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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-87】BUFERA COMPETIZIONE

 ブフェーラ隊と皇族親衛隊第2小隊の死闘は確実に終局へと向かっていた。

「ブフェーラ3、アタック!」

「(出力制限を解除しているうえにこの猛攻……これでは機体の燃料が持たない!)」

ヴァイルのオーディールM2のビームソード二刀流を何とか切り払い続けるモミジのツクヨミ(皇族親衛隊仕様)。

モミジ機が使用している光刃刀はそこまでエネルギー消費が大きい武器ではないが、リミッター解除状態且つ長時間戦闘となるとさすがにエネルギー残量への影響を無視できない。

「ブフェーラ2、アタック!」

「(あの必殺の杭を食らうわけにはいかん!)」

しかも、彼女が戦うべき相手は1機だけではないのだ。

僚機が息切れするのと入れ替わるように今度はローゼルのオーディールM2がアタッカーとなり、試製攻防一体シールドシステムに装備されたパイルバンカーで藤色のサキモリを狙う。

当然、至近距離限定とはいえ必殺級の威力を持つ一撃をモミジは必死の思いで回避する。

「ファイア! ファイア!」

事前動作が目立つ大技は避けられると予想していたのか、パイルバンカーをかわされるや否や即座に小口径連装レーザーキャノンでの射撃に転じるローゼル。

「くッ、操縦技量も機体性能も悪くない……! 僚機が壊滅させられたのも納得がいく!」

様々な戦術に対応可能な量産機とは思えぬ高性能ぶりに、それを十分引き出せる極めて優秀な搭乗者――。

このレベルの相手では自慢の部下たちも確かに分が悪かっただろうと、モミジは今更ながら理解できた。

「だから、お前もその仲間に入れてやるのさ!」

そして、そこへ拍車を掛けるように一番厄介な強敵――リリスのオーディールM2が現れ、唯一残された武装のビームソードで格闘戦を挑んでくる。

「隊長!」

「敵隊長機ッ!? くそッ、まだあれほどまでに動ける余力があったか!」

手負いとは思えないほど鋭い戦闘機動に対照的なリアクションを示すローゼルとモミジ。

事実、今のリリスは脳内物質の分泌によって無意識のうちに痛みを抑え込み、自身の限界を超える状態で無理矢理身体を動かしていた。

「ウチの隊長はな……強いんだ。嫉妬すら追い付かず、憧れさえ届かないほどに――な」

「最後まで決して諦めず、自分の感覚を信じて戦い続ける――貴女にも同じことができて?」

卓越した技量と精神力を併せ持つ隊長機の指揮の下、ヴァイルとローゼルの連携は飛躍的に強化される。

「そうか……それが"蒼い悪魔"の強さの理由か……!」

凄まじく吹き荒れる暴風の前に防戦一方の展開を強いられるモミジのツクヨミ。

「皇族親衛隊ッ! 旧き時代の遺物は強風で全て吹き飛ばしてやるッ!」

部隊名に冠するブフェーラとはイタリア語で"強風"という意味。

リリスとオーディールM2は敵を呑み込む風害であり、同時に平和な未来を望む者たちを後押しする追い風でもあった。


 オリエント国防空軍のMF部隊は"プラトゥーン・アタック・パターン(P.A.P)"と呼ばれる連携攻撃用フォーメーション――言わば"合体攻撃"を持つ。

一般部隊は教本に記載されている基本戦術しか使わないが、エース部隊ではそれらを発展させた独自且つ高難易度なP.A.Pを編み出していることも珍しくない。

ちなみに、スターライガチームの各小隊が使用する合体攻撃はこのP.A.Pを4機編隊用に改変したものである。

「ブフェーラ各機、"P.A.P-BC"で決める! シミュレーションとは状況が異なるが、各自でアジャストして対応せよ!」

P.A.P-BC――。

それがリリス率いるブフェーラ隊独自の連携攻撃のコードネームだ。

実戦投入は今回が初めてとはいえ、手順自体は実地訓練やシミュレータで100回以上繰り返し練習してきた。

「こちらブフェーラ3、ターゲットの回避運動を制限し位置を固定させる!」

まずはヴァイルのオーディールがヒット&アウェイの要領で何度も格闘戦を仕掛け、敵機にプレッシャーを与え続けることで行動の選択肢を奪っていく。

「一撃離脱!? 何をするつもりだ……!」

「翻弄されていますわね……フフッ、"バカめ"と言って差し上げるわ!」

オーディール系列機の強みである高機動力に対応し切れないモミジを"バカ"と嘲笑いつつ、今度はローゼルが大型ビームブレードとパイルバンカーのコンボで襲い掛かる。

試製攻防一体シールドシステム側に装備されている武装は高い攻撃力を持ち、たとえ直撃せずとも掠めさせるだけで牽制効果が期待できる。

「シールドシステム、パージ! ブフェーラ2、アタック!」

「しまった――ぐわぁッ!?」

数回に及ぶコンタクトの末、試製攻防一体シールドシステムのエネルギーを使い切ったローゼルはこれを機体から分離すると同時にビームソードを抜刀。

すれ違いざまの斬撃に気を取られたモミジは遅れて飛んできた大型実体シールドへの反応が遅れ、接触しながらの緊急回避を余儀無くされる。

「「隊長!!」」

「(攻撃チャンスは一度だけ……ジャミングに回せる電力は残っているか?)」

そのわずかながら致命的な隙をローゼルとヴァイルは見逃さない。

僚機たちが作ってくれた貴重なチャンスを最大限活かすべく、リリスは"使えるものは全て使う"という考えで乗機の電力残量を確認する。

「試製電子戦用ユニット、作動開始!」

敵味方のアビオニクスを一時的な無力化するジャミングに使用できる電力は3秒分。

そして、彼女はこの3秒間に全身全霊を懸けることを決めた……!


「背後だな! 同じ手が二度通用するもの――いないッ!?」

ジャミング中はほぼ全てのレーダー及びセンサーがダウンする中、唯一機能不全に陥らなかったレーダー警報受信機のアラートが鳴ると同時に光刃刀を逆手持ちに替え、そのまま後方へ刺突を繰り出すモミジのツクヨミ。

だが、そこに敵機の姿は無かった。

「(後方警戒電探は確かに反応したのに……はッ!?)」

「ユニットパージ!」

敵影を見失い焦るモミジが頭上を見上げた次の瞬間、試製電子戦用ユニットを切り離しながらリリスのオーディールが目と鼻の先を掠めていく。

ニアミス同然の至近距離を高速で通過した蒼いMFは前方で突如反転すると、左手のビームソードだけで突撃を仕掛けてくる。

「アタァァァァック!」

「ッ――!」

何の小細工も無いオーディールの一撃がツクヨミの胸部を貫く。

この時リリスは運用マニュアルでは非推奨とされている"ビームソードとビームシールドの同時使用"を行い、藤色のサキモリの最期の反撃を封じ込めていた。

「ビームソードに全エネルギーを集中!」

これでトドメだと言わんばかりに彼女はビームシールドの展開を止め、その分の余剰エネルギーを全てビームソードに回す。

「(左腕の一本ぐらいくれてやる! 持ってくれよ……私のオーディール!)」

当然、ビームシールドが無いと反撃の光刃刀で左腕を斬り落とされることになるが、"敵機との等価交換と考えれば妥当"としてリリスは左操縦桿を前に倒し続ける。

過負荷を掛ける運用を行った関係上、どちらにせよ左腕は壊れる運命にあったのだ。

「……敵機撃墜!」

コックピットを的確に潰されたモミジのツクヨミはついに沈黙し、"蒼い悪魔"の左腕を道連れに力無く墜落していく。

それを見届けたリリスはようやく戦いの矛を収め、緊張を解くように勝利を宣言するのだった。


 ブフェーラ隊と皇族親衛隊第2小隊の戦いは、ルナサリアン本土決戦という大規模作戦の中では局地的な出来事に過ぎなかったのかもしれない。

「隊長! ようやく終わったのですね……!」

たとえ後世の歴史で大きく扱われる可能性は無いとしても、ローゼルたちはこの戦術的勝利の喜びを素直に分かち合っていた。

「ああ、脅威度が高いと言われてきた親衛隊を半壊させた意味は――くッ……!」

強い緊張感から解放されたことで脳内物質の分泌が収まったためか、急に痛みがぶり返してきたリリスは我慢できず呻き声を上げる。

「……負傷されているのですか!?」

「心配するな……破片が足に当たっただけだ」

それで初めて異変に気付いたローゼルを安心させるように自身の状態を伝えるリリス。

彼女は軽傷であるかのように振る舞っているが、実際に負傷箇所と思わしき部分に触れた右手には赤黒い汚れが付着していた。

「隊長の体調次第では手当てが必要かもしれないし、どちらにせよ作戦行動を続ける余力は無い。少佐、ここは一時帰艦し態勢を立て直すことを提案します」

「そうだな……ブフェーラ各機、編隊を組み直せ! これより帰艦する!」

上官とチームメイトの遣り取り及び各機の消耗を考慮したヴァイルの意見具申を受け入れ、リリスは僚機たちと合流しながら母艦アドミラル・エイトケンの方角へ針路を取る。

「(本当に手強い相手だった……そして、勝者として背負わなければならない責任がまた重くなったな……)」

「ッ! リリス少佐、アドミラル・エイトケンより緊急入電! "航空隊は直ちに本艦の直掩に就け"と言っていますわ!」

これまで戦ってきた中で最強の好敵手に向けてリリスが敬礼をしていたその時、母艦からの応援要請を確認したローゼルが切迫した様子で内容を読み上げる。

暗号化されていない平文で送信されてきたのは、その手間すら惜しいほど急を要している可能性が高い。

「くそッ、急ぐぞ! 場合によっては着艦せず戦闘状態に突入する!」

母艦が沈むという最悪の事態など想像したくないが、現場へ急ぐためにもリリスは痛みを堪えながらスロットルペダルを踏み込む。

「(セシル……お前たちの方が近いのならば、私たちの帰る場所を守ってくれ!)」

皇族親衛隊との戦闘で推進剤の消費が激しいブフェーラ隊はあまり速度を出せない。

飛ばしたくても飛ばせない状況にもどかしさを感じつつも、彼女は親友セシル率いるゲイル隊がフォローしてくれることに期待していた。


 一方その頃、こちらはルナサリアン首都ホウライサン中心部に進攻中のアドミラル・エイトケン。

「C3ブロック被害甚大! D1ブロックで火災発生!」

「ダメージコントロール! 生存者の退避を確認次第、両区画の閉鎖を開始!」

同艦は後方から追い付いてきた敵艦隊の猛攻撃に晒され、既に少なくないダメージを受けていた。

オペレーターのエミールが次々と列挙してくる被害報告に対し、メルトは延焼防止を主目的とした隔壁閉鎖を指示する。

火災による原子炉の機能停止や弾薬庫誘爆は絶対に避けなければならない。

「対艦ミサイル群、更に多数接近! 着弾まで20秒!」

しかし、そんな事情など御構い無く敵艦隊はミサイルと砲撃の波状攻撃で激しく攻め立ててくる。

「弾幕展開! 航空隊はまだ戻って来ないのか!?」

「ダメです! 間に合いませんッ!」

副長のシギノは対空砲火による迎撃及び航空隊の呼び戻しを命じるが、レーダー管制官エーラ=サニアはその両方とも間に合わないと答える。

「着弾まで10秒……衝撃に備えてください!」

エミールのアナウンスからちょうど10秒後、対艦ミサイルの爆発と思われる強い揺れがCIC(戦闘指揮所)を襲う。

「くッ……艦尾の方に被弾した? 被害状況の確認急げ!」

「第1、第2推進装置大破! 速力大幅に低下!」

被弾時の揺れ方から命中箇所を推測したメルトの予想通り、操舵士のマオは機動力の要である推進装置の損傷を報告する。

「推力低下により姿勢制御が困難となっています。艦長、操舵が失われないうちに対策を講じるべきかと」

アドミラル・エイトケンには3基の推進装置が装備されているが、そのうち2基が損傷したとなればマオの操舵技術でも姿勢安定は難しい。

当然、残る1基の停止により完全に操縦不能となる恐れもある。

「敵地で大破着底とはなんと厄介な……」

「だけど、派手に墜落して全滅するよりはマシよ……!」

敵国首都ど真ん中での立ち往生に珍しく弱音を吐くシギノを諭し、まだ操舵が利くうちに"制御された墜落"を行うことをメルトは決断する。

「マオ中尉! 操舵士のあなたから見て不時着できそうな場所はある?」

「約2500m先の広い緑地――おそらく都市公園ならば自信があります!」

艦長の質問に多機能マルチディスプレイで周辺地形を確認しながら答えるマオ。

広大で起伏が少なく、しかも柔らかい地面で接地時の衝撃を和らげられる場所はそこしかない。

「よし……総員、対ショック姿勢を取れ! これより本艦は月面に緊急着陸を行う!」

同じ地形図を専用タブレット端末でチェックすると、メルトはシートベルトを締め直してから"着陸進入"の許可を出すのであった。

【Tips】

オーディールM2はカタログスペックでは「ビームシールドの左右同時展開及びビーム刀剣類との併用不可」とされているが、これは仮想敵国を欺くため意図的に流した偽情報。

実際にはビームシールドを出しつつビームソードを使用できるだけの性能を持っている。

ただし、この運用方法はエネルギー回路に対する負荷が大きいことから、実戦ではあまり推奨されていない。

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