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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-81】月は紅く燃えているか(後編)

 高速移動する物体――オールレンジ攻撃端末に向けて光線銃を3連射したウサミヅキのツクヨミ指揮官仕様。

1発目は10mもズレており全くお話にならない。

2発目は誤差を2~3mまで修正できたが、攻撃対象が小型なので更に精度を高める必要がある。

「よし……! 命中! 命中!」

そして、3度目の正直となる一撃は紅い端末を正確に撃ち抜いていた。

この偉業にはウサミヅキ本人の声も心なしか弾んでいる。

端末(フェアリア)を狙い撃ちされた!? やってくれる……!」

一方、シミュレータ訓練でも実戦でもこれまで端末を撃ち落とされたことは無かったリリカは、相手の卓越した技量に対し感嘆の声を上げていた。

高出力レーザーの長時間照射――俗に言う"ゲロビ"に巻き込む方法を除けば、攻撃態勢に入った端末を狙撃するのは非常に困難と考えられていたからだ。

しかし、ウサミヅキは純粋な射撃技術だけでそれを成し遂げた。

「だが、1基破壊したぐらいでいい気にはさせない!」

破壊された一基以外の端末を全て愛機νベーゼンドルファーのスタビライザー下部に戻し、通常武装での戦闘に切り替えながら戦法を練り直すリリカ。

一基だけならまぐれ当たりだろうが、その幸運が何度も続くとオールレンジ攻撃が主兵装のνベーゼンドルファーは苦戦を強いられてしまう。

「行けッ! "オルファン"!」

専用レーザーライフルと無反動砲でリチャージに必要な約45秒を凌ぎ切り、再び"オルファンⅡ"を全基射出するリリカのνベーゼンドルファー。

「(5基が一斉に来る! これはさすがに迎撃できないか!)」

多方向から同時に襲い掛かる端末を先ほどのように撃ち落とすことは不可能と瞬時に判断し、ウサミヅキは火煙に紛れ込むように低空へと逃げる。

相手(リリカ)は比較的慎重な戦い方をしているため、視界不良の市街地には無理に近付かないと踏んだのだ。

「熱量が多い空間に逃げてIRST(赤外線捜索追尾システム)を飽和させるとは……しかし、こちらからはよく見えているぞ!」

彼女の読み通り、イタリアンレッドのMFは端末を周囲に待機させたまま追跡を断念する。

ただし、これは索敵用赤外線センサーのトラブル回避のためであり、リリカ自身はイノセンス能力で敵意をしっかり捉えていた。


「隊長をやらせはしない!」

「2対1ならば!」

リリカが戦わないといけない相手はウサミヅキだけではない。

彼女の横槍のせいで仕留め損ねたツクヨミが味方機と合流してしまい、νベーゼンドルファーに反撃を仕掛けてくる。

「(チッ、どちらに対応しても挟撃を受ける可能性がある……無理をせず姉さんたちと合流するべきかもしれない)」

目の前の敵機たちの相手をするとウサミヅキ機がフリーとなり、かと言ってそちらに意識を向けると後ろからの攻撃に晒され続ける――。

挟撃を避けるため姉たちとの合流をリリカが考慮に入れ始めたその時……。

「ファイア! ファイア! ファイア!」

聞き慣れた声と共に別方向から複数発の蒼い光線が飛来し、2機のツクヨミに回避運動を強いることで散らばらせていく。

この強力な攻撃の正体はルナールのストラディヴァリウスの専用高出力レーザーライフルだった。

「ごめんなさい、待たせたわね!」

「ん……いや、ナイスタイミングだ!」

重量級の射撃機ゆえ足が遅いメルリンのユーフォニアムは少し遅れて合流。

本人は待たせたと言っているが、リリカにとっては秒単位で完璧なタイミングであった。

「リリカさんの援護に入ります!」

「敵から包囲されていたんじゃないのか?」

お下がりの機体ベーゼンドルファーを駆るレカミエとエレメントを組みつつ、意外と早く合流できた理由を尋ねようとするリリカ。

Δ(デルタ)Η(イータ)、それにアメリカ軍でまだ戦える連中が加勢してくれたのさ」

ルナールの説明は随分と大雑把だったが、要は仲間たちの参戦で状況打開に成功したらしい。

「リリカ、私とエレメントを組め! お前が戦っていた指揮官機――厄介な相手かもしれん」

「本気で敵対したくはないと思っていたんだがな」

それよりもルナールは敵隊長機との厳しい戦いに備え、妹に対し自分とエレメントを組み直すよう命じる。

ここまでの戦闘でウサミヅキの実力を痛感させられたこともあり、何だかんだ言いつつもリリカは姉の指示に従う。

「メルとレカミィはそっちの敵の対処を頼む!」

組み合わせが入れ替わるカタチとなったもう片方のコンビには取り巻きの対処を求めるルナール。

「了解! 敵さんには悪いけど、さっさと片付けさせてもらうわよ!」

「シューフィッター、了解!」

メルリンとレカミエが組むのは比較的珍しいパターンだが、どちらも高い実力を持つので問題無いだろう。

「……姉さん! 2時方向下方――真下より敵機!」

目下最大の問題は機上レーダーよりも先にリリカが反応した、火煙の中から再び飛び出してきた敵機――ウサミヅキのツクヨミ指揮官仕様の存在だ。


「各機、こちらも編隊を組み直し集団戦で対抗するぞ!」

「り、了解!」

敵部隊の集結をレーダーで確認したウサミヅキは牽制射撃を行いながら僚機に接近し、自分たちも再度編隊を組むよう指示を飛ばす。

「やはり速い! メル、レカミィ、敵小隊を合流させるな!」

「ええ、任せて! レカミィは援護お願い!」

「了解!」

高速飛行を見ただけで相手の操縦技量を察したルナールは即座に対抗策を打つべきと考え、メルリンとレカミエに連携の切り崩しを任せる。

それを受けたメルリンはレカミエを自身のバックアップに回しつつ、ウサミヅキとの合流を図る2機のツクヨミの追撃を開始する。

「ターゲット、インレンジ……ファイア!」

限られた時間の中で有効射程まで距離を詰め、H.I.S(ホログラム・インターフェース)中央のレティクルと敵機影が重なった瞬間、彼女は操縦桿のトリガーを引く。

「損傷甚大! 掠めただけなのに!?」

メルリンの愛機ユーフォニアムの右腕部半固定式連装レーザーライフル"ダブルドラゴン"は非常に高い出力を持っており、3~4メートルほどズレていたにもかかわらずツクヨミの右半身を融解させるほどの大ダメージを与えていた。

この攻撃力を食らったツクヨミのエイシは思わず戦慄する。

「至近弾……! ちょっと調子が悪いわね」

「いえ、精密射撃が難しい状況でしたから」

ただ、メルリン自身としては本気で直撃弾を与えるつもりだったらしく、不本意な結果に彼女は苦笑いしながら肩を(すく)める。

一応、武装の有効射程外で手出しできなかったレカミエはフォローしてくれているが……。

「その損傷では戦闘続行は無理だ! 脱出しろ!」

「申し訳ありません……新人で足を引っ張ってばかりで……」

「言い訳は後で聞く!」

敵の方にとっては全く以って笑い事ではない。

僚機の損傷状態を視認したウサミヅキはすぐにベイルアウトを促す。

自分ならば機体を庇いつつ動けるだろうが、練度不足の新兵にそれを求めるのは酷な話だ。

「レカミエ!」

「分かってます。我々は悪趣味でもサイコパシーでもあってはならない」

市街地上空にパラシュートの白い花が開いた瞬間、メルリンはレカミエの名前を呼びながら制止を掛ける。

その意図を理解したレカミエは一時的に武器を下ろし、スポーツマンシップに(のっと)り敵のベイルアウトをあえて見逃す。

戦時国際法では機体を捨てたMFドライバーは"戦闘能力を失った"と見做され、正当な理由無くこれを攻撃することは戦争犯罪だと明文化されている。

そして何より、騎士道精神を掲げるスターライガの戦いは常にクリーン且つフェアでなければならない。

「(戦意喪失した手負いの敵は狙わない――か。ホント、武士道精神を貫ける相手とも戦わないといけないとは世知辛いわね)」

スターライガの正々堂々とした清廉潔白さに救われたのはこれで2度目だ。

ほんの少しだけ出会い方が違えば手を取り合えたかもしれない相手たちに対し、ウサミヅキは内心葛藤を抱き始めていた。


 ウサミヅキ隊とルナール率いるスターライガε(エプシロン)小隊の戦力比は2:4。

ここに搭乗者の技量や機体性能といった要因が加わるため、実際の差はより大きくなるだろう。

「(しかし、相手は戦闘の専門家でもある。本気で戦うとなれば無事に帰れる保証は無い)」

スターライガチームは戦えない者を撃つことを良しとしない。

ただし、交戦規定に基づいた戦闘では情け容赦が無いこともウサミヅキは知っていた。

「(武士道は甘さではないのよ)」

甘さを捨てたスターライガにはウサミヅキといえど勝ち目は無い。

そして、彼女よりも技量が低い僚機では1分間持ち堪えることさえ叶わないかもしれない。

「……ホムラ、現時刻を以って私の指揮下より外れることを命じます」

「え……?」

「あなたは自己判断で行動し、味方部隊と合流しなさい」

ウサミヅキは部隊運用に関わる極めて重要な決断を下す。

彼女は最後まで残ってくれた3番機のエイシを名前で呼ぶと、自分の指揮下から外れて独自行動へ移行することを認める。

これは事実上の撤退命令にして部隊解散であった。

「隊長……私が足手纏いだと仰りたいのですか!?」

「相手は精鋭の中の精鋭よ! 実力は地球近海の戦闘で見ていたはず!」

自分の能力を信頼されていないと感じたホムラは命令拒否も辞さない構えであったが、過去の経験を引き合いに出すことでウサミヅキはそれを一蹴する。

「必ず生き残り、この戦争の終焉と月の未来を見届けなさい。これが私からの最後の命令よ」

「……了解」

命を無駄に捨てず、これから先の時代のために必ず生還せよ――。

上官の想いの一端をわずかながら理解できたホムラはようやく命令を受け入れ、単機での撤退を開始する。

「(これでいい……これ以上無謀な戦いに若者を巻き込まないで済む)」

その後ろ姿を見届けたウサミヅキは単独行動中に敵襲を受ける可能性を懸念しつつも、少しでも生存率が高いであろう選択肢を与えられたことに安堵の表情を浮かべていた。

「部下を生き延びさせるために一人で戦うか……その覚悟、確かに受け取った」

軍人としての彼女なりのケジメはスターライガチームにも伝わったのか、ルナールは乗機のマニピュレータでε小隊各機に散開の合図を送る。

「リリカ! これはお前と彼女の闘いだ! 彼女の心を動かしたいならば、それに足るだけの決意を示せ!」

「姉さん……! 分かった、ここは私がやる!」

誇り高いオリエント人とルナサリアンに相応しい決闘様式はやはり一騎討ちだ。

ルナールから改めて正式な単独行動の許可が下りると、リリカは力強い返事と共にスロットルペダルを踏み込むのだった。

【IRST(赤外線捜索追尾システム)】

MFや戦闘機に搭載されている索敵システム。

赤外線を放射する目標を識別し、必要であればこれを追尾したりサーモグラフィー画像を作成する機能(FLIR)を有している。

電波を用いる機上レーダーとは特性の違いで使い分けされており、IRSTは主に電波を出せない状況や至近距離の索敵に真価を発揮する。

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