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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-36】灯火の星々(後編)

「こちらプロキオン隊、これより市街地へ着陸する」

「了解、プロキオン1。後方は私たちに任せなさい」

目に留まった道路へと降り立つプロキオン隊。

その後ろではBA-110 タイガーリリーを運用する第3航空師団第7攻撃飛行隊「デアデビル」も着地し、主兵装の3連装ガトリングランチャーを構えながら周辺警戒を行う。

「プロキオン2より1へ、レーダーに敵性反応はありません」

彼女の報告通り、FA21 スターメモリーのレーダーは周囲に敵はいないと言っている。

「肉眼でもしっかり確認しろよ。こう物陰が多いと、いつ奇襲されてもおかしくないからな」

周囲――特に路地や交差点へ注意を払うプロキオン1。

3機のスターメモリーはシールドを構えながら市街地を進む。

「(放置車両か……市民が乗っていた痕跡があるな)」

道路脇に停められている乗用車の横をプロキオン隊が通過しようとした時だった。


「……! プロキオン隊、離れなさいッ!」

後方のデアデビル1が気付いた瞬間には遅かった。

1台の放置車両が突然爆発し、プロキオン隊のスターメモリーは爆風をもろに浴びせられる。

「クソッ! やはり車爆弾か……! 各機、大丈夫か!?」

自機に損傷が及んでいないことを確認しつつ、プロキオン1は部下のことを気遣う。

「こちらプロキオン2、問題ありません」

「プロキオン3より1へ、こっちも大丈夫だ。ちょっとばかり肝が冷えたけどな」

不幸中の幸いというべきか、車爆弾の破壊力は恐れるに足りない程度であった。

「他の車両もブービートラップかもしれない。デアデビル各機、排除開始」

とはいえ、今の爆発で自分たちの存在を敵に感知されたかもしれない。

これ以上の起爆――損害を被る可能性を防ぐため、デアデビル1は放置車両の破壊を決断。

3機のタイガーリリーのガトリングランチャーが火を噴き、装甲など施されていない乗用車を粉々にしていく。

その大半が先ほどのブービートラップと同じように爆発したため、やはり市内には大量の罠が張り巡らされているのだろう。


「隊長、レーダーに敵機影を確認! 50m先の交差点です!」

デアデビル隊のドライバーが叫ぶ。

「まだ撃つな! 攻撃は敵味方識別ができてからだ!」

プロキオン1は無反動砲を構える僚機を制止し、機影がルナサリアンか否かを確認する。

敵味方識別装置(IFF)を持たないレジスタンスを誤射してしまうのは避けたいからだ。

(やっこ)さんも慎重だな……上空の味方機! 俺たちの前にいるアンノウンの識別を頼む!」

オリエント国防軍もルナサリアンも機動兵器を使っているので、レジスタンスからは見分けが付かないかもしれない――。

そう考えたプロキオン1は空にいる部隊へと呼び掛ける。

「あんたたちの前のアンノウン――これか」

プロキオン及びデアデビル隊の頭上を3機のオーディールがフライパスしていく。

今の声はオーディールのドライバーのものだろう。

その直後、彼女らに対して複数の対空砲火が打ち上げられた。


「そこの味方部隊、遠慮せずに攻撃できるぞ。隠れているのはルナサリアンだ」

対空射撃をかわしながらオーディールのドライバー――リリスがそう告げる。

「オーディール……ゲイル隊か?」

「残念だけど違うよ。さっきまでは一緒に行動してたんだけど」

ゲイル隊もオーディールを運用する部隊だが、あちらの機材は配備数の少ないM型である。

一方、ブフェーラ隊は俗にA型と呼ばれる量産仕様に搭乗している。

まあ、パッと見での判別はプロでも難しいため、戦場での誤認は仕方ないだろう。

「そうか、まあいい。さっきはありがとよ――プロキオン1より各機、攻撃開始だ!」

下の方でMFとサキモリによる射撃戦が始まり、レーダー上から敵を示す赤い光点が減っていく。


「……ルナサリアンめ、町を丸ごと軍事都市にしたつもりか」

オーディールの機上レーダーは攻撃すべき目標を複数捕捉し、地形データと合わせてHISに表示してくれる。

対空兵器やレーダーサイトはもちろん、地上戦を想定したと思われるトーチカ、市民を見張るための監視塔、ルナサリアンに占拠された娯楽施設など――リリスですら悪態を()きたくなる数だ。

だが、これらの大半を沈黙させなければ、ルナサリアンは降伏勧告など受け入れないだろう。

「各機、攻撃目標の選択は柔軟に行え。全部吹き飛ばすのはさすがに無理だ」

リリスは部下たちにそう言い聞かせつつ、対空陣地が築かれている地区の制圧へと赴くのだった。


 その頃、ゲイル隊は機動力を活かして防空網を強行突破。

最終目標が控える市中心部へ到達しつつあった。

しかし、ここまで来たところで彼女らは大きな問題に直面する。

「チッ、対空兵器が多すぎる。このままじゃ近付けないぞ」

アヤネルは舌打ちしつつも対空陣地の攻略を試みるが、激しい迎撃を受けて(たま)らず引き返した。

「私も行きたいけど……くッ、民間施設が近すぎてミサイルは使えない!」

対空機関砲の射程外から攻撃可能なマイクロミサイルを持つスレイも、迂闊に操縦桿の発射ボタンを押すことはできない。

「外堀から確実に潰すべきだが……巧妙にカモフラージュされた施設もあるのか」

僚機が敵の防衛策に手こずる中、擬装されていた軍施設を着実に破壊していくセシル。

都市中枢部への道は実際の距離以上に遠く感じられた。


 結局、防空網の制圧は超長距離攻撃が可能な友軍戦闘機に任せ、ゲイル隊はレジスタンスに対する航空支援へと移る。

オリエント国防軍が優勢となった地区では一般市民までもが反旗を翻し、人海戦術によって侵略者を追い詰めていた。

「オリエントの軍隊がトーチカを壊してくれた! 今だ、みんな突っ込め!」

「俺たちの上を蒼いMFが飛んでる……!」

「町を取り戻せ! ルナサリアンめ、月へ帰れ!」

レジスタンスがアマチュア無線で流してくれているのだろうか。

無線周波数をオープンチャンネルに合わせると、眼下で戦う民衆たちの声が聞こえてくる。

「上のMF! 聞こえていたら、俺たちの前にいる戦車部隊を追い払ってくれ!」

この男が言う「戦車部隊」をゲイル隊は既に捕捉していた。

戦車部隊と民衆たちが睨み合っている場所を見定め、3機の蒼いMFは彼らの頭上へと姿を現す。


「各車前進ッ! 敵機に食われるぞ!」

「ダメです、間に合いません!」

ルナサリアンの戦車部隊はすぐさま退避しようとするが、残念ながら少し遅かった。

頭上に飛来してきた敵MF部隊の攻撃は極めて正確であり、戦車の設計上装甲が薄いとされる上面部分に対し、レーザーやマイクロミサイルを撃ち込んでいたのだ。

「一号車が……! 生存者は……いないか」

隊長が搭乗していた一号車は一瞬で爆発炎上、車内から乗員が脱出する様子は確認できない。

残る2両も全滅こそ免れたものの、損傷によって戦闘不能へと追い込まれてしまう。

「戦車小隊、私たちが援護している間に後退だ!」

戦車部隊へ再攻撃を仕掛ける敵機だったが、味方サキモリ部隊の反撃により蒼いMFは上空へ退避していく。

暴徒化した大衆を6人の戦車搭乗員で鎮圧するのは不可能に近い。

「……了解、あんたたちも無茶はするなよ」

指揮を引き継いだ二号車の車長は護身用銃火器を手に取り、他の5人を連れて後退を開始する。

彼女の言葉に対し、サキモリ部隊のエイシたちは一般市民への威嚇射撃で答えるのだった。


「あいつら、生身の人間に機銃掃射しやがった! 酷い奴らめ!」

3機のツクヨミによる威嚇射撃を目撃し、憤りを覚えるアヤネル。

「ああ、市民の抵抗が激化したら次は威嚇じゃ済まないかもな。その前にこちらから手を打つ」

一方、ルナサリアンと市民の睨み合いを静観していたセシルも攻撃命令を下す。

「射撃は周辺の建物を巻き込む可能性がある。格闘戦で仕留めるぞ」

隊長機の指示と動きに合わせて他の2機は急降下。

ノーマル形態へ変形しながらビームソードを抜刀し、大衆の波を止めようとしていた敵部隊に斬りかかる。

「ッ……!」

敵部隊の隊長の反応は極めて良かった。

左腕のシールドでスレイ機の斬撃を受け止めた後、その反動を利用して後退。

右腕の武器を散弾銃から光刃刀へ持ち替え、巧みなカウンター攻撃を仕掛ける。

一進一退の攻防。

機体の出力差をルナサリアンのエイシは技量でカバーし、格闘戦が苦手なスレイをむしろ押していた。


「うわッ!? 強いよ、こいつ!」

スレイが苦戦している原因は格闘戦への適性だけではない。

彼女の機体その物が重装備で小回りが利かないこと、市街地という状況ゆえ得意な射撃武器がほとんど使えないこと――そして、地上戦の経験が足りないことが理由であった。

現代のMFは飛行能力が極めて高くなっているため、移動に制約が生じる地上へ降りることはあまり無いのだ。

飛行能力に優れたファイター形態での運用がメインとなるオーディールは、時代の変化を示す典型例といえる。

「お前の相手は私だ!」

格下の雑兵(ぞうひょう)が駆るツクヨミを一撃で仕留め、僚機の援護へと駆け付けるセシル。

「蒼い機体、例の紋章……! 同胞を何人も(ほふ)ってきた撃墜王か!」

2本のサーベルと銀の車輪が描かれた紋章をあしらった、変形機構を持つ蒼いモビルフォーミュラ――。

これらが軍のプロパガンダで喧伝された結果、セシルは機体を見られただけで特定できるほどの有名人となっていた。

地球側のマスメディアの情報はルナサリアンも当然仕入れており、噂では軍事武門上層部や指導者のアキヅキ・オリヒメにまでその存在が伝わっているという。

軍事武門の広報部は「月の民を苛める悪い奴」としてセシルを書き立て、将兵たちの戦意を煽っていたのだ。


「よし、敵機撃墜!」

アヤネルも格闘より射撃が得意なドライバーだが、彼女はすれ違いざまの一閃で敵機の上半身を斬り落としていた。

やはり、純粋な才能はこちらの方が少しだけ上らしい。

「いいぞ、アヤネル! お前はスレイのカバーに入れ!」

敵隊長機と鍔迫り合いを繰り広げながら指示を出すセシル。

開戦から2か月経過したことで地球環境に慣れてきたのか、エドモントンに駐留する部隊はかなり手強く感じる。

占領地の都市構造を熟知した立ち回りをしてくるため、土地勘が皆無なオリエント国防軍及びアメリカ軍はそれなりに苦戦を強いられているのだ。

強力な航空支援のおかげで何とかなっているものの、地球側の進軍速度は最終目標を前に鈍化しつつある。


「……隊長、周辺に新たな敵機影確認! どこから湧いて来るんだ!?」

敵増援の出現とアヤネルの報告はほぼ同タイミングだった。

レーダーディスプレイでも敵を示す赤い光点の増加が確認できる。

エドモントン市内には地下鉄が張り巡らされているため、その施設を利用しているのかもしれない。

「サキモリの相手はMFでやるぞ! 私たちが落とせばそれだけ数は減る!」

手練れだった敵隊長機を何とか撃破し、セシルは自機の近くへ部下たちを集める。

増援の数は6機――1人で2機を相手取れば問題無いはずだ。

「人気者は大変だな。しかし、私たちとのダンスは高くつくぞ!」

「後ろには市民とレジスタンスが! ……やるしかない!」

アヤネルとスレイも態勢を整え、いつでも攻撃行動へ移れるよう指示を待つ。

相手も同じように建物の死角から好機を窺っているだろう。

「待っていても(らち)が明かん。ならば、こちらから動くまでだ!」

どちらかが動かなければ始まらないと判断し、あえて僚機へ前進を命ずるセシル。

曲がり角から飛び出してきた敵部隊と交戦するのは、それから数秒後のことであった。

【攻撃飛行隊】

オリエント国防空軍においては「近接航空支援を主任務とするMF部隊」がこう呼ばれる。

ちなみに、ゲイル隊やブフェーラ隊は対MF戦を重視した「戦闘飛行隊」に分類される。


【ガトリングランチャー】

オリエント国防空軍においては「携行可能なMF用重火器」がランチャーに分類される。

小型の銃火器はライフルまたはガン、肩部などに固定装備された砲はキャノンと呼ぶ。

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