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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-86】紅葉靡かせる強風(後編)

 互いに機体を縛るリミッターを解除し、全身全霊の高機動戦闘を続けるリリスとモミジ。

「(残弾0、予備マガジンも全て使い切っている……ライフルはこれでお役御免か)」

激しい撃ち合いの末、リリスのオーディールM2の方が先に射撃武装の弾切れを起こす。

巡航用のファイター形態時にレーザーライフルを装備するハードポイントにはリロード機構があるが、装填用のマガジンが無いのでライフルはもう使用できない。

「(デッドウェイトを捨てるにしても、最後の一度だけ働いてもらうよ)」

機体を軽量化するため、使えなくなった装備の投棄は実戦では普通に行われる。

リリスがエースドライバーと呼ばれる所以(ゆえん)は、投棄する装備にも高い技量と柔軟な発想で戦術的役割を見い出せることだ。

「(あれほどまでに執拗だった射撃が止んだ? 装填するなら今しかない……!)」

蒼いMFが攻撃の手を緩めたことを訝しむが、この隙に光線銃のリロードを試みるモミジのツクヨミ(皇族親衛隊仕様)。

「メインアームズ2、パージ!」

「真正面から突撃――ぐわぁッ!?」

しかしその時、突如高速接近してきたリリスのオーディールからすれ違いざまに灰色の物体――レーザーライフルが切り離される。

予想外且つ相対速度が大きい状態ではモミジといえど反応が間に合わず、彼女のツクヨミは空中衝突でバランスを崩してしまう。

「よし、怯んだな! まだまだ畳み掛けてやる!」

ただ、攻撃力の無い奇策で怯ませてもすぐにリカバリーされる可能性が高い。

必中のチャンスを作るべくリリスは更に牽制を続けていく。

「アドオンアーマー、オールパージ!」

「増加装甲だと!? くそッ、ゴミを撒き散らすな!」

蒼いMFの再接近に備えるモミジであったが、今度は眼前で切り離された多数の増加装甲に翻弄されてしまう。

「マイクロミサイル、シュート!」

「誘導弾による攪乱(かくらん)など!」

それを見計らったかのようにリリスのオーディールが一斉発射してきたマイクロミサイルには辛うじて対応でき、モミジのツクヨミはチャフ及びフレアを散布しながら回避運動に入る。

「試製電子戦用ユニット、作動開始!」

もっとも、リリスにとってここまでのアクションは全て"牽制"にすぎない。

ビームソード以外の武装をほぼ使い切った蒼いMFは最後までキープしておいた試製電子戦用ユニットを作動させ、ジャミングに紛れながら藤色のサキモリの死角へと回り込む。

「……電子機器に異常発生!? 敵機の電子妨害か!」

機上レーダーの機能不全に一瞬焦りつつも、エースらしい冷静な洞察力でモミジはすぐに原因を突き止める。

「(ッ! 敵機を見失った? すぐ近くにいるはずなのに索敵が……!)」

レーダーもセンサーも利かないなら肉眼に頼るしかない。

彼女は首を上下左右に動かすことで周囲を目視確認するが、蒼いMFの姿はどこにも見当たらなかった……。


「ジャミング……! 隊長の装備だ!」

「敵味方問わず妨害してくるのも相変わらずですわね……」

リリス機が試験運用も兼ねて装備している試製電子戦用ユニットは極めて高い出力を持ち、作動時は敵味方双方に影響を与える。

そのため、少し離れて空中待機中のヴァイル及びローゼルも一時的とはいえ機上レーダーを使えなくなっていた。

「ッ! 後方かぁッ!」

「くッ、良い反射速度だ……だが甘い!」

一方、より近場でジャミングの悪影響が非常に大きいはずのモミジはレーダー警報受信機の音に反応し、背後から迫っていた蒼いMFの攻撃を左マニピュレータで咄嗟に抜いた光刃刀で受け止める。

「このオーディールの二刀流を押さえ込めるものかッ!」

「お前と力比べをするつもりは無い!」

攻撃を止められたリリスのオーディールは左手首から抜刀したビームソードで追撃を掛けようとするが、モミジのツクヨミは逆手持ち状態の光刃刀をあえて引くフェイントでこれに対抗。

ここから機体を左回転させながら右脚で膝蹴りを叩き込む。

「膝蹴りだとッ!?」

「突き入れるッ!!」

コックピット付近に打撃を受けた蒼いMFが怯んだ隙にモミジは素早く機体を立て直すと、今度は光刃刀を右マニピュレータへ持ち替えて反撃の刺突(しとつ)を繰り出す。

「やらせるかッ!!」

「急所を外したか……!」

次の瞬間、2機の機動兵器の一撃が交錯する。

リリスのオーディールのビームソード二刀流は藤色のサキモリの横腹を掠め、モミジのツクヨミの光刃刀は蒼いMFの左鎖骨付近を貫いていた。

「このまま真っ二つにしてやる!」

「機関砲発射!」

ビームソードをハサミのように動かし両断しようとしてくる蒼いMFを何とか突き放したいが、敵機の内部構造が頑丈なのか光刃刀はこれ以上動かすことができない。

そこでモミジは唯一フリーハンドで使える固定式機関砲の発射ボタンを押し込み、豆鉄砲が敵機を再び怯ませてくれる可能性に賭ける。

「うぐッ……!」

搭載スペースの都合上、口径が制約されやすいサキモリ及びMFの固定式機関砲に決定打となり得る火力は無い。

しかし、小口径と言っても人間に対する殺傷力は決して低くなく、至近距離で小口径弾を浴びせられたリリスは堪らず怯んでしまう。

「(操縦席に至近弾を入れられた! これで動きが鈍ればいいのだが……)」

この隙に仕切り直しのため離脱を図りつつ、今の攻撃が状況打開に繋がることを期待するモミジ。

「ッ……痛ッ……!」

逃げる相手を追いかけるべくスロットルペダルを踏み込もうとするリリスだったが、右脚に激しい痛みを感じて力が入れられない。

「(頭と胸は貫通しなかったけど、この痛み方は足を負傷したな……全く、戦争とはいえ運が悪い!)」

彼女を突如襲った肉体的トラブルの原因は明白であった。

先ほど至近距離で発射された機関砲弾の一部がコックピットブロックの最終装甲を貫通し、その際に内部剥離した破片が不運にも深く突き刺さっていたのだ。


「いざ……参るッ!」

光刃刀を構え直したモミジのツクヨミがフルスロットルで接近してくる。

「ッ……ペダルを踏み込めない……!」

それを見たリリスは普段の感覚で回避運動に入ろうとするが、右脚の痛みでスロットルペダルを満足に操作することさえままならず、その結果機体を思ったように動かせない。

MFはスロットルペダルで脚部全体を制御するため、足回りの不調は文字通りの足枷となってしまう。

「悪く思うな、これは戦争だ。たとえ相手が負傷していたとしても……問答無用!」

「フンッ! お前などに情けを掛けてもらう義理は無い!」

勝つためには手段を選ばない現実主義者(モミジ)の袈裟斬りを右腕と引き換えにかわしつつ、固定式機関砲を発射しながら"下手な手加減は(かえ)って癪に(さわ)る"と強がるリリス。

「それでこそ武士道精神を貫く者! 名残惜しいが、潔く月の空に果てろ!」

たとえ敗色濃厚であっても最後まで諦めない姿に称賛の言葉を送ると、モミジはこれをトドメとするべく再び攻撃態勢に入る。

「私たちオリエント人の騎士道精神は……生きるために最期まで足掻くことだッ!」

その力強い一撃と続く連撃を今度はあえて回避せず、左マニピュレータに残されたビームソードで全て切り払っていくリリス。

「隊長ッ!!」

「何ッ!?」

劣勢に立たされても決して諦めず、自分の感覚を信じて戦い続ける姿勢が幸運を引き寄せたのかもしれない。

ここまで実力差の大きさから戦いを静観していたヴァイルがついに動き、試製ツインビームソードを投擲(とうてき)することでモミジ機の連続攻撃を強引に中断させる。

「隊長を死なせはしませんわ! (わたくし)たちは3人揃ってブフェーラ隊ですもの!」

考えるよりも先に動いた僚機をフォローするようにローゼルも戦闘に乱入し、不意打ちを弾いた影響でバランスを崩した藤色のサキモリに接近戦を仕掛けるのだった。


「無粋な女め! 武士道に生きるオリエント人が、一騎討ちに横槍を入れるのか!?」

すぐに機体を立て直したモミジはローゼルのオーディールの大型ビームブレードを辛うじて避けると、何度も切り結び合いながら一騎討ちへの乱入を非難し始めるモミジ。

無論、これは自分の思い通りに行かないことに対するワガママではなく、あくまでも相手に揺さ振りを掛ける心理戦の一種だ。

ローゼルたちの行動は本来ならばとても模範的で素晴らしいモノであり、相対するモミジでさえ内心では相手を褒め称えたいと思っていた。

「その言葉、そっくりそのまま返してやる! 互角の相手が不調にならなきゃ勝てないヤツが、騎士道精神など二度と語るな!」

ローゼル機の攻撃は力強いが全体的に隙が大きく、冷静に動きを見切れば"当たってはいけない攻撃"には対応できる。

一方、ビームソード二刀流で藤色のサキモリに格闘戦を挑むヴァイルの戦い方は対照的で、攻撃の発生が早い小技を使ってくるのでモミジの技量でもかわし切れない場面が多い。

しかも、手数重視の素早い連撃に"口撃"が加わると尚更集中力を削がれてしまう。

「悪く思わないで下さいまし、これは戦争ですわ。たとえ1対2は卑怯と罵られようと……尊敬する上官を守るためならば、どのような貶めも受け入れる覚悟ッ!」

先ほどのモミジの言動を真似しつつ、"G-FREE"解禁以前よりも遥かに鋭い戦闘機動から再び大型ビームブレードを振り下ろすローゼル。

「(よく言い切った……! 我ながら後進の指導力はあるのかもしれないなぁ……)」

彼女やヴァイルの技術向上は普段から把握していたはずだが、それだけでは追い切れない部下たちの成長速度に感動を覚えるリリス。

少なくとも技術面に関してはもう教えられることは無いかもしれない。

「(……負けられないな! ローゼルの言う通り、ブフェーラ隊は3人――いや、"4人"の心を一つにして戦うんだ!)」

リリスの奮闘が部下たちを突き動かしたように、部下たちの見違えるような戦いぶりもまたリリスの心に火を点けていた。

「ブフェーラ各機、自己判断での戦闘を許可する! 日頃の訓練の成果とこれまでの実戦経験の集大成として、思う存分に戦え!」

不思議なことに右脚を引き裂くような鋭い痛みがスッと消えていく……。

ようやくスロットルペダルを全力で踏めるようになったリリスは高度が落ち始めていた機体を安定させ、同時に事後承認というカタチで僚機たちに自由戦闘の許可を出す。

これは"単独行動可能な戦闘能力を有している"と初めて認めた瞬間でもあった。

「ブフェーラ2、了解!」

「ブフェーラ3了解!」

力強い応答を返しながらローゼルとヴァイルは引き続き戦闘を継続する。

「(アーダ! お前が見られなかった戦後の平和な世界……残された私たちが必ず見せてやる!)」

アーダ・アグスタ――。

ヴァイルの前任者として緒戦に参加し、志半ばで倒れた先代ブフェーラ3。

隊長として未熟ゆえ守れなかった当時の部下の無念を晴らすべく、リリスは最後の力を振り絞る……!

【Tips】

ルナサリアンの"武士道"とオリエント人の"騎士道"は翻訳の都合上表記を分けているだけで、指している意味合い自体はほぼ同じである。

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