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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-82】ベーゼンドルファー神奏

 通常戦闘におけるメインウェポンである専用レーザーライフルと無反動砲を携え、月面都市の夜空を翔けるリリカのνベーゼンドルファー。

「(想いを力に……ベーゼンドルファーのマニューバに乗せてぶつける!)」

「(動きが少し変わった? あれが本気の戦闘機動なの……!?)」

迷いを払拭したイタリアンレッドのMFの動きが鋭くなったことは、ウサミヅキほどの技量と経験を持つ者であれば一目見ただけで分かった。

「ファイア! ファイア!」

これまでの戦闘で消耗が激しく、尚且つ脳波コントロールのデメリットで疲労しやすいオールレンジ攻撃端末をあえて温存し、リリカは2種類の携行射撃武装によるパターンアタックを仕掛ける。

「くッ……絶対的な性能差ではこちらが不利か!」

蒼い光線と徹甲榴弾の連続攻撃は難無くかわすウサミヅキだったが、機体性能の差によりこのままではジリ貧と化すことは明確であった。

「(機動力を活かして確実に間合いを詰めてくる……しかし、格闘戦で切り込める機会も生まれるはず!)」

νベーゼンドルファーは特に動力性能が優れており、下手に逃げ回られるとツクヨミ指揮官仕様では追い付けない。

だが、幸運にも相手が接近戦という選択肢を取ったことでウサミヅキは僅かながら勝機を見い出した。

「うぐッ……ううッ……!」

耐Gリミッターが作動するほどの急旋回を行い、攻撃を終えたばかりのνベーゼンドルファーを前方に捉えるウサミヅキ。

「その首……貰ったッ!」

彼女のツクヨミ指揮官仕様は左腰のカタナにマニピュレータを添え、攻撃を見切られないよう仕掛ける直前で一気に抜刀する。

「ッ……!」

リリカのνベーゼンドルファーは回避運動に入っていたものの、このタイミングでは残念ながら遅い――はずだった。

「何ッ……!?」

自信を持って銀色の刃を振るった時、ウサミヅキの視界内に敵機影の姿はどこにも無かった。


「νベーゼンドルファーは伊達じゃない!」

高い運動性だけでは説明できない超高速回避で斬撃をかわすと、リリカはお返しだと言わんばかりにレーザーライフルを連射し反撃へと転じる。

「かわされた!? あの至近距離で……!?」

渾身の一撃を外したウサミヅキは動揺しながらもすぐに体勢を立て直し、左腕の実体盾によるシールド防御をギリギリ間に合わせる。

「(盾を失うだけで済むならまだ軽い……!)」

連射速度のわりに高出力な蒼い光線を断続的に受け止めたせいで実体盾はダメになってしまったが、機体が受けるはずだったダメージを肩代わりしてくれたので十分役に立った。

しかし、これで防御兵装は無くなってしまったため、ここから先はウサミヅキ自身の操縦技術で回避していかなくてはならない。

「技量は一定の条件下においてはそちらが上かもしれない。だが、機体性能に関しては比較するまでもない」

ようやく主導権を取り戻せたことで調子が出てきたのか、"自分との間には機体性能という絶対的な壁がある"と愛機自慢を始めるリリカ。

「勝ち目の薄い無謀な戦いはもう()めるんだ! お前にも家族がいるだろう!」

傍から見ると挑発しているとしか思われないだろうが、それは話に耳を傾けさせるための下準備で続く発言こそ彼女なりの説得であった。

「あ、あなたに家族の話などした覚えは無い!」

「部下たちに対する接し方――あれは所帯を持って落ち着いた人間の特徴だ!」

赤の他人から突如家族を引き合いに出されたことに驚くウサミヅキをよそに、彼女が持ち合わせる善良な人間性をリリカは暴いていく。

その根拠はこれまでの言動とイノセンス能力による直感だ。

「そこまでの慧眼があるのならば、なぜ私たちの星に逆侵攻してきた!? あなたの同胞とやらのせいで国土は焼かれ、大勢の戦友を殺されたんだぞ!」

だが、不信感と憎しみを募らせるウサミヅキにリリカの言葉は届かない。

「……だから、ここで憎しみを全て吐き出すんだ! 次の時代に――お前の娘に禍根を残させないためにも!」

思うところがあったのか少しだけ沈黙を挟んだ後、リリカはこの戦いで地球と月双方が背負う罪を清算し、戦後を生きる子どもたちには澄み切った綺麗な世界が必要なのだと叫ぶ。

「綺麗事をッ! あなたに会ったことも無い娘の何が分かるッ!」

それに対するウサミヅキの返答はカタナによる一閃であった。


 斬撃をかわし切れなかったνベーゼンドルファーの実体シールドの上部が市街地に落ちていく。

「チッ……ああ、分からないさ! 分からないけど、分かるんだよ!」

「それでは答えになっていない!」

イノセンス特有の感覚を上手く表現できないリリカの語彙力が火に油を注いだのか、ウサミヅキのツクヨミのツクヨミ指揮官仕様の攻撃はより一層激しさを増す。

「(イノセンス能力――この感覚を分け隔て無く共有できるようになるには、まだまだ永い時間が掛かるか……)」

「隙あり!」

左マニピュレータで咄嗟に抜刀したツインビームソードで一度は攻撃を切り払ったものの、考え事をしていたリリカは集中力を欠いていたらしい。

次の瞬間、ウサミヅキ機の鋭いカウンター攻撃がイタリアンレッドのMFの右横腹を貫く。

「潔いまでに真っ直ぐな動き……逆に厄介だ! だが甘い!」

「うぐぁッ……!」

コンボを繋げられるよりも早くリリカのνベーゼンドルファーは右腕で肘鉄を繰り出し、灰色のサキモリのコックピット付近に当てて怯ませることで窮地を脱する。

「年下に手を挙げるのは趣味じゃないけどな、私だって本気で攻撃されたら抵抗ぐらいはする!」

中距離戦の間合いならば射撃武装が豊富なνベーゼンドルファーの方が有利だ。

仕切り直しも兼ねてリリカは専用レーザーライフルによる追撃を行う。

「(真っ向勝負ではさすがに苦戦は必至か……ならばどうする?)」

性能差が如実に表れる格闘戦では対抗できないと判断したウサミヅキは、機体を立て直すと状況打開のために不本意ながら"軍人として恥ずべき行為"を取る。

「(市街地に逃げ込んだな。なりふり構っていられない程度には追い詰められていると見た)」

上空で遊撃に徹するルナールは妹の闘いに干渉するつもりは無かったが、やはり心の中ではリリカ側の状況の方を気にしていた。

「(そういう相手にはもう構わないか、リスクを冒してでも深追いするか――選択権は単独行動中のお前にある)」

「人の心は必ず揺れ動く時がある! 確信を持てるまではやる!」

姉の心の声をイノセンス能力で感じ取ったのだろうか。

リリカは自分自身に発破を掛けると、現在進行形で火災範囲が広がる市街地へと接近するのだった。


「(見た目通りの熱さだ……! 表面温度は9000℃まで保証できるとはいえ、人間はそうもいかないぞ!)」

コンバットスーツ越しでもハッキリと感じられる高熱に顔を歪めるリリカ。

νベーゼンドルファーの装甲は短時間ならば太陽に近付けるほどの耐熱性を誇るが、これは搭乗者や燃料弾薬といった"脆い部分"を考慮しない場合の理論値である。

実用限界は二回り以上低い温度に留まるものの、それでも火災の中に突っ込むには必要十分な性能だ。

「(レーダーからロストしたか? いや、私自身の感覚では周囲1000m以内に隠れているはずだ)」

全身火傷を負ってもおかしくない猛烈な熱さに耐えつつ、リリカは機上レーダーの出力を最大まで上げて周辺を索敵する。

敵機は電波が遮られる場所に隠れているのか、H.I.S(ホログラム・インターフェース)のレーダー画面には映っていない。

ただ、彼女自身はイノセンス能力により敵の気配を僅かながら感じ取っていた。

「ッ! そこかッ!」

「発見された!?」

倒壊しかけている高層アパートに違和感を覚えたリリカが操縦桿のトリガーを引いた次の瞬間、炎の中から灰色のサキモリ――ウサミヅキのツクヨミ指揮官仕様が慌てたように飛び出してくる。

「(こちらは電探を切って電子的沈黙まで保っていたのに……!)」

ウサミヅキは機上レーダーを一時的に停止させるなど徹底した状態で待ち伏せしていたにもかかわらず、まるで全てを見透かされていたかのように容易く見つかってしまった。

「くッ……!」

彼女はすぐに光線銃で反撃を試みるが、その光線銃を正確に撃ち抜かれてしまい貴重な遠距離攻撃手段を失う。

右マニピュレータを破損しなかったことだけが不幸中の幸いだ。

「この灼熱地獄ではどちらも危険だ。戦う場所を変えるべきだと思わないか?」

燃え盛る炎で周辺の建物が焼け落ちていく中、これを危険と見たリリカはオープンチャンネルの無線でウサミヅキに戦場の変更を提案する。

「市街戦が苦手だから今更言い訳か? そもそも、この光景を作り出したのはそちらの無差別爆撃だろうに!」

この行動自体は純粋な善意だったはずだが、必死になって戦うウサミヅキはそれを挑発行為だと認識していた。

「分からず屋の小娘め! 炎に巻かれて燃え尽きても知らないぞ!」

「私は軍人だ! 職業倫理の範囲内ではあらゆる手を尽くさせてもらう!」

最後通告として語気を強めるリリカからのプレッシャーに屈せず、あくまでも軍人として最後まで戦い抜く姿勢を崩さないウサミヅキ。

「ああ……そうかい! そっちがその気ならば、もう手加減しないからな!」

自分(102歳)の半分以下の年齢にすぎない若者の態度がリリカの逆鱗に触れた!

「行けッ! "オルファン"!」

手加減しないと宣言したリリカはここまで温存していた5基のオールレンジ攻撃端末を全て射出。

ついに自分自身と愛機νベーゼンドルファーの本気モードの一端を垣間見せるのであった。


E-OS(イーオス)ドライヴ、フルパワー! 一気に畳み掛ける!」

出力制限や耐Gリミッターといったあらゆる制約を完全に取り払い、強化された一斉射撃で残弾を撃ち尽くすリリカのνベーゼンドルファー。

「戦時緊急出力、発動!」

それに対してウサミヅキもサキモリ版リミッター解除である"戦時緊急出力"を実行し、乗機ツクヨミ指揮官仕様が使い物にならなくなるのは覚悟した上で短期決着を狙う。

「懐へ飛び込むッ!」

多数のレーザーと徹甲榴弾の弾幕を全て掻い潜り、荷重制限が無い状態を最大限活かし間合いを詰めていくウサミヅキ。

「甘いッ!」

「それはこっちのセリフだ!」

灰色のサキモリの斬撃を最小限の回避運動でかわすリリカだったが、この行動を見越していたウサミヅキは機体を急反転させ返し刀による一撃を繰り出す。

「くッ……だが間に合う!」

ベテランならではの二手三手先を読む戦い方に驚かされながらも、リリカは咄嗟に実体シールドを構えることで銀色の刃を防ぐ。

最終的には機体の出力差で強引に押し返してみせたものの、致命的な損傷を受けたシールドは放棄せざるを得なかった。

「"オルファン"! 目の前の敵に集中攻撃!」

鍔迫り合いを断念し仕切り直しを図るツクヨミを確実に阻止するべく、リリカのνベーゼンドルファーは自機前方にオールレンジ攻撃端末を展開。

固定式機関砲との同時発射で迎撃を試みるが……。

「恐怖に屈するかッ! このまま貫いてやる!」

「チッ、こいつ――! がはぁッ……!?」

蒼い光線がコックピット付近に被弾してもなおウサミヅキのツクヨミの勢いは(とど)まらず、ついにカタナでイタリアンレッドのMFの腹部を貫くことに成功する。

「これでトドメだッ!」

「この……バカ野郎! 二人揃って墜落するつもりかッ!?」

動きを止めた状態でコックピットを潰すため光刃刀を振りかざそうとするツクヨミの左腕を押さえ込み、"このままでは二人で地面に叩き付けられる"と怒鳴るリリカ。

「いや、私は娘のために生き残る! ここで死ぬのはあなただけだ!」

もちろん、愛する家族がいるウサミヅキは敵と心中するつもりなど無い。

「馬に蹴られて地獄に堕ちろッ!」

敵機だけを地上へ叩き落とすため、カタナを抜きながら蹴り技を放つウサミヅキのツクヨミ指揮官仕様。

「奴だけは仕留めろ! "オルファン"!」

地面に蹴り落とされる直前、リリカは5基のオールレンジ攻撃端末に一斉射撃を念じて一矢報いるのだった。

【Tips】

MFの高い耐熱性は主に装甲材(リモネシウム・コバヤシウム合金)の特性に起因している。

元々RK合金自体が温度変化に極めて強いうえ、MFは光学兵器対策に特殊塗料を使用しているため、それらの副次効果として耐熱性を獲得した。

ただ、この特性は金属加工の難しさにも直結しており、ゆえにRK合金の加工を含む様々な先進技術が要求されるMF開発は、"工業技術のバロメーター"と称されることもある。

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