイル3、攻撃は禁止! 奴の狙いは私だけだ!」

レーザースナイパーライフルを構えているアヤネル機を制止しつつ、セシルはたった一人で艦首側へと向かって行く。

「チッ、相手はスポーツマンシップに則ったフェアプレー精神を守ってくれるんだろうな?」

「一騎討ちを所望するサムライみたいな人よ。"一度だけ"は信じてみましょう」

侍魂に近いモノを持つユキヒメの取り計らいで確かにアドミラル・エイトケンは猶予を得られた。

しかし、ここまで都合が良い展開をアヤネルとスレイは素直には受け入れていない。

「……お前たちにはまだ分からないか。私は何度か剣を交えたことがあるから分かる」

部下たちの不平不満を聞いたセシルは首を横に振り、実際に戦った経験から"ユキヒメは敵ながら信頼に値する"と自分なりの意見を述べる。

……あるいは、自分の好敵手が卑怯者だとは思いたくなかったのかもしれない。

「セシル・アリアンロッド! よくぞここまで生き延び、そして月に辿り着いてくれた!」

ついにその相手がハッキリと視認できる距離まで近付いて来る。

追加武装と思わしき新装備を携えた白と赤の重量級サキモリ――ユキヒメのイザナギは大破着底しているエイトケンの艦首付近に降り立ち、蒼いMFの姿を見上げながらここまでの戦いぶりに最大限の称賛を贈る。

傍からは偉そうな態度にしか見えないが、ユキヒメはただ純粋にセシルのことを褒め称えているだけだ。

「アキヅキ・ユキヒメ、3か月前の約束を果たしに来た」

対するセシルは顔色一つ変えずにこう答えると、"3か月前の約束"を眼下に立つイザナギに向かって投げ渡す。

「これは……あの時渡したツクヨミのカタナか? フッ……たった3か月前のことなのに、何かもが懐かしく感じられる」

約束の品――自身が以前搭乗していた専用ツクヨミのカタナを受け取ったユキヒメは、3か月前と全く変わらないかつての得物の姿に思わず笑みを浮かべるのであった。


 ルナサリアンのエイシにとってカタナは自分の命と同じぐらい重要で、単なる武器以上の大きな意味を持つ存在。

「……しかし、これは貴様へ預けたままにしておく」

見込み通り"蒼い悪魔"へ預けた銀色の刃は無事に本来の持ち主へと返ってきた。

だが、ユキヒメが欲しかったのはその証拠だけであり、満足した彼女はカタナをセシルのオーディールに向けて投げ返す。

「何?」

「そのカタナは取り返しのつかない過ちを犯してきた私よりも、穢れ無き若者が未来を切り拓くために振るうべきだ」

困惑しながらもカタナをキャッチしたセシルに対し、それを事実上譲渡することを決めた理由を明かすユキヒメ。

彼女はカタナを手にした瞬間、操縦桿を通して感じ取ったのだ。

かつて自分が振るっていた銀色の刃が、今はセシルの手元に留まることを望んでいる――と。

「……分かりました」

年長者を敬うようにセシルは敬語で了承すると、カタナを愛機オーディールのハードポイントへと再び取り付ける。

もっとも、セシル機はこのカタナをリバースエンジニアリングで再現したデッドコピー品"試製ソリッドサーベル"を装備しているため、実際に使う機会は無さそうだが……。

「私は姉上の意向を無視した行動を取っている以上、あまり長話をしている余裕は無い。そろそろ手合わせ願いたい」

決戦前にやっておくべきことは全て終えた。

一連の行動は全て姉オリヒメに反する独断専行だったのか、バレて怒られる前に一騎討ちを始めたいとユキヒメは苦笑いする。

「こちらは最初からそのつもりで月に来ている……行くぞッ!」

使い慣れた専用ビームソードを抜刀し、お馴染みの二刀流スタイルで母艦の艦首から飛び降りるセシルのオーディールM2。

「いざ尋常に……勝負ッ!」

これまでとは一転して表情を引き締め、左腰の専用カタナに手を添えるユキヒメのイザナギ。


 蒼い悪魔と月の武人――。

共に本戦争最強クラスの実力者である以上、手加減して決着を付ける余裕はどちらにも無かった。

【Tips】

地球側はルナサリアンが運用する兵器に対しコードネームを付与しているが、これは20世紀の世界大戦におけるアメリカ軍の慣習に倣ったもの。

敵国の兵器の正式名称が分からなかったり、判明しても言語の関係で発音が難しい場合があるため、円滑な情報共有や通信傍受対策のためにこういった工夫が為された。

ルナサリアンのサキモリには"LMF-xx"という形式の識別番号と、Mから始まる女性名によるコードネームが付けられている。

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