表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

367/400

【TLH-85】紅葉靡かせる強風(前編)

 エースにはエースをぶつけろ――。

一般的に搭乗者のウェイトが大きいとされるMFドライバーの間では有名な格言である。

「ブフェーラ1、ファイア! ファイア!」

「蒼いモビルフォーミュラ……ここまで生き延びてきた実力は伊達ではないか!」

その証拠として、オリエント国防空軍のエース部隊を率いるリリスと皇族親衛隊所属のモミジは小隊長同士の激しいドッグファイトを展開していた。

リリスのオーディールM2のレーザーライフルによる攻撃を、モミジのツクヨミ(皇族親衛隊仕様)は後ろを振り向くこと無く全弾かわしていく。

「小隊長機め! やはり速い!」

「手を貸してあげるよ! 後輩ちゃん!」

「ハルトマン元空軍大尉!」

敵機の卓越した回避運動にリリスが手こずっていると、先ほどの借りを返すかのようにコマージが援護に駆け付けてくれる。

彼女はスターライガ移籍以前はオリエント国防空軍に所属しており、"黒薔薇のハルトマン"という異名は新兵時代のリリスでも知っているほどであった。

「艦載艇を収容するまで時間を稼げればいい! ファイアッ!」

「くッ、これでは目標への接近さえままならない!」

護衛対象である艦載艇2隻の安全確保を優先するコマージは、正確性よりも攻撃速度を重視したレーザーライフル連射でモミジにプレッシャーを与え続ける。

「アンドラッ!」

「護衛任務はあまり好きじゃないからな……さっさとお前を落として、護衛の手間を省かせてもらう!」

マガジン内の弾を撃ち尽くしたコマージからの要請を受け、今度はアンドラのアマテラスが藤色のサキモリに襲い掛かる。

「さっきの白い奴……!」

「(A.E.S(イース)の時間制限はあと32秒。次の一撃が事実上のラストチャンスになるか)」

接敵時に最初にやり合った白いMFの先制攻撃を回避し、すかさず繰り出されるであろう再攻撃を警戒するモミジ。

一方、動力性能を一時的に向上させるA.E.S(装甲展開システム)のタイムリミットが迫っていることから、アンドラは次の攻撃で決めるつもりでいた。

「白いMFが突っ込んでいく! やれるのか!?」

「3度目は直撃させてやるッ!」

リリスが注視する中、アンドラのアマテラスは"三度目の正直"と言わんばかりに両手首の固定型ビームブレードを振りかざすが……。


 両手首固定型ビームブレード――。

通称"ビームトンファー"とも呼ばれるこの武装はジェネレーター直結式を採用しており、取り回しの融通が利かない代わりに出力調整の幅が広く、A.E.S発動中に限り使用可能なフルパワーモードでは大太刀のように巨大な光の刃を形成できる。

「皇族親衛隊を……無礼(なめ)るなよォッ!」

直撃どころか下手に掠めるだけで致命傷になり得る一撃だったが、モミジのツクヨミは専用カタナと光刃刀による二刀流の防御態勢を取ることで、武器の破損と引き換えに莫大なエネルギーを打ち消してみせた。

「受け止めるのではなく受け流した……!? やってくれる!」

この攻撃に懸けていたアンドラのアマテラスはちょうどA.E.Sのタイムリミットを迎え、展開していた全身の装甲が白い湯気を纏いながら元の位置に戻ってしまう。

「その"変身"は所詮見掛け倒しか! 定石通り、解除後の隙を狙って仕留めてくれる!」

「甘いな! そんなジャパニメーションのロボットみたいな欠陥は存在しないのさ!」

180秒間の劣勢を凌ぎ切り反撃に転じようとするモミジに対し、ご都合主義的な弱点は無いことを示すように通常モードで戦闘を続けるアンドラ。

「ブフェーラ2、ファイア!」

彼女の奮闘による時間稼ぎの効果は案外大きく、小隊長機を除く親衛隊第2小隊を殲滅させたローゼルたちの合流で流れは一気に変わる。

ローゼルのオーディールM2が装備する試製攻防一体シールドシステム――それに含まれる小口径連装レーザーキャノンは回避運動を強いさせるだけの攻撃力を有していた。

「"蒼い悪魔"の仲間か! 我が小隊の僚機を全機撃墜してくるとは……!」

「スターライガのMF! 今のうちに立て直してください!」

孤立無援となったモミジのツクヨミの深追いはせず、ローゼル機から借りたレーザーライフルを撃ちながらヴァイルはスターライガチームのために仕切り直しの猶予を作り出す。

「ブフェーラ隊、3機揃えばもう私たちの援護は要らないかもな!」

「今までありがとうございました! あなたたちは艦載艇の護衛を!」

クールタイム中の愛機アマテラスを立て直しつつ軽口を叩くアンドラに向けて、感謝の言葉と共に艦載艇の護衛へ戻ることを促すリリス。

「後輩ちゃん! 君たちも必ず生き残れよ!」

"後輩ちゃん"の実力を見せてもらったコマージはその提言を素直に受け入れ、アンドラ機を"リフター"しながら戦域を離脱していく。

「当然です! この戦争を終わらせるまでは――いや、その先も倒れるわけにはいかないんだ!」

自分自身へ言い聞かせるようにリリスは叫ぶ。

一度戦場へ身を投じた以上、負けることは許されないのだ――と。


「ブフェーラ各機、援護頼む!」

「「了解!」」

僚機たちに援護射撃を任せつつ、自身もレーザーライフルを連射しながらリリスは攻めの機会を窺う。

「"蒼い悪魔"3機相手だとさすがに苦戦は必至……やるしかないのか!」

三方向から集中砲火を受けるカタチとなっているモミジは大苦戦を自覚していたが、それでも驚異的な操縦技術で全ての攻撃をかわし続けていく。

そして、彼女はこの状況を打開し得る秘策を隠し持っているようだ。

「隊長、敵機の動きが奇妙ですわ! おかしなマネをされる前に仕掛けます!」

回避運動に徹する藤色のサキモリに痺れを切らしたのか、ローゼルは意を決して格闘戦に打って出る。

「あまり無理はするなよ……!」

「ブフェーラ2、アタック!」

敵機の動きを警戒するリリスが見守る中、大型ビームブレード発生器が内蔵された試製攻防一体シールドシステムを力強く振りかざすローゼルのオーディール。

「戦時緊急出力、発動!」

「かわされた――きゃあッ!」

だが、ここまで温存しておいた戦時緊急出力――リミッター解除を発動したモミジのツクヨミは軽やかな動きで斬撃をかわすと、すれ違いざまに蒼いMFの背面に左腕で肘鉄をお見舞いする。

「ローゼルッ!」

体勢を崩し追撃に晒されそうな僚機を救うべく、ヴァイルは2機の間を通すようにレーザーライフルを精密射撃することで藤色のサキモリを怯ませる。

「機体性能はこっちが上なんだ! やってやる!」

予備マガジンが無くリロードできないライフルを投棄し、代わりに試製ツインビームソードを抜刀して斬りかかるヴァイルのオーディール。

「お前にやられた部下のようにはいかんぞ! 操縦技量ならばこちらが上だ!」

その一撃を最後の光刃刀で受け止め、フルパワーの鍔迫り合いで対抗するモミジのツクヨミ。

純粋に競り負けた他の親衛隊員とは異なり、確かに彼女は性能差をカバーできるだけの技量を有していた。

「こいつ……ビームソードのパワーが負けている!?」

幾度にも及ぶ剣戟(けんげき)の末、得物の取り回しに苦戦しているヴァイルの方が徐々に押され始める。

「ブフェーラ1、ファイアッ!」

誤射のリスクを恐れていたリリスもこれ以上は見過ごすことができず、先ほどのヴァイルより正確な精密射撃でドッグファイトを強制終了させるのだった。


 3機の"蒼い悪魔"に囲まれるリスクは考えなくとも分かるのか、藤色のサキモリはメインスラスターの蒼い光跡を残しながら高高度へと逃げていく。

「(あの動き……ついにリミッターを解き放ったか。だが、逆に言えばそこまで追い詰めることができている証拠でもある)」

僚機との格闘戦における動き及び今まさに行われているデータ以上の上昇力を目の当たりにした結果、リリスは敵機が捨て身の覚悟で切り札を切ったことを察する。

「各機、"G-FREE"の使用を許可する! 相手がリミッター解除したのならば、同じ条件で戦うまで!」

相手が全身全力で戦いに臨むのであれば、こちらも本気を出さなければ不作法というもの――。

リリスは開戦以来初めて僚機に対し任意でのリミッター解除を許可する。

オーディール系列機のリミッター解除――"G-FREE"は機体・ドライバー双方への負担が大きいため、これまでは事実上使用を禁じていた。

「コード、"G-FREE"!」

おそらく、この戦争で"G-FREE"を使うのは今回が最後となるだろう。

その相手が皇族親衛隊小隊長という申し分無い実力者であることに感謝しつつ、彼女はH.I.S(ホログラム・インターフェース)を操作し愛機オーディールM2を全ての制約から解き放つ。

「ぐッ……殺人的な加速だが……もっと速く飛べるッ!」

ポテンシャルを縛る足枷を外した次の瞬間、身体を鍛えているリリスが苦痛の声を上げるほどの加速力で蒼いMFは星空を翔ける。

「確実に距離を詰めてくる! やはり、可変機相手に一撃離脱は難しいか!」

非可変機と可変機では機動力の差は歴然であり、一撃離脱戦法を取るつもりだったモミジは戦術変更を余儀無くされる。

「ブフェーラ1、ファイア! ファイア! ファイア!」

「この超高速域では……そう簡単には……当たらんよ!」

最初のチャンスで先に仕掛けたのはリリスのオーディール。

彼女は速度のアドバンテージを残したままレーザーライフルを3連射するが、これをモミジはGに耐えながら最小限の減速でギリギリ回避していく。

機体の装甲表面が多少溶けたとしても、当たらなければどうということは無い。

「そこッ!」

「照準が甘いッ!」

2回目のアタックでは逆にモミジのツクヨミが先手を取って光線銃を発射したものの、超高速戦闘で照準がズレやすいのかリリス機の増加装甲を掠める至近弾に留まった。

「うぐッ……くぅッ……捉え……たぁッ! ファイアッ!」

「まずは増加装甲を剥がさなければ……!」

そして、3度目の交錯では両者が全く同じタイミングで操縦桿のトリガーを引く。

今回は焦り気味に先手を打ったリリスよりも照準をアジャストできたモミジの方が正確な射撃を成功させ、蒼いMFの増加装甲にようやく直撃弾を数発与える。

「あれが本気になったリリス少佐の空戦……」

「ああ、同じ機体に乗っているとは思えない。私もあのレベルまで――いや、あれ以上に強くならないといけないな……」

小隊長同士の極めてハイレベルな激闘の飛跡を、ローゼルとヴァイルは少し遠くから見守ることしかできなかった。

【Tips】

コマージの異名"黒薔薇のハルトマン"は、彼女の趣味であるバラの栽培とオリエント国防空軍時代末期の所属部隊の部隊章に由来している。

容姿端麗且つ才能溢れる操縦を見た広報部が「次のライガ・ダーステイ」とするべく喧伝し始めたのがキッカケとされるが、じつはコマージ本人はわりと気に入っているらしく、スターライガ移籍後は自身のパーソナルマークにバラの意匠を取り入れている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ